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化した「浙江伝化物流基地」を建設した。
その運営が軌道に乗った〇四年に、同社は3P
L事業からの撤退を表明する。 物流プラットフォー
ム事業に資源を集中するという経営判断を下した
のである。
翌〇五年には浙江伝化物流基地の運営実績を基
に、物流プラットフォームのネットワーク化戦略を
策定。 中国の各主要都市に浙江基地と同様の物流
プラットフォームを建設する方針を打ち出した。 こ
の方針に基づき〇七年には成都、〇八年には蘇州
に物流基地を始めとする各種の施設を建設し、浙
江基地で確立したモデルの横展開を図っている。
伝化物流は自ら開発したこの物流プラットフォー
ムを海港、空港にちなんで、「陸港モデル」と呼ん
でいる。 これは同社の物流基地を輸送サービスの
取引プラットフォームとしてのみならず、その地域
における中核的な公共トラックターミナルとして機
能させようという意図を込めた命名である。
なお筆者は〇八年三月に浙江伝化物流基地を、
〇九年九月に成都伝化物流基地をそれぞれ訪問し、
フィールド調査を実施した。 また、一〇年十一月
には成都基地の責任者である謝萍氏のインタビュー
を行っている。 以下の記述はこれらのフィールド調
査ならびにインタビューに基づくものである。
「浙江伝化物流基地」
──陸港モデル発祥の地
浙江伝化物流基地は浙江省蕭山経済技術開発
区内の(上海─杭州─寧波)高速道路の蕭山イン
ターのそばに立地している(図1)。 敷地面積三七
万?。 正式稼働は〇三年四月一八日。 投資総額は
三億元であった。 伝化物流が建設した最初の物流
3PL事業から撤退しモデルを転換
中国有数の化学工業グループ、伝化集団傘下の
伝化物流が開発した新しいタイプの貨運市場が注目
を集めている。 伝統的な貨運市場に比べて、規模
が巨大であることに加え、取引斡旋の迅速化、周
辺および構内交通の整流化、多様なサービスの提
供といった点に特徴がある。
同社はIT化、効率化、信頼形成メカニズムの
確立によって伝統的な貨運市場の抱える諸問題を
解決し、取引のプラットフォーム機能とトラックタ
ーミナル機能をそれぞれ高度化しながら、それを
有機的に連結することに成功している。
膨大な数の零細トラック業者を中心とする中国の
輸送市場にあって、伝化物流の開発したこの新型
貨運市場は、中国特有の物流環境に合致した高度
な物流ノードのあり方を示唆している。
その詳細を見てゆくに当たって、まずは伝化物
流の沿革を押さえておこう。 伝化物流の親会社で
ある伝化集団は一九八六年に化学品メーカーとし
て出発し、その後、農業、物流、投資などへと事
業領域を広げていった中国有数の民間コングロマリ
ットである。
伝化物流が発足したのは九七年。 グループ内の
輸送業務を担っていた伝化集団の輸送部門がその
前身で、独立後はグループ外の業務も請け負う3P
L型の物流企業として事業を展開していった。
伝化物流は九九年から貨運市場に代表される物
流サービス取引のプラットフォーム(以下、物流プ
ラットフォーム)の研究に着手し、新しい市場のあ
り方について検討を重ねた。 そして三年後の二〇
〇二年、浙江省杭州市の郊外に同社の構想を具現
「陸港モデル」のイノベーション
ドライバーと仲介業者の対面交渉を基本とする伝統的な
貨運市場の取引は、効率が悪く、取扱可能な情報量にも限
界がある。 そこにイノベーションを起こしたのが、中国有
数の民間企業グループに所属する伝化物流だ。 効率的な取
引システムと多様な物流サービスを統合した独自の物流ノー
ドを同社は「陸港モデル」と称している。
李瑞雪 富山大学経済学部 准教授
第5部
特 集リアル 中国物流
31 OCTOBER 2011
プラットフォームであり、同社の陸港モデルはこの
物流基地を運営していく過程で確立された。
基地には計四八〇の物流事業者が入居している。
うち杭州地域の業者が一七・三%、浙江省の他の
地域の業者が五六・二%、浙江省以外の業者が二
六・五%をそれぞれ占めている。
大半の事業者は輸送サービスの仲介業を営んでい
るが、特定地域間の混載輸送サービスに従事する
業者も数多く入居している。 また鉄道利用運送業
者十二社、内航船舶利用運送業者六社も入居し、
インターモーダル輸送サービスも提供されている。
同基地が配信する貨物情報(需要情報)は一日
平均約七〇〇〇件で、貨物輸送量にして約五万ト
ンの取引が成約している。 基地を出入りするトラ
ック台数は一日三〇〇〇台前後である。
基地内には約八万七〇〇〇?の駐車エリアがあ
り、最大一二〇〇台のトラックを収容できる。 基
地の統計によると、同基地を利用しているトラック
は計四〇万台余りに上るという。 うち約一二万台
はドライバーの厳格な身分認証を経て、伝化物流の
「誠信会員」(誠実で信用できる会員)として登録
されている(誠信会員の仕組みと役割については
後述)。
伝化物流基地には約一〇万?の保管面積を有す
る倉庫施設も設置されている。 そのうち約八万?
