ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年11号
特集
第6部 中小運送業:事業承継の現状

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

運送業経営者の過半数が七〇歳以上  国土交通省の資料によると、運送業の廃業は〇 八年度に初めて二〇〇〇件を超えた。
〇九年度は 約一六〇〇件まで廃業の数は減少したが、依然と して高水準のままだ。
同時期の運送業の倒産件数 は年間五〇〇件程度であったことから、廃業した 会社の多くは債権者の合意のもとで行われる任意 清算によって会社を解散したものと考えられる。
 しかし、他にも方法はあったのかも知れない。
会 社を清算するには不動産や車両などの資産を全て売 却し現金化する必要がある。
清算できたというこ とは、その資金で負債を返せたということだ。
「基 本的には、清算のできる会社はM&Aが可能な会 社だ」と、中小企業を対象としたM&Aアドバイ ザリーを務めるストライクの石塚辰八取締役はいう。
 物流用地は流動性が低いため、すぐに現金化し ようとすれば足下を見られてしまう。
しかし会社 を売却して、そのまま物流事業に使用するのであ れば、資産をいたずらに目減りさせることはない。
清算時には退職金をメーンとする労働債務の支払 いも発生するが、売却後も既存従業員の雇用を維 持できるのであれば、今すぐキャッシュを用意する 必要はない。
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清算後に残っ た資産をオーナーが自分のものにするには、会社 として実効税率約四〇%の法人税を支払ったうえ で、さらに個人として最大五〇%の所得税を支払 う二重課税が避けられない。
これが株式の譲渡で あれば、一律二〇%の申告分離課税で済む。
 これだけのメリットがありながら清算に踏み切る 中小運送会社が多いのは、M&Aに対するマイナス イメージや認 識不足が大き い。
石塚取締 役は「オーナー には売りたい という気持ち はあっても世 間体があって 声に出せない。
そんなことが外に漏れたら取引先や銀行からソッ ポ向かれてしまうという恐怖心があった。
しかし、 今後は中小運送会社のM&Aが確実に増えていく」 と断言する。
 同社が調査機関のデータを分析した結果、経営 者の年齢が七〇歳以上のトラック運送会社は今や業 界全体の五七・三%を占めていることが判明した (図1)。
他の業種と比較しても経営者の高齢化が 圧倒的に進んでいる。
高度経済成長時代に事業を 立ち上げたオーナー経営者の多くが現在、引退の時 期を迎え、事業承継問題に直面している。
 約六万社に上る日本のトラック運送会社の九 九%以上は年商二〇億円以下の中小企業だ。
その 事業承継は二代目、三代目への相続が中心となる。
しかし、息子がいない場合や、息子はいても本人 に跡を継ぐ意思がない場合にどうするか。
息子に 同じ苦労をさせたくはないと考える経営者も少な くない。
M&Aが有効な選択肢の一つになる。
 それでは、どんな会社がM&Aの対象として評 価されるのか。
運送会社を買う側の狙いとしては大 きく以下の五つが挙げられる。
?荷主の獲得、? 事業エリアのミスマッチ解消、?業務効率化、?周 辺事業への参入、?時間を買う。
これらのニーズ NOVEMBER 2011  28 中小運送業:事業承継の現状  トラック運送業界は経営者の高齢化が他産業以上 に進んでいる。
事業承継問題がこれから大きなテー マになってくる。
中小零細オーナーもM&Aという選 択肢を知っておく必要がある。
オーナーの引退後も 事業を存続させ、従業員の雇用を守るための有効な 手段となり得る。
(本誌編集部、編集協力=ストライク) 図1 運送業経営者の年齢 40 代以下 3.3% 50 代 15.3% 60 代 24.1% 41.3% 70 代 16.0% 80 代以上 ストライクの 石塚辰八取締役 第 6 部 29  NOVEMBER 2011 保証はない。
拠点の土壌汚染や第三者への債務保 証など、どんなに精緻な調査をしても予測できな い問題が後から発生する可能性を否定できない。
 リスク回避の方法としてストライクではM&Aの 買い手側の企業に対して、次の四つの方法をアドバ イスしている。
?デューデリジェンス(買収監査) の対象となった各項目について売り手側と確認す る。
