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47 JANUARY 2004
一九九〇年代に新しいタイプの古本屋チェ
ーンが相次いで登場した。 広くて明るい店内、
わかりやすい買い取りシステム、ベストセラ
ーからコミックまで充実した品揃え――。 従
来の古本屋にはないサービスで消費者をつか
み、出版不況を尻目に急成長を遂げた。
「古本市場」をチェーン展開するテイツー
は、このニュービジネスの草分けでもある。
設立は九〇年。 岡山市内に一号店をオープン
して古本ビジネスに参入した。 同一エリアに
出店を集中することで広告・物流費の低減化
を図るエリア・ドミナント方式を採用。 京阪
神・山陽地区および首都圏に七〇の直営店舗
を展開しているほか、業務提携やフランチャ
イズ店、新業態店舗などを加えたグループの
店舗数は一〇四を数える(二〇〇三年十一月
末現在)。
メディア・コンプレックス戦略
設立以来、テイツーの業績は順調に推移し、
毎年のように二桁成長を続けてきた。 二〇〇
三年二月期の連結売上高は二二八億円で前
年比一九・三%増。 九九年からの四年間だけ
でも売上高は三倍に膨らんだ。 今期の売上高
も一八%増の二七〇億円を見込む。 この急成
長は、同社が独自に考案した「メディア・コ
ンプレックス戦略」によって実現した。
「メディア・コンプレックス戦略」とは、「古
本市場」の商材を古本(リサイクル本)だけ
に限定せず、新作のテレビゲーム用ソフト、
物流拠点に単品管理システムを導入
古本を軸に多角化の進む事業を支援
「古本市場(ふるほんいちば)」をチェーン
展開するテイツーは昨秋、古本の在庫管理
に単品管理システムを導入。 物流センター
の出荷機能を強化した。 新作のテレビゲー
ムソフトなどへの商材の拡大や、インター
ネット販売への進出によって高成長をめざ
している。 新たな物流システムの稼働で、
複合的な事業展開への支援体制が整った。
テイツー
――情報システム
JANUARY 2004 48
音楽ソフト、映像ソフトなどメディア商品全
般に拡大して、複合的な事業展開を図るとい
うものだ。 来店客へのアンケートをもとに顧
客のグループ分けを行い、それぞれの顧客層
に合った商品を幅広く品揃えする。 こうした
分野で顧客が望む商品を、一つの店ですべて
充足できる?ワンストップ・ショッピング〞
の提供をめざしてきた。
最近一〇年余りで急拡大した古本ビジネス
だが、早くも九〇年代の後半には、店舗数の
急増で競争が激化しはじめた。 そこでテイツ
ーは、顧客ニーズに合わせて品揃えを広げ、
新品とリサイクル品を複合的に扱うことで、
新たな成長への突破口を見出すという方針を
掲げた。
新たな戦略の結果は、同社の業績にそのま
ま反映されている。 二〇〇四年二月期の連結
中間決算では、リサイクル品の売上構成比が
四一・五%、新品は五五%と、すでにシェア
は逆転している。 古本の売り上げも前期より
増えてはいるものの、従来に比べれば伸び率
は鈍化し、構成比にすると全体の二割弱でし
かない。 代わって稼ぎ頭となっているのが新
作ゲームで、その売上構成比は既に五割に迫
る勢いだ。
ただし利益構成比をみると、こうした数字
とはまた異なる姿が浮かび上がる。 リサイク
ル品が生み出す利益が七四%と高く、新品を
はるかに凌ぐ。 しかも、リサイクル品のなか
でも古本の利益が全体の四割を占めている。
これらの数字は、ゲームソフトのようにリ
ピート性の高い商品で集客力を高め、客単価
の向上を図り、その一方で利益率の高いリサ
イクル品で利益を確保していくという「メデ
ィア・コンプレックス戦略」の効果を、明ら
かに物語っている。
テイツーでは今後、この戦略をさらに推し
進めて、スクラップ&ビルドなどによる直営
店舗の大型化や、提携などを通じた積極的な
店舗展開を図っていく考えだ。 原則として売
り場面積二〇〇坪(六六〇平方メートル)以
上の店舗を中心に出店し、ビデオレンタル店
や中古メディア商品の販売店などに対してテ
イツーが古本を提供するという具合に、互い
の商材を補完しあう形での業務提携なども進
めていく。
二〇〇六年二月期までの中期事業計画で
同社は、グループの店舗を現在の三倍にあた
店舗数の推移
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
00/2期(実) 01/2期(実) 02/2期(実) 03/2期(実) 04/2期1Q 04/2期2Q
43
50
61 63 65
1 1
4
22
69
古本市場 直営店 古本市場 業務提携店&FC店
ブック・スクウェア 直営店 アイ・カフェ 直営店
(単位:店)
2004年2月期中間期の売上構成と売上総利益構成(連結ベース)
リサイクル品
41.5%
業務提携 0.4%
レンタル 1.6% EC 1.1% 業務提携 1.9%
レンタル 1.3%
EC 1.7%
古本
中古ゲーム
中古CD
その他中古品
新品ゲーム
新品CD
その他新品
業務提携
レンタル等
EC リサイクル品
74.3%
EC
レンタル等
業務提携
その他新品
ビデオ
中古CD
新品CD
新品ゲーム
中古ゲーム
古本
04/2期1H売上構成 04/2期1H売上総利益構成
新品
21.0%
新品
55.4%
49 JANUARY 2004
る三〇〇店まで拡大、連結売上高三八〇億
円の達成をめざしている。
多角化を支援するため物流にメス
この出店計画には、新刊本を扱う「ブッ
ク・スクウェア中部」や、インターネットを
取り込んだ新業態店舗「アイ・カフェ」など
の店舗が含まれている。
二〇〇三年六月に、同社は三重県の新刊
書籍販売「ブック・スクウェア中部」に資本
参加した。 この会社を子会社とすることで
「古本市場」では扱っていなかった新刊本の
分野へ新規参入を果たした。
同年九月には三重県伊勢市内のイオンララ
パークショッピングセンター内に、売り場面
積四〇〇坪(一三二〇平方メートル)の新店
舗「ブック・スクウェア
ララパーク店」を
オープン。 同店舗は一五万冊の新刊本と、新
作・中古のメディア商品が並ぶ大型店で、同
社の言う「メディア・コンプレックス」を一
歩進化させたかたちになっている。
また、二〇〇三年三月には新業態「アイ・
カフェ」の直営一号店を埼玉県八潮市にオー
プンした。 この「アイ・カフェ」は、?第三
世代のインターネット・コミック・カフェ〞
をコンセプトに同社が進めている新規事業だ。
郊外型の広い店舗に四万〜五万冊のコミック
本を閲覧用に用意。 「古本市場」で顧客から
買い取った商品の一部を有効活用することで、
新たな顧客ニーズを取り込むという狙いがあ
る。 来期中に直営店だけで新たに一〇店舗程
度をオープンさせる計画だ。
さらにテイツーは、EC事業(電子商取引
関連の事業)と称してインターネット販売に
も進出している。 二〇〇〇年八月に「ユーブ
ック」を設立し、古本や新作・中古のメディ
ア商品をインターネットを使って販売し始め
た。 二〇〇四年二月期の一〇月には早くも単
月黒字化を達成し事業の収支は順調に推移し
ている。 「古本市場」との間でウエブサイト
の統合や会員の一本化を行い、「ユーブック」
のサイトで予約した商品を「古本市場」の店
頭で受け取れるなど、リアル店舗とバーチャ
ル店舗の融合を図っている。
これらの新業態店舗あるいはバーチャル店
舗による新規展開も、古本ビジネスを軸に事
業を多角化する「メディア・コンプレックス
戦略」の一環だ。 こうした事業展開の支援体
制を強化するため、同社は昨年、核となる古
本の物流に本格的にメスを入れて新システム
を構築した。
カテゴリー管理から単品管理へ一般の古本ビジネスでは、各店舗が顧客か
ら買い取った商品をその店で販売する?店内
循環型〞が基本になっている。 そのため、ベ
ストセラーや希少性の高い商品以外では、店
舗で販売しきれず余剰在庫が発生するケース
が少なくない。 テイツーはこれらの余剰本を
いったん物流センターに回収し、在庫調整を
行いながら他店舗へ展開したり、新規にオー
プンする「アイ・カフェ」の閲覧用に活用し
