ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年3号
特集
解説 台頭するアジア勢が欧米列強に挑む

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台頭するアジア勢が欧米列強に挑む  グローバル物流市場の中心地が欧米からアジアにシフト している。
これに伴い中心的プレーヤーの顔触れも変わっ てきた。
欧米のインテグレーターや大手フォワーダーを向 こうに回し、オーストラリア、韓国、中国などの新興勢力 が台頭。
日本の大手もアジア展開を加速させている。
乱戦 を勝ち抜くのは誰か。
           (大矢昌浩) 欧米の物流大手が新興国戦略を修正  二月一七日、オランダに本社を置く国際インテグ レーターのTNTエクスプレスは、米UPSからの買 収提案を拒否したと発表した。
UPSは改めて修正 案をTNTに提出する模様だ。
 
圍裡圓粒価は昨年五月に郵便部門を分社化で切 り離して以降、一時は半値近くまで下落し、直近で は一株当たり六ユーロ前後で推移していた。
これに 対してUPSは一株当たり九ユーロ(時価総額にし て約五〇〇〇億円)での買収を提示したが、TNT の取締役会はこれを退けた。
ただし、今後もUPS との協議は継続していくという。
 
圍裡圓魯ランダの郵政局をその前身とする。
八九 年に民営化し、九八年にアムステルダムなど四つの株 式市場に上場した。
その後、〇五年十二月に主要部 門の一つだったロジスティクス事業の売却を発表。
エ クスプレス事業と郵便事業に特化すると同時に、成長 の著しい新興国で買収攻勢に打って出た。
 この選択と集中は市場から高い評価を受け、同社 の株価は他の国際インテグレーターを上回る勢いで上 昇した。
ところが昨年、風向きが一八〇度転換した。
中国、インド、日本などを含むアジア事業とブラジル を始めとするラテンアメリカ事業の赤字が膨らみ、そ れまでの新興国シフトに対する批判の声が高まった。
 昨年十一月にはTNTの株式の五%超を保有する 機関投資家から、経営戦略の見直しとマリー・クリ スティーン・ロンバードCEOの更迭を要求される事 態へと発展。
リスクの大きな新興国への過剰投資と マネジメントの失敗が企業価値を毀損したとの非難を 受けている。
 この機関投資家の要求自体は撥ね付けたものの、翌 十二月にTNTはインドの国内輸送部門を現地の物 流企業に売却している。
〇六年九月にインドの国内 宅配便会社「Speedage Express」を買収し、「TNT Speedage」として展開していた事業を手放した。
 このほかにもTNTは、〇七年三月に中国陸運大 手の華宇物流集団(現・TNT華宇)、〇九年四月に ブラジルの国内宅配便「Expresso Aracatuba」をそ れぞれ買収しているが、戦略の見直しは必至で、イ ンドに続き中国における国内輸送事業の売却・縮小 も噂されている。
 経費削減の号令は当然、日本にも下っている。
日本 法人のTNTエクスプレスの愛敬澄雄執行役員は「現 在は新規投資が難しい状況に置かれているが、我々 としては業務のムダを徹底的に省き、生産性を向上 することに努めている。
アジアパシフィック全体の今 後の事業戦略については、我々がコメントできる立場 にはない」という。
 物流業世界最大手のDHLも昨年六月に中国の国 内宅配便事業から撤退している。
〇九年に買収した ばかりの宅配便会社三社(上海全宜快逓、北京中外 運速逓、香港金果快逓)の全株式を深圳市友和道通 実業に売却し、国際物流に回帰した。
 こうして欧米の大手が従来のアジア戦略の修正を 迫られる一方で、アジアの新興勢力が台頭している。
その代表格が豪トール・ホールディングスだ。
果敢な 買収を重ねてグローバル市場に名乗りを上げた同社の 勢いは、リーマンショック後もとどまることを知らな い。
この三年間だけでもアジアを中心に約三〇社も の物流企業を傘下に収めている。
その中には日本の フットワークエクスプレスも含まれる。
 中国勢では有力宅配会社の順豊速運( S . F . EXPRESS)がそのネットワークをアジア全域に拡大 MARCH 2012  16 解説 物流大手の 特集 している。
日本にも昨年、順豊エクスプレスを設立。
同一〇月に中国、香港、台湾、韓国、シンガポール、 マレーシアを対象とする国際宅配便事業を開始した。
 韓国LGグループのハウスフォワーダー、パントス ロジスティクスの事業拡大も続いている。
同社の物量 はこの五年間で約三倍に膨らんだ。
一一年度の海上 貨物取扱量は一八〇万TEUに達したという。
海上 フォワーダーとして世界第四位に浮上したことになる。
本格攻勢に踏み切った日系物流企業  欧米の物流市場は、国際インテグレーターと欧州の メガフォワーダーによる寡占化が進んでいる。
その筆 頭がDHLだ。
国際宅配便事業の他に、3PL事業、 フォワーディング事業でも、それぞれ世界最大手クラ スの規模を誇っている。
 同社をはじめキューネ+ナーゲル、DBシェンカー、 パナルピナなど、欧州のメガフォワーダーの物量は年 間一〇〇万TEUをはるかに超えている。
これに対 して日系は日本通運や郵船ロジスティクスなどの最大 手でも四〇万TEU前後にとどまっている。
 国際ロジスティクス・アドバイザーの平田義章氏は 「かつては日系と欧州系の取扱量にそれほどの開きは なかった。
ところが、バブル崩壊以降、日系企業が 内向きになっている間に、欧米では業界再編が大き く進んだ。
その結果、メガフォワーダーが誕生し、欧 米市場を支配下に置くことになった」と説明する。
 アジア市場でもメガフォワーダーの存在感は増して いる。
ただし、今のところアジアにはまだリーダーと 呼べる企業は存在しない。
「国際インテグレーターや メガフォワーダーも、いまだ新興国でのノウハウは身 につけておらず、上手くビジネスを運営できていな い。
日系物流企業にも、まだチャンスは残されてい 17  MARCH 2012 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 日通 近鉄エクスプレス 郵船ロジ 日立物流 日新 バンテック ヤマトHD アルプス物流 日本梱包運輸倉庫 三井倉庫 金額 (百万円) 06 年3月期 会社名 順位 比率 (%) 金額 (百万円) 07 年3月期 比率 (%) 金額 (百万円) 08 年3月期 比率 (%) 金額 (百万円) 09 年3月期 比率 (%) 金額 (百万円) 10 年3月期 比率 (%) 有力上場物流企業10 社 海外売上ランキング 金額 (百万円) 11 年3月期 比率 (%) 上場物流企業10 社の海外売上高合計および海外売上高比率 ※06 年3月期〜08 年3月期はデータの揃った9 社で計算 900,000 800,000 700,000 600,000 500,000 400,000 300,000 200,000 100,000 0 25 20 15 10 5 0 06年 3月期 07年 3月期 08年 3月期 09年 3月期 10年 3月期 11年 3月期 (百万円) (%) 海外売上高合計 ( 左軸) 海外売上高比率 ( 右軸) 17.6 19.1 19.0 17.5 15.0 17.9 349,821 19.5% 392,948 21.0% 402,692 21.2% 364,423 19.9% 281,918 18.0% 145,945 54.3% 165,447 57.1% 166,713 57.0% 147,192 56.5% 117,462 55.4% 84,643 50.2% 100,779 55.2% 101,220 54.0% 96,113 57.4% 63,124 51.1% 非公表 10%未満 非公表 10%未満 非公表 10%未満 46,768 13.3% 38,310 11.5% 48,378 22.8% 50,587 23.0% 51,103 22.4% 39,838 20.1% 28,950 17.6% 11,864 8.5 16,280 10.8 22,699 14.0 21,553 15.4 15,683 13.9 27,078 2.4 26,243 2.3 26,122 2.1 21,041 1.7 17,145 1.4 7,783 14.0 9,591 15.9 10,565 16.7 10,942 18.0 11,450 18.8 14,673 10.9 17,894 12.1 19,977 13.0 19,489 13.8 11,546 9.9 15,807 16.0 17,473 17.1 18,508 17.7 18,690 18.7 12,333 13.9 349,641 156,081 84,209 54,907 35,680 20,959 18,369 16,015 15,050 12,437 21.6% 58.3% 52.4% 14.9% 18.5% 15.9 1.5 23.9 12.3 12.9 TNTエクスプレスの 愛敬澄雄執行役員 国際ロジスティクス・ア ドバイザーの平田義章氏 る」と平田氏は指摘する。
 アジア市場においても、いずれ巨大な物量を持つ 物流メジャーは登場する。
欧州市場が既にそうであ るように、そのバイイングパワーによって輸送キャリ アに大きな影響力を行使し、価格とサービスの決定権 を握るようになる。
 その座を目指して、日本の大手物流会社も動き始 めた。
日本通運は売り上げの半分を国際関連事業で 稼ぐという経営目標を掲げ、アジアへの投資を積極 化している。
郵船ロジスティクスは現状で年間四四万 TEUの海上貨物取扱量を二〇一三年度に一〇〇万 TEUに拡大する計画だ。
 日立物流は昨年四月に買収したバンテックとフォ ワーディング事業を統合した。
これにメーンの3PL 事業、日立グループ向けの仕事で培った重量・機工 事業の三事業を組み合わせた独自のソリューションで グローバル化のアクセルを踏む。
 その実行部隊とするために、アジア各地の有力企 業に買収攻勢をかけている。
一〇年には五〇億円以 上を投じてインドの有力フォワーダー「フライジャッ ク(Flyjac logistics)」を買収した。
フライジャック の元オーナーには買収後も経営者として残ってもら い、現地荷主の開拓に当たらせている。
 日立物流の鈴木登夫社長は「当社をはじめ日系物 流企業は海外では日系の荷主しか取れていない。
こ れを変えたい。
そのために現地化を徹底する。
目に 見える成果が出るまでに時間のかかることは覚悟し ている。
しかし、現地の荷主を顧客にできない限り、 海外事業の拡大などありえない」という。
アジア型メガフォワーダーの誕生  アジアにおける複雑な国際工程間分業は、欧米に MARCH 2012  18 米アームストロング・アン ド・アソシエイツ社(A& A)「TOP25 グローバルフ レートフォワーダーズ」よ り。
物流業大手各社の 2010 年度のフォワーディ ング事業の実績を、「ネッ ト収入」「グロス収入」「海 上貨物取扱量(TEU )」「航 空貨物取扱量(t)」の4 項 目から評価してランキング した。
各社の数値は公表値 のほかにA&A社による推 定値も含まれている。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 DHLサプライチェーン/グローバルフォワーディング キューネ+ナーゲル DBシェンカー・ロジスティクス パナルピナ・ワールド・トランスポート UPSサプライチェーンソリューション CEVAロジスティックス シノトランス エクスペダイターズ・インターナショナル・オブ・ワシントン ボロレ/ SDVロジスティクス DSVエア&シー 日本通運 パントスロジスティクス 郵船ロジスティクス アジリティ 近鉄エクスプレス ヘルマンワールドワイドロジスティックス UTiワールドワイド ダムコ・インターナショナル・エア&シー ジオディス C.H.ロビンソン・ワールドワイド ケリーロジスティクス ログウィン トール・ホールディングス 現代グロービス 山九 ドイツ スイス ドイツ スイス 米国 オランダ 中国 米国 フランス デンマーク 日本 韓国 日本 クウェート 日本 ドイツ 米国 デンマーク フランス 米国 香港 ドイツ 豪州 韓国 日本 順位 会社名 世界のトップ25フレイトフォワーダー (単位:100万USドル) 国ネット収入グロス収入海運TEUs 航空トン 出所: 19,816 30,486 2,772,000 4,435,000 5,727 19,476 2,945,000 948,000 9,120 18,999 1,647,000 1,225,000 1,423 6,887 1,241,000 892,000 6,424 8,923 700,000 862,000 5,670 9,091 672,000 536,000 1,044 6,286 6,944,000 384,100 1,693 5,968 879,713 807,211 1,233 6,163 705,000 500,000 1,678 7,661 710,000 250,000 1,476 18,450 330,900 855,400 2,972 2,972 1,512,444 330,485 2,400 3,814 600,000 500,000 1,701 5,266 550,000 490,000 468 3,057 465,047 869,225 937 4,687 407,665 513,278 1,556 4,550 476,000 421,000 1,200 2,700 610,000 75,000 1,673 5,578 385,000 152,000 1,467 9,274 258,756 45,000 840 1,400 576,000 158,900 1,333 1,801 430,000 170,000 4,200 5,303 185,000 130,000 6,303 6,303 247,545 34,819 490 2,341 710,000 18,060 物流大手の 特集 はあまり見られない現象だ。
そこで展開されるJI T物流は、日本のお家芸ともいえる。
サプライチェー ンの川下も欧米とアジアでは形態が異なる。
その食習 慣や住環境から、今後もアジアでは小規模小売店が メーンの販売チャネルとして生き残る。
 生産ラインと完全に同期化した多頻度小口物流や 現場力に優れた柔軟な対応、ミスのない高速ピース ピッキング、完成度の高い宅配便など、日本でガラパ ゴス的に発達した物流サービスは、アジア市場を目指 す日系物流企業の武器になる。
 他社には真似のできない日本式サービスをアジア全 域で展開し、日系荷主のみならず現地の有力荷主や 欧米系荷主を顧客に取り込む。
それを突破口にフォ ワーディングや国際複合輸送に業務範囲を拡大してい く。
輸出入業務から開始した従来の国際物流のアプ ローチを逆転させて、日本の物流企業がアジア市場に その地盤を広げようとしている。
 戦後、世界有数の輸出大国に成長した日本は、そ の国際輸送の担い手として世界規模の船会社を輩出 した。
しかし、メガフォワーダーは育たなかった。
日 本の大手荷主はフォワーダーを通さず、船会社と直接 取引した。
フォワーダーには荷量のまとまらない貨 物や中堅以下の荷主の仕事しか与えられず、輸送ス ペースを確保する以上の役割を期待されることは少 なかった。
 しかし、アジア物流の拡大が転機になる。
今後の アジア市場における淘汰を勝ち抜いた企業は、大手 荷主から広域にわたる業務を受託することで、その 取扱規模を飛躍的に伸ばし、物流メジャーとして覇 権を握ることになる。
欧米のインテグレーターやメガ フォワーダー、アジア各国の新興勢力と並んで、日系 物流企業をその有力候補に挙げることができる。
19  MARCH 2012 ──欧州の金融危機が物流マーケットに与えてい る影響は?  「ロジスティクス市場が欧州の金融危機から大き な影響を受けていることに疑いの余地はありませ ん。
それが特に実感されたのは、二〇一一年第4 四半期に出荷のピークが来なかったことです。
こ れによって、とりわけ国際フォワーダーが大きな ダメージを受けることになりました」  「しかし、金融危機の影響が欧州の全分野に及ん でいるわけではありません。
自動車セクターは依 然として好調を続けており、スカンジナビア・ドイ ツ・ポーランドといった地域の物流市場は底堅く 推移しています。
欧州の他の地域、たとえばスペ インなどでは苦戦していますが、EUの政治家た ちがギリシャ危機を回避することができれば、荷 動きの低迷もほどなく解消されると見られていま す」 ──欧州系インテグレーターのDHL、TNTと、 米国系のUPS、フェデックスでは状況に違いが あるのでは?  「確かにアメリカ経済は一一年第4四半期に回 復し、U P Sとフェデッ クスはその恩 恵を受けