ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年6号
道場
メーカー物流編 ♦ 第21回「計画は月次で作っているんですが、実際の生産は月次では行っていないというのが、うちの生産の特徴です」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

湯浅和夫の  湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第66回》 JUNE 2011  58 り越えられたようで、皆様の努力に敬意を表 します。
また、ロジスティクス会議を再開す ることになったのは喜ばしいことですが、し ばらく間があいて、前回までのことを忘れて いなければいいのですが‥‥」  返事を期待していない大先生の投げ掛けに 業務課長が即座に反応した。
 「はい、任せてください。
部長はともかく 他の連中はばっちしですから」  「何がばっちしなのか知らんけど、おれは、 少なくとも業務課長の発言内容については全 部覚えているから心配ない」  早速、部長と業務課長の掛け合いが始まっ た。
いつものペースだ。
主任が苦笑しながら、 部長に話し掛ける。
 「部長、新メンバーの紹介を‥‥」  「あっ、そうか、君たちは、今日初めて先 生にお会いするのか?」 67「計画は月次で作っているんですが、 実際の生産は月次では行っていない というのが、うちの生産の特徴です」 《第110 プロジェクトが再開した  だんだん蒸し暑くなり、そろそろ電力需給 が心配になり始めた頃、大先生がコンサルを やっているメーカーでロジスティクス導入の プロジェクト会議が開かれた。
大先生一行の 到着を待って、プロジェクトリーダーである 物流部長が大先生を見ながら、開会の挨拶を した。
 「まだ元通りというわけにはいきませんが、 私どもでは、ようやく震災の影響から脱しつ つあるところです。
震災対応でしばらく間が あいてしまいましたが、今日の会議からプロ ジェクトを再開したいと思います。
先生には ご迷惑をお掛けしてしまいましたが、改めて ご指導よろしくお願いいたします」  「別に迷惑など掛かっていません。
それより、 震災対応お疲れさまでした。
大変な事態を乗 メーカー物流編 ♦ 第 21 回  震災でいったん中断したロジスティ クス導入プロジェクトが再開した。
今 度の相手は生産部門だ。
本社の生産 管理部から新たに二名がプロジェクト メンバーとして加わり、これからどう やって工場を攻略していこうか、作戦 会議が開かれた。
大先生 物流一筋三〇有余年。
体力弟子、美人弟子の二人 の女性コンサルタントを従えて、物流のあるべき姿を追求する。
物流部長 営業畑出身で物流部には異動したばかり。
「物流 はやらないのが一番」という大先生の考え方に共鳴。
物流部業務課長 現場の叩き上げで物流部では一番の古株。
畑違いの新任部長に対し、ことあるごとに反発。
コンサルの 導入にも当初は強い拒否反応を示していたが、大先生の話 を聞いて態度が一変。
経営企画部主任 若手ながらプロジェクトのキーマンの一人。
人当たりは柔らかいが物怖じしない性格のようで、疑問に感 じたことは素直に口にする。
59  JUNE 2011  そう言って、部長が大先生たちに二人の新 しいメンバーを紹介する。
本社の生産管理部 に所属している二人で、彼らは、製品別の月 次生産量を策定して、工場に提示する役割を 担っている。
ロジスティクスにおいては、こ れから要になる立場だ。
 本来、社長としては、この二人を加えて ロジスティクス部を立ち上げ、本格導入にも ちこむ腹積もりであったが、大震災の影響で、 それが先送りになっている状況であった。
 二人の挨拶に大先生が興味深そうな顔で応 じる。
 「よろしくお願いします。
そうですか、月 次の生産計画を作っている方々ですか」  「そうです。
ただし、工場では月次の生産 はしていません‥‥」  大先生の言葉を受け、業務課長が楽しそう に答える。
さすがの部長も苦笑しながら弟子 たちに話す。
 「お聞き及びでしょうが、計画は月次で作 っているんですが、実際の生産は月次では行 っていないというのが、うちの生産の特徴だ と、このチーム内ではなぜか楽しんで話して ます。
まあ、何カ月、何十カ月にも相当する 在庫が存在するのも当然です。
さすが温厚な 私でも、その特徴には、ちょっと呆れてます」  「部長が温厚かどうかはさて置くとして、 たしかに、営業の連中が怒るのは無理ないと 思う。
あれば売れるはずの製品が倉庫にない なんて事態が日常茶飯事なんだから。
何が売 れてるか、いま何を優先して作るべきかなん てお構いなしに、自分たちの都合で作ってる んです、うちの生産は。
それも自分たちで作 れる範囲でしか作らないんですよ。