は鉄骨構造・高床式の標準倉庫で、約一万?は小
口混載業者の専用倉庫である。
基地内には、同地の税務、陸運、商工、治安な
どを司る行政部門の出先機関が設置され、行政サ
ービスを提供している。 銀行、保険、郵便、通信、
会計、監査などの窓口もある。 また、伝統的な貨
運市場と同様に、飲食、宿泊、自動車修理、娯楽、
雑貨店なども数多く入居している。
同基地は稼働以来、良好な経営パフォーマンスを
示している。 一〇年の同基地内の取引総額は前年
比一六九%増の五六・六億元に達し、納税額は二
億元に上った。 また基地の稼働は同地域に約一万
五〇〇〇人の雇用を生み出したという。
伝化物流は〇八年に同地域の荷主企業が基地の
利用によって得られた輸送費削減効果を二五億元
と試算している。 同基地が立地する蕭山経済技術
開発区を中心としたエリアの荷主企業の物流アウ
トソーシング比率は、基地が出来る前の〇二年の三
六%から〇九年には八〇%に上昇し、物流コスト
は四〇%以上削減されたという。
ただし、これらの数値はいずれも伝化物流の発
表によるもので、検証は困難である。
「成都伝化物流基地」
──浙江基地の二倍の敷地面積
成都伝化物流基地は成都市新都区の「新都物流
センター」という物流団地に立地している(図2)。
敷地面積は浙江基地のほぼ二倍の約七六万?で、
総投資額は一五億元。 〇九年五月に正式稼働した。
稼働以来、同基地は順調にトラックと物流業者
を取り込み、中国西南地域における重要な陸運物
流ハブとしての地位を確立しつつある。 同基地の
一〇年の物流関連サービス事業収入は二〇億元に
達し、約七〇〇〇万元の税金を納めている。
成都基地の建設に際して、伝化物流は四川省政
府、成都市政府、新都区政府から各種の優遇措置
と手厚い支援を受けている。 そもそも成都基地の
建設は〇五年に地方政府が制定した「成都市現代
物流業発展規画綱要」に則ったプロジェクトであ
り、政府の物流インフラ整備計画の一環だった。
成都基地の運営は基本的に浙江基地で確立した
「陸港モデル」を踏襲している。
陸港モデルは七つの基本機能モジュールから構成
される。 七つの基本機能モジュールとは、「管理セ
ンター」、「情報取引センター」、「インテリジェンス
車両ソースセンター」、「倉庫配送センター」、「小口
混載輸送センター」、「物流ビジネスセンター」、「展
示販売センター」の七つである。
成都基地の「情報取引センター」は、八万一〇
〇〇?の床面積を持ち、約一三〇〇社の物流仲介
事業者が入居している(写真1)。 ここで一日平均
約三〇〇〇件の貨物情報(需要情報)を配信し、
貨物重量にして一〇万トンほどの輸送取引が成約
している。
図1 杭州の「浙江伝化物流基地」の位置
鉄道東駅
銭
塘
江
浙江伝化
物流基地
下沙経済開発区
下沙大道
抗甬高速
銭江二橋
銭江三橋
銭江六橋
上海─杭州─
寧波高速道路
蕭山インター
紅星枢紐
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ービスを完備している。
第4部で解説したように、成都市にはすでに数
多くの貨運市場が存在し、とりわけ川陝路沿線は
貨運市場の集積が進んでいる。 伝化物流の基地は
こうした既存の貨運市場の集積地から一〇キロほ
ど離れた場所に立地しながらも、強い吸引力と競
争力を示している。
基地に入居している約一三〇〇社の物流事業者
の中には、四川長虹、富士康、東方汽輪など、大
手メーカーの物流業務を受託している事業者も含ま
れている。 伝化物流によると、成都基地の活用に
よって同エリアのメーカーおよび流通企業はトータ
ル物流コストを四割削減することができるという。
情報活用
──伝統的な商慣習に配慮したIT化
伝化物流の開発したこれらの物流基地は、既存
の貨運市場と比較した場合に、どのような特徴を
持っていると言えるだろうか。 筆者は大きく三つに
整理できると考えている。 すなわち「情報活用」、
「信用構築メカニズム」「多様なサービス」である。
それぞれについて以下に解説する。
