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湯浅和夫の
湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表
《第66回》
JANUARY 2012 58
にお知らせせず、大変失礼いたしました。 先
生にちょっと驚いてもらおうという下心もあ
りましたが、別に驚かれた様子もなかったで
すね」
「いえ、次長とは工場で一度お会いしてま
すが、支社長とは今日初めてでしたので、一
体どんなメンバー構成なのかなと興味は持ち
ましたよ」
大先生の答えに部長が頷いて続ける。
「今日は、昨年末に開きましたロジスティ
クス会議のご報告と、これから当社のロジス
ティクスを支えてもらう、こちらのお二方を
改めて先生にご紹介しようと思って、このよ
うな場を設けました」
「なるほど、生産と営業のキーマンですね。
それは頼もしい」
大先生の言葉に支社長が恐縮しながら、答
える。
67「『必要なものしか作らない』ことを
軸にして生産の見直しを進めたら、
次々と改善提案が出てきたんです」
《第117
ロジ部長主催の新年会の席で
新しい年が明けた。 例年になく「決意も新
たに」という強い思いがあちこちで感じられ
る年明けになった。 仕事始めを過ぎてすぐに
大先生がコンサルをしているメーカーのロジ
スティクス部長から電話があり、新年会に招
待された。
部長から「めずらしいメンバーです」と言
われていたが、行ってみると、たしかに予期
しないメンバー構成だった。
そこには、ロジスティクス部長と主力工場
の、工場長に次ぐ立場にある次長、それに
営業部隊の柱である東京支社長の三人がいた。
新年の挨拶を済ませると、部長の音頭で乾杯
をした。 グラスのビールを一気にあけて、部
長が事情説明を始めた。
「先生には、今日のメンバーについて事前
メーカー物流編 ♦ 第
28
回
全体最適を目指した営業部門・生産
部門との調整が、ロジスティクス部の主
導で進んでいる。 生産部門では月次生産
から週次生産への移行が予想以上に順
調のようだ。 現場の意識も変わり、取り
組みにドライブがかかってきた。 そして、
もう一方の営業部門はというと‥‥
大先生 物流一筋三〇有余年。 体力弟子、美人弟子の二人
の女性コンサルタントを従えて、物流のあるべき姿を追求する。
ロジスティクス部部長 営業畑出身で調整能力に長けた改
革のキーマン。 「物流はやらないのが一番」という大先生の
考え方に共鳴。
ロジスティクス部業務課長 物流部門では一番の古株。 現
場の叩き上げで、当初は改革に頑迷に抵抗していたが、大
先生の影響を受け、態度を一変させた。
ロジスティクス部主任 経営企画室主任の立場でロジステ
ィクス導入プロジェクトに参画し、その後、ロジスティクス
部新設と共に同部主任に異動。 人当たりは柔らかいが物怖
じしない性格。
59 JANUARY 2012
「キーマンだなんてとんでもありません。 部
長の熱意にほだされて、よくわからないまま、
ロジスティクスの片棒を担いでいるだけです」
「担いだ感じはどうですか?」
「意外と心地いいです」
大先生の問い掛けに対する支社長の軽妙な
返事に座が沸く。 大先生が思わず「いいメン
バーを集めましたね、部長」と部長に声を掛
ける。 部長が笑いながら、何度も頷く。
部長の話によると、支社長とは同じ営業と
いうこともあり、以前から親しかったそうだ。
工場の次長とは今回のロジスティクス導入を
通じて知り合った関係だ。 三人とも年齢が近
く、この会社を支える、文字通り核となる人
材といった感じだ。
「ところで、昨年末の会議は興味深い展開
だったようですね。 議事録を主任からいただ
きました。 それに、業務課長からオブザーバ
ー感想記みたいなものも来ました」
「うわー、業務課長からですか。 それは、
何と言うか、過激な言葉が飛び交っていたん
じゃないですか?」
業務課長という言葉を聞き、部長が仰け反
る仕草をする。
「はい、結構過激でした。 それに、根回し
だとか策士という言葉が躍ってました。 まあ、
臨場感溢れる内容で、主任の議事録と重ね
合せると、その場にいるような感じになりま
した」
部長が「そうでしょうね」とちょっとしか
め面をする。 大先生が続ける。
「二人のレポートの中で、表現は違いますが、
営業担当役員の発言について厳しい指摘があ
りました。 以前からときどきお名前が出てま
したが、どんな方なんですか?」
営業担当役員はどんな人?
