ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2011年8号
米ISM年次大会報告
第96回米ISM年次大会報告──SCMのリスク管理を中心に日本サプライマネジメント協会 上原修 理事長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2011  72 グローバル人脈を得る好機  今年で九六回を数える米サプライマ ネジメント協会(Institute for Supply Management:ISM)の年次大会 に参加した。
ISMは一九一五年の 設立以来、二度の世界大戦や大恐慌、 エネルギー危機、変動相場制、九・ 一一といった数々の歴史的出来事を 経験してきたが、これまで年次大会 を一度もキャンセルしていない。
非営 利の民間団体の活動としては希有と 言えるだろう。
 今年の開催地は観光地として知ら れるフロリダ州オーランドで、参加者 は約二二〇〇名だった。
その多くは 企業の調達・購買・物流・SCM関 連の管理職クラスである。
海外からも 毎年多くの参加がある。
とりわけ今 年は韓国勢の鼻息が荒かった。
この ところ韓国からは毎年大量の参加が あるため、専用の部屋まで用意され ているほどだ。
 それに対して日本からの参加は我々 日本ISMのメンバーのほか、米国 トヨタの購買担当者が一人いるだけ。
それでも会場ではISMの幹部を始 め多くの関係者から東日本大震災へ のお見舞いと激励を受けた。
「私たち の心は常に日本人と共にある」とい う言葉には、挨拶とは分かっていて も、さすがに胸が熱くなった。
 私がISMを知ったのは二十年ほ ど前に、当時の勤務先だった日本鉱 業(現・JXホールディングス)のニ ューヨーク事務所長として米国に赴 任した直後のことだ。
当時のISM は「NAPM: National Association of Purchasing Management」という名 称だった。
そのニューヨーク支部長と、 会ってすぐに意気投合し、私が国際 部門を担当することになった。
 毎年のように私が年次大会に出席 している理由の一つは、当時の活動 を通じて知り合った各国の実務家やス ペシャリストたちとの親交である。
グ ローバル人材の四要素とされる「ヒ ト・モノ・カネ・情報」のうち、最 も日本人が苦手とするのが、こうし た人脈ではないだろうか。
その点で ISMの年次大会は、日本にいては 知り得ない人や情報に触れることので きる良い機会である。
 実際、今回の大会でも国際購買管 理連盟(IFPSM)会長や、韓国I SM支部長、またインド購買調達会 議、フィリピン調達連合(PISM)、 中国物流購買連合会(CFLP)と いった組織の幹部たちと貴重な情報交 米ISM年次大会報告 ──
咤達佑離螢好管理を中心に 96th Annual International Supply Management Conference and Education Exhibit  購買・調達業務に従事する実務家や研究者が所属するSCMの研究機 関、米サプライマネジメント協会(ISM)の年次大会が五月に米フロリ ダ州オーランドで開催された。
ISMの日本支部代表として同大会に参 加した上原修日本ISM理事長が現地の様子をレポートする。
日本サプライマネジメント協会 上原修 理事長 第96回  ISM の幹部たちと。
今回、筆者は表彰を兼ねたバッヂを 頂戴した。
永年勤続賞のようなものだ 73  AUGUST 2011 ●調達におけるベストプラクティス ●影響力の強いサプライチェーン組織 を開発しリードする ●向かい風(Head Wind) ●戦略物流 ●製造 ●リスク管理 ●サービス調達 ●サプライヤー開発と関係性管理 ●人材育成管理  いずれも関心のあるテーマだったが、 震災の直後ということもあり、私は 今回、サプライチェーンリスクに関す るワークショップを中心に回ることに した。
その受講メモのいくつかを以下 に披露しよう。
「リスク管理手法を用いてサプライチ ェーンを強化する」──イーライリリ ー・アンド・カンパニー  イーライリリー(Eli Lilly and Company)は一三〇年もの社歴を誇 る医薬品の大手メーカーだ。
インディ アナ州インディアナポリスに本社を置 き、日本を含む世界一四〇カ国で事 業を展開している。
今回の東日本大 震災直後に同社は次のように行動し たという。
◆最初の六時間以内にしたこと 続くとISM は予測している。
昨年 は足踏みしていた非製造業も今後は 回復に向かう見込みだという。
 そしてキーノートの四つ目とし て、リベラル系インターネット新聞 「ハフィントン・ポスト(Huffington Post)」の共同創業者兼編集長、アリ アナ・ハフィントン女史が壇上に立っ た。
「政治から役員会議まで」と題し、 政治から教育、自己管理まで幅広い テーマを、質疑応答を交えながら面 白おかしく語り、会場を大いに盛り 上げた。
一〇〇以上のワークショップ  さて、今年の大会では五月一五日 〜一八日の四日間の開催期間中に計 一〇〇以上ものワークショップが実 施された。
同じ時間に違う会議室で 複数のワークショップが行われるため、 そのすべてに参加することはできな い。