貨運市場の最も基本的な機能は、トラック輸送
サービスの供給情報(車両情報)と需要情報(貨
物需要)のマッチングである。 伝統的な貨運市場
では、いわゆる「商店街方式」によって情報の流
通と取引交渉が行われるが、伝化物流基地では情
報技術を駆使することで情報流通の集約化と効率
化に成功している。
成都基地の四階建て情報取引ビルの一階は約三
〇〇〇?の取引ホールとなっている(写真2)。 ホ
ールの壁には三枚の大型電子掲示板が設置されてい
「インテリジェンス車両ソースセンター」とは情報
化された駐車場を指す。 二六万四〇〇〇?の敷地
に五〇〇〇台分の駐車スペースを設けている。 一
日当たり平均七〇〇〇台以上のトラックが出入り
するという。
「小口混載輸送センター」には二〇〇社余りの小
口混載専門事業者が入居している。 一〇〇本以上
の小口混載輸送ルートによって全国二二〇の主要
都市を網羅している。
また浙江基地と同様に、成都基地も「誠信会員」
認証登録サービス、税務、陸運、商工、公安など
の行政サービス、銀行、保険会社、郵便、通信、
会計、監査などのビジネス・インフラ・サービスを
揃えている。 このほか二〇〇社を超える自動車修
理や、宿泊、飲食、娯楽、商店などの後方支援サ
写真1 成都基地「情報取引センター」の人口。 物流仲介業者約
1300 社が入居している
写真2 「取引ホール」では、毎朝「貨物運送情報朝市」が開催される
成都市中心
市街地
三環路
成渝高速
城北立交
高速道路
都市快速道路
立体交差
河川
成雅高速
成温高速
成灌高速
成彭高速
環状高速
北新幹線貨運大道
新都大道
興城大道
成南高速
成錦高速
図2 09 年に稼働した「成都伝化物流基地」の位置
物流大道
川陝路
大井路
蜀龍大道
電子路
物流基地
成都伝化
特 集リアル 中国物流
33 OCTOBER 2011
録した希望ルートに関する貨物情報を、自動送信
する。 この情報を基に仲介業者と携帯で交渉する
ことで基地内の待機時間を節約できる。
さらには、基地内のドライバー用宿泊施設の各
部屋のテレビモニターも情報システムにリンクさせ、
自分の泊まっている部屋からも貨物情報を検索で
きるように、専用チャネルを整備していく計画だ。
(ただし、筆者が成都基地を調査した時点にはまだ
稼働していなかった)
これらのメディアを通じて、成都基地は毎日平
均三〇〇〇件、浙江基地は同七〇〇〇件もの貨物
情報を配信している。 この膨大な情報をいかに素
早く集め、また配信するかがポイントである。 その
ために伝化物流は独自の取引システムを構築して
いる。
基地に入居している仲介業者はオフィスの端末か
ら貨物情報を入力・更新すると、そ
の情報は直ちに、取引ホールの大型電
子掲示板、サービスカウンターのモニ
ター、自分のオフィスの窓際モニター
に表示される。
パソコン操作が苦手な仲介業者は、
電話もしくは紙で貨物情報を取引ホ
ールにあるサービスカウンターのオペ
レーターに伝え、入力を依頼すること
もできる。 ホワイトボートに貨物情報
を手書きして、それを取引ホールに並
べることも補完的に行っている(写
真3)。
ホワイトボートの使用は当初は想定
外だったという。 しかし、伝統的な貨
運市場で「店」の前の黒板を見なが
ンピューターで検索するなどのサービスを行ってい
る。
ドライバーは、カウンターに設置されている無料
電話を使って、仲介業者に詳細を問い合わせたり、
商談を行うこともできる。 カウンターの上部に設置
した液晶モニターは地域別の貨物情報を表示して
いる。
各仲介業者のオフィスの窓にも液晶モニターは設
置され、その仲介業者が配信している貨物情報を
表示している(写真5)。 市場を足で回って各仲介
業者の持つ貨物情報を確認し、その場で交渉する
という伝統的な貨運市場と同様の探し方もできる
ように配慮されている。
基地の情報をドライバーの携帯電話に配信する方
法も採用されている。 「誠信会員」に認定されてい
るドライバーに対して毎日、各ドライバーが予め登
る。 三つの掲示板にはそれぞれ「四川省内」、「華
