ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2012年10号
物流指標を読む
第46回 荷動き指数は景気後退を示唆していた 日通総合研究所「企業物流短期動向調査」内閣府「景気動向指数(CI:一致指数)」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む 第1 回 OCTOBER 2012  86 荷動き指数は景気後退を示唆していた 第46 ●上昇基調にあった景気動向指数が春先から失速 ●景気動向に先んじて荷動き指数は水面下で推移 さとう のぶひろ 1964年 ●荷動き指数に改善の兆し、景気後退は短期的か 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部担当 部長。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
不可解な動きの謎が解けた  本欄でもたびたび紹介しているが、日通総合研 究所では年に四回、荷主企業二五〇〇事業所に対 してアンケート調査を行い、その結果を「企業物 流短期動向調査」(日通総研短観)としてとりまと めている。
そのなかで定点観測している国内向け 出荷量『荷動き指数』(注:以下、「荷動き指数」と 記す)は、景気動向と密接に連動する傾向にある ことから、物流面からみた景気動向の指標として 知られている。
 しかし、荷動き指数は時に不可解な動きをする ことがある。
少し古い話になるが、二〇〇七年四 〜六月実績において前期実績(プラス一〇)より も一六ポイント低下し、マイナス六と水面下まで急 落したことがある。
当該期は、〇二年二月から〇 八年二月まで七三カ月間続いた戦後最長の景気拡 張期の後期にあたる時期であるが、その当時、景 気が悪化しているという実感は無かった。
また、景 気の悪化を指摘していたエコノミストもほとんどい なかったと思う。
 そのため、当時は荷動き指数がなぜ急落したのか、 正直なところさっぱり見当がつかなかった。
しかし、 その二カ月後に公表された〇七年四〜六月期のGD P速報をみて、筆者はびっくり仰天したのである。
季調ベースではあるが、マイナス成長となっていた からだ。
景気が失速しかけているのは明らかであ り、荷動き指数は他の経済指標に先んじて、景気 の先行きに黄信号を発していたということになる。
以降の荷動き指数の推移をみると、七〜九月実績 がマイナス二、一〇〜一二月実績がプラス三といっ たんは回復したものの、〇八年一〜三月実績にお いてマイナス五と再び水面下に沈み、その後マイナ ス幅は拡大していった。
〇八年二月が「景気の山」 で、三月より景気は後退しているので、景気と荷 動き指数の動きはほぼ一致している。
 この件以降、荷動き指数が景気動向を判断する うえで非常に優れた指標であることが分かり、注 目度が高まったのは言うまでもない。
 さて、足元においても荷動き指数はやや不可解 な動きをしている。
前々回の本欄において、六月調 査の結果を「かなり意外なものであった」と書いた。
すなわち、荷動き指数は、一二年四〜六月実績が マイナス五、七〜九月見通しがマイナス三と、いく ぶん改善の兆しは窺えるものの、引き続き水面下の 動きとなっていることが「意外」だったのである。
 なぜならば、前年(一一年)の四〜六月は、震 災の発生に伴うサプライチェーンの寸断の影響など を受け、マイナス二一と急落した時期であり、正 直なところ筆者は、一二年四〜六月実績ではプラ スに転換するものと予想していたからだ。
しかし、 ふたを開けてみると、前述のとおり、前回調査に おける見通し(マイナス七)よりは若干上ブレし たものの引き続きマイナスとなり、さらに次期の 見通しでも荷動き停滞の動きに変化はみられない。
 おそらく、円高水準の定着に加え、世界景気の 先行き不透明感、さらには、政府の経済無策に対 する失望感などもあって、製造業を中心に企業マ インドが冷え込んでいることを反映した結果なの だろうが、それにしてもやけに悪いなと思ってい た。
マスコミからは荷動き指数が予想外に低調な ことの理由について尋ねられたが、その返答はか 日通総合研究所「企業物流短期動向調査」 内閣府「景気動向指数(CI:一致指数)」 87  OCTOBER 2012 撃的なものであった。
