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物流指標を読む
JUNE 2012 70
貨物輸送量は今後もマイナス基調で推移する
第42 回
●GDP成長率を約3ポイント下回る輸送量が定着
●産業の軽薄短小化・製品の高付加価値化等が背景に
さとう のぶひろ 1964年 ●2012年度の荷動き回復は一時的な現象に過ぎない
生まれ。 早稲田大学大学院修
了。 89年に日通総合研究所
入社。 現在、経済研究部担当
部長。 「経済と貨物輸送量の見
通し」、「日通総研短観」など
を担当。 貨物輸送の将来展望
に関する著書、講演多数。
十三年ぶりに増加に転じるも‥‥
三月に日通総合研究所が発表した「二〇一二年
度の経済と貨物輸送の見通し」によると、二〇一
二年度の国内貨物総輸送量(注:トン数ベース。 以
下、「総輸送量」と記す)は前年度比一・四%増
と、一九九九年度以来十三年ぶりに増加に転じる
見通しである。 ただし、それはあくまでも、東日
本大震災の影響を受けて前年度に大幅に減少した
反動による部分が大きく、長らく続いている総輸
送量の減少傾向に歯止めがかかるというわけでは
なさそうだ。
筆者が、「年によっては増加することもあるだろ
うが、傾向として総輸送量は今後、減少し続ける」
との予測を世の中に発信し始めたのは九〇年代の
半ば頃だったと記憶している。 今でこそ、人口が
減少し、生産拠点の海外移転が進むなかで、総輸
送量が増加していくと考えている人は少ないと思
うが、当時は、筆者の見解に対して賛同する向き
はほとんどなかった。 某調査報告書において、「十
数年後には、総輸送量は現在よりも二割弱低い水
準まで落ち込む」と書いた時には、その内容を伝
え聞いた某業界紙が大騒ぎし、また当時の運輸省
の役人から、その根拠について詰問する電話がか
かってきたりもした。 「経済成長率がプラスなの
に、なぜ総輸送量は減少し続けるのか」と。
物流需要は、生産・出荷・消費・投資など経済
活動の結果発生する派生需要であるから、経済が
成長し、生産規模、消費規模、投資規模などが拡
大すれば、物流需要は増加すると考えるのは至極
当然のことだ。 しかし、現に、総輸送量は〇〇年
度から一〇年度まで十一年連続で減少し、その結
果、九九年度比で約四分の三の水準まで落ち込ん
でしまった。 ノストラダムスの大予言は大外れとな
ったが、筆者の予言はほぼ的中したのである。
以前、本欄でも書いたが、総輸送量が減少する
と予測した根拠は、「実質経済成長率と比較して総
輸送量の伸び率が低い」といった関係が定着して
おり、将来的にもその関係が続くと考えたからだ。
第一次オイルショック以前においては、総輸送量
はGDPとほぼパラレルに推移していたのだが、オ
イルショック以降、総輸送量の推移がGDPの変化
にストレートに対応しない「総輸送量とGDPの乖
離」現象が発生するようになった。 たとえば、実
質GDP(〇五年基準)の遡及値が公表されてい
る九四年度から一〇年度における総輸送量と実質
GDPの増減率(注:一〇年度の総輸送量は日通
総研による推計値)を比較してみると、実質GD
Pの増減率が年平均〇・八%であるのに対し、総
輸送量の増減率は、それを二・七ポイント下回る
同マイナス一・九%にとどまっている。 総じてみる
と、各年度とも「総輸送量の増減率が実質経済成
長率よりも三ポイント前後低く」なっている。
このように、総輸送量とGDPの動きに乖離が
生じた要因としては、以下のようなことが考えら
れる。
?産業の軽薄短小化・製品の高付加価値化の進展
に伴い、各品目において、生産額・出荷額と比
較して輸送トン数が相対的に減少したこと
?素材型産業のような重量貨物の大量生産部門の
ウエイトが低下したこと
?サービス経済化の進展に伴い、「モノ」の生産部
国土交通省「第9回全国貨物純流動調査(物流センサス)」(2010年調査)
71 JUNE 2012
台半ばと考えられており、仮に実質経済成長率を
一・五%と想定すると、総輸送量は平均してマイ
ナス一・五%となり、毎年一・五%ずつ減少して
いけば一〇年後には一四%低い水準まで落ち込む
計算となる。
とくに小難しい理論やモデルを用いたわけでは
ない。 コロンブスの卵のようなものでしょう?