東地域と華南地域」、「その他の地域向け」の貨物
情報が表示されている(写真3)。
貨物情報とは具体的には貨物の目的地、貨物種
類、トン数、出荷地、車両要求、物流仲介業者の
事務所部屋番号および電話番号である。 貨物を探
すトラックドライバーは興味のある情報が見つかる
と、「情報取引センター」にある、その業者のオフ
ィスを訪れて交渉する。
ただし、情報取引センターの建物は広大で、オ
フィスの部屋数は約八〇〇にも上る。 そこで取引
交渉を支援する様々な機能が用意されている。
取引ホール中央の円形のサービスカウンターに
は、一〇人ほどのオペレーターが配置されている
(写真4)。 オペレーターは情報入力作業の代行や、
ドライバーが希望する条件に合致する貨物情報をコ
写真3 取引ホールに設置された大型掲示板に方面別の貨物情報が
表示される
写真4 サービスカウンターのオペレーターはシステムに不慣れな
仲介業者やドライバーをサポートする
写真5 各仲介業者のオフィス前には、その業者が配信している貨物
情報を表示するモニターが設置されている
OCTOBER 2011 34
かつ一方通行である。 仲介業者は店でドライバーを
ひたすら待つしかない。 過去に取引のあるドライ
バーに電話をすることもできるが、運良くそのド
ライバーが貨運市場に入場していることは少ない。
つまり貨運市場は一定規模を超えると、伝統的
な商店街方式による情報流通は有効性が落ちてし
まうのである。
信用構築メカニズム
──優良ドライバーを組織化
「陸港モデル」のもう一つイノベーティブな取り
組みは信用確立メカニズムの構築にかかわるもので
ある。
基地にはより多くの需要情報と供給情報が持ち込
まれる。 情報が集積されている分だけ成約の可能
性は高い。
ただし、筆者のインタビューに答えたあるドライ
バーによると、店を一軒ずつ回りながらの情報収
集は二〇〇軒が限界であるという。 それに対して
成都基地には八〇〇を超える仲介業者が机を置い
ている。 従来の商店街方式では、荷物の探索にド
ライバーは多大な時間と労力を費やさなければなら
ず、効率は著しく低下する。
また商店街方式は、個々の店から求車情報(需
要情報)が発信されるだけで、求貨情報(供給情
報)の配信はない。 すなわち情報流通が分散され、
ら買い手を見つけるやり方に慣れたドライバーは、
いきなり電子情報に切り替えることには抵抗を覚
えた。 そのため過渡的な措置として、ホワイトボー
トを使用していると、成都基地の責任者は説明し
ていた。
また成都基地では「貨物運送情報朝市」と称す
る集いを開催している。 毎朝六時半〜七時半の一
時間、仲介業者とドライバーが取引ホールに集まり、
対面交渉による需給マッチングを行う。 伝統的な貨
運市場の慣習に配慮しつつ、IT化による新しい
情報流通の仕組みの確立と浸透を図る狙いである。
車両情報については、基地のゲートでトラックの
情報を収集して、それを仲介業者に提供している。
「誠信会員」が入場時に会員カードをカードリーダ
ーにかざすと、基地の情報システムに「入場中待
機トラック」として登録される。 この情報を基に仲
介業者は自分の端末で条件に合う待機トラックを検
索。 リストに掲載されたドライバーの携帯番号に電
話をかけて交渉をする。
「誠信会員」になっていないトラックでも、入場
後に取引ホールのサービスカウンターのオペレータ
ーに依頼すれば、待機リストに情報を載せること
ができる。 成約したトラックは出場時にカードをか
ざすか、あるいはカウンターで依頼して待機リスト
から情報を削除する。
このような、ITを駆使した取引システムは需給
マッチングの効率化に大きな効果を上げている。 ト
ラック入場から成約までの平均リードタイムは、成
都の伝統的な貨運市場では一日から一週間かかる
が、成都基地では六時間まで短縮されている(一
〇年十一月現在)。
伝統的な貨運市場と比べて、規模の大きな成都
写真6 「インテリジェンス車両ソースセンター」。 巨大な駐車場であると同時
に、IT によって管理された輸送リソースの保管場所として機能する