参加者はプログラムブックを手に それぞれ関心のあるワークショップを 順次受講して回る形式だが、人気の あるワークショップの場合には事前登 録が必要である。
 大会で有意義な時間を過ごせるか どうかは、どのワークショップに参 加するか、ワークショップの選び方が カギになる。
今回のワークショップ は以下の九つのテーマに分類されて いた。
換をすることができた。
 また毎回恒例となっている米国I SMのポール・ノバックCEO主催 による小規模なカクテルパーティでは、 ノバックCEO(右頁写真左端の大柄 な人物)とじっくり話をすることがで きた。
 我々日本ISMもまた大会期間中 にアジア各国の支部のメンバーを対象 とした夕食会を主催した。
香港、台 湾は既に顔なじみだが、今回は中国、 そしてフィリピンが顔を出してくれた。
フィリピン勢の参加はトップを含めた 三人で、いずれも元気が良い。
英語 圏でもあることから、今後はフィリピ ンがアジアにおけるISMの台風の目 になりそうな気配であった。
 大会の目玉となる基調講演(キー ノート)は今年は四つ。
一つはISM の新年度のチェアー、米デルファイ社 のグローバル購買担当執行役員、シ ドニー・ジョンソン氏による講演であ る。
ISM初の黒人チェアーで、こ の人選にはダイバーシティ(多様性) を進めようというISMの強い意志 がうかがえる。
ジョンソン氏は講演の なかで、デルファイが会社更生法か ら立ち直ることができたのは調達の 果たした役割が大きかったことを強 調していた。
 キーノートの二つ目は著名な技 術予測家でアップルやグーグル、G Eなどの顧問を務めるダニー・バ ラス(Daniel Burrus) 氏による 「戦略的先見性と確実性(Leading With Strategic Foresight and Certainty)」と題した講演だった。
 「君が問題だと考えることのほとん どは、実は問題ではない」とバラス氏 は聴衆をたきつけ、不確実性と期待 をベースにした戦略には大きなリスク があることを指摘した。
そして不確 実なことを無視し、確実に起こるこ とを戦略の基礎に据えるによって、劇 的にリスクは減り、最高の結果を生み 出すことができると説いた。
 キーノートの三つ目は、毎年恒例 となっているISMによる向こう半年 間の米国経済予測である。
昨年以降、 米国では製造業の景気回復が顕著で あり、この傾向は二〇一一年末まで インド購買調達会議が今年正式にISM に加盟した。
同会 長とも親交を深めることができた AUGUST 2011  74 Cost Analysis)」、「サプライチェーン 統合(Supply Chain Consolidation)」、 「キーサプライヤー対応(Key Supplier Readiness)」、「サプライ ヤーパートナーシップ(Supplier Partnership)」である。
 このツールを使ってマネジメントサ イクルを回す。
すなわち「懸念の調 査→課題の特定→潜在的影響度の分 析→発生確率が高く影響度の大きな 課題に対応した標準的プロセスとリソ ースの開発→リスクの全体像の調査」 というプロセスを繰り返すのである。
「サプライチェーンとサプライヤーの リスク管理におけるベストプラクティ ス」──ガートナー の六つのステップを忠実に踏襲してい るという。
第1ステップ ──自社のサプライヤーの業務内容を 理解する 第2ステップ ──サプライヤーの競争心を機会に変 える 第3ステップ ──サプライヤーを身近に監視する 第4ステップ ──サプライヤーの能力を開発する 第5ステップ ──サプライヤーとの情報共有を徹底 する。
ただし、共有する情報は 厳選する 第6ステップ ──サプライヤーの継続的改善を支援 する  グッドリッチのリスク管理はプロジ ェクトマネジメント手法をとっている。
つまり「スコープ」、「コスト」、「タイ ム」の三つを要素としてコントロール している。
そのツールとして「サプラ イチェーン環境ダッシュボード」と呼 ぶ管理アプリケーションを同社は開発 し運用している。
 このダッシュボードは大きく四つの 機能から構成される。
「グローバル取 引コスト分析(Global Market Place ●購買部門が支援し事業部門が主導 する毎年のリスク査定プロセス ●キーアイテムを対象とした戦略的な 在庫の積み増し(購買部門がSA Pの四半期レポートで在庫水準を 監視する) ●キーアイテムのサプライヤーとの契 約に、サプライヤー側もしくは代替 拠点における在庫保持を含める ●販売業者と製造業の拠点をリスト アップ ●地域別の供給拠点の地図 ●各最終製品の部品構成表(BOM) を作成する。
「サプライチェーン・リスク管理:手 法とツール」──グッドリッチ  グッドリッチは航空宇宙機器メー カーで、宇宙船や航空機にコンポー ネントを供給している。
同社は中核 的なサプライヤーとの強い関係性を価 値創造とリスク軽減のカギと位置付け ている。
そのためにサプライヤーを慎 重に審査し、選抜したサプライヤーを 同盟に巻き込み、協調を進め、中核 サプライヤーに育て上げている。
 彼等がモデルとするのは日本の自動 車組み立てメーカーと部品メーカー間 の長期的かつ互恵的関係である。