外注など 活用して生産能力を高めるってことなどまっ たく考えてないんです。
まったく‥‥」  主任に「まあまあ」と宥められて、ようや く業務課長が矛を収めた。
 「まあ、業務課長の言うとおりだ。
君たち も実は、生産に対しては思うところがあるん じゃないの?」  部長に矛先を向けられ、生産計画担当の 年長者が答える。
 「はぁ、何とお答えしていいかわかりません が、私らは一体何をしてるのかという忸怩た る思いがあったことはたしかです。
いくら販 売実績を踏まえた数字を提示しても、結局の ところ参考程度にしか扱われないんですから。
ただ、生産との関係は、どこでもそんなも のかなという諦めに似た気持ちもありました。
でも、これからは何かおもしろくなりそうな ので、大いに頑張ろうと思っています。
なぁ?」  「はい。
僕も同感です」  年長者に同意を求められ、若い担当が大き く頷く。
二人とも、新たな舞台にやる気十分 のようだ。
 生産とは正攻法でやりとりする  ここで、それまで様子を眺めていた主任が、 会議の進行を促すように口を挟んだ。
 「生産に対してどう持ち掛けるかなんですが、 現状の延長線上で、ああしろ、こうしろと言 っても、抜本的な改善にはつながらないと思 うんです。
そこで、思い切って、たとえば現 状の月次の生産を週次生産に変更するという ような抜本的な投げ掛けもありかなと思いま すが、どうでしょう?」  主任の提案に業務課長がすぐに同意を示す。
 「たしかに、そのとおりだ。
賛成!」  業務課長の言葉に、ちょっと心配そうに、 生産部門にいた経験のある東京の物流センタ ー長が意見を言う。
 「まあ、意識改革のためにはそういった思 い切った投げ掛けも必要だと思いますが、最 初からそれを押し付けると反発が強く、抵抗 のカベを作られてしまいかねないんじゃないで しょうか。
そこで、どう攻めるかという作戦 を立てることも必要だと思いますが‥‥何た って、なるべくまとめて作りたい、同じ製品 の生産は月に一度しかしたくないというよう に、まとめ作り志向が強いですから、彼らは」  センター長の言葉に生産計画担当の年長者 が同意を示す。
 「私が見る限り、実質的に、月次生産を週 次に替えるといっても、さほど大きな支障は ないと思います。
ただ、いまご指摘がありま したように、まとめ作り志向が極めて強いで すから、あまり売り上げの大きくない製品に ついては、それこそ月次レベルで、つまりま とめて作ることを許容するといったような逃 JUNE 2011  60 げ道も必要なのではないでしょうか」  「それに、週次の計画数値だけでなく、何 週間か先までの生産見込み量も提示してやる 必要があると思います。
原材料等の手配もあ りますが、それ以上に生産調整の余地を残し てやることも必要な気がします」  年長者の意見を受けて生産計画担当の若 手が補足する。
 「計画は週次だけど、月次の生産も認める よってことだ。
まあ、それでも、いまよりは いいな」  業務課長が、合いの手を入れる。
部長が苦 笑しながら、意見を述べる。
 「主任が言う思い切った投げ掛けをすると いうのには賛成だ。
ただ、生産の連中の気持 ちをあまり事前に慮らない方がいい。
正攻法 で行って、ぶつかり合う中で、現実的な打開 策を見出せばいい。
まあ、少なくとも、彼ら を悪者扱いしないという配慮は必要だな。
お そらく、彼らもわれわれが何を言ってくるか、 およそ想定しているだろうし、週次生産はそ の想定内に入っていると思うよ」  提案を計画に落とし込む  「なるほど、週次生産を彼らの想定内に入 れるように事前に手を打つのか、あるいは、 もう打ってるのか、やっぱり部長は策士だ」  業務課長が感心したような声を出す。
部長 がちょっとむきになって反論する。
 「何言ってるんだ。
策を弄するのはやめよう ではないでしょうか。
もちろん、ロジスティ クス導入計画の一環として」  企画課長の提案に主任が大きく頷き、即 座に賛同の意見を述べる。
 「そうですね。
それがいいと思います。
いま の時点では無理だというなら、それではいつ の段階でなら可能なのかという約束を取り付 けて、全社計画としてオーソライズしてしま うという手もあるんではないでしょうか?」  業務課長が胸の前で小さく拍手して、主任 をかまう。
 「なーるほど、生産の連中にその場限りの 言葉で逃げられないように、計画としてオー ソライズしてしまうのか、それはいい。
しかし、 主任も部長に劣らず策士だな」  「何言ってんですか、策を弄しているわけで はありません。
先生のおっしゃる正攻法で行 こうとしてるだけです」  今度は主任がむきになって反論する。
部長 が「ほらな」という顔で主任を見ている。
そ れを見ながら、大先生が発言する。
 「いまの意見に異論はありませんが、実際 話し合ってみると、結構前向きな対応をして くるかもしれませんよ、生産は。