写真7 「小口混載輸送センター」。 約220 社の小口混載業者が入居している。
大手物流会社の事務所もある
特 集リアル 中国物流
35 OCTOBER 2011
の有無を調べる。 さらに運輸協会などの業界団体
にも問い合わせて、悪質行為歴なども調査する。
こうして審査をパスしたドライバーには「誠信会
員」への加入を承認し、会員証のICカードを交
付する。 この時にドライバーの顔写真と指紋を採取
し、データベースに格納する。
筆者が成都基地を訪問した時点で、伝化物流の
「誠信会員」の数は十二万人(台)を突破してい
た。 この数は浙江、成都両基地に出入りするトラ
ックの約二割に過ぎないが、両基地の取引総額に
占めるシェアは六割に達すると推測される。 零細
トラック業者にとって「誠信会員」になることは、
それだけ価値が大きいのである。
多様なサービス
──路線便から複合サービスまで
成都基地内には約一万?のDC(ディストリビ
ューション・センター)も設置されている。 DCに
はフォークリフトや高層ラックが装備され、倉庫管
理システムも導入されている。 その運営は伝化物
流が委託した専門業者が担っている。
仲介業者や荷主企業は輸送予定の貨物の発送ま
での一時保管にDCを利用するほか、域外から搬
入してきた商品を基地内で保管し、販売需要に応
じて配送するという使い方をしている。 基地内の
DCを利用することで、横持ち輸送を回避し、幹
線輸送と末端配送に必要なトラックを容易に確保
することができる。
基地が提供する、もう一つ重要な物流サービス
は小口混載輸送である。 前述したように小口混載
輸送センターは全国二二〇都市を網羅する小口混
載輸送網を構築している。 そのなかには伝化物流
となどは今でも珍しくない。 ドライバーにしても、
自らの信用状況を証明する手段がないために、速
やかな成約がしばしば阻害されている。
こうした問題を解決するために、伝化物流は「誠
信会員」と「誠信交易システム」と呼ぶ仕組みを
開発し、運用している。 伝化物流が荷主や仲介業
者に代わって、トラックドライバーの信用情報を管
理しているのである。
伝化物流はドライバーを審査したうえで、信用に
値するドライバーを会員化し、データベースを構築
している。 荷主や仲介業者はそのデータベースに照
合するだけで、そのドライバーの信頼性を確認する
ことができる。 一方でドライバーも会員証を提示す
るだけで、自らの信
用力を証明すること
ができる。
図3はこの仕組み
の概要を示している。
まず、トラックドライ
バーは伝化物流の物
流基地の会員サービ
スセンターに必要な
データを提出し「誠
信会員」になること
を申し込む。
サービスセンター
はそのデータを警察
当局と陸運当局のデ
ータベースに照合、
トラックの車両情報
やドライバーの個人
情報の真偽や犯罪歴
おびただしい零細業者が離合集散する中国の貨
運市場において、信用問題は円滑な取引を阻害す
る最大の要因の一つである。 この問題を克服する
ために、荷主や仲介業者は独自にドライバーの信用
度を調べたり、一定額の保証金を入れさせるとい
った工夫をしている。 貨運市場の運営側でも取引
上の紛糾やトラブルを調停する役割を果たそうとし
ている。
最近ではドライバーが経済的に豊かになったこと
も手伝って、貨物を騙し取られるといったケースは
減ってはきている。 しかし、トラブルがなくなった
わけではない。 またドライバーの信用を確認できな
いために、荷主や仲介業者が発送を遅延させるこ
図3 「誠信会員」制度の仕組み
警察当局の
情報システム
誠信交易
システム
陸運当局の
情報システム
ID 情報
データベース
サービスセンター
委託側
委託側トラック
信用車両オンライン認証
プラットフォーム
トラック
自動車、ドライバー
のデータベース
基地信用車両
データベース
トラックの持ち主は情報を提供し
て加入を申請する。 サービスセン
ターは持ち主に協力して認証手
続きを完了させる。 付加価値
サービスも提供する
委託側はサービスセ
ンターに車両の持ち
主の調査鑑別を依
