ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年7号
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「改革できるとすれば今しかない」川島孝夫 東京海洋大学大学院 特任教授

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2011  6 の一、内航海運は四分の一という数 字を聞かされて短絡的に考えた末に、 陸上中心のモーダルシフトになってい た。
あるメーカーでは工場から五〇 〇キロ以上の向け地については、列 車の利用率が六割を超えていたほど です。
そこに震災が起こり、列車が 使えなくなったからといって、急に 内航船の輸送スペースを確保するの は難しい」 ──現在は鉄道輸送はほとんどの区 間で復旧しています。
 「電力不足は今も続いており、今 後は供給がさらに不安定になる恐れ があります。
列車を使い続けるには 不安が大きい。
そこで考えるべきは、 列車と併せて内航海運を活用し、水 陸併用の輸配送網を構築することで す。
水路は災害時でも、陸路と比較 して輸送手段として安定している」  「一方、食品メーカーは可能な限り 在庫を削減するために、JIT(ジ ャストインタイム)物流によって在庫 拠点の統廃合を行ってきました。
た だし、統廃合したはいいが、その後 の人口の変化に合わせた十分な再検 証を行っていなかった。
メーカーの 多くは東北地方の在庫拠点を消費の 中心とされる仙台に置いている。
し かし、宮城県の人口は現在、二三四 万人に過ぎません。
これに対して北 ロジスティクスに全責任 ──加工食品業界では、製造から賞 味期限までの期間のうち三分の一を 過ぎた商品は小売りへの納品を認め ないという「三分の一ルール」によって、 多くの返品が発生しています。
 「三分の一ルールや日付逆転(前に 納入した商品よりも古い日付のもの をあとから納入すること) の禁止な どの商慣習は明らかに異常です。
こ れまで漫然とやってきたが、今こそ 見直すべきです。
これらのルールは メーカーにとって大変に高くついて いる。
多くの食品廃棄物を生み出す 要因にもなっている。
また今これを 見直せないとしたら、食品業界は東 日本大震災から何の教訓も学んでい ないことになってしまう」 ──震災の教訓とは?  「今回の震災で何が起きたか。
サプ ライチェーンが寸断され、食の安定供 給が途絶えた。
それまでのロジスティ クスが誤っていたことがその最大の 原因であり、今後どうするかを考え るのは一〇〇%ロジスティクスの責任 です」  「震災で露呈したロジスティクスの 問題点はいくつも挙げることができ ます。
物流に関係するところでいえば、 皆、効率ばかりに目が向いていたた めに、陸路に偏重した輸配送網にな っていた。
その陸路が震災で寸断さ れてしまったため、東北ばかりでなく、 比較的被害の少なかった北海道にま で食品を届けられないという事態を 招いた」  「大手メーカーでも北海道に工場 を置いているのはわずかです。
そし て卸も小売りもほとんど在庫を持っ ていない。
メーカーから北海道への 製品供給が復旧したのは震災から三 週間も経ってからでした。
それまで の間、北海道の小売りは道産のもの でやりくりするしかなかった。
食の 安定供給は食品メーカーにとっての 最大の使命です。
そのためには、震 災の反省点を踏まえて国内の輸配送 ネットワークを再構築する必要があ ります」 ──道路や鉄道網などのインフラの寸 断に対しては、一企業では手の打ち ようがないのでは。
 「そうとは限らない。
内航海運があ ります。
これまで食品メーカーはC O2排出量の削減を目的に、さかんに モーダルシフトを進めてきました。
し かし、それはトラックから列車へと いう単純なものでしかなかった。
列 車のC O2 排出量はトラックの八分 川島孝夫 東京海洋大学大学院 特任教授 「改革できるとすれば今しかない」  食の安定供給という最大の使命を忘れ、輸送手段を陸 路だけに依存したことが、震災によるサプライチェーン寸 断の最大の原因だった。
内航海運に着目し輸送手段の多 様化を図る必要がある。
コストとリードタイムは維持でき る。
ただし、日付の逆転禁止がネックになる。
この機会 にルールの変更を提案すべきだ。
 (聞き手・梶原幸絵) 7  JULY 2011 海道の人口は五五〇万人、茨城県は 二九六万人です。
