ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年2号
SCMの常識
CMインフラの構築?

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SCMの常識 講 座 ▼講師 理論編 杉山成正 ベリングポイント ディレクター FEBRUARY 2004 92 本連載ではこれまでSCMの基本について テーマごとに解説を進めてきました。
新しいサ プライチェーンを設計する段階でのポイントは 既にご理解いただけたものと思います。
そこで 次にサプライチェーンのインフラ構築の進め方 について、今回と次回の二回に分けてご紹介 します。
SCMの構築は、?業務インフラの構築と ?情報システムの構築に大別できます。
?業 務インフラの構築とは、社内・グループ内の組 織、職務権限、KPI(Key Performance Indicator )、業務ルールを整備し、これを具体 的に展開・定着させていくことです。
また、社 外のサプライチェーンメンバーとの間にも、具 体的な業務連携を進めていくことが必要です。
■■サプライチェーンの定義 まず、これまで検討してきた自社のSCM 改革の内容に沿って、いま一度これから構築 するサプライチェーンを明確にしておく必要 があります。
つまり、 ?サプライチェーンのメンバーの確定 ?サプライチェーンメンバー間の連携内容の 確定(マネジメントレベルの明確化) ?サプライチェーンメンバー間の連携タイミ ング・頻度の確定(マネジメントサイクル の明確化) を行います。
このうち?と?は平たく言え ば、いつどのような情報を交換し、その情報 をもとにした、どのような対応を行うのかを 定義するものです。
緩やかな連携としては、月次の卸の出荷実 績をもとにメーカーが需要予測を行い、これ によってメーカー倉庫の安全在庫を調整の上、 生産計画を立案する、という例が考えられま す。
一方、密な連携の例としては、週次の小 売りの販売実績を基に、卸が小売りへの出荷 予測/計画をおこない、さらにメーカーが卸 への出荷予測/計画を基に生産計画を立案す るケースがあります。
単に卸や小売りを含めるか否かというサプ ライチェーンメンバーを明らかにするだけで はなく、より具体的な内容を明確にすること が必要です。
簡単なことのように聞こえるか も知れませんが、 図1 のようなサプライネッ トワーク図に書き下してみると検討の不足、業 SCMインフラの構築? 理論編 〈第9回〉 図1 サプライネットワーク Supplier A Supplier B Channel A Channel B Parts A P I S Parts B P I S Products X P I S OEM Y P I S OEM P I S Agent P I S 工 場 倉 庫 Supplier A Supplier B Channel A Channel B Parts A P I S Parts B P I S Products X P I S OEM Y P I S OEM P I S Agent P I S 工 場 倉 庫 DEMAND SUPPLY 需要予測 計画立案 サプライヤー回答 P:調達/生産 I:在庫 S:販売/出荷 93 FEBRUARY 2004 務運用上の不明点が見えてくるものです。
業種によっては、保守やアフターサービスの サプライチェーンも重要になります。
一般的に は保守やアフターサービスのサプライチェーン は、商品自体のサプライチェーンとは異なって いる場合がほとんどです。
それをこの段階で整 理しておくわけです。
■■業務改革の計画と実行 SCM戦略を実行するにあたり、組織と業務 を抜本的に変えていくことは必須となります。
これには周到な準備と多大なエネルギーをつぎ 込む覚悟が必要です。
?組織、職務権限/分担の見直し SCMを実行するのに適した組織とはどのよ うなものでしょうか。
いずれの企業にもあては まる正解というものはありませんが、基本的な 姿勢として現状にとらわれずに組織や役割分担 を見直すことが必要です。
SCM改革においては、「全体最適」を実現 するための的確なマネジメントと「需要変化へ の俊敏な対応」を実現する早い意思決定が求め られます。
したがって、必要とされるマネジメ ント機能と適合したムダのない組織でなければ なりません。
そのために、組織論から入らずに機能の整理 から始めるのも一つの方法です。
つまり、SC M改革を実行する上で必要な業務上の機能を グルーピングあるいは階層化することで整理し てみるのです。
典型的な機能階層は、以下のよ うになります( 図2 参照)。
〈レベル1〉 営業機能、生産/調達機能――それぞれ販売計画達成、生産計画達成をミッシ ョンとする。
週次・日次サイクルの業務は、通 常このレベルで運用される。
〈レベル2〉 営業統括機能、生産/調達統括 機能――各営業部門(エリア、チャネル)間 の需給調整、および各生産拠点間の調整を行 う。
レベル1で解決できない問題が生じた場 合の調整を行う。
〈レベル3〉 事業統括機能、サプライチェーン コントロール機能――事業レベルでの予算と 執行の意思決定を行うとともに、事業全体と しての需給調整を行う。
このように機能の整理を行うことで、予算 の立案・執行の権限と計画に対する達成責任 の関係を上手く整理することが可能になりま す。
これによって自ずとあるべき組織の輪郭 が浮かび上がってきます。
?業務ルールの設定 各組織と担当する職務およびマネジメント 機能が整理できれば、より具体的な業務ルー ルを決定していくことになります。