頼する。 サービスセ
ンターは調査結果を
委託側に提供する
審査を通過した車両の
情報は信用車両データ
ベースに取り入れる
委託側では
オンライン
で認証を依
頼する
誠信交易システムを拡張し
て、ネット上の認証手続きを
開始し、顧客層を広げる
基地は陸運当局と
警察当局から協力
を得て、トラック、
免許証、ドライバー
のIDに関する情
報を審査する
データ
ベース
データ
ベース
データ
ベース
OCTOBER 2011 36
大規模な管理システムを駆使して、物流企業デ
ータベース、車両データベース、荷主企業データベ
ース、取引データベース、総合データベースを構築
している。 物流情報の交換とデータマイニングの基
盤となる。
(3)
データ交換と共有プラットフォーム
各システムやデータベースの間でデータを効率的
かつ安全に交換し共有するためのメカニズムを提供
する。
な機能モジュールとして、物流企業管理、荷主企
業管理、倉庫配送管理、貨物運送取引管理、財務
決済管理などがある。 物流基地のネットワーク化を
見据えて、広域的に保管、輸送、配送などの物流
業務を統合する顧客企業のニーズに対応するシステ
ムの構築を進めている。
(2)
サプライチェーン・ベースの
物流企業業務管理システム
主に倉庫管理システムと顧客業務管理システム
から構成される。 前者は入居企業の業務管理のた
めに開発されたもので、後者は基地の顧客管理セ
ンターのワークステーションとして開発されたもの。
(3)
会員信用管理システム
前述した「信用構築メカニズム」をサポートする
情報システム。 インターネット取引にもサービスを
提供している。
(4)
公共サービスシステム
基地内の大型掲示板や液晶モニター、入居事業
者のパソコン、ドライバーの携帯電話などの各種の
端末を結び、情報の採集・編集・配信・検索、電
子商取引、ネット決済、コールセンター、意思決定
分析などの機能を処理する。 「伝化物流取引ネット
ワーク」と「基地取引システム」の二つのモジュー
ルから構成される。
基礎プラットフォーム
(1)
ネットワーク
物流基地内のLANを中心に、インターネット・
ベースのイントラネット(物流基地内)とエクスト
ラネット(外部者向け)を構築している。 携帯や
PDAからのアクセスも可能になっている。
(2)
データベース
の基地で急速に事業を拡大し数千人規模の社員を
擁する規模に成長した業者もあるという。
これらの混載業者は基地内のインテリジェンス車
両ソースセンターからトラックを調達して域間の幹
線輸送を行っている。 また基地内の積み降ろしや
積み替えなどの荷役は基地の運営側が一括で引き
受けている。
インテリジェンス車両ソースセンターは、トラッ
クの駐車場であると同時に輸送リソースの保管場
所として機能している。 トラックが基地に入場し
た時点で、その情報が調達可能な車両資源として
システムにインプットされる。
車両情報には、ナンバープレート、運転手の連絡
先、積載能力などの基本情報に加え、車両のメー
カー、ブランド、年式、平ボディかボックスかとい
った詳細まで含まれている。 仲介業者はその情報
を随時検索することができる。
このように基地では、貨物の中継、一時保管、
荷役、輸送、配送、駐車などの多様な物流サービ
スが提供されている。 それを結合することで、基
地は単なるトラックターミナルを超えた物流ノード
としての役割を果たしているのである。
図4は伝化物流基地の情報化プラットフォーム
を示している。 四つのアプリケーション・システム、
三つの基礎プラットフォーム、二つの保障システム、
そしてポータルサイトで構成される。 その概要は以
下の通りである。
アプリケーション・システム
(1)
物流基地ネットワーク業務管理システム
物流基地と物流基地、物流基地と物流事業者を
結び付け、物流情報の一元化管理を実現する。 主
物流電子商取引ポータルサイト
データ交換と共有プラットフォーム
データベース
ネットワーク
物流電子商取引プラットフォームに関連する
外部のデータベースとのインターフェース
