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NOVEMBER 2012 30
「チャイナ・プラスワン」調達を支援
郵船ロジスティクスが新たに伸ばそうとしている
分野の一つが、「チャイナ・プラスワン」地域から
日本への衣料品調達物流だ。 労務コストの上昇やス
トライキの頻発をきっかけに、中国から他のアジア
諸国に生産拠点を移す動きが本格化している。 移
転先としてはタイ、インドネシア、ベトナムなどに
加え、最近ではミャンマーやカンボジア、バングラ
デシュの注目度も高まっている。 日系企業からの需
要増を十分見込めると郵船ロジでは判断している。
その旗振り役の一人が総合開発営業部の鶴巻剛
志部長補佐だ。 英国系の海運会社を経て、一九八
八年に日本郵船グループでNVOCC(非船舶運
航)事業を展開する旧ジェイアイティー(JIT)
へ入社、海上輸送部門一筋に二〇年以上を過ごし
てきた。 海外経験の豊富なベテランでチャイナ・プ
ラスワン事業においても、鶴巻氏の幅広い知見が
物流の枠組み構築などで大きく活きている。
「昔から東南アジアに関心があった。 本当はマス
コミ志望で、報道の分野で日本と東南アジアに関
するテーマの取材をやりたいと思っていた。 それだ
けに外資系船会社から、JITに転職し、長年東
南アジアに駐在できたのは、自分には合っていた。
海上輸送、物流の分野で、日本と東南アジアの接
点の役割を果たす仕事に満足している」と言う。
二〇〇八年、JITなどが合併して生まれたN
YKロジスティックスジャパンは海上輸入専門の営
業を担当する部署を設置。 輸出に比べて弱かった
海上輸入事業の強化に乗り出し、衣食住関連の産
業で新規顧客の開拓に取り組んだ。 その活動を通
じてチャイナ・プラスワンに目を付けた。
中国から日本に衣料品などを持ってくる物流業
者はほとんど固定されてしまっている。 新たに割り
込む余地は少ない。 それより、日本の物流業界に
はまだ馴染みのないミャンマーやカンボジア、バン
グラデシュなどのチャイナ・プラスワン諸国に、ラ
イバルに先んじて地盤を築き、高品質の海上輸送
サービスをアピールしたほうが得策だと判断した。
アパレル品を始めとする流通業が有望なターゲッ
トだった。 しかし、NYKロジの主要荷主は重厚
長大メーカーで流通業界における知名度は低い。 鶴
巻氏らはスーパーや量販店などに片っ端から電話し
てアポを取り、高品質の輸送サービスの利点を売り
込むために奔走した。 その結果、GMSなどを荷
主に獲得。 他にも縫製業のミャンマー新工場向け設
備輸送などを一括受託することに成功した。
「自分が努力して狙って、頑張って契約を取れた
お客様から、『おたくにお願いしますよ』と言って
いただけた時に一番喜びを感じる」と言う。 逆に、
「あの時もう一本電話しておけばよかった」とか
「電話だけじゃなくてちゃんと会っておけばよかっ
た」と後悔していることもたくさんある、と苦笑
郵船ロジスティクス
日本と東南アジアの繋ぎ役として
「チャイナ・プラスワン」から日本への衣料品調達物
流に力を入れている。 現地の情報をきめ細かく提供する
ことで、荷主が抱く不安を解消し、信頼を勝ち取ってい
る。 輸入フォワーディングの仕事を貿易コンサルタント
として位置付け、荷主と直接会い、貪欲に話を聞くこと
を何より重視している。
総合開発営業部の鶴巻剛志部長補佐
海上フォワーダー
第 2部 最前線の仕事、やりがい、人事制度
31 NOVEMBER 2012
する。
今年七月、新たな物流商品の企画・開発や各地
の営業店の支援を行っている現在の総合開発営業
部に異動した。 地道な営業活動は現在も変わらな
い。 出勤は毎朝七時四五分ごろ。 まずはメールの
チェックに加え、物流や繊維の業界紙などのメディ
アを念入りにチェックし、営業に生かせる情報がな
いか確認する。
チャイナ・プラスワン地域からの製品調達を拡大
しようとしている経営トップのインタビュー記事が
あれば、すぐにその会社の営業担当者に連絡し、
アポイントを取らせる。 「東京以外に中日本や西日
