ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年12号
keyperson
「止めない物流を3PLの武器にする」川崎陸送 樋口恵一 社長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2011  4 きました」  「その一つに軽油の確保がありまし た。
主に西日本から取り寄せたわけで すが、それには軽油の容器となるドラ ム缶が大量に必要になる。
そこで一四 日の時点で和歌山県の業者にドラム缶 を二百本発注すると同時に、インタン ク(自家用給油施設)を持っている西 日本の知り合いの運送会社に片っ端か ら電話を入れた。
?ドラム缶を持って 自分で取りにいくから軽油を分けてく れ?と。
その結果、当社は震災後も運 び続けることができた。
応援の車まで 出すことができました」 ──荷主には感謝されたでしょうね。
 「それもありますが、震災直後には かなりの物流会社がギブアップしまし たよね。
そのことで今も怒っている荷 主がたくさんいる。
修羅場の時に助け てくれた人というのは忘れられないも のですが、同じように助けてくれなか ったという記憶も、ずっと残る」  「幸いなことに当社の場合、今回の 震災による被害は小さかったのですが、 非常時における行動計画の必要性を、 経営者として改めて痛感させられまし た。
私個人としてはBCPについての 一般的知識は持ち合わせているつもり でしたが、それを会社の事業継続計画 として具体的にまとめてはいなかった」 ──平時にはBCPのことまで、なか 中小こそBCPが必要 ──二〇一一年十一月にSCMの危 機管理についての訳書(左ページ写真) を緊急出版されました。
その狙いは?  「もともとは当社(川崎陸送)の 事業継続計画( B C P: Business Continuity Plan)の策定に利用するた めに、本の要旨を日本語でまとめるつ もりだったんです。
しかし、どうせ翻 訳するなら多くの人に読んでもらった ほうがいいと考えて、自分から出版社 に売り込みました」  「BCPに関するテキストやセミナー を、これまでにずいぶんと見たり聞い たりしてきましたが、実務の役に立つ ようなものはほとんどなかった。
概念 的な解説にとどまっていたり、あるい は保険会社やITソリューションの売 り込みだったりして、肝心なことが書 かれていないことに不満を感じていた んです。
そんな時に、たまたまこの本 の原書が米国で出版されて、その内容 に大変に感銘を受けました。
やるべき ことが非常に具体的に解説されていた」 ──きっかけの一つはやはり東日本大 震災ですか。
 「もちろんです。
物流が止まると何 が起きるのか、今回の震災で我々はそ れを実際に経験することになりました。
スーパーの店頭から商品が一斉に消え た。
当社の場合は震災後もトラックを 動かすことができたので、当社の納品 した商品が大量にスーパーの棚に並ん でいた。
その光景に衝撃を受けました。
今さらながら、物流が止まるというの は、こういうことかと思い知らされた」  「そのことで逆に、当社は止めない ぞ、と心に決めました。
もちろん放射 能の問題を始め、一企業の努力ではど うにもならないこともある。
それでも 当社がギブアップするのは物流業界で 最後だと決めて、そのことを社員たち にも伝えました」 ──震災直後になぜトラックを動かせ たのですか。
燃料の確保が難しかった はずです。
 「燃料は確保できました。
初動が早 かったからです。
三月十一日の金曜日 に震災がおきて、社員向けの支援物 資などはすぐに手配しましたが、十二 日、十三日の週末は、会社から一歩も 離れずに、週明け以降どう動けばいい か、一つひとつリストアップすること に専念しました。
こういう時に慌てて はダメだ。
地震はハプニングでも、地 震の後に起きることはハプニングでは ない。
対策を打つことができると考え、 まずはシナリオを練って、具体的に何 を誰にやってもらうか、書き上げてい 川崎陸送 樋口恵一 社長 「止めない物流を3PLの武器にする」  物流が止まれば経済が止まる。
その間の売り上げがゼロに なる。
中堅以下の企業にとっては致命傷になりかねない。
B CPは企業の社会的責任以前に、生き残りの問題だ。
東日 本大震災でそのことを痛感した老舗食品物流会社の三代目は、 “止めない物流”を新たな差別化の武器に位置付けた。
(聞き手・大矢昌浩) 5  DECEMBER 2011 なか手が回らない。
中小企業ともなれ ば尚更です。
 「中小企業にこそBCPが必要なん です。
