ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年10号
道場
メーカー物流編 ♦ 第25回「週次生産をやれというならやりますが、コストが上がってしまう可能性がありますよ」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

湯浅和夫の  湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第66回》 OCTOBER 2011  58  「みなさんはもう『ロジスティクス部』のメ ンバーなんですよね?」  「はい、そうです。
今月の一日に辞令が出 ました」  主任が代表して答える。
 「そうか、主任も、もう経営企画室ではなく、 ロジスティクス部のメンバーなんですね?」  大先生の確認に部長が説明する。
 「そうなんです。
本人にとっていいか悪いか は別として、いまは、私直属で、このプロジ ェクトの事務局長をやってもらっています」  その言葉を聞いて、業務課長がすぐに反応 した。
 「いいわけないでしょう。
主任は経営企画 室なんてエリートの部署からこんな裏方部署 に強引に移されたんだから。
それに部長の部 下だよ。
ほんとにかわいそうな主任」  主任が笑って、「課長にそんなにご心配い 67「週次生産をやれというならやりますが、 コストが上がってしまう可能性がありますよ」 《第114  工場との会議が開かれた  これ以上の秋晴れはないだろうと思われる ほど清々しく晴れたある日の午後、大先生が コンサルをしているメーカーの会議室にその 会社のロジスティクス導入プロジェクトのメ ンバーたちが集まっていた。
 「こんな天気のいい日は、どっか外の公園 で会議するのがいいな」  誰にともなく業務課長が声を掛ける。
「た しかに」とみんなが頷く中、主任が「でも、 こんな社外秘の資料を持ち出すわけにはいき ませんよ」と律儀に異論を唱える。
 業務課長が白けた顔で「はいはい、ここで やろう」と答える。
そこに、大先生一行が部 長の案内で会議室に入ってきた。
みんな、居 住まいを正す。
席に着くなり、大先生がみん なの顔を見て声を掛ける。
メーカー物流編 ♦ 第 25 回  プロジェクトメンバーを中心として「ロ ジスティクス部」が正式に発足した。
ま ずは生産部門との調整会議だ。
ピリピリ とした緊張感に包まれる会議室。
いつも は歯に衣着せぬ物言いの業務課長もさす がに及び腰だ。
いよいよ物流部長改めロ ジスティクス部長の出番のようだ。
大先生 物流一筋三〇有余年。
体力弟子、美人弟子の二人 の女性コンサルタントを従えて、物流のあるべき姿を追求する。
物流部長→ロジスティクス部長 営業畑出身で物流部門に は異動したばかり。
「物流はやらないのが一番」という大先 生の考え方に共鳴。
業務課長 現場の叩き上げで物流部門では、一番の古株。
畑違いの新任部長に対し、ことあるごとに反発。
コンサルの 導入にも当初は強い拒否反応を示していたが、大先生の話 を聞いて態度が一変。
今や改革の切り込み隊長に。
経営企画室主任 若手ながらプロジェクトのキーマンの一人。
人当たりは柔らかいが物怖じしない性格のようで、疑問に感 じたことは素直に口にする。
ロジスティクス部新設に伴い同 部に正式に異動。
59  OCTOBER 2011 ただいて恐縮です。
わが社で一番楽しい職 場に移って私は喜んでます」と軽く受け流し、 これ以上話題にされたらたまらないという風 情で、慌てて会議を開始する。
 「それでは、会議を始めたいと思います。
まず、先生方にご報告ですが、前回の会議以 降、大きな進展としましては、生産部門との 会議を工場でもったことです」  大先生が興味深そうな顔で頷く。
弟子たち も興味津々といった表情だ。
主任が続ける。
 「私どもからは、部長と両課長、それに本 社生産管理部から移られたこちらのお二人と 私が出ました。
工場側からは、工場長と次 長、それに工場を仕切っている製造部長とそ の配下の課長や係長、調達部門の担当者な ど一〇人くらいが出てきました」  「会議が始まる前はどんな雰囲気でした?」  大先生が楽しそうに質問する。
待ってまし たとばかりに、業務課長が答える。
 「緊張感溢れる雰囲気でした。
全員が揃う まで黙りこくって、決して打ち解けたという 感じではなかったな?」  業務課長に振られて企画課長が頷き、「そ りゃそうだろう。
向こうからすれば、作り方 に注文を付けに来たというのはわかっていて、 そんなことは前代未聞のことだから、それは 警戒心のかたまりみたいなもんだよ」と思い 出すように言う。
 「なるほど、それで、その会議はどんな手 順で進んだのですか?」  大先生に先を促されて、主任が続ける。
実 は、この会議については、会議のあと部長か ら大先生に電話で概要が報告されていた。