て販売活動を効率化している。
従来、テイツーの物流センターでは、同社
が定めた商品分類に基づくカテゴリー単位の
管理を基本としてきた。 つまり、単品レベル
では在庫を把握できていなかった。 出荷作業
セグメント別売上構成比の推移(連結)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
(%)
49.1
0.1 0.2 0.9 1.1 1.4 0.3
0.7
1
1.1
0.9
0.4
97/2期
(実)
39.3
98/2期
(実)
37.9
99/2期
(実)
38.0
00/2期
(実)
34.2
01/2期
(実)
36.9
61.7
02/2期
(実)
41.7
55.3
03/2期IH
(実)
38.9
58
03/2期
(実)
04/2期IH
(実)
60.5
50.8
61.2 60.9
64.4
1.1
0.9
41.5
55.4
1.1 1.1
1.6
0.4
リサイクル品 新品 業務提携 レンタル等 EC事業
JANUARY 2004 50
は熟練した担当者の勘に頼る部分が多く、人
海戦術的にこなしてきた。
だが、この管理体制は壁にぶつかってしま
った。 少しでも売り場を広くとるため、店舗
は物流センターをストックヤードとして活用
しはじめた。 その結果、余剰本を店舗から回
収する頻度は高まり、物流センターの入出庫
や在庫量も増えた。 センター内の作業は煩雑
になり、出荷に時間がかかるようになってし
まった。
そうでなくても、今年から本格展開を始め
た「アイ・カフェ」を新規出店する際には、
あらかじめ物流センターで店舗用の初期在庫
として四万〜五万冊の本を準備する必要があ
る。 同社の石井正三物流センター部長は、「カ
テゴリーごとの数量だけではなく、どの本が
何冊あるのかまで把握できていないと十分な
後方支援にならない」と危機感を強めていた。
さらにシステム刷新の契機となったのが、
ECビジネスの新展開だ。
従来、ECビジネスの子会社「ユーブック」
では、独自の在庫を抱えてインターネット販
売を行っていた。 しかし、前述したように昨
年夏から「古本市場」とサイトの統合を行う
とともに、物流センター内の膨大な在庫をイ
ンターネット販売にも活用することになった。
ネット販売では、読者はサイトで商品の在庫
検索を行って購入する。 検索時にリアルタイ
ムで在庫を引き当てられるシステムがないと
運営できない。 このため物流センターでも単
品管理を基本とするシステムの導入が不可欠となったのだ。 ゲームソフトを中心とするメディア商品に
ついては、古本に先行して二〇〇二年四月に
店頭で単品管理とリアルタイム処理を行う情
報システムを稼働している。 このシステムと
顧客情報管理システムによって同社は、メデ
ィア商品分野での販売機会ロスや値下げロス
を防ぎ、ワン・ツー・ワン・マーケティング
を展開できる情報基盤を整備してきた。
二〇〇二年度の国内のゲームソフト市場が
前年比八・六%減(コンピュータエンターテ
イメント協会推定)と落ち込むなかで、テイ
ツーのこの分野での売り上げが新品・リサイ
クル品ともに七〜一〇%増と好調に推移して
いる理由の一つがここにある。
ただし、古本はメディア商品とくらべると
はるかにアイテム数が多い。 日本では年間七
万点の新刊が出て、常時五〇万点もの出版物
が流通しており、これらが随時「古本市場」
に流れ込んでくる。 単品管理を行うには膨大
なマスターデータが欠かせず初期投資がかさ
む。 そこまで投資するには本の商品単価は安
いため、同社もこれまでシステム構築には慎
重だった。
だが競争の激化から、古本ビジネスの市場
は成熟化しつつある。 テイツーとしても、「こ
れまでのような、顧客から買い取った商品を
店で売るだけのビジネスではいずれ行き詰ま
る」(片山靖浩執行役員)との認識のもとに、
新たな成長へ
の道筋を模索
する必要があ
った。 こうし
た事情が、E
C事業やコミ
ック・カフェ
事業との融合
化に活路を見
出し、それを