?一定期間を定め、その期間内に発生した簿 外債務は売り手側責任となることを契約書に明記 する。
?買収代金を分割して支払う。
?M&A後 の引継期間をできるだけ長くとり、引継期間中は 前オーナーに最低月に一回は顔を出してもらう。
 しかし、 その全てを徹底しても一〇〇%リスクを ヘッジすることは不可能だ。
それでも運送会社の 買収に意欲的な会社は常に一定数存在する。
とり わけ今は買い手側の意欲が強い。
現状のままでは 衰退していくだけだと判断した経営者が強い意思 のもとにM&Aに動いている。
 「M&Aで最も重要なのは、売却のタイミングだ」 と石塚取締役はいう。
理論的には業績がピークを 迎えた時が最も売却に適している。
業績が下降線 に向かえば企業価値は大きく下がる。
オーナー以外 のキーパーソン、営業責任者や運行管理責任者など の年齢も重要だ。
キーパーソンが定年間近の会社は、 賞味期限が短いと買い手側に判断されてしまう。
 石塚取締役は「事業承継問題を抱えている会社 は、業績の良いうちに将来を決断すべきだ。
赤字 を引きずって借金が膨めば、本来なら生き残れる はずの会社でも手遅れになってしまう。
運送業の M&Aは今のところは売り手市場だ。
しかし今後 は売り手側が増えてくる。
買い手側が選ぶ立場に なる」と警告している。
買い手側の事情によって変わってくる。
他の条件 に多少問題はあっても、そのエリアの荷物、その 場所に拠点を必要としている買い手が見つかれば マッチングは成立する。
そこが運送業のM&Aの難 しいところであり、また魅力でもある」と石塚取 締役はいう。
業績ピーク時こそ売却のタイミング  売却価格の算定方法としては、中小運送会社の 場合、実態としては「純資産法」が大部分を占め る。
図2は〇六年から〇八年に成立したM&A案 件の企業価値算定方法をストライクが集計したも のだ。
全体としては「DCF(ディスカウント・ キャッシュ・フロー)法」と「市場株価法」およ び「類似会社比較法」が圧倒的多数を占めている。
 このうちDCF法は、事業計画をベースに、そ の会社が将来にわたって生み出すキャッシュを現時 点に割り引いて企業価値を算定する方法で、最も 一般的な評価方法とされている。
一方、市場価値 法は上場企業の場合の株式時価評価、類似会社比 較法は、その会社と似た上場企業の時価評価を基 準にする評価法を指す。
 これに対して、中小運送会社の場合は、事業計 画の信頼性が低いのでDCF法が採りにくい。
事業 規模の点から類似会社比較法も馴染まない。
その ため所有資産を時価評価し、B/Sの分析を徹底し たうえで、キャッシュフローが黒字の会社にはプレ ミアムを付ける。
赤字の場合は、その分を純資産か ら割り引くかたちで買収価格を決めることが多い。
 中小運送業の買い手側のリスクは決して小さく ない。
買収後も既存の仕事を継続できるのか。
事 前に荷主からM&Aに対する承諾を得たとしても と合致している場合には、例え赤字会社であって も検討対象になり得る。
 まずは、その会社のバランスシート(B/S)を 見て、帳簿上の評価ではなく時価評価を算出する。
土地の含み損益や退職金および社会保険関係の経 費処理を確認し、財務の実態を判断する。
帳簿上 は債務超過でも土地の含み益を時価評価すれば資 産超過になるケースが、老舗の運送会社には少なく ない。
評価の結果、債務超過が判明した場合でも、 キャッシュフローが黒字であれば検討の余地は残る。
 ただし、損益計算書(P/L)にしても、M& Aの専門企業は額面通りには受け取らない。
中小 企業の場合、法人税を抑えるために意図的に赤字 にしているケースが珍しくない。
逆に黒字のケース では粉飾の恐れがある。
そのため役員報酬の額、交 際費、減価償却、外注費などをチェックして、そ の会社の実力を見極める。
 財務だけでは判断できない面もある。
「その会社 が持っている仕事や物流不動産などの事業価値は、 100.0% 80.0% 60.0% 40.0% 20.0% 0.0% その他 8.6% 純資産法 10.8% 図2 企業価値の算定方法 (複数の評価法を用いるケース含む) 2006~2008 年のM&A事例をストライクが独自に集計 DCF法 90.7% 市場株価法 91.4% 類似会社比較法 54.5% 特 集

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