世界中に拠点を展開し、産業ピ ラミッドの頂点に立つ大企業であれば、 一部の設備が止まったとしても、商売 が完全にストップしてしまうことはな い。
他のエリアから応援を送ることも できる。
しかし、裾野にいる中小は違 います。
会社の規模が小さいほど、特 定のエリア、特定の商品への依存度は 高くなる。
オペレーションが止まって しまえば、下手をすれば売り上げがゼ 停電時に非常用電源として利用するん です。
小型の自家発電装置は電圧が 安定しないため、サーバーの電源に使 うとシステムがダウンする恐れがある。
しかし、フォークリフトのバッテリー は電圧が安定している。
サーバー・プ リンター類と事務所の電話、照明など の最低限の機能を確保できれば、受発 注や伝票発行の処理はできます。
オペ レーションを止めないで済む」  「フォークリフトのない荷主の事務所 には、当社が一時間以内のリードタイ ムでバッテリーを持ち込みます。
バッ テリーを電源に使うのに必要なインバ ーターや配線、行動計画や訓練なども 含めたトータルシステムとして当社がバ ックアップする。
既に主要荷主とは正 式契約を結びました。
そうやってソリ ューションの幅を広げ、荷主との結び つきを深めていくことが、当社の大き な武器になると確信しています」 ロになってしまう。
中小企業にとって BCPは生き残りの問題なんです」  「私自身、今回の震災をきっかけに、 経営者として当社の危機管理における クリティカルファンクション(決定的に 重要な機能)は何か、危機に直面した 時に最も復旧を急がなければならない 機能は何なのかを、改めて問い直しま した。
その結果、食品物流をメーンと する当社のクリティカルファンクショ ンは、温度管理であり、また賞味期限 や出荷履歴なども含めた在庫データだ という結論に至りました」  「そこで震災直後の今年六月に沖縄 にデータセンターを設置しました。
東 京と全く同じシステムを沖縄にも走ら せ、何かあった時にはいつでも切り替 えられるようにした。
さらに東京と沖 縄を比べると沖縄のほうが安全性が高 いので、沖縄をメーンにして、東京を バックアップに使うようにしました」  「停電になっても冷蔵倉庫を止めない ために、七月には発電機を韓国から輸 入しました。
日本には発電機メーカー が五社しかないんです。
こういう事態 になると、五社の在庫はすべて大手や 系列会社に押さえられてしまって我々 まで回ってこない。
しかも日本の発電 機は高い。
そこで韓国に問い合わせた ところ、同じ能力の発電機を日本の三 分の一程度の値段で調達することがで きました」 計画停電向けに新サービス ──情報システムの二重化や発電施設 の整備には、かなりの資金が要るはず です。
それなのに随分と動きが早い。
 「震災直後の燃料不足もそうでした がスピードが大事なんです。
後手に回 っていては、必要な資材やインフラを 確保できない。
また、投資は必ず回収 できます。
当社は今年三月、四月の売 り上げが前年比でプラスでした。
これ は物流を止めなかったからです。
これ から計画停電があっても当社は電源を 確保しているので通常通りにオペレー ションを続けられる。
他社は庫内温度 の上昇を避けるためにシャッターを閉 めてしまうので出荷できない。
当社の 大きなアドバンテージです」  「もっとも、一通りの対策を講じて、 一息つこうとした時に大事なことに 思い至りました。
荷主側の問題です。
我々の現場で準備ができていても、荷 主側の指示機能がストップしてしまえ ばモノは動かせない。
かといって、そ のために大がかりな設備投資を荷主に 要求するのも現実的ではない。
そこで、 緊急時の電力確保を当社のサービス商 品の一つとして開発しました」 ──具体的には?  「フォークリフトのバッテリーを計画 (ひぐち・けいいち) 1958年、神奈川県小田原市生 まれ。
83年、米ミシガン州立大 学でMBA(ロジスティクス専攻) を取得。
米食品会社ロジスティク ス部門を経て、家業で食品輸送 をメーンとする中堅物流会社の川 崎陸送に入社。
01年、同社三代 目社長に就任。
現在に至る。
左:「事業継続のための サプライチェーン・マネ ジメント 実践マニュア ル」ベティーA.キルドウ 著、樋口恵一訳(プレジ デント社)2011年11月 3日発行 右:「A Supply Chain Management Guide to Business Continuity」 B e t t y A . K i l d o w ( AMACOM社)2011 年1月12日発行

購読案内広告案内