ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年11号
特集
第5部 国内の隣接業種・異業種を買う

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2011  26 国内の隣接業種・異業種を買う 国内に新たな収益源を探る  今年九月、センコーは投資ファンドのポラリス・キャ ピタル・グループから、同社が所有するスマイルの株 式を五〇億円で買い取った。
スマイルは連結売上高二 七三億円、経常利益約一〇億円(二〇一〇年十二月 期)の流通商社で、小売チェーンや外食チェーン、通 販会社などに包装資材や食品・酒類、生活関連資材 を販売している。
 各商品分野で商品企画から調達、物流、販売まで を手掛けており、川下の物流事業に強いセンコーと の相乗効果が見込めると判断した。
今後は海外調達 を含めた商流・物流一体型のビジネスモデルを構築す ることで、スマイルの販売力強化と共に流通分野の 物流事業の拡大を目指すという。
 〇九年にもセンコーは、神戸の中堅日雑卸、丸藤 を買収している。
商流機能を備えた3PLが同社の 目指すビジネスモデルだ。
一方、ヤマトホールディン グスは公共サービスを代行する生活支援事業を、S Gホールディングスは宅配便のインフラを活かした周 辺事業を、市場規模の縮小が避けられない日本国内 における新たな収益源と位置付けている。
 企業再生をメーンとする買収ファンドの運用担当 者は、「これまでメーンとしてきた市場が飽和状態に なったことで、隣接市場に事業領域を広げようとす る会社が増えている。
物流業界にもその傾向は見ら れる。
そのため最近は異業種や隣接業種の売却先と して物流業界に注目している」という。
 有力3PLや大手宅配便だけでなく、老舗の運送 事業者や倉庫事業者のなかにも環境の変化に対応し てビジネスモデルの改革に乗り出す企業は現れている。
 日本梱包運輸倉庫は昨年十二月、企業再生ファン ドのルネッサンスキャピタル・グループから中越テック の株式を取得し、子会社化した。
中越テックの〇九 年十二月期の売上高は五一億一〇〇〇万円、営業利 益は三億九〇〇〇万円。
買収金額は非公表だが、日 本梱包にとっては初の本格的な買収だった。
 中越テックは富山県で創業した中越運送を前身と し、中越パルプ工業の紙製品の輸送から新聞輸送、ア ルミ、清涼飲料、建材、機械などの輸送、保管へと 事業を拡大してきた。
このうち新聞輸送は最大手で 四%の市場シェアを持つ。
 その事業領域は日本梱包のそれとは全く異なって いる。
日本梱包のドメインは、自動車物流だ。
自動 車関連物流では部品調達から輸出入、完成車輸送ま でサプライチェーンの全領域を網羅している。
なかで も完成車輸送は、最大荷主のホンダをはじめ国内自 動車メーカーのほとんどと取引のある大手だ。
 それだけにリーマンショック後の自動車不況の影響 をまともに受けた。
〇九年三月期と一〇年三月期に、 二期連続で大幅な減収に陥った。
一一年三月期は若 干持ち直したものの、リーマンショック前の〇八年三 月期と比べると、依然として売上高は二割減、営業 利益は三割減という水準だ。
 しかも、完成車輸送の事業環境は年を追うごとに 厳しくなっている。
同社の佐野恭行取締役執行役員 は「国内の完成車輸送のパイはどんどん小さくなっ ている。
今後は荷 主に近いところに 位置する大手の元 請けと、とにかく 仕事をもらって食 いつなぐという中 小事業者との二極  ライバル同士の合併による業界再編と並んで、隣接 業種や異業種の買収によって事業領域の拡大に動く企 業が増えている。
成功すれば国内の事業規模を維持で きる。
ただし、そのためにはビジネスモデルの再構築が 必要で、リスクは大きい。
    (大矢昌浩、梶原幸絵) 第 5 部 日本梱包運輸倉庫の 佐野恭行取締役執行役員 27  NOVEMBER 2011 化が進んでいくだろう」と話す。
 市場環境の変化に対応して〇六年十一月には小規 模ながらもM&Aを行っている。
