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FEBRUARY 2012 90
小売企業の収益源に
先月号および先々月号で、経済産業省が旗振り役
を務めるサプライチェーン全体最適を目指す一大プロ
ジェクト、製配販連携協議会について考察した。 返
品削減や配送最適化を実現すべく、わが国を代表す
る製配販企業が議論を交わしているわけだが、こう
した問題に取り組む際、物流のあり方を規定する取
引制度にまで踏み込んだ対応が不可欠であることを
論じた。 今回はこの議論の延長で、サプライチェー
ンの全体最適を阻害する古くて新しい問題、センタ
ーフィーについて取り上げることにしよう。
センターフィーは商品センター使用料とも呼ばれ、
「小売業専用センター(以下、専用センター)の運営
コスト」と「専用センターから小売店舗までの配送
コスト」を足したものである。 グローサリー・カテゴ
リー(加工食品、菓子、飲料、酒、日用雑貨品等)
を取り扱うわが国小売業(スーパーマーケット、ド
ラッグストア等)は、その多くが専用センターを開
設・運営している。
小売業が専用センターを開設することで、ベンダー
(メーカー・卸売業)は、従来の個店配送をする必要
センターフィー問題は
現行制度上では是正不能、
商物一致の新たな仕組みを
算出基準や根拠が明らかでないセンターフィーがベンダー
企業の収益を圧迫し、小売企業の懐を潤している。 サプラ
イチェーン全体最適の大きな障壁となっている。 商物分離の
現行取引制度の延長線上ではこの問題は解決できない。 小
売店着価格からセンター着価格、あるいは蔵出し価格での
取引にシフトし、「コストオン方式」を徹底する必要がある。
第11 回
がなくなり、専用センターに一括納品さえすれば済む
ようになった。 このような専用センターを介したベン
ダーと小売業の取引では、物流の仕切り位置は原則
として専用センター着時点に敷かれている。
これに対し、商流(所有権の移転)に目を転じて
みよう。 小売業の多くは、専用センターを開設・運
営した後も、商品購入をセンター着価格ではなく小
売店着価格(店舗荷受け渡し価格)で行っている。
つまり商流上の仕切り位置は、小売店着時点という
ことになる。 物流と商流では、仕切り位置が違って
いる。
こうした商物分離の現状が、センターフィーの発
生要因となっている。 商流上は、小売店までの配送
が規定されているにも関わらず、実際の商品の受渡
しはセンター着時点であるため、「センター運営コス
ト」と「センターから店舗までの配送コスト」がベ
ンダー企業に課せられるのである。 支払先は小売業
である。
センターフィーは、売上げや仕入れに対する料率
の形で設定されることが一般的である。 近年、先進
的な小売業は損益計算書で「物流収入」などの項
目を発表しているが、これはおよそセンターフィー
収入を表すものと考えて良い。 図表は各小売業者の
営業収益に占める物流収入の比率を示したものだが、
一〜三%台程度の比率になっている。
小売業の多くは同業他社と熾烈な競争を繰り広げ
ており、利益率の低いビジネスを余儀なくされてい
る。 センターフィー収入は、本業を助ける重要な収
益源の一つになっている。 極論すれば、店頭におけ
る本業は赤字すれすれであっても、センターフィー
をはじめとするリベート等を徴収することで、最終
的には黒字を確保するという小売業のビジネスモデ
ルが確立されつつあるのかも知れない。
センターフィーは商流と物流が乖離している以上、
発生するのは止むを得ない。 小売業が専用センター
を開設・運営することで、ベンダーもそれなりのメ
リットを享受しているのであるから、それをフィー
の形で徴収すること自体は何ら問題がない。 しかし、
ベンダーにとってはセンターフィーの支払いが重い負
担になっているのが実情だ。
食品産業センターが二〇一一年六月に発表した
「平成二二年度食品産業における取引慣行実態調査
結果」を見ると、ベンダーの五三・八%が「センター
フィー負担はコスト削減分を上回る」、八〇・七%
物流行政を斬る
産業能率大学 経営学部 准教授
(財)流通経済研究所 客員研究員
寺嶋正尚
91 FEBRUARY 2012
が「算出基準、根拠が明らかにされていない」と回