詳 しくはこの会議で報告するということなので、 大先生としては、肉付けするような感じで質 問をしているようだ。
 「はい、部長方針で、文字通り正攻法で臨 みました。
最初、こちらからロジスティクス 導入の必要性について、在庫実態のデータを もとに説明しました。
在庫の過不足などの数 値はもちろん本社生産管理部が算定した必要 量と工場での実際の生産量との差異、その結 果として積み上がった在庫量についてのデー タも提示しました」  「営業だけのせいなのか?」  「なるほど、それらの数字は、工場側では 初めて見たんですか?」  大先生の問いに主任が答える。
 「はい、いや、えーと、経営会議で報告し ていますので、工場長や次長くらいまではそ のデータが回っていたかもしれませんが、製 造部長以下は初めて見たような感じでした」  「異論や反論は出ましたか?」  「はい、製造部長は何も言いませんでしたが、 工場で生産スケジュールなどを担当している 課長から、営業サイドが勝手なことを言って くるから、こういうことになってしまうんだ というような意見が出ました」  主任の話を引き取るように、業務課長が続 ける。
 「その場逃れのような反論に、実は、ど う対処するのがいいのかなって思ったんです。
『営業はどんな勝手なこと言ってくるの』なん て逆質問しても、意味のある議論にならない なって思ったもんですから。
そしたら、うち の部長が一言言ったんです。
突き放すように ‥‥」  「別に突き放したわけじゃないよ。
でも、 あのとき、業務課長が対処に迷って躊躇して たなんて驚きだ。
そんなこともあるんだ‥‥」  部長と業務課長のやりとりが続いてはまず いと判断したのか、主任がすぐに説明に入る。
 「その、業務課長が躊躇していたときに、 部長が、それなら営業からの勝手な要求を全 部排除すれば、市場が必要とする量だけを作 ってくれるということだねって穏やかに聞い たんです」  「おれが躊躇しているときってなんだよ。
そ れに穏やかというのはちょっと違うな。
ほら、 先生方には、雰囲気も含めて正確にお伝えし た方がいいと思うから」  「まあ、そのあたりの正確性はいいです。
大体の雰囲気はわかりましたので。
それで、 その部長の確認に生産はどう答えたんです か?」  大先生が、先を促すように聞く。
主任が頷 いて答えようとする前に、業務課長がまた口 を挟んだ。
 「はい、よせばいいのに、営業の勝手な要 OCTOBER 2011  60 求がなくなるなんて夢物語のような仮定に 返事はできません、ときたんです。
やれやれ、 部長の雷が落ちるなと思ったら、なんと工場 側の次長が雷を落としたんです。
あれでしょ、 部長はあの次長に事前に根回ししてたんでし ょ?」  「何度も、してないって言ってるだろ。
ま ったくしつこいんだから」  部長がしかめ面を作って業務課長を見る。
また、主任が間に入る。
 「根回しがあったかどうかは別として、あの 会議の早い段階での雷はその後の展開に効き ましたね。
両者の間にあった厚い壁が崩れ去 ったように感じました」  主任の言葉に両課長が頷く。
怪訝そうな大 先生の顔を見て、主任が慌てて言葉を足す。
 「あっ、済みません。
工場の次長がこう言 ったんです。
『夢物語とはなんだ。
在庫がこ んな状態になっているのは、営業だけのせい なのかって聞かれてるんだよ。
在庫を必要最 小限にするために、生産側ではどうすればい いか、その際営業にはどうしてもらいたいか を議論してくれ。
その一つの方向性として週 次生産ということが提示されているんだ』と いうようなことをお話しされたんです」  業務課長がすぐに続ける。
 「その次長の叱咤を受けて、なんと工場長 が念押しをしたんです。
『これまでこうして いた、こういう制約があったという事情は置 いておいて、週次生産のためにはどうするか  大先生が感想を述べる。
主任が続ける。
 「そうなんです。
次長が、『とにかく週次生 産をやってみないと先に進まない。
それをや ってみて、どれくらいのコストになるのかを つかんで、削減が必要なら、それはそこから 考えればいい。
まず、やってみよう。
やり方 は任せるから』っておっしゃってから、雰囲 気ががらっと変わりました」  「そう、おれの印象では、彼らはいままで のやり方がいいと思ってたわけではなく、や らされてたんだな。
新しい週次生産、小ロッ ト生産に興味津々って感じだったもんな」  業務課長の言葉にみんなが頷く。
主任がま とめるような感じで話す。
 「まあ、そんなこんなで、その後の会議は、 結構前向きに進みました。
考えてみれば、た しかに、はじめに変なことを言った課長も工 場サイドの人間として防衛的に対処するの が自分の立場だと思い込んでの発言だった ってことですね。
その立場から解放された後 は、積極的にいろいろ意見を出してましたか ら。
楽しそうに話すのが印象的でした」  それを聞いて、大先生が呟くように言う。
 「ロジスティクスは、在庫だけじゃなく、人 間もしがらみから解き放すってことだ。