三菱自動車の完成 車輸送をメーンとする菱自運輸を買収した。
日本梱 包はそれまで東北地方には営業所がなく、空白地帯 になっていた。
仙台に拠点を持つ菱自運輸の買収に よってネットワークを拡充した。
三菱自動車向けの輸 送業務をより確実に押さえていく狙いもあった。
自前主義に決別  これに対して中越テックの買収は事業領域の拡大 が狙いだ。
食品を中心とした消費財を自動車関連物 流に続く新たなターゲットに据えている。
景気サイク ルの影響を受けにくい消費財を取り込むことで安定 的に物量を確保し不況への耐性を付けようという意 図が読み取れる。
 中越テックの買収前から関東で既に飲料などの配送 を行っていた。
先ごろ関西圏でも初めて食品関連の 物流業務を受注した。
今年一〇月には大阪営業所の 倉庫を建て替え、新センターを開設した。
同センター を器としてエリア内の消費財物流を取り込んでいく。
 また中越テックは、日本梱包のネットワークの薄い 北海道や青森などにも営業拠点を持っている。
佐野 取締役は「エリア的にも規模的にも消費財物流の取 り扱いを拡大して、工業製品専門という当社のイメー ジを払拭していきたい」という。
 日本梱包はこれまで実運送をメーンとするアセット 型物流会社でありながら、有力荷主との安定的な取 引によって業界屈指の収益性を誇ってきた。
自前主 義に裏付けられたサービス品質が武器で、派手な買収 やリスク覚悟の拡大路線とも無縁だった。
そんな老舗 の名門企業が大きな変革に挑んでいる。
特 集  今年三月、東証一部上場のアートコーポ レーションが非上場化した。
寺田千代乃社長 を始めとする創業家一族が八七億円をかけて 株式公開買付を実施し、MBO を成立させ た。
今後同社は「引越」、「企業物流」、「保育 所経営」を柱に事業の統廃合を進め、構造改 革を実施する。
M&Aも前向きに検討してい くという。
 同社は二〇〇四年に東証二部に上場、翌 〇五年には同一部にスピード昇格を果たした。
しかしこれまで、株式市場からの資金調達は 一度も行っていない。
上場は維持コストがか かるうえ、経営の自由度も制限されることか ら、メリットが薄いと判断した。
 「アートのようなオーナー系企業で非上場化 を検討している物流会社は他にもある。
オー ナーは会社の内情を一番良く知る究極のイン サイダーだ。
株価が低迷してPBRが極端に 下がっている場合にはMBOは確実な投資に なる。
非上場化すれば株主から経営に口を出 されることもない。
思い切った構造改革やM &Aがやりやすくなる。
買収ファンドから会 社を守る絶対の買収防止策にもなる」と市場 関係者は解説する。
 日本の上場企業の外国人持ち株比率は一九 九〇年代前半まで一〇%に満たなかった。
そ れが現在は三〇%近くまで上昇している。
物 言わぬ安定株主に守られていた時代から一転 し、今日の上場企業は株主を意識した経営を 強いられるようになっている。
 外国人株主のプレッシャーは日本梱包運輸 倉庫の経営にも少なからず影響を与えている ようだ。
〇八年三月期、同社の主要株主に米 国シカゴに本拠を置く、投資ファンドのノー ザントラストカンパニーが浮上した。
その後も ノーザントラストは日本梱包の株式の取得を 続け、一一年三月末時点では一九・五%を握 る筆頭株主となっている。
 これまで日本梱包の経営の安定を担保して きた豊富な内部留保や荷主企業の有価証券の 保有も、外国人投資家には妥当性のない財務 戦略に映る。
同社をM&Aに駆り立てた背景 の一つだろう。
M&A活発化の背景に株式市場のプレッシャー 06/3 11/3 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 (%) 07/3 08/3 09/3 10/3 (月期) その他法人 外国法人 金融機関 個人/その他 日本梱包運輸の所有数別株主分布の推移 証券会社 24.6 27.4 30.9 14.8 2.3

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