答している。 これがセンターフィー問題である。 商
流上、小売業の直接の取引相手は卸売業であるから、
直接的に苦慮するのは卸売業だが、メーカーはその
卸売業に損失補填する形で出費を迫られる。 センタ
ーフィーは川上企業共通の問題になりつつある。 実
際、ベンダー企業の決算報告書を見ると、センター
フィーの支払い増加を主要な減収要因にあげている
例が少なくない。
行政は法制面からサポートを
先にセンターフィーを?古くて新しい問題?と記
したが、昔から存在するこの問題を、なぜ現在に至
るまで解決できないのだろうか。 公正取引委員会は
「大規模小売業者による納入業者との取引における
特定の不公正な取引方法(大規模小売業告示)」の
中で、「不当な経済上の利益の収受等」の一つとし
てこのセンターフィーを取り上げている。 小売業に
よる優越的地位の濫用に該当すると思われるケー
スも少なくない。 しかし、センターフィー問題は一
向に是正されてこなかった。
現行の仕組みの上では、センターフィー問題を取
り締まる制度が存在しない。 センターフィーの算出
根拠が不明瞭であり、情報開示されていないと批
判したところで、それらを明らかにしたり、ベン
ダーに説明したりする法的義務が存在しないので
あるから、求めること自体無謀であろう。 公正取
引委員会が、優越的地位の濫用のケースに該当す
ると判断しようとしても、そもそも小売業の専用
センターに幾らコストがかかっているのかを把握で
きないのであるから、取り締まる
こと自体に無理がある。
こうした問題を解決するには、
センターフィーが発生しないような
仕組みを作らなければならない。 商
流と物流の乖離を解消し、先に見
た「仕切り位置」を揃える必要があ
る。 商物一致のシステムでは、理
論上センターフィーは発生しない。
具体的には、物流同様、取引
制度もセンター着価格で仕切るか、
あるいはもう一歩進んで蔵出し価
格(生販価格)での取引に移行す
れば良い。 そうすればセンター運
営コストおよびセンターから店舗ま
での配送コストは外部化されるこ
とになり、「コストオン方式」を徹底することができ
来る。 小売業としてもコスト意識が芽生え、効率化
のインセンティブが付与されることだろう。
行政のサポートとしては、先月号で見たような米
国におけるロビンソン・パットマン法のような法律
の制定を検討すべきだろう。 正当な理由がない場合
の価格差別を禁止する法律であるが、一回ごとの取
引において、要したコストをきちんと反映したプラ
イシングを要求するものである。 こうした趣旨の法
律が徹底されれば、わが国のように、提供されたあ
らゆる流通機能に対するコストを内包した、いわば
どんぶり勘定の「小売店着価格」ではなく、「蔵出
し価格(生販価格)」へと緩やかに移行していくこ
とだろう。
これまで三回にわたり、取引制度について考察し
てきた。 物流サービスの提供者が、サービス内容を
変えようとする際、ただ闇雲にサービスレベルを下
げようとしても実現しない。 サービスレベルを一方
的な引き下げは、納価引下げという形で自らに跳ね
返ってくるのがオチである。 提供機能に見合ったフ
ィーを徴収するにはそれなりの仕組みが必要であり、
その際、取引制度の見直しは不可欠になる。 行政と
しても、企業がより効率的な物流を目指すよう、取
引制度の改訂を促すような施策を実施すべきといえ
るだろう。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、
流通経済研究所を経て現職。 日本物
流学会理事。 客員を務める流通経済研
究所では、最寄品メーカー及び物流業
者向けの研究会「ロジスティクス&チャ
ネル戦略研究会」を主宰。 著書に『事
例で学ぶ物流戦略(白桃書房)』など。
小売業各社の物流収入比率(物流収入/営業収益)の推移
(資料)各社有価証券報告書をベースに流通経済研究所・木島豊希氏が作成
3.5%
3.0%
2.5%
2.0%
1.5%
1.0%
0.5%
0.0%
2006 2007 2008 2009 2010
ヤオコー
バロー
ヤマナカ
ライフコーポレーション
オークワ
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