ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2012年7号
物流行政を斬る
第16回 満を持して新東名が一部開通多くのメリットが生じる一方、将来的な収益性には不安も

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2012  78 まずは順調な滑り出し  今年四月一四日、東京と名古屋を結ぶ新たな高速 道路「新東名高速道路(以下、新東名)」の一部区 間が開通した。
開通したのは静岡県御殿場市の御殿 場ジャンクション(JCT)から三ケ日JCT(静 岡県浜松市)までの約一六二キロである。
最終的な 全体像は、海老名南JCT(神奈川県海老名市)か ら豊田東JCT(愛知県豊田市)を結ぶもので、全 長は二五四キロに及ぶ。
今後は二〇一四年度に愛知 県内の約五五キロが、一六年度以降に神奈川エリア が順次開通していく予定だ。
今回はこの新東名につ いて見てみることにしよう。
 
裡釘悖達話翔本(中日本高速道路)や静岡県 等で組織する「新東名インパクト調整会議」の調べ によると、開通から一カ月間の新東名の一日の平均 交通量は休日が五万七〇〇〇台、平日が四万一〇 〇〇台であった模様。
東名の並行区間と合わせると、 開通前の東名単独の交通量より休日は二四%、平日 は二〇%多い。
まずは順調な滑り出しと言ってよい だろう。
 交通量が増えることにより、地元地域に経済効果 満を持して新東名が一部開通 多くのメリットが生じる一方、 将来的な収益性には不安も  今年四月、新東名高速道路の一部区間が開通した。
交通量が増えたことに伴い、地元経済は早くもその恩 恵を受けている。
渋滞の緩和や走行距離の短縮などに より、物流業界もメリットを享受できそうだ。
ただし、 将来的な展望は決して明るいものばかりではない。
人 口減、経済停滞により、利用者数は必ず伸び悩む。
税 金投入による穴埋めは避けられそうにない。
第16 回 がもたらされている。
新東名では七カ所のサービス エリア(SA)と六カ所のパーキングエリア(PA) に商業施設「ネオパーサ」が開業したが、ゴールデ ンウィークの時期に重なったこともあり、一カ月の 来場者数はSAだけで五九三万人に達した。
 
咤舛硲丕舛鮃腓錣擦新彌住哀所の合計売上高は 約二八億円。
さらに、東名高速の並行区間の二〇カ 所と合わせると、売上は約三九億円にのぼる。
これ は前年同期の二・四倍に値する。
 東名の開通により、物流業界も多くのメリットを 享受している。
その一つが、並行する東名の渋滞緩 和だ。
この一カ月間、東名で発生した一〇キロ以上 の渋滞回数はわずか五回。
新東名の開通前と比べ、 約九割も少ない回数だ。
延着が許されないトラック 事業者にとって、渋滞緩和に伴うリードタイムの短 縮は歓迎すべきことと言える。
 新東名自身にも魅力がある。
新東名は東名に比べ、 勾配が緩やかでカーブが少ない。
今回開通した一六 二キロを利用し、東京インターチェンジ(IC)か ら名古屋ICまでを走ると、総走行距離は従来より 約一〇キロ少ない。
高速料金も六九〇〇円で二〇〇 円ほど安い。
当然、走行距離が短くなれば燃料費が 節約できる。
その上、わずかでも高速料金が安くな るとなれば、これを使わない手はない。
今後、トラ ック輸送では東名よりも新東名を使用するのが一般 的になる可能性が高い。
 首都直下型地震や東海地震の発生が予想される中、 新東名の開通はリスク分散も実現してくれる。
新東 名が走る場所は山間部が多く、地盤がしっかりして いる。
先の東日本大震災を契機に、企業にとってサ プライチェーン寸断をいかに回避するかが大きな問 題になりつつある。
二本の大動脈が併在することは、 物流の安定を考える上でも大きな魅力だ。
 
