ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2012年7号
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第77回 川崎汽船 昨年度第3四半期を底に業績は回復基調設備投資を抑制し財務体質改善を優先

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2012  54 コンテナ船の需給バランスは改善へ  まずは、海運業界の二〇一一年から一二年の 動向を振り返ってみたい。
世界景気の低迷、船 舶の供給過剰により、日系大手三社(日本郵船、 商船三井、川崎汽船)は一二年三月期決算で大 幅な赤字を余儀なくされた。
特にコンテナ船事 業は運賃の急落により、大きく損益が悪化した。
 ただし、一二年に入って事業環境には好転の兆 しが見え始めている。
株式市場ではとりわけコン テナ船の損益改善の可能性に注目が集まった。
一 一年末、コンテナ船の最大手企業であるデンマー クのA.P. Moller Maerskなどが減船による供給 削減を表明、需給改善の期待が高まった。
 実際、国内外船社は一定の供給削減を実施し、 船の稼働率を表す消席率は九〇%程度まで向上、 需給バランスの改善が進んだ。
三月、四月には アジア─欧州航路で一定の値上げが浸透し、ア ジア─北米航路でも四月、五月に一定の運賃値 上げが実現できたようだ。
加えて、六月以降は 繁忙期に向けたピーク・シーズン・サーチャージ の徴収を表明しており、国内外船社によるコン テナ船事業の損益改善に向けた努力が続いてい る。
 他方、自動車船やドライバルク、油送船など を手掛ける不定期専用船事業の業績は、東日本 大震災やタイの洪水による自動車船の輸送台数 の減少、ドライバルクや油送船市況の低迷によ り、一二年三月期に悪化した。
一三年三月期は 数量回復による自動車船事業の緩やかな損益改 善が見込めるだろう。
ただし、ドライバルクや 油送船の市況回復には力強さがみられず、損益 改善は小幅に留まる見通しだ。
 日系の大手海運三社の中でも川崎汽船はコン テナ船の売上比率が高く、コンテナ船市況が同 社の業績を大きく左右する。
一二年三月期の経 常損益は四九〇億円の赤字となったが、うちコ ンテナ船事業が四一八億円の赤字、不定期専用 船事業が八六億円の赤字だった。
市況悪化だけ でなく、円高と燃料費の増加も損益悪化の一因 となった。
 四半期別にみると第3四半期(一一年一〇─ 十二月)に経常損益が二〇三億円の赤字と大き く悪化し、第4四半期(一─三月)は赤字幅が 八四億円に縮小した。
コンテナ船の運賃回復、自 動車船の数量回復などにより、同社の業績は第 3四半期を底に回復基調にあると言えるだろう。
 同社の一三年三月期の業績計画は、売上高が 前期比一五・二%増の一兆一二〇〇億円、経常 利益が同六五〇億円改善の一六〇億円の黒字、 当期純利益が同五二〇億円改善の一一〇億円が 見込まれている。
 事業別にみると、主力のコンテナ船が前期比 三八〇億円改善の三〇億円の赤字、不定期専用 川崎汽船 昨年度第3四半期を底に業績は回復基調 設備投資を抑制し財務体質改善を優先  主力のコンテナ船事業は今年に入って回復の兆 しが見られる。
国内外の大手船社の減船によっ て需給バランスは改善に向かっている。
今夏には ピーク・シーズン・サーチャージの徴収も進みそ う。
ただし、今年後半には需給が再び緩む可能 性も。
当面、設備投資を抑制し財務体質改善を 優先させる戦略は評価できる。
第77回 土谷康仁 メリルリンチ日本証券 調査部 シニアアナリスト 55  JULY 2012 船は同二一〇億円改善し一二〇億円の黒字の計 画だ。
コンテナ船は燃料費の増加を織り込むも のの、アジア発欧米航路の運賃改善、航路の合 理化などを想定している。
不定期専用船は自動 車船の数量回復、ドライバルクやLNGなどの 市況改善を見込む。
 大手三社の経常損益の前期からの改善幅をみ ると、日本郵船が七三〇億円、商船三井が三四 〇億円、川崎汽船が六一〇億円の改善を見込む。
各社の改善額の相違は、コンテナ船とドライバル クの市況想定の違いに加え、前期に大幅な数量 減のダメージを受けた自動車船の損益改善幅が 異なることが挙げられる。
日本郵船は相対的に 自動車船の輸送台数が多く、東日本大震災とタ イの洪水の影響を大きく受けたため、その反動 による増益が見込めるとの判断だ。
 コンテナ船やドライバルクの市況ともに底打ち 感が見られる中、今後は運賃上昇の持続性が注 目される。
基本的にコンテナのベース運賃交渉の 機会はアジア─北米航路が年に一回、アジア─ 欧州航路が四半期毎となっている。
一二年初か らは段階的な運賃値上げ要請が発表、実現され たが、これは過去の事例からみれば例外的だっ た。
ただ、今後は顧客との運賃交渉も多様化す る可能性があり、より変動の激しい市況になる ことも否定できないだろう。
 弊社は、一二年前半のコンテナ船運賃は安定 的に推移するとみている。
これは、国内外船社 の船舶供給の抑制と堅調な需要がサポートする ためだ。
一一年の夏季の繁忙期には欧州の経済 危機など景気低迷の懸念や船舶の供給過剰があ ったため、ピーク・シーズン・サーチャージの徴 収がほとんど実現しなかった。
一二年は国内外 船社ともに繁忙期に向けて、船舶供給を大きく 増やす意向はないとみられ、一定程度のサーチ ャージの徴収が進むと考えられる。
 ただ、弊社は一二年のコンテナ船の需給ギャ ップを五%程度と想定しており、閑散期に入る 年後半からは需給が緩む可能性を懸念している。
中期的には海外船社による一万TEU超のメガ シップが投入される計画もあり、需要動向にあ わせた供給調整が難しくなる可能性があるだろ う。
既に、国内外船社ではアライアンス同士に よる効率的な配船を手掛ける動きが出始めてい るが、急減な需要変動があった場合、迅速な供 給調整が採られるか否かが注目されよう。
 他方、ドライバルクは主に資源国から新興国な どへの鉄鉱石や穀物、石炭などの輸出の基調を 見極めることが重要になる。
極端に下落した運 賃は一定程度のリバウンドをみせるだろう。
た だ、中国の港湾における鉄鉱石在庫が高止まり していることや、中国の通関輸入がやや弱含み していることに加え、コンテナ船と同様に船舶 供給に過剰感がでていることなどを勘案すれば、 ドライバルク市況は引き続き低迷する可能性が高 い。
年間投資額を五〇〇億円規模に抑制  厳しい市況環境を前提に、川崎汽船のマネジメ ントは設備投資を抑制する考えを示した。
今後三 年間は投資額を五〇〇億円程度(一二年三月期 実績は八三〇億円)に抑制し、有利子負債を圧 縮することにより財務体質を強化するというも のだ。
具体的には、デット・エクイティ・レシオ (D/Eレシオ)を一二年三月期実績の二・四倍 から一五年三月期には一・五倍程度まで、自己 資本比率も二三%から三〇%まで改善させる計 画を示した。
 弊社がカバレッジしているアジア主要船社の D/Eレシオの平均値は一倍強であり、川崎汽 船の二倍は高水準と考えられる。
同社の株主資 本比率二三%も、日本郵船の三〇%前後、商船 三井の約三五%、アジア船社の平均値の四〇% 前後との比較から、改善すべき課題であろう。
 設備投資の抑制による財務体質の改善は、株 式市場からみても評価される財務戦略だと考え られる。
ただ、世界のコンテナ船各社の潮流は船 舶の大型化による輸送効率化を図る方向に舵を 切り始めている。
当面の間、当社はオフバランス リースなどで対応するとみられるが、いずれは 大型コンテナ船を発注する可能性もあろう。
 そのためにも潤沢なキャッシュを保有している ことが望まれる。
当面は債務削減を中心とした 財務戦略となるだろうが、一方で株主還元に関 しては配当性向のターゲットを中期的に引き上げ る考えもあるようだ。
弊社では財務体質の改善、 その後の株主還元の充実に期待する。
つちや やすひと 一九九七年三月神戸大学大学院卒、 九八年四月和光証券入社。
三菱証券 などを経て、二〇〇五年一〇月にメ リルリンチ日本証券に入社。
運輸セ クター担当アナリストとして活躍し ている。

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