ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年10号
特集
第1部 市場は「成長前期」を過ぎ競争時代へ 日本ロジスティクスフィールド総合研究所 辻 俊昭 代表

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2012  20 「誰もが成功した時代」の次  二〇〇〇年代初頭に始まった日本の物流不動産 ビジネスを通して、これまで全国に一四〇棟以上 もの物流施設が開発されてきた。
その入居率はほ ぼ一〇〇%という好成績である。
これまでは?造 れば埋まる?という開発事業者にとって魅力的な マーケット環境であった。
 中長期的にはマーケットの拡大は今後も続く。
3 PLが運用する四大都市圏(東名阪福)の倉庫面 積は現状で六三〇〇万?程度と推測される。
その うち二〇〇〇年以降に開発されたこれら新型施設 はわずか数%に過ぎない。
 マルチテナント型施設からのテナントの退去、つ まりリテナント率は今のところ四%に過ぎず、新型 施設に対するテナントの支持は強い。
3PLの普及 と通販物流の拡大という需要の追い風も受けてい る。
物流不動産は、将来の成長が約束された我が 国では数少ない有望なビジネスだといえる。
 その魅力に引き寄せられて、二〇一〇年の後半 頃から大量のマネーが世界から日本へ、日本のアセ ットの中でもとりわけ物流不動産へと再び流れ込 んでいる。
三井不動産、三菱地所、住友商事とい った国内最大手の不動産会社や総合商社による新 規参入も本格化している。
 その結果、リーマンショック後にいったんスト ップした新規開発が、再び活発化し始めた。
とり わけ首都圏では今年から来年にかけて延床面積で 二〇〇万?弱に及ぶスペースが供給される見通し だ。
これまでに首都圏で開発された開発物件の三 割程度に相当する量である。
 これによって短期的には少なからず市場が混乱を きたす恐れがある。
足下の荷動きは堅調だが、今 後、景気の冷え込み等により荷動きが悪化した場 合には、フリンジエリア(外縁地域:景気後退とと もに急激にニーズが低下しテナントリーシングが長 期化するエリア)を中心に開発物件のリーシングが 長期化する可能性がある。
 開発施設の稼働ラッシュによる一時的な空室率 の急騰は、〇八年の首都圏湾岸や〇五年の大阪湾 岸等でも見られた。
その後、物流不動産に対する 社会的な認知度は高まり、通販物流という新たな ニーズも生まれているとはいえ、今回も二年前後 は影響が続くと見ている。
 また、これまでの経験則から、首都圏における 集中的な投資が続いた後は、その他の都市圏に投 資エリアが移っていくものと考えられる。
しかし、 各エリアのマーケット規模を我々日本ロジスティク スフィールド総合研究所のデータベースから集積量 で比較してみると、首都圏を一〇〇とした場合に、 大阪が三〇、名古屋が一〇、福岡が一〇、仙台で 四程度である。
 マーケット規模の限られた首都圏以外のエリアで は、大規模な物件が数棟開発されただけで一時的 な供給過多に陥る可能性が高い。
首都圏の次の開 発エリアとして既に大阪圏、名古屋圏が注目され 始めているが、首都圏並みの勢いで投資が続いた 場合には混乱はかなり長期化する恐れがある。
 首都圏をはじめ開発用地の取得競争はヒートア ップし始めており、最も盛んであった〇七年〜〇八 年頃の状況に近づきつつある。
 誰もが成功を収めることのできた市場の「成長 前期」にそろそろ終わりが見えてきた。
市場のラ イフサイクルは、成長を伴いながら競争が拡大する 市場は「成長前期」を過ぎ競争時代へ  日本の物流不動産市場は、誰もが成功を手にするこ とのできた「成長前期」から、競争が拡大する「成長 後期」へと移ろうとしている。
新しいステージでは顧客 であるテナントに向けた差別化されたスペース・サービ スの創造が期待される。
日本ロジスティクスフィールド総合研究所 辻 俊昭 代表 「成長後期」の入口にさしかかっている。
 競争時代到来の兆しは既に見え始めている。
と りわけ三井不動産、三菱地所といった総合不動産 大手は圧倒的な土地情報と人員、資金力を有して おり、既存事業者にとって強く意識せざるを得な い存在となっている。
実際、参入とともに用地取 得、開発を加速化させており、新規竣工ベースで 早々にもトップシェアの一角を占めてくることが予 想される。
 こうして新たな時代を迎えた物流不動産ビジネス のカギを握る環境要因として我々は、大きく以下 の三つの事象に注目している。