ねえ、 業務課長?」  「それそれ、先生もたまにいいこと言います ね。
まさに、そのとおりでした」  業務課長の言葉に部長が慌てて口を挟む。
 「おいおい、先生にそんな言い方はないだろ ということを話し合ってほしい。
いいですね、 製造部長』って言ったんですよ。
そしたら、 製造部長がわかりましたって即答したんです。
これで流れが決まりました。
ねっ、先生、工 場の上層部への根回しが絶対ありましたよね」  部長は何も言わず、呆れた風に業務課長を 見ている。
主任もさじを投げたようだ。
企画 課長がバトンを受けた。
 「責任はおれが取る」と工場次長  「ただ、工場の課長たちを本気にさせたのは、 その後のちょっとした展開だったように思い ます。
その矢面に立っていた課長が『週次生 産をやれというならやりますが、コストが上 がってしまう可能性がありますよ』って言っ たんです。
そしたら、次長が即座に『上がっ てもいいよ。
責任はおれが取るから、そんな こと気にしないでやってくれ』って言ったん ですが、そこにいた課長たちは一様に『えっ?』 という顔をしていました」  企画課長が一息入れるのを受けて、主任が また説明に復帰する。
 「なんか、いまの次長が来る前まで、と にかくコスト削減にうるさかったらしいです。
腐るもんじゃないんだから、まとめて作れっ て言われ続けてきたので、それが彼らの頭に こびりついていたようです」  「なるほど、コストが上がってもいいよとい う次長の言葉は、彼らにとっては新鮮な驚き だったってことだ」 湯浅和夫の 61  OCTOBER 2011 りました。
次回の会議日程も決まってます」  「そうですか、それはよかった。
上層部の 理解を取り付けたのが勝因だったかもしれま せんね。
業務課長の言う通りかもしれない」   次は情報システム部だ  大先生の言葉に業務課長が嬉しそうに身を 乗り出して、「そうでしょ」と言う。
それに 合わせ「実はね」と部長が身を乗り出す。
業 務課長が身を引きながら「やっぱり」と部長 に言う。
部長が「実は、やっぱり根回しはな かった」と思わせぶりに言う。
「なんだ」と 業務課長が口を尖らす。
 それを見て、「たしかに、楽しい職場です」 と体力弟子が言う。
美人弟子が、主任を見て、 確認する。
 「出荷動向をベースにした拠点在庫補充や 生産依頼のためのシステム構築は進んでいる のですか?」  美人弟子に突然質問され、主任が「はー、 それが‥‥」と口ごもる。
「なんか、大変ら しいんです」と業務課長が補足する。
部長が、 事情を説明する。
 「実は、システム作りは、主任に任せてた んですけど、情報システム部にシステム作り を依頼するという形になるため、こちらの思 うとおりに動いてくれないことが多々発生し ているようです。
それで、主任も苦労してい るというのが実情です」  部長の言葉に主任が頷く。
部長が続ける。
 「そこで、情報システム部から、これはと 思うのを何人か引き抜いて、うちの部に持っ てくることにしました。
来月にはうちに来ま すので、そこから一気に進むと思います。
そ の際は、ご指導をお願いいたします」  弟子たちが「はい」と頷く。
主任が「強 引に引き抜いたりして、情報システム部の方 は大丈夫なんですか?」と心配顔をする。
業 務課長が、顔の前で手を振って、「心配する ことないよ」と言って、思わせぶりに、「実 はね‥‥」と声を潜める。
 まだまだおもしろい話がありそうだ。
う。
先生、済みません。
彼は解放され過ぎて いるようなので、ちょっと縛りを入れる必要 がありそうです」  部長の言葉に業務課長が隣の企画課長の 後ろに隠れるような素振りを見せる。
大先生 が笑いながら、話題を戻す。
 「業務課長の縛りは部長に任せるとして、 週次生産への移行のネックはあまりないとい うことですね?」  主任が頷いて答える。
 「はい、おっしゃるとおりです。
その方向 で具体的な取り組みを始めるということにな Illustration©ELPH-Kanda Kadan ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大 学院修士課程修了。
同年、日通総合研究 所入社。
同社常務を経て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを設立 し社長に就任。
著書に『現代物流システ ム論(共著)』(有斐閣)、『物流ABC の 手順』(かんき出版)、『物流管理ハンド ブック』、『物流管理のすべてがわかる本』 (以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コン サルティング http://yuasa-c.co.jp PROFILE

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