そういうケ ースを多く見てきました」  大先生の意見に生産計画担当の年長者が 即座に反応した。
 「はい、実は私もそう思います。
ご存知だ と思いますが、工場でナンバーツーのあの次 長ですが、あの人は、きっと、みなさんの考 と言ってるだけだ」  「だから、策士だと言うんです‥‥」  業務課長のわけのわからない物言いに部長 がさらに反論しようとする寸前に主任が割っ て入った。
 「そういうやり取りは、あとで、お二人だ けでやっていただくとして、話を進めましょ う。
先生もおいでですから」  主任の言葉に部長が苦笑しながら「あっ、 済みません。
お騒がせしまして」と大先生に 謝罪する。
大先生が頷き、楽しそうに話す。
 「いえいえ、禅問答みたいでおもしろかった です。
それはいいとして、私の経験では、正 攻法で向かい合うというやり方に賛成です。
在庫実態を提示して、とにかく市場への出荷 の動きに合わせて作ってもらいたい、それが 全社最適につながる、ついては週次で生産し てほしいがいかがか、生産側はどう思うか‥ ‥というような真っ当な投げ掛けがいいと思 いますが、どうですか?」  大先生の問い掛けに全員が頷く。
企画課 長が手を挙げる仕草をする。
大先生に促され、 話し始める。
 「そういう手順でやるのがいいと私も思いま す。
その場合、先ほどいくつか出ていましたが、 生産側の主張を想定して、落としどころを見 つけておく必要がありますよね。
それも、初 年度はここまででいいけど、二年度目はここ までやってもらう、三年度目は‥‥というよ うに、計画の形に落としておくことがいいの 湯浅和夫の 61  JUNE 2011 一人という評判です。
部長のちょっと先輩の はずです。
人伝ての話ですが、行く先々で革 新的なことをやっていて、守旧派の連中から は煙たがられているようです」  ロジスティクスの導入は堂々と  「なるほど、それはおもしろい。
その彼が どう出るかだな。
そうそう、言っておくけど、 工場長は守旧派だぞ。
たしか‥‥なぁ?」  業務課長がそう言って、工場に詳しい物流 センター長に確認するように聞く。
 「はい、たしかに、そうです。
工場長は変 化を嫌がるタイプです。
ただ、正確に言うと、 みずから変化を起こすことは面倒くさがって 嫌いますが、周りが変えたいということには 拒否しないタイプだと思います。
あっ、自分 のようなものが推測で勝手なこと言って済み ません」  主任が、「いえいえ」と言いながら、安心 したような顔で結論を出す。
 「それなら、工場長と次長で意見が割れる ということはありませんね」  「そうなると、キーマンは次長だな。
次長 を対象に一点突破全面展開を図るという作戦 だな。
その次長に事前に根回ししておく必要 はないですかね?」  業務課長が誰にともなく聞く。
部長がにこ っと笑って答える。
 「策を弄するのが嫌いなおれとしては、そん な根回しはしたくない。
正攻法で真正面から 攻めればいい」  部長の言葉にみんなが頷く。
何を思ったか、 主任が大きな声を出す。
 「そうです。
ロジスティクスは、堂々と導 入しましょう」  その言葉にみんなが驚いたように主任を見 る。
突然、業務課長が「さすが主任」と言 って、手を叩く。
主任の意気を感じたかのよ うに、みんなが大きく頷き、業務課長に合わ せて拍手する。
えに近いと思います。
現状の生産のやり方に 必ずしも納得しているとは思えません。
着任 してまだ半年くらいなので、敢えて波風を立 てないようにおとなしくしているようですが、 こちらの提案には結構興味を示すと思います。
そんな気がします」  話を聞いて、主任が思い当たることがある ような素振りで「あー、あの人」と言って大 きく頷く。
業務課長が主任に「知ってるの?」 と聞く。
 「個人的に知り合いというわけではありませ んが、部長と同じように、トップランナーの Illustration©ELPH-Kanda Kadan ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大 学院修士課程修了。
同年、日通総合研究 所入社。
同社常務を経て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを設立 し社長に就任。
著書に『現代物流システ ム論(共著)』(有斐閣)、『物流ABC の 手順』(かんき出版)、『物流管理ハンド ブック』、『物流管理のすべてがわかる本』 (以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コン サルティング http://yuasa-c.co.jp PROFILE

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