と りわけトヨタとホンダはいずれも以下 ●製造業顧客向け供給資材の調整作 業(仮定の統制) ●同地域から供給されている全資材 の特定作業 ●影響を受けた全最終製品の特定 ●サプライヤー四六社のうち一〇社の 無事を確認 ◆翌営業日にしたこと ●製造業顧客と共同で緊急支援チー ムの立ち上げ ●サプライヤーの残り三六社のうち一 三社の状況確認(影響度の報告書 準備) ●移送中資材の状況確認 ●在庫の最新情報 ●代替資材サプライヤーの徹底調査  同社によると今回の震災のような 非常事態が発生した時、企業は次の ような課題を問われることになると いう。
すなわち「?被災地から何を 買っているか(製造者・代理店)」を 明らかにし、「?最新の在庫状況」を 把握し、「?今後の影響(販売能力、 生産能力、物流能力)」を見積もって、 「?次に何をするか」を問われるので ある。
 こうした課題に対して、より組織 化された対応をするために、同社で は次のような先進的リスク管理を行っ ているという。
75  AUGUST 2011  
稗咤曜槁瑤箸靴討盧2鵝▲ぅ鵐 購買調達協会が正式にISMに加盟 したこともあり、今後はアジアへの展 開を強めていくことになるだろう。
ま たISM本部は、国際購買管理連盟 (IFPSM)との一層の連携を始め、 プロジェクトマネジメント協会(PM I)、英国購買憲章(CIPS)、米 国在庫管理協会(APICS)、全米 契約学会(NCMA)といった関連 団体と、会員資格の相互認証の取り 組みを開始し、一層のグローバル化を 進めようとしている。
 これらの活動を見ていると、アカ デミックなアプローチによる理論の構 築で、世界は日本のはるか先を行っ ていると感じざるを得ない。
とりわ け米国は実業界とアカデミズムの連携 に長けている。
その点を他のアジア諸 国も積極的に採り入れている。
 それに対して日本は、少なくとも 購買・調達分野においては、本格的 な産学協同がほとんど見られないの が現状である。
しかし、我々日本I SMでは現在、日本を含めたアジア地 域でISM研究大会を継続的に開催 していくことを計画している。
それ については今回の渡米でISM本部 から承認を得ることもできた。
この 計画を実現するために、我々は今後 も地道に活動に取り組んでいくつもり である。
を評価する販売・操業計画策定 工程 3 潜在的、将来リスク影響と不測 事態対応計画を査定するシナリ オ計画策定 4 顧客、サプライヤー、従業員と の堅固な意思疎通ライン 5 震災による交通の難所での俊敏 な物流戦略  さらに今後十二カ月間に発生し得 るリスクとして、ガートナーはその可 能性の高いものから順に次の七つを 挙げた。
?ゆっくりとした需要縮少、 ?景気回復期の商品相場上昇、?政 府規制の強化、?企業のケイパビリ ティが制約される、?自然災害 、? テロ脅威、?過度な情報量。
アジア圏での展開が活発化  年次大会では、こうしたワー クショップや講演、イベントのほ かに、I S Mが認証する購買・ 調達実務の国際資格「C P S M (Certified Professional in Supply Management)」の運用に関する討議 も行われた。
今回の討議では海外支 部からの質問が相次いでいた。
その 様子から、とりわけ韓国、中国、豪 州の各支部ではCPSMの資格運用 にかなりの精力が注がれていること が分かった。
 またリスク管理における世界地域 別の生産・調達満足度は、北米七 一%、西欧六三%、ブラジル六一%、 東欧五六%、インド五四%、中国四 六%であり、オフショア(海外)より もニアショアもしくはインショアが望 ましいと考えている企業が多かった。
 これらの分析からガートナーは以下 のような提案を行った。

咤達佑離螢好管理に求められる能 力とは ●サプライチェーンの「回復力 (resiliency)」こそドライバーであ る ●企業と周辺関係者を認識する ●全てのリスクが等しく発生するわけ ではない ●需要、製品、供給を結びつける ●できるだけ科学技術を活用する ●企業戦略や生産に影響を与えるパ ターンを基礎に据えた戦略 ●継続的に自分の位置を把握する ◆日々の業務の中に、企業文化の中 に、リスクマネジメントを植え込め ●BCPは必要不可欠 ●重大なサプライチェーン崩壊に対応 するための脚本(Play Book) 作り ●危機管理能力の継続的な査定 1 権限移譲による意思決定の迅速 性と透明性 2 現行の危機課題における可視性  講演者のガートナー(Gartner Inc.) はIT業界を主な対象とした大手の調 査・コンサルティング会社である。
同 社はアンケート調査や事例研究に基づ き、グローバルサプライチェーンにお けるリスクを研究した。
 その結果、よく利用されているリス ク軽減策としては、「サプライヤーと のより緊密な連携」、「サプライチェー ンの垂直統合(アウトソーシングの削 減・排除)」、「サプライヤーとの成果 報酬型契約」、「事業継続計画(BC P)」が上位であり、最も成功してい る方法もほぼ同じであることが分かっ た。

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