?国内外の新規参 入と旺盛な投資意欲による供給能力の急増、?通 販物流による物流スペース需要の高まり、?新た な開発適地の出現と立地構造の変化、である。
そ れぞれについて、以下に具体的に見ていく。
二〇一三年の大量供給の影響  既に述べた通り、首都圏では二〇一三年までに 二〇〇万?弱の開発が予定されている。
なかでも 千葉県の「市川〜習志野」、神奈川の「相模原・厚 木」、埼玉の「三郷地区」等では大規模なマルチテ ナント型開発が複数計画されている。
 これにより首都圏では一時的に需給が緩む。
こ れまでの需要発生規模のトレンドから推測した場 合、首都圏全体の大規模賃貸物流施設の空室率は、 一三年に一時的に一〇%を超える可能性があると 見ている。
 ただし、二つの留意すべき点がある。
一つは湾 岸エリアと内陸エリアでは需給バランスの見通しに、 かなりの違いがある点である。
湾岸エリア、とり わけ千葉県側は首都圏の中でも最もニーズが高く継 21  OCTOBER 2012 首都圏における主な開発予定物件(一部、直近竣工物件含む) 出所)写真は各社HP、公表資料から日本ロジフィールド総研作成 各物件に関する詳細な情報の問い合わせは日本ロジフィールド総研まで 成田国際空港 岩槻 川越 松葉横芝 成田市 大和市 綾瀬 海老 座間 厚木市 富里町 芝山町 浦安市 昭島市 常磐自動車道 関越自動車道 国道 16 号 圏央道 Dプロジェクト三郷 Dプロジェクト相模原 Dプロジェクト横浜大黒 ロジポート相模原 GLP 厚木 ロジポート北柏 市川塩浜プロジェクトプロロジスパーク習志野4 岩槻ロジスティクスセンター 川越?ロジスティクスセンター 所沢ロジスティクスセンター プロロジスパーク川島2 プロロジスパーク座間2(竣工済) グッドマン水江 GLP三郷? グッドマン市川 OCTOBER 2012  22 続的な需要発生が見込まれるエリアであり、スペ ースが不足気味の状況が今後も続く可能性が高い。
これに対して、内陸部は開発が集中するエリアを 中心に需給バランスが悪化する恐れがある。
 二つ目の留意点は、現在開発中もしくは今後開 発予定の物件のテナント誘致が今のところ好調に推 移している点である。
足下の首都圏では、まとま った規模の物流スペースが圧倒的に不足しており、 テナント側に先に物件を押さえておこうとする傾向 が見られる。
 したがって、首都圏における大量供給は 「二〇一三年問題」と呼ぶほどには至らず、特定の エリアにおいて空室率が高止まりする程度に留ま ると考えられる。
通販物流ニーズの急拡大  近年の物流施設の開発ニーズは主に、?3PL 事業者による利用スペースの拡大、?老朽化した 施設からの移転、?拠点集約、によって支えられ てきた。
 このうち3PL事業者は物流不動産開発会社が 供給する施設のメーンのテナントとなっている。
3 PL事業の拡大には新たなスペースが必要であり、 主要3PL事業者の国内営業は好調に推移して いる。
ここ五年間の大手三社の成長率は年率で約 六%、大手九社まで広げても同約三%の成長を達 成している。
 また、3PL業界に構造的な変化が生じている ことも注目される。
これまで全国規模あるいは国 際展開している大手荷主を主な対象としてきた大 手・中堅の3PL事業者が、ローカルな中小規模 の荷主まで取り込むようになってきた。
 単独荷主の専用センターを相手にするだけでな く、汎用センターで複数の中小荷主に対応するノウ ハウが蓄積されてきた。
これによってローカルな3 PL事業者から大手・中堅へ、アウトソーシング先 のシフトが起きている。
 大手・中堅は作業の効率性を重視してまとまっ た規模のスペースを賃借するケースが多い。
その成 長が今後も物流不動産マーケットを底支えすること になる。
 既存施設の老朽化による移転ニーズも堅調だ。
首 都圏の場合で築四〇年以上の物流施設が全体の約 三割を占めている。
築年数の古い施設には、保管 重視の中小規模の倉庫が多く、作業効率や作業環 境に課題がある。
とりわけ大手3PLは一営業所 で数千坪以上のスペースを求める傾向があり、ニー ズを満たすことのできる築深な物件は限定的であ る。
 さらには東日本大震災以降、荷主企業は物流機 能においても事業継続性の確保を求めるようにな っている。
この点からも免震構造や耐震性を取り 入れた新型施設への評価は高まってきており、移 転需要を促す要因となってきている。
 そして近年とくに目立っているのが通販需要の 急拡大である。
アマゾン、楽天物流、アスクル、ス タートトゥデイ等、大手通販会社がそれぞれ大規模 スペースの確保に動いている。