●八月、九月の製造工業生産予測指数の伸びを 用いて予測した七〜九月期の鉱工業生産指数 は、前期比マイナス三・〇%となり、四〜六月 期(前期比マイナス二・〇%)に続き、2四半 期連続のマイナスとなる。
●エコカー補助金が終了に近づき、輸出も不振と なっている自動車の生産計画も、十一月までは 低調に推移しそうである。
●景気転換点の公式設定に用いられるヒストリカ ルDIは、一二年四月に五〇%を割り、七月に は九・一まで低下する可能性が大きい。
●景気転換を判断するための必要条件である「波 及度(Diffusion)」、「期間(Duration)」、「落ち 込みの度合い(Depth)」から判断すると、足元 で景気後退となった可能性がある。
 ちなみに、嶋中氏は内閣府「景気動向指数研究 会」の委員で、わが国の景気循環論の第一人者で あり、現在「最も予測が当たるエコノミスト」だ。
 前述のように、嶋中レポートを読んで、筆者は 納得したわけである。
要するに、筆者は足元の景 気動向を甘くみていたということであり、だから 「荷動き指数がなぜこんなに悪いのか」と思ってい た。
思い込みというのは恐ろしいものだ。
トンネルは案外短い  そこで、改めて検証するため、荷動き指数と景 気動向指数(CI:一致指数)を同一のグラフに プロットしてみた(図)。
荷動き指数は四半期ごと の数値のため、便宜的に二月、五月、八月、十一 月の位置にプロットしている。
また、荷動き指数 は実績の数値であるが、一二年七〜九月のみ見通 しの数値である。
 両者の動きを比較すると、一一年までは概ね類 似した形状であるが、一二年に入ってから乖離が 生じている。
乖離が生じた理由については、CI の個別系列の動きを追ってみたが、明確な回答を 導出することはできなかった。
これは今後の研究 課題とさせていただきたい。
 しかし、はっきり言えることは、生産等の回復 や復興需要の発生などで徐々に盛り上がりかけて いた景気が、一二年度に入って急減速してきてい るということだ。
そのため、ややこじつけがまし いが、〇七年の時と同様に、荷動き指数は景気動 向に先んじて水面下に沈み、その後も水面上に浮 上できなかったのかもしれない。
 ただし、三月調査、六月調査と二回続けて、荷 動き指数の実績が前回調査時の見通しを上回って いるなど改善の兆しがみえている。
仮に次回調査 (九月調査)において、荷動き指数がさらに改善 するようであれば、足元において景気が後退局面 に入っていたとしても、そのトンネルは案外短い のではないか。
 ちなみに前掲の嶋中レポートでは、「もうトンネ ルの出口は見えている」とみており、「足元で景気 後退の可能性が生じたことは痛いものの、それは キッチン・サイクル(短期循環、在庫循環)上の 短期的なものであり、今後中期的には日本経済の 再浮上が大いに期待できるのである」と結んでい る。
紙面の都合でその根拠については書けなかっ たが、ご興味のある方は、ネットで検索してご一 読願いたい。
なり歯切れの悪いものにならざるをえなかった。
 しかし、嶋中雄二氏(三菱UFJモルガン・ス タンレー証券景気循環研究所長)が九月五日に発 表したレポート「まさかの?景気後退?も、すぐ見 えるトンネルの出口」を読んで、疑問は氷解した。
 嶋中氏のレポートの要点は以下のとおりである。
●七月の鉱工業生産指数(速報)の結果(前月 比マイナス一・二%、前年比マイナス一・〇%) は、足元の景気判断の大幅修正を迫るような衝 景気動向指数(CI:一致指数)と国内向け出荷量『荷動き指数』の推移 100 95 90 85 80 75 70 40 20 0 -20 -40 -60 -80 《CI》 《荷動き指数》 1 3 5 7 2009 9 11 1 3 5 7 2010 9 11 1 3 5 7 2011 9 11 1 3 5 7 2012 注)1.荷動き指数は四半期ごとの数値のため、2月、5月、8月、11月の位置にプロットしている。
2.2012 年7〜9月の荷動き指数は見通し。
3.景気動向指数研究会によると、第14 循環における景気の山は2007 年10月、景気の谷は2009 年3月 となっている。
CI 荷動き指数

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