稗端辺に新たな物流インフラが集積することも 予想される。
静岡県では生産拠点を新増設する企業 に対して助成事業を行っているが、今年度から助成 の対象に物流施設を加えている。
今後、少なからず 物流施設が同エリアに建設されると見ておきたい。
 こうした現状を見る限り、新東名の開設は望まし いものと言える。
その一方で、いくつかの懸念も残 る。
今後の日本経済は、人口減少・内需減退によ り、下降曲線を余儀なくされる。
さらに、近年の急 速な円高、高い法人税率等の問題もあり、多くの企 業は生産拠点を海外に移転しつつある。
そうした将 物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 (財)流通経済研究所 客員研究員 寺嶋正尚 79  JULY 2012  来の状況を考えたときに、果たして新東名は本当に 必要不可欠なものと言えるのか。
筆者には疑問だ。
 確かに、先述したようにリスクヘッジの視点から 東京と名古屋を結ぶ大動脈を二本抱えることは有意 義だ。
しかし、必ずしもその二本とも高速道路で ある必要はない。
また東名における渋滞緩和が喫 緊の課題なのだとしたら、オフピーク時における 高速料金の割引率を大きくし、渋滞時の交通を閑 散時にシフトさせれば済む話だ。
実際、今年の四 月二九日、三〇日、五月四〜六日までの五日間に 実施された「東名GW渋滞減らし隊キャンペーン」 では大きな効果を挙げている。
売上予測は?絵に描いた餅?  新東名は高コスト構造でもある。
勾配やカーブが 少ないことは既に述べたが、これを実現するため に、多数のトンネルや橋が設置されている。
車線 も往復六車線を基本とするなど、東名よりも広く 丈夫に作られている。
新東名全線の開通にかかる 総事業費は約四兆四〇〇〇億円で、単純計算する と一メートル当りの建設費は約二〇〇〇万円に達 する。
 多額のコストを要する一方、将来的な収益性は 不透明と言わざるを得えない。
NEXCO中日本 は、一〇年後の東名と新東名を合わせた一日当り の交通量は、現在より約一万四〇〇〇台増え、年 間料金収入は約九五〇億円に達すると見込んでい る。
しかし、これは新東名の計画が持ち上がった 二〇年以上前、バブル経済下で作成されたもので ある。
現状や今後の経済情勢を冷静に分析すれば、 絵に描いた餅に過ぎない。
 道路公団の民営化で生まれた「日本高速道路保 有・債務返済機構」は、NEXCO中日本を含む 高速道路会社からフィーを徴収し、二〇五〇年ま でに四〇兆円にのぼる借入金を返済する義務を負 っている。
こうした背景から、返済までの道筋を逆 算すると、新東名の年間収入や利用台数の予測を変 更できないのではないか。
いずれにせよ、将来は料 金値上げによる利用者負担増および税金投入による 穴埋めを余儀なくされることは必至だ。
 こうした問題は、新東名にのみ当てはまることで はない。
他の多くの高速道路でも、構造的な歪みが 生じている。
道路行政は、今一度ゼロベースで全国 の高速道路について分析する必要がある。
各路線に ついて、現状の交通量、今後の予測推移、収益性な どを、精微に調査すべきだろう。
 その結果、不必要と判断せざるを得ない高速道路 が出てくるはずだ。
一度建設してしまったものを壊 すより、維持して使用した方が望ましいとの見方も あるだろうが、必要性の薄い路線の維持・運営に莫 大な税金を投入し続けることは許されない。
そうし た路線は、徹底して廃止すべきだと筆者は考える。
 料金体系も、先に示したオフピーク料金に加え、 より柔軟なプラン設定を検討すべきである。
将来、 建設費が償還された後、高速道路料金を無料にす るといった構想を一度捨て、より現実的な視点から、 高速道路料金の長期にわたる徴収方法を考えなけれ ばならない。
民主党や自民党の枠を超え、人口減少 による利用者減をはじめとする様々な要因を考慮し、 早急に検討していかなければならない。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、 流通経済研究所を経て現職。
日本物 流学会理事。
客員を務める流通経済研 究所では、最寄品メーカー及び物流業 者向けの研究会「ロジスティクス&チャ ネル戦略研究会」を主宰。
著書に『事 例で学ぶ物流戦略』(白桃書房)など。
東名および新東名高速道路 東京 清水 静岡 焼津 菊川 掛川 袋井 磐田 浜松 浜松西 三ヶ日 豊川 岡崎 豊田 日進JCT 東名三好 名古屋 春日井 小牧 小牧JCT 豊田JCT 音羽蒲郡 相良牧之原 海老名JCT 東名川崎 横浜青葉 横浜町田 厚木 秦野中井 大井松田 御殿場 裾野 沼津 富士 吉田 JCT((厚木南) (御殿場) 豊田東JCT (額田) (海老名南JCT) (伊勢原JCT) (伊勢原北) (秦野) 長泉沼津 藤枝岡部 島田金谷 浜松浜北 新富士 新清水 新静岡 森掛川 新清水JCT 清水いはら 清水JCT 三ヶ日JCT 浜松いなさJCT 浜松いなさ 御殿場JCT (新城) 2012 年4月14日 開通 2020 年度 開通予定 2018 年度 開通予定 2016 年度 開通予定 開通予定 2014 年度 ※( )内の連絡等施設名称は仮称です。
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