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改正があった場合、有期雇用の労働者
を無期雇用に転換させなければならな
くなるという話も出てきます」
──物流現場へのアドバイスは?
「今回の法改正を、人材活用のあり
方を今一度見直す機会にすべきです。
まずは最低限やるべきことをキチンと
押さえる。 そのために派遣会社の担当
者を呼んで、労務管理のあるべき姿を
説明させるのもいいですし、請負会社
や社会保険労務士でも構いません。 い
ずれにしろ普通の物流現場にはない専
門知識、ノウハウなので、そこは社外
の力を活用する」
「そうやって本来は法改正がなくても
すべきだったことを担保した上で、一
緒になって合法的かつサービスの質を
継続的に向上していけるパートナーを
選んでいく。 そうしたことが今まで以
上に大事になってきます」
──日雇い派遣の短期的な代替策とし
ては、やはり日々紹介の利用がメーン
になるとみていますか。
「業務請負か日々紹介。 基本的には
その二つしかありません。 日雇い派遣
を大量に使っている現場は、請負化し
ていくことが想定されます。 一人、二
人しか使っていないところは、請負化
ができないので日々紹介にスイッチす
る。 もしくは日雇い派遣の例外規定を
利用して、学生や世帯収入五〇〇万
新たな労務リスク
──今回の派遣法改正、特に日雇い派
遣の原則禁止をどう評価しますか。
「原則禁止のはずなのに、学生や世
帯収入が五〇〇万円以上の層は認める
など、例外がやけに広い。 複雑な制度
になっています。 実社会の運用に即し
ているのかと聞かれれば、疑問と言わ
ざるを得ません。 実際の運用が始まる
と、違法、脱法、グレーといった判断
に悩まされるリスクが高いと思います」
──三〇日以内の派遣を「日雇い」と
する規定については。
「スポット派遣で働く期間が一カ月以
上というケースはもともと非常に少ない。
当社とフルキャストの共同調査によれ
ば、短期派遣全体の四%に過ぎません。
それよりも今回の法改正で理解できな
いのは、日雇い派遣を規制する前提に
立ちながら、全面禁止にせず、中途半
端に例外を認めたことです。 安全衛生
を問題視しているのであれば、学生も
一緒に禁止すべきです。 日雇いで働け
る人と働けない人を、五〇〇万円とい
う、日本の平均年収より高い水準で分
けることも理解に苦しみます。 差別的
というか、とても嫌なかたちで他人に
収入が見えてしまうことになる」
──物流業界への影響をどう見ますか。
「影響は二種類あります。 当面の影
響としては、新しい人材調達の仕組
みをどう構築するかが大きな問題です。
仮に調達できてもコンプライアンスリ
スクが非常に高まるでしょう。 日雇い
派遣から業務請負にシフトした場合は、
偽装請負にならないかが問題になる。 ?
日々紹介?を使う場合でも、事実上の
日雇い派遣じゃないのかという懸念が
残る。 あるいは、世帯収入が五〇〇万
円以下の人を日雇い派遣として使って
いないかといった問題が、直面するリ
スクとして挙げられます」
「以前社会的に問題になった?派遣切
り?は、基本的には製造業の話でした。
今回の規制で、かつて製造業がやり玉
に挙がったのと同じようなことが、今
度は物流業界で起こりうる。 違法、脱
法問題が頻発した場合、物流業界は人
の使い方がおかしいという批判を受け
ることになりかねません」
「一方、三年や五年というスパンで
中長期の影響を見ていった場合には、
労使トラブルの潜在的リスクが高まる
ことを覚悟しなければならないでしょ
う。 今回の法改正で、違法派遣を活
用していた場合には派遣先企業が労働
者を直接雇用しているとみなす制度が
三年後に始まります。 仮に今後、有期
雇用(の上限)を規制する労働契約法
リクルート ワークス研究所 中村天江 研究員
「今度は物流業がやり玉に挙げられる」
かつて世間を騒がせた“派遣切り”は製造業の問題だ
った。 今回の派遣法改正で、今度は物流業がやり玉に挙
げられる恐れがある。 日雇い派遣の禁止は労働規制強化
の始まりに過ぎない。 物流現場のコンプライアンスを改
めて見直す必要がある。 (聞き手・藤原秀行)
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円以上の層を使うしかない」
──その三つのパターンのうちどれが
メーンになると予想していますか。
「コンプライアンスを重視するのであ
れば、日々紹介でしょう。 請負化は、
偽装請負の問題が再燃する可能性があ
ります。 我々の試算では、日雇い派遣
で副業している人のうちの約八割、主
婦でも七割ぐらいは世帯収入が五〇〇
万円以下なので、今回の法改正で日雇
い派遣禁止の対象になってしまう」
規制強化は今後も続く
