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物流指標を読む
第1 回
DECEMBER 2012 82
日中関係悪化の波紋
第48 ●9月の中国向けの輸出はマイナス14.1%
●輸出不振は国内企業の増産意欲の減退にも直結
●中国との関係悪化で国内企業の3割に悪影響
さとう のぶひろ 1964 年
生まれ。 早稲田大学大学院修
了。 89年に日通総合研究所
入社。 現在、経済研究部担当
部長。 「経済と貨物輸送量の見
通し」、「日通総研短観」など
を担当。 貨物輸送の将来展望
に関する著書、講演多数。
深刻な輸出不振
十一月十二日に内閣府が発表した「二〇一二年
七〜九月期四半期別GDP速報(一次速報値)」に
よると、七〜九月期の実質GDP成長率は前期比
でマイナス〇・九%(注:年率換算マイナス三・
五%)と大幅な悪化となった。 マイナス成長の最
大の要因は外需の落ち込みであり(注:寄与度は
マイナス〇・七%)、財貨・サービスの輸出は前期
比でマイナス五・〇%と、東日本大震災直後の一
一年四〜六月期(マイナス六・〇%)以来の大き
なマイナス幅となっている。
輸出の不振は極めて深刻だ。 九月の「貿易統
計」によると、輸出総額は前年同月比でマイナス一
〇・三%となっており、とくに西欧向け(マイナ
ス二六・一%)とアジア向け(マイナス八・三%)
が足を引っ張った。 なかでも最大の輸出先である
中国向けは、マイナス一四・一%と大きく落ち込
んでいる。 中国経済の減速に加え、九月中旬以降
の反日感情の高まりを受けて、重機用エンジンな
どの原動機(マイナス四八・七%)、自動車(マ
イナス四四・五%)、自動車の部分品(マイナス一
七・五%)等の不振が目立った。
日中関係の改善は当面望むべくもなく、輸出が
急回復することは考えにくい。 また、輸出の不振
は国内企業の増産意欲をも失わせており、生産活
動や設備投資の先行きにも暗い影を落としている。
前述のとおり、中国は今や米国を抜いて、わが
国の最大の輸出先となっており、中国向け輸出の
大幅減の影響は小さくない。 たとえば大和総研で
は、反日デモを避けるための中国現地工場の操業
停止や、対日制裁とみられる通関の厳格化、不買
運動などに伴い、中国向けの機械や部品の輸出が
一年で一兆円減ると仮定した場合、国内製造業も
部品や機械等の生産を減らさざるを得ず、その結
果、裾野を含めた生産額は二兆二〇〇〇億円減少
すると推計している。 これにより、生産額から材
料費などを除いた付加価値の合計であるGDPは、
実質で八二〇〇億円、率にして〇・二%押し下げ
られるという。
また、帝国データバンクが十一月に発表した「中
国との関係悪化に関する企業の意識調査」による
と、中国との関係悪化に伴い、国内企業の約三割
が悪影響を被っているという(表)。 本調査は、一
〇月一九日〜三一日に、全国二万二八七九社に対
して実施したものであり、一万五三四社から回答
を得ている(回答率:四六・〇%)。
調査結果のポイントは以下のとおり。
?中国との関係悪化、企業全体の約三割が悪影響、
「輸送用機械・器具製造」では約六割
中国との関係悪化について、企業の二九・六%
が「悪影響」と回答。 業界別では『製造』が三
八・九%、『運輸・倉庫』が三八・二%。 「輸送用
機械・器具製造」では六一・二%、「機械製造」で
は五一・八%と五割超。
?日中関係悪化により三社に一社が売り上げ「減
少」
日中関係の悪化前と比べた売り上げ(通期ベー
ス)、「減少」は全体では三三・六%。 『製造』で
は四三・四%、『運輸・倉庫』では四六・五%と
四割超。
?具体的な影響、「中国への出張、渡航の自粛」、
「2012年7〜 9月期四半期別GDP速報(1次速報値)」(内閣府)
「貿易統計」(財務省)
「中国との関係悪化に関する企業の意識調査」(帝国データバンク)
83 DECEMBER 2012
以上のように、最も大きな影響を受けているの
は機械メーカーであるが、輸出の減少や日本国内
での生産・出荷の減少に伴い、運輸・倉庫といっ
た物流事業者も少なからず影響を受けていること
が分かる。
注目すべき点は、中国と直接事業を行っていない
企業へも悪影響が波及していることである。 回答
のあった一万五三四社のうち、中国と直接事業を行
っている企業数は一六八七社(一六・〇%)に過
ぎなかったが、「日中関係の悪化により悪影響を受
けている」と回答した企業数は三一二二社に及ぶ。
言い換えれば、自身では中国とは直接事業を行
っていないが、中国と直接事業を行っている企業
の下請けなどをしている関係で、売り上げの減少
などの悪影響を被っている企業も多いということ
だ。 とくに自動車産業などは裾野の広い業界であ
り、日本ならびに現地工場における自動車生産の
減少を受けて、部品・部材メーカーなどにも悪影
響が及んだものと考えられる。
日中関係の改善は当面望めない
先ほど、「日中関係の改善は当面望むべくもな
い」と書いたが、それは、中国が仮想敵国である
日本に対し強硬な態度をとり続けなければ、政権
がもたない可能性があるからだ。
筆者は国際政治の専門家ではないので、以下の
見解はあくまでも他の識者の見解に準拠したもの
であるが、中国は少数民族問題、貧富格差の拡大、
インフレ、政治家や役人の腐敗など様々な内政問
題を抱えており、国民の不満のマグマが相当大きく
なっているであろうことは想像に難くない。 だか
ら、国民の批判の目を日本に向けさせる必要があ
るのだ。 また、以前の本欄において、「チャイナ・
リスク再考」と題して、中国経済がすでにマイナ
ス成長に陥っているという説を紹介した。 本当に
マイナス成長なのかどうかは分からないが、経済
がボロボロになっているということは絶対に隠蔽
したい事実であろう。
したがって、中国が日本に対する強硬な態度を
しばらくの間は変えるはずがない。 ゆえに、日中
関係の改善は当面望むべくもないのである。
ところで、日中の関係が悪化したのは、日本政
府が尖閣諸島のうち魚釣島など三島を国有化した
からなどとのたまう識者やマスコミ関係者が多いこ
とに驚く。 尖閣諸島の国有化が中国を刺激したこ
とは紛れもない事実ではあるが、それは根本的な
原因ではなく、中国は、大衆の愛国心を煽り、国
民の批判の目を国外に向けさせるための道具として
それを利用したに過ぎなかったのではないか。 尖
閣諸島の国有化が反日感情を煽ったというのであ
れば、たとえば一〇年九月に尖閣諸島沖で中国漁
船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件を契機に、
中国で反日感情が高まったのは一体何だったのか。
中国が日本を仮想敵国としているのは何も今に始
まったことではない。
反日暴動などの暴挙の結果、中国の国際的な信
用はかなり低下した。 また、現地の日系企業の撤
退に伴う雇用の喪失や日本からの資本財等の提供
が停止した場合の影響など、中国経済が被る悪影
響に気づき始めた中国人も多いそうだ。 日中が角
を突き合わせ続けた場合、おそらく行き着く先は
共倒れだろう。 喜ぶのは米国だけではないか。
「税関手続きの遅延」が二大項目
中国と直接事業を行う企業の具体的な影響は
「中国への出張、渡航の自粛」が三九・四%で最多、
次いで「税関での手続きの遅延」が三一・〇%。
?中国と直接事業を行う企業の過半数が、今後も
「現状の事業規模を維持」
中国と直接事業を行う企業のうち「現状の事業
規模を維持」は五四・五%。 「事業の縮小、撤退
を検討」は一五・五%で、六社に一社は縮小や撤
退を検討。
?中国の市場の魅力は企業の二九・五%、生産拠
点の魅力では三五・四%が「低下」したと回答
中国との関係悪化による影響
全体
大企業
中小企業
農・林・水産
金融
建設
不動産
製造
卸売
小売
運輸・倉庫
サービス
その他
機械製造
輸送用機械・器具製造
小規模企業
悪影響 好影響 影響はない 分からない 合計
(構成比%)
注:母数は有効回答企業数1 万534 社 出所)帝国データバンク資料より一部抜粋
29.6
30.1
29.5
24.6
15.9
21.9
13.1
19.2
38.9
0.6
0.4
0.7
1.2
2.3
0.0
0.4
0.0
0.8
45.2
45.9
45.0
47.5
52.3
46.1
58.9
54.8
37.4
24.6
23.6
24.9
26.7
29.5
32.0
27.6
26.1
22.9
33.0
21.6
38.2
22.7
21.6
42.4
51.7
36.7
52.4
37.8
24.1
26.2
24.8
24.1
37.8
0.5
0.4
0.2
0.9
2.7
51.8
61.2
0.9
0.0
26.6
25.5
20.7
13.3
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
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