本にも、チャイナ・プラスワンからの調達物流サー
ビスの販売手法を移植し、横展開していくのが今
の一番大きな仕事だ」と明かす。
ミャンマーやカンボジアなどの地域は、港湾設備
が十分整備されておらず、大型船舶が入れないな
どの問題も存在する。 フィーダー船でシンガポール
まで貨物を運び、そこから母船に積み替えて日本
まで届けるなど、海上フォワーダーとして蓄積した
経験を活かし、未熟なインフラの問題をカバー。 出
港日などの情報もきめ細かく荷主に連絡している。
こうした高いレベルで物流サービス提供に努めて
いるほか、大手スーパーや量販店などに営業する
際の大きな武器となるのが、過去に自動車や電機
メーカーと東南アジアで仕事をする中で身に付けて
きた、品質管理や業務改善のノウハウだ。
工場の生産状況などを毎日細かく荷主に報告し
て現地の動きを把握できるようサポートしたり、現
地のサプライヤーのパフォーマンスをKPI(重要
業績評価指標)で分かりやすく評価して荷主の参
考にしてもらったりと多岐にわたる。 先進的な取
り組みを紹介することで、中国以外での調達物流
に不慣れな顧客に喜んでもらえるという。
海上フォワーディングに必要なスキルを尋ねると、
「例えば車で道を走っていて、トレーラーに積まれ
たコンテナを見た時に、『あのコンテナには何が入っ
ているのだろう』とか『どこからどこまで運ばれて
いくのだろう』とか、常に問題意識というか、興
味を持っている、ということではないか」と言う。
個人的にはメコン川流域にあるタイ、ミャンマ
ー、カンボジアなどを中心とした「メコン経済圏」
の発展の可能性に着目している。 「いまのうちに自
分たちの力を付けて、現地法人を育成し、来るべ
き経済圏の拡大に備えるべきだ」と社内をたきつ
けている。
部署内で若手の人を対象に営業のトレーニングの
場を設けるなど、人材育成にも余念が無い。 「顧客
や他の業者より半歩先んじてほしい。 一歩先では
大変だが、半歩先であれば何とか独自サービスを
想像し、創り出せる。 それは自分で生み出した新
しい価値だから、自信にもつながる。 自分の座標
軸になる」と後輩たちにメッセージを贈っている。
「陸海空」の総合人材を育成
グローバル展開する総合物流企業として、各事
業部共通で、「どんなことにも挑戦するバイタリテ
ィーやリーダーシップ、広い視野などを備えた人材
の採用を重視している」(守住龍一人材開発課長)。
一〇年の経営統合による事業拡大の中で人手不足
感が生じていることもあり、例年は五〇〜六〇人
規模の新卒採用を、一三年は約七〇人とするほか、
中途採用者数も増やしている。
人材育成の面では、階層別の研修に加え、〇九
年に「Yusen Logistics Professional College」(Y
PC)を導入。 三〇程度のコースを設けており、社
員は営業、日本語や英語のプレゼンテーション、通
関業務、経理などの研修を受けることができる。
さらに、陸海空の各サービスを総合的に提供でき
る人材育成を目指し、一一年度にGSEP(Global
Sales Enrichment Program)をスタート。 国内外
の拠点から三二人の営業社員を日本に集め、航空・
海上フォワーディング、コントラクト・ロジスティ
クスの業務知識を学ぶとともに、顧客が抱える課
題に対してどのような解決策を提案するかメンバー
で討議し、プレゼンテーションさせるなどの経験を
積ませた。 今年度は世界各地の幹部候補クラスに
対する研修も新たに開始する計画だ。
グローバル規模で社員間のネットワーク形成を後
押ししたいとの思惑がある。 磯崎拓也人事部副部
長兼人事課長は「海外も計画を立ててきちんと研
修しないと、グローバルな競争の中でライバルに太
刀打ちできない」と気を引き締める。 (藤原秀行)
人事戦略
ミャンマーの首都ヤンゴンでコンテナに荷物を積み
込む郵船ロジグループの作業員たち。 同社が力を入
れている「チャイナ・プラスワン」から日本への調達
物流を現地で支えている。
特集 物流のプロになる
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