──日雇い派遣が日々紹介に変わって
も雇用の安定や労働者保護には寄与し
ないのでは。
「蓋を開けてみなければ分かりませ
んが、法改正の趣旨に反して、ますま
す労働者の?流浪度?が高まる可能性
はあります。 日雇い派遣は、労働市場
への参入手段になっていた側面もある。
他では仕事がつきにくい人でも唯一日
雇い派遣だったら働けたというような
ところがありました。 それが単純に
日々紹介に変わると、A社、B社、C
社と流浪の民のように転々とするよう
になり、その人がどこでいつ働いてい
るのか、トータルで管理する人がいな
くなってしまう」
「派遣会社が日雇い派遣労働者のキ
ャリア形成支援などに関与する余地は
つかず、今回見送りになったというこ
とでしょう。 いくら反作用が大きくて
も、それが正しい方向だと皆が考える
のであれば規制がかかったはずですが、
そうはならなかった」
──日雇い派遣の原則禁止による人材
派遣業界への影響は。
「大手は比較的早くから対応してい
て、撤退も含め既に判断は済んでいる
という印象です。 中小は各社の対応に
差が出ている。 業態転換は容易では
ないし、まじめにやろうとすれば当然
経営は苦しくなる。 そのためコンプラ
イアンスリスクを気にしないというか、
グレーな運用を平気で提案してしまう
ところも中にはあります。 逆に、派
遣会社がユーザー企業から違法なサー
ビスを要求されることもあるようです。
法の抜け穴を突くようなグレーな運用
はリスクが大きいことを肝に銘じてお
く必要があります」
あったはずで、実際、『派遣会社がキ
ャリア形成を支援している』と労働者
本人が認めているケースでは、不本意
なまま日雇い派遣に滞留する確率が低
くなるという調査結果もあります。 そ
うしたチャンスを今回はなくしてしま
うという話でもある」
──法改正はむしろ逆効果の面があ
る?
「ただ、これまで派遣労働者が強く
希望してきたが、実態として何もでき
ていなかった部分としてどこが大きい
かと言うと、やはり派遣契約を中途解
除された場合の就業機会確保や休業手
当支払いでしょう。 その点で従来は指
針にとどまっていた?派遣切り?の際
の新たな就業機会確保などを法改正で
明確に義務化したことは、まさに労働
者保護だし、企業の雇用責任がしかる
べき形で問われるという意味では正し
い規制だと思います」
「派遣問題は派遣会社や派遣先企業
がしかるべき労働者保護をしていない、
安全衛生管理がないがしろにされてい
る、といったことへの批判に端を発し
ています。 その象徴的な、不安定な働
き方として、日雇い派遣が規制の対象
に挙がりました。 今後、有期雇用全体
の規制も強化されると見込まれます」
──日雇い派遣から日々紹介への移行
は、政府が主張する「正社員が基本」
との方針と異なるのでは。
「一般に企業は、ノウハウが必要な
仕事には長く契約できる人を使います。
日々しか仕事をお願いしない人に、難
しいノウハウを必要とする業務は頼ま
ない。 そうした人材活用の棲み分けを
考えた場合、日雇いや日々紹介の仕事
を通じてキャリアを形成していくとい
う流れは、全体としてはやはり起こり
にくい」
「そもそも日雇いは有期雇用のなかで
一番雇用期間が短い労働者です。 それ
を一足飛びに正社員に持っていこうと
いう議論には無理がある。 まずは日々
から一定期間の有期雇用に移ることが
できる仕組みを作っていくことが大事
です。 正社員移行の中間的段階として、
六カ月とか一年といった有期雇用を経
験し、その次のステップとして正社員
を位置付けるやり方が現実的でしょう」
──当初、政府が主張していた製造業
派遣、登録型派遣の原則禁止が削除
されたことについては。
「全体に網をかけるように派遣とい
う働き方自体を禁止してしまうことは、
個人的には反対です。 個別の問題に対
してその原因を追及し、具体的な対策
を打つための議論がなされるべきです」
──禁止は結局関係者の意見調整がつ
かなかった。
「反対意見が多かったために調整が
なかむら・あきえ 東京工業大学卒、
東京大学大学院数理科学研究科修士課
程修了。 1999年リクルート入社。 学生
から社会人まで300万人以上のカスタ
マー向けに、キャリア形成や就職・転職
支援のサービス企画を担当。 「リクナビ
NEXT」「リクルートエージェント」にお
ける公募・斡旋融合プロジェクトのリー
ダーなど、新サービスへの橋渡しを推進。
マーケット分析やカスタマー調査にも多
数携わる。 2009年4月、ワークス研究
所に異動。 労働市場を俯瞰したアウトプッ
トを担当。 派遣制度など、雇用構造や
個人のキャリア形成と人材ビジネスが交
差する領域を中心に研究を進めている。
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