大規模施設を一棟 借りするケースも珍しくない。
 国内の通販市場規模は現在約八兆円ともいわれ、 今後も拡大は必至と目されている。
これに伴い通 販物流市場の規模も一兆円を超えていく見込みで、 年間三〇万〜五〇万?のペースで新たな物流スペ ースの需要が生まれると予測される。
空室率(%) 注)湾岸エリアはまだ、隠れた案件が多いため空室率は想定よりも上昇すると考えられる。
出所)日本ロジフィールド総研 首都圏における需給バランスの推移と今後の見通し 東京圏港湾 首都圏内陸 0% 02 年 03 年 04 年 05 年 13 年 06 年 07 年 08 年 09 年 10 年 11 年 12 年 通販物流による物流スペース需要の見通し 20 15 10 5 新規増分(万坪) 12 年 13 年 14 年 15 年 16 年 17 年 出所)日本ロジフィールド総研  過去の推移から大規模賃貸物流施設に対する新 規需要は年間平均で一〇〇万?程度であることが 確認されている。
通販物流の追加的な需要は物流 不動産ビジネスの成長を大きく後押しすることにな るだろう。
 とりわけ大消費地の首都圏には、配送コストの 面から在庫拠点がどうしても必要になる。
これま で地方に分散していた在庫も今後は首都圏に集ま ってくる可能性が高く、大規模スペースに対する ニーズはさらに活発化すると考えられる。
立地エリアの二極化が進展  物流コストの削減ニーズは依然として根強い。
賃 料コストの削減は、その主要な対策の一つである。
このため坪単価の高い首都圏等では、廉価な賃料 を求めて拠点を郊外に移す動きが出ている。
その 受け皿として、埼玉の久喜・加須地区などへの移 転が既に顕著になっており、それが次第に東松山 地区、つくば地区等へと 展開し始めている。
 さらには、都心から 四〇?〜六〇?を囲む 圏央道がまもなく全線開 通する。
これにより圏央 道沿線に新たな物流の要 衝地が生まれる可能性が ある。
これらの場所は立 地ポテンシャルの割に賃 料水準が廉価であり、適 正用地の枯渇化を反映 し、今後開発が広がるも のと考えられる。
 東京湾アクアライン周 辺も物流用地としての期 待値が上がっている。
通 行料金を大幅に引き下げ る社会実験で、物流の効 率化やトラックの利用促 進に効果が確認されたこ とから、今後は通行料金 の適正化が進んで物流の 動線が変わることが期待される。
 これまでも柏、野田船形、川島、習志野等の賃 料に比較的割安感のある地区に物流拠点の集積地 区の形成が見られたように、今後もインフラ整備に 伴い新たな集積地区が形成される可能性がある。
 その一方、湾岸エリア等の従前からの利便性の 高い地区も依然としてニーズが高いことから、結 果として物流拠点の集積は、優れた配送利便性の ある従前エリアと、割安感のある新規エリアへの二 極化が進むと考えられる。
 こうして見てきたように、日本の物流不動産ビ ジネスはライフサイクル上、成長後期の入り口に立 っているとはいえ、次のステージとなる成熟期に至 るのはまだまだ先の話である。
それまではビジネス 分野として魅力的な分野であり続ける。
 旺盛な投資意欲を背景とした開発ラッシュが、時 には需要サイズを超える供給となって市場の混乱を 招くこともあるだろう。
それでも、開発事業者間 の健全な競争は、顧客を向いた差別化されたスペ ースやサービスを生み、荷主企業や物流事業者な どのテナントにメリットをもたらす。
 それによって市場が活性化されて、顧客にとっ てより魅力的なものになり、物流の効率化と歩調 を合わせて市場が永続的に発展していくことを期 待している。
23  OCTOBER 2012 辻 俊昭(つじ・としあき) 京都大学 工学部卒、野村総合研究所にて行政機 関や民間企業の物流コンサルティング、 調査業務に従事。
ジェイ・レップロジス ティックス総合研究所代表を経て、二〇 〇九年九月より物流施設に関する調査・ 分析、開発マーケティングコンサルティ ング等を行う日本ロジスティクスフィー ルド総合研究所を設立。
現在に至る。
郊外エリアと湾岸エリアへの2極化の立地がみられる通販、輸入雑貨の取扱拠点 通販会社や輸入雑貨販売会社には、賃料コストを抑制するために、一般的な拠点立地の エリアよりも郊外に拠点を置いているケースがかなり見られる。
圏央道等が整備されること で、それよりも近場に新たな適地が生まれる可能性がある。

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