支援するため
に単品管理に
よる新たな物
流システムを
構築するとい
う決断につな
がった。
ISBNコードで単品管理を実施
新システムでは、店舗から物流センターに
回収された商品の在庫だけを単品管理の対象
としている。 物流センターへの入庫は一日平
均三万冊。 入庫時に本のISBNコードを携
帯端末でスキャン入力し、在庫として登録す
る。
センター内のオペレーションは、ピッキン
グ方法の違いから二通りに分かれる。
「アイ・カフェ」向けの初期在庫は、一ア
イテムにつき一冊ずつ準備するのが原則。 従
って物流センターには単品レベルで出荷指示
昔ながらの古本屋の暗さを感じ
させない買い取りコーナー
古本に代わって稼ぎ頭となって
いる新作ゲーム
51 JANUARY 2004
が出る。 サイト上で読者が商品を検索して発
注する「ユーブック」も、これと同様に一冊
ずつピッキングを行う必要がある。
これらのケースでは、本棚に在庫を保管し
てピッキングを行う。 本棚はフリーロケーシ
ョンとし、入庫時にISBNコードをロケー
ション番号とひも付けして管理しておく。 ピ
ッキングは携帯端末に無線で指示を出し、作
業者がISBNコードを端末で読み取りロケーション番号と照合させながら行う。 一方、リアル店舗である「古本市場」の新
規出店では、出荷指示はジャンル別に出て、
単品ごとの細かな指定はない。 このため、文
芸書・ビジネス書・文庫本などのジャンルご
とに分けてプラスチックコンテナに保管して
おく。 データ上は各コンテナの中身がどんな
アイテムで構成されて
いるかまで把握できる
が、オペレーション上
の管理は一コンテナで
一ロケーションになる。
各ジャンルのコンテナ
から、出荷指示にもと
づいて必要な冊数だけ
をピッキングして出荷
するという手順だ。
新たな仕組みでは、
店舗への出荷もプラス
チックコンテナの通い
箱で行い、店で空にな
ったコンテナに余剰本
を詰めて回収する方法
を採用した。 これによ
って、出荷作業や店
舗での回収に伴う荷
造り作業を大幅に省
力化することができた。
「従来は在庫の把握
に多くのエネルギーを費やしていた。 それが
単品管理の導入によって、センターに入庫し
た本の在庫を早く正確に把握し、ピッキング
と出荷作業を迅速に行うことができるように
なった。 ここから派生する効果は大きい」と
石井部長は言う。
余剰本を店から物流センターに回収して再
出荷するまでのオペレーションの流れがスム
ーズになり、店舗間の移動によって在庫偏在
を解消するという施策をとりやすくなった。
販売機会ロスを防止していくための環境が物
流面で整備されたわけだ。
店舗の販売管理システムの端末から、物流
センターの在庫を照会できる仕組みもまもな
く稼働する予定だ。 また、「アイ・カフェ」の
出店加速や「ユーブック」の売り上げ拡大に
向けた支援体制も整った。
新たな物流システムは昨年九月に稼働。 こ
れに合わせて同社では、物流センターの業務
を岡山土地倉庫(本社・岡山市)にアウトソ
ーシングした。 物流コストを固定費から変動
費に変えることで、物量の波動に対して柔軟
なコスト構造に転換を図る狙いがある。
消費財を扱うリサイクル事業では、顧客が
随意に持ち込んでくる商品を仕入れ、価格を
設定して販売するという独特のモノの流れが
ある。 こうした事業形態から導き出された物
流の仕組みが、今後、この分野におけるパイ
ロットモデルの一つとなるか注目される。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
物流センターでの作業風景
初めて扱う本は一冊ごとにマスターデータ
を登録する
「古本市場」への出荷はカテゴリー単位。
センターでの保管もそれに対応している
携帯端末に無線で指示される本をピッキン
グしていく
物流センターへの入庫は1日平均3万冊。
ISBNコードをスキャンして在庫登録する
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