足元におけるわが国の潜在成長率はさらに低下
していることから、今後も総輸送量はマイナス基
調で推移するとみて間違いあるまい。 したがって、
冒頭で述べたように、一二年度の総輸送量が増加
に転じたとしても、あくまでも一時的な現象であ
り、総輸送量の減少傾向に歯止めがかかるという
わけではないのだ。
出荷額一万円当たりの出荷量も減少
さて、さきほど総輸送量とGDPの動きに乖離が
生じた要因のひとつとして、産業の軽薄短小化・
製品の高付加価値化の進展に伴い、各品目におい
て、生産額・出荷額と比較して輸送トン数が相対
的に減少したことをあげたが、その傾向は継続し
ている。
四月下旬に国土交通省が公表した「第九回全国
貨物純流動調査(物流センサス)」(一〇年調査)
の結果をみると、製造業の出荷額一万円当たりの
出荷量(原単位)は、前回(〇五年)調査時の六
四・二二?/万円から三・三%低下して、六二・
一二?/万円となった。 なお、このところ原単位
の低下傾向が著しかった電気機械器具製造業や輸
送用機械器具製造業については、一〇年調査で
は〇五年調査と比較して原単位が若干上昇したが、
これは両業種における製品価格が大きく低下した
ことに起因するのではないだろうか。
ところで、全国貨物純流動調査は、貨物の出発
点から積替えを経て到着点までの流動(純流動)を
把握するため、荷主側から貨物の動きを捉えた統
計調査として、国土交通省(従来は運輸省と建設
省)が七〇年以来五年ごとに実施している調査で
ある。
一〇年調査結果の主なポイントは以下のとおり。
?貨物純流動量は減少:年間貨物量(二五億九〇
〇〇万トン)は前回(〇五年)調査から一五・
四%減少し、七五年調査時(二五億一〇〇〇万
トン)と同水準まで低下した。
?貨物の小口化(小ロット化):貨物一件当たり
の貨物量(流動ロット)は減少し、貨物の小口
化が更に進行している。 小口貨物の増加(注:
〇・一トン未満が前回調査の六八・七%から七
五・一%に増加)により、件数ベースの物流量
は増加した。
?輸送機関の八割強はトラック:代表輸送機関の
八四・二%がトラック(注:うち営業用が六一・
一%、自家用が二三・一%)となっており、海
運は一〇・〇%、鉄道は〇・八%のシェアを占
める。
?長距離輸送は海運・鉄道:海運・鉄道のシェア
は長距離輸送において高まっている(注:輸送
距離一〇〇〇?以上においては、海運が七〇・
九%、鉄道が五・三%のシェアを占める)。
?輸送機関の選択理由はコスト重視:代表輸送機
関の選択に当たっては、「輸送コストの低さ」が
最重要視されている。
門のウエイトが低下したこと
?企業物流においてロジスティクス志向が高まった
こと
また、実質経済成長率が同じ水準であっても、そ
の成長が内需主導なのか、あるいは外需主導なの
かによっても、総輸送量の増減率は異なってくる。
もちろん、前者の方が総輸送量の増加により大き
く寄与することは言うまでもない。
以上の傾向が続くと想定した場合、実質経済成
長率が仮に三%で推移すれば、総輸送量は横ばい
となる。 しかし、わが国の潜在成長率は当時一%
製造業における出荷額1万円当たり出荷量の推移(年間調査 単位:Kg/万円)
業 種
食料品
飲料・たばこ・飼料
繊維
木材・木製品
家具・装備品
パルプ・紙・紙加工品
印刷・同関連
化学
石油製品・石炭製品
プラスチック製品
ゴム製品
なめし革・同製品・毛皮
窯業・土石製品
鉄鋼
非鉄金属
金属製品
一般機械器具
電気機械器具
輸送用機械器具
その他の製造業
製造業計
41.79
66.05
9.61
113.63
24.77
67.42
15.75
56.16
264.28
21.07
20.36
4.02
895.80
144.40
36.48
30.29
8.37
7.74
15.56
10.15
75.84
41.04
63.25
9.28
96.28
20.35
68.55
15.36
54.09
268.95
20.20
19.20
3.68
935.10
150.94
35.00
30.34
7.63
5.55
14.21
9.91
69.94
40.77
61.67
9.82
94.83
22.08
77.16
24.99
53.58
304.84
18.98
22.16
3.63
898.27
166.94
39.51
29.50
7.59
4.21
13.16
9.18
64.22
38.66
67.29
9.59
95.60
23.41
77.70
30.09
54.23
293.75
20.00
21.14
3.18
823.39
120.66
34.19
29.47
7.51
4.56
13.24
8.93
62.12
-1.8
-4.2
-3.4
-15.3
-17.8
1.7
-2.5
-3.7
1.8
-4.1
-5.7
-8.4
4.4
4.5
-4.1
0.2
-8.8
-28.3
-8.7
-2.4
-7.8
-0.7
-2.5
5.8
-1.5
8.5
12.6
62.7
-0.9
13.3
-6.0
15.4
-1.6
-3.9
10.6
12.9
-2.8
-0.6
-24.3
-7.4
-7.4
-8.2
-5.2
9.1
-2.4
0.8
6.0
0.7
20.4
1.2
-3.6
5.4
-4.6
-12.4
-8.3
-27.7
-13.4
-0.1
-1.1
8.4
0.6
-2.6
-3.3
00/95 05/00 10/05
1995年
調査
2000 年
調査
2005年
調査
2010 年
調査
伸び率(%)
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