東北の北三県(青森、 秋田、岩手)は北海道から、南三県(宮 城、福島、山形) は北関東の拠点か らカバーした方がいいのは明らかで す」 ──今後どのようなネットワークを作 っていくべきなのでしょうか。
 「食品メーカーの主力工場は水の 豊富な中部地方に多く立地していま す。
そして東日本向けの物流をみる と、ほとんどのメーカーが中部で生 産したものを、いったん関東の在庫 拠点にトラックで運んでいる。
東北・ 北海道向けはそこからトラックまた は列車で輸送しています。
工場の保 管・出荷機能を強化して、これを関 東の拠点を経由せずに直接船で輸送 するかたちに改めれば、輸送を安定 させることができる」  「太平洋側の航路を使うのであれば、 中部地方の港から苫小牧港や室蘭港 に運び、北海道と東北の北三県の卸 のセンターに配送する。
南三県につ いては中部から関東の港まで海上輸 送し、関東の在庫拠点から配送する。
仙台港を使って東北に直接輸送して もいい」  「日本海の航路を使ったルートも考 えられます。
中部地方から福井県の 敦賀港までは、高速道路で三〜四時 小売りも皆、困り果てた。
そこで大 震災の教訓をきちんと活かして、も っと一緒にサプライチェーンを考え直 しませんかと提案するのがメーカーに 求められているスタンスだと思います。
日本全国でいっぺんに見直すという のは無理でも、まずは北海道と東北 だけでもいいのでルールの変更を提 案していく」  「そうしたことを、今いわずにいつ いうのか。
小売りの安定供給に対す る意識の高い間、つまりこの二、三 カ月のうちでしょう。
来年ではもう 遅い。
具体的には秋冬商品の商談の 行われる八月頃までに交渉に行く必 要があると個人的には考えています。
小売りとの交渉力を持つ食品メーカ ーが現在一〇社程度はあります。
彼 等が中心となって提案していくしか ありません」 間もあれば行くことができる。
敦賀 港から北海道に直航する船なり、途 中で東北に寄港する船なりを使えば いい」 ──サービスレベルやコストは維持で きる?  「卸への出荷を工場からの直送に改 めれば、関東での経由がなくなる分、 コストは安くなり、リードタイムも短 くなります。
リードタイムは一週間は 短くなるでしょう。
工場からの直送 に切り替えれば、トレーサビリティも これまでより向上できます。
小売り からの問い合わせを工場で直接受け る体制を作っておけば、工場には製 品のサンプルが保管されているので、 すぐに答えることができる。
小売り にとってもメリットは大きいはずです」  「工場で在庫が滞留するということ もない。
むしろ、これまでよりも製 造年月日の新しい商品が店頭に並ぶ ことになる。
元々、メーカーは戦略 として鮮度管理の強化を進めてきま した。
例えば食品メーカーの中でも 原料を調達して食品を作る飲料メー カーなどの『食品製造業』では、製 品になる前の中間品を冷凍などで保 管しておき、売れゆきに合わせて解 凍し、最終工程で加工・包装して製 品として出荷します。
こうすること で生産ラインの稼働を一定に保ちな がら、売れゆきに合わせて作りたて の製品を出荷しています」 今夏が提案のタイムリミット ──しかし、輸送手段を多様化する とリスクは分散できますが、輸送手 段ごとにリードタイムが違うため、ど こかで製造日付順に納品順序を調整 する必要が出てきますね。
 「だから震災の記憶が薄れないうち に、食品メーカーは悪しき商習慣の 見直しを提案すべきなんです。
実は 工場の段階でも一定量の在庫を確保 しようとすれば三日分ぐらいの在庫 が混ざってくる。
それを完全に日付 順でコントロールしろと言われると難 しいところがある。
相当な投資が必 要になる」  「しかし、三日程度の逆転をはたし て、そこまで厳密に守る必要がある のか。
食品の流通は誰がなんと言お うと安定供給を第一に考えるべきで す。
ものがなければ三分の一ルール や日付逆転の禁止も意味を成さない。
その代わりに、メーカーは食品の安 定供給と品質を保証し、付加価値を 高める」 ──しかし、現実にはメーカーが顧客 である小売りにそれを認めてもらう のは難しいはずです。
 「今回の震災では、メーカーも卸も (かわしま・たかお) 1966年大 阪外国語大学卒業、ゼネラル・フー ヅ(現味の素ゼネラルフーヅ)入社。
情報物流部長、インフォメーショ ン・ロジステックス部長、情報シス テムセンター長兼ロジステックス担 当理事などを経て、2001年常勤 監査役。
06年東京海洋大学客員 教授、07年同大学院海洋科学技 術研究科教授(食品流通安全管 理専攻)。
現在に至る。

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