ネットワーク・セキュリティ管理システム
物流電子商取引プロトコル体系
●物流企業管理
●荷主企業管理
●倉庫配送管理
●貨物運送取引管理
●財務決済管理
●注文処理管理
●倉庫管理
●配送管理
●サービス管理
●信用情報管理
●評価指標管理
●信用分析管理
会員企業信用
管理システム
●情報配信
●電子商取引
●ネット決済
●コールセンター
●意思決定分析
公共サービス
システム
サプライチェーン
ベースの物流企業
業務管理システム
物流基地
ネットワーク
業務管理システム
図4 伝化物流基地の情報化プラットフォーム
特 集リアル 中国物流
37 OCTOBER 2011
に消極的であるか、あるいは導入に失敗している。
伝化物流の基地においても、システムの稼働当初
はその利活用に大きな問題があったという。 仲介
業者の中には情報機器に不慣れなものが多く、シ
ステムをうまく使いこなせる人は当初は極めて少な
かった。
そこで伝化物流は、基地内にパソコン操作トレー
ニングの専門業者を誘致してトレーニングコースを
開講したり、ITベンダーに協力を仰ぎ、分かり
やすい操作マニュアルを作成し配布するなどして、
仲介業者のITスキルの向上を支援している。
さらにはオペレーターによる入力代行サービス
や、ゲートを通過した車両の情報入力の自動化、
携帯電話や携帯メールの利用など、情報の採取方
法と配信方法に様々な工夫を凝らすことによって、
情報機器に不慣れな仲介業者やドライバーからも情
報を採取することに成功している。
伝化物流が構築した、この取引プラットフォーム
は、入札方式で協力会社を選別する大手荷主企業
にとっても有効なメディアとなっている。 とりわけ
浙江基地では年間契約が更改期を迎える前の毎年
十一月下旬から十二月中旬になると、ほぼ毎日、
荷主企業による入札予定が伝化物流の取引プラッ
トフォームを通じて配信されているという。
モデルの本質は、陸運サービスの取引プラットフォ
ームと、物流機能を有機的に融合させたところに
ある。 このモデルの高度化には、より多くのトラッ
クの「寄港」を促し、彼らの取引を効率化・円滑
化させることが重要である。
そのために伝化物流は必要なビジネス・インフラ
の整備に取り組んでいる。 それは行政サービスや付
帯サービスの充実であり、また基地運営のマネジメ
ント・システムの構築である。
行政サービスを場内に完備した点は、伝統的な
貨運市場においては見られない特徴である(写真
8)。 これは行政側にとっても、行政サービスの効
率化というメリットがある。 また基地内には安い手
数料で決済や伝票発行、納税申告などを代行する
会計代行サービスも提供されている。 一時的に資
金繰りが困難
になった入居
業者に対して、
一定額までの
銀行融資を受
けるための信
用保証も引き
受ける。
さらに特筆
すべき特徴が
情報化された
マネジメント・
システムであ
る。 伝統的な貨
運市場のほと
んどは情報シ
ステムの導入
保障システム
(1)
物流情報プラットフォームの
プロトコル・システム
(2)
ネットワークのセキュリティ管理システム
ポータルサイト
アプリケーション・システムをベースに、情報サ
ービスのポータルサイトを構築し、貨物追跡、車両
認証、コンサルティング、情報検索、ASPなどの
多様な情報サービスを顧客ごとにカスタマイズして
提供する。
大手荷主はシステムを入札に利用
ここまで見て明らかなように、伝化物流の陸港
写真8 基地内には各行政機関も拠点を置いている。 会計代行サー
ビスも提供されている。 他の貨運市場には見られない特徴だ。
李瑞雪(LI, Ruixue )
1970年生まれ。 92年、南京大学外
国語学部日本語学科卒。 2004年、
名古屋大学大学院(博士)国際開
発研究科国際開発専攻修了。 学術
博士(Ph.D)。 2004年4月、富山
大学経済学部講師。 06年4月、同
准教授。 現在に至る。 専門は物流
システム論。
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