業務ルー ルでは、 ・業務の目的 ・業務を行うタイミング ・担当部署 ・担当者 ・業務を行う必要な前提条件 ・業務を行うに必要な入力情報 ・業務処理プロセス(あるいは意思決定すべ き内容)、 ・決定すべき内容(出力すべき情報)、 などを決める必要があります。
サプライチェーンの需給計画系業務では、 人の主観的な判断を含む業務プロセスがどう しても発生します。
たとえば、需要予測値に 対する販促効果の調整などのプロセスがあり ます。
このような業務の場合、複数のプロセ スにおいて重複して販促効果を盛り込むこと などがないように業務ルールで歯止めをかけ ておくことが必要です。
たとえば「本社では全 国レベルのテレビCMな どの効果を盛り込み済み であり、各エリアではこれを考慮しない」などの 規定を盛り込むことが考 えられます。
また安全在 庫の設定業務ルールの 場合は、安全在庫のポ イントごとに安全在庫で 対応すべきリスクと具体 的設定/見直し方法を 明記することになります。
?新しい業務に必要な 人材・スキルの明確化 SCMを導入する多 くの企業で、SCMに 関わる新しい業務が発 図2 サプライチェーン 営 業 機 能 生産/調達機能 営 業 統 括 機 能 生産/調達統括機能 事 業 統 括 機 能 サプライチェーン コントロール機能 事業運営上の意思決定 週次/日次計画の共有・連携 ■グローバルな需給コントロール ■サプライチェーン設計・分析・評価 ■SC計画システム運用・管理 レベル3 レベル2 レベル1 FEBRUARY 2004 94 生します。
統計的手法に基づく需要予測や収 益性を分析し、最適な需給調整案を策定する、 といった業務です。
このような業務は新しい ものですから、当然これを担当できる人材は、 社内にいない場合がほとんどです。
これらの 不足している人材については、新たに育成し なければなりません。
そこで、まずは新しい組織に、どのような 業務を担当するどのようなスキルをもった人 材が不足しているかをチェックする必要があ ります。
前述のような例では、自社の商品、ビ ジネスに精通し、しかも統計的予測手法や分 析手法にも明るい人材が求められます。
この ように、新しい業務プロセスを運用していく のに必要な人材とスキルをあらかじめ明確に し、適宜人材を育成していくこともインフラ 構築の重要なステップとなります。
?業務改革実行計画の策定 各組織と担当する職務およびマネジメント 機能、業務ルール、必要とする人材・スキル が固まったら、いよいよ業務改革の実行計画 を策定していくことになります。
ここでは現 状の組織と新しい組織の違い、同じく業務プ ロセスの違いを整理し、改革の目的およびそ の目的達成のために何をどのように変えるの かについて、関係各部門にわかりやすい形で 説明しなければなりません。
具体的には営業の各部門(エリア別、チャ ネル別)生産部門、調達部門のそれぞれに対して、複数の段階にわたって説明会を開催す るなどの方策をとります。
これを実施するた めのコミュニケーション計画が重要になりま す。
これと並んで、プロジェクト外のメンバ ーに対する新しい業務プロセスに関するトレ ーニング計画、人材育成計画も必要です。
■■カスタマー、サプライヤーとの コラボレーション関係の構築 カスタマー、サプライヤーという自社・グ ループ企業外のサプライヤーチェーンのメン バーとの協業関係を構築するには、さらに念 入りな実行計画が必要になります。
まず、自 社のSCM改革がサプライチェーンメンバー 全体にどのような利益をもたらすのかについ て明確な説明を行い、これを理解してもらわ なければなりません。
複数の企業が参画する改革の場合、プロジ ェクトチームからの改革要求に対して、設備 投資、情報投資、人材投資が可能な会社もあ れば、そのような経営資源を自前で調達する ことが困難な会社もあります。
後者のような 会社であっても長期的に育成すべきサプライ チェーンメンバーであるのなら、何らかの手 立てを検討する必要が出てきます。
たとえば、これまで経験と勘で販売計画を 立案してきた代理店に、いきなり需要予測に 基づく販売計画や仕入計画の提示を求めても うまくはいきません。
需要予測の手法とその メリット、利用の仕方を共に確認しながらS CM改革を定着させていくことが必要です。
手間のかかるプロセスです。
しかし、改革 に対する真摯な姿勢は信頼関係を醸成し、?W in ―Winの関係を構築していく礎となりま す。
また実のある協力関係が、代理店から提 示される販売計画、仕入計画の精度向上に実 際に結びついていくのです。
業務改革の実行 計画立案にあたって、カスタマーやサプライ ヤーとのコラボレーション関係を構築するた めのリソースと時間を予め確保しておくこと が望まれます。
講座SCMの常識 すぎやま・しげまさ機械電子メーカー、日系シ ンクタンクを経て、2002年にべリングポイント 入社。
SCM戦略の策定と推進、SCMシステムの 導入のコンサルティングに従事。
現在、同社ディ レクター。
著書に「図解サプライチェーンマネジ メント」(日本実業出版社・共著)、「ERP〜 SAP R/3〜によるSCMシステム構築技法」 (ソフトリサーチセンター・編著)、「図解でわか るビジネスモデル特許」(日本能率協会マネジメ ント・共著)。
中小企業診断士。
AGI認定TO Cコンサルタント“Jonah” PROFILE

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