大先生の興味深そうな問い掛けに、すぐに
支社長が答える。
「部長や私にとってはいい上司なんです」
何となく皮肉っぽい言い方に、大先生が「御
しやすいという意味ですか?」と率直に聞く。
支社長が苦笑いし、「御すなどとんでもあり
ませんが、それに近い意味合いであることは
たしかです」と答える。
「私の上司ですから、こんなことを言っては
不謹慎かもしれませんが、今日は無礼講とい
うことでお許し願います」
部長と次長が頷き、部長が「忌憚のない意
見交換をしよう」と言う。 支社長が「了解」
と頷いて続ける。
「人間的に悪い人ではないんです。 営業部
門を守るという意識が強いんです。 タイプと
しては売上一辺倒の人です。 ですから、売り
上げやお客様に少しでも影響を与えるかもし
れないという施策が出ると、条件反射的に反
対することになるわけです」
「なるほど、営業防衛本能ですね。 そうす
ると、お客さんに物申すなどとんでもない的
なところも強いんでしょうね?」
工場の次長が確認する。 それを受けて部長
が続ける。
「はい、そういうところもあることはたしか
です。 本来は、役員なのだから、全社最適を
まず考えて、その中で営業のあり方を考える
という思考回路になるのが必要なんでしょう
けど、営業のことしか視野にないんです。 そ
れと、おっしゃるように、お客様の言うとお
りに対処しろというのが基本方針です」
「もちろん、そんな営業はいまはもう通用
しません。 お客様も満足されないし、うちの
連中もやる気が出ません。 いまは、うちの営
業の基本は提案営業です。 まあ、なかなかう
まくはいきませんけど‥‥」
支社長が補足する。 工場の次長がすぐに質
問する。
「そんなことしたら、その担当役員から文
句が出るのでは?」
支社長が頷いて、答える。
「いや、何と言うか、要するに、期待通
りに売り上げを上げていれば、それでいいっ
てことですよ。 なぜ売り上げが上がってい
るのかというメカニズムには興味はないんで
す。 結果としての数字だけを見ているわけで
す。 でも、中途半端な成功体験を持っていて、
それを現場に押し付けてくるというタイプで
はないので、それはそれで助かります」
「押し付けてきても、お二人なら、撥ねつ
けるでしょう?」
次長が笑いながら問いかける。 それに支社
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長が即答する。
「それはそうかもしれませんが、上司とそう
いう摩擦があると、何かと無駄な時間を費す
でしょ。 その時間がもったいないです。 です
から、われわれに好きにやらせている、いま
の役員は案外と曲者かもしれません」
「反面教師を装うことで部下に真っ当な道
を歩ませているとしたら、リーダーシップ論
という点で新説かもしれませんね?」
大先生の言葉に三人が「たしかに」と言っ
て笑う。 大先生が、思い出したように、次長
を見て、「御社では、たしか複数の工場があ
ったと思うんですが、次長がおられる工場は
いいとして、他工場では、ロジスティクスは
どう展開してるんですか?」と聞く。 待って
ましたという感じで、次長が座り直して話し
出す。
「はい、うちは、私のところ以外に全国に
五工場あります。 当然、同一歩調で動いて
もらわないと困りますので、常務の肝煎りで、
各工場の次長クラスを集めた工場改革プロジ
ェクトチームを設置して、いま動かしていま
す。 私が、主査を命じられて、こちらの部長
に副査に就いてもらっています」
「へー、そうですか。 お二人が中心となっ
ているんですね?」
大先生が感心したように言う。 次長が、遠
慮っぽい感じで答える。
「正直なところ、中心となっているのは部
長です。 部長の人脈で動いているようなもの
なことはないんだという認識が広まっていき
ました」
ようやくボトルネックが見えてきた
次長が一息入れるのを見て、部長が補足す
る。
「やっぱり生産の連中はすごいなと思いまし
た。 『必要なものしか作らない』ということを
軸にして見直しを進めたら、次々改善提案が
出てきたんですよ。 定期的に各工場の関係者
を集めて拡大会合もやってるんですが、各工
場で競って成果を発表するという雰囲気にな
っています」
「へー、それはいいですね。 楽しそうだ。
今度その拡大会合というのを見に行ってもい
いですか?」
大先生が思わず声を出す。
「それはもう大歓迎です。 お越しいただけ
たら、みんなも喜びます」
「それでは、次回の日程が決まったら、教
えてください。 行きますから。 それはいいと
して、生産では、あまり心配することはない
ということですね?」
「はい、製品在庫だけでなく、部材や仕掛
品の在庫も徹底して減らすんだという取り組
みを進める過程で、ようやく本来の意味での
制約条件つまりボトルネックが見えてきまし
た」
「回避不能な在庫増要因ですか?」
大先生が興味深そうに質問する。
です。 実は、私以外五人の次長がいるんです
が、そのうち三人は部長と同期で、ツーカー
の関係なんです。 そういう人脈で一気に進ま
せようという常務の魂胆です。 でしょ?」
次長に振られて、部長が「いやいや」と顔
の前で手を振って、答える。
「私が中心だなんてとんでもないです。 ただ、
常務に、すぐに本音で話し合いができるチー
ムにしたいという思いがあったことはたしかで
しょうね。 何か壁にぶつかったら、おまえが
調整しろということだろうと私も思ってます」
「そのあたりのきめ細かい配慮はさすがだな。
常務らしい」
支社長が二人の話に感心する。 大先生も「企
業の革新的な取り組みは人脈を使えという、
これも新しいリーダーシップ論かな?」と独
り言のように言う。 支社長が「そうかもしれ
ません」と相槌を打ち、さらに次長に質問する。
「それで、そのプロジェクトチームは順調に
進展しているんですか? まあ、常務という
重しがあるので、特に支障は出ないでしょう
けど‥‥」
「はい、まあ順調だといえます。 当初、ネ
ックになったのは、これは主にうちの現場レ
ベルですが、月次の生産を週次に変えたら、
製造原価が上がったり、作業負荷が大きくな
ったりするのではないかという固定観念とい
うか、まあ錯覚と言ってもいいんですが、そ
れらにとらわれていたようです。 でも、週次
生産の手順を子細に検討していく中で、そん
湯浅和夫の
61 JANUARY 2012
てくださいな」
部長の思いを察したように支社長が答える。
部長が「そうなったら、検討をお願いしに行
きますよ」と答える。 大先生が頷き、次長に
聞く。
「部材などの調達リードタイムの短縮は結
構大変なんじゃないですか?」
「はい、いま人をやって、いろいろ検討さ
せてますが、一部の部材については相手側の
協力がもうひとつ得られない状況です。 いま
のところ、それらについては在庫を多めに持
たざるをえません。 安心在庫というわけです」
部長が手に持ったグラスを見ながら、独り
言のように言う。
「場合によっては、内製化を考えてもいい
かもしれない‥‥」
「それは十分に検討に値します。 内部でも
その案が出てました。 この一連の改革で、ス
ペース的にも人員的にも余裕ができるので、
内製もできないわけではないと思う。 それに
ついては、もう少し時間をください」
部長が「はい」と言って、大きく頷く。 大
先生が部長に、確認するように聞く。
「実現可能な線で、製品在庫は、どのくら
いの水準をねらっているのですか?」
「はい、目標としているのは、現状の半分
の水準です。 在庫半減です」
「なるほど、結構挑戦的な水準ですね。 そ
の実現のためには、営業サイドの対応も避け
られないと思いますが、営業の方は問題なく
対応可能ですか?」
大先生の突然の質問に「それがですね‥‥」
と支社長が、ちょっと口ごもる。 部長が、支
社長に笑いかける。 支社長に何かを促してい
るようだ。 支社長が頷いて、居住まいを正し
た。 営業では何かありそうだ。 次長が興味深
そうな顔で支社長を見る。
新たに料理が運ばれてきて、話し合いは小
休止に入った。
「はい、製品在庫については現状の生産設
備が制約になっています。 部材については、
言うまでもないですが、調達リードタイムに
よる制約が起こっています」
次長の話を受けて、部長が、なぜか支社長
に向かって状況を説明する。
「最短の稼働時間でも、機械を動かすと、
一週間分の販売量をはるかに超える量を作っ
てしまうという設備があるんです」
「なるほど、設備についてはよくわからない
けど、もし、そのような製品はアイテムカッ
トの対象にした方がいいというなら、相談し
Illustration©ELPH-Kanda Kadan
ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大
学院修士課程修了。 同年、日通総合研究
所入社。 同社常務を経て、2004 年4
月に独立。 湯浅コンサルティングを設立
し社長に就任。 著書に『現代物流システ
ム論(共著)』(有斐閣)、『物流ABC の
手順』(かんき出版)、『物流管理ハンド
ブック』、『物流管理のすべてがわかる本』
(以上PHP 研究所)ほか多数。 湯浅コン
サルティング http://yuasa-c.co.jp
PROFILE
『図解でわかる 物流とロジスティクス』
湯浅和夫/内田明美子/芝田稔子
1,890 円(税込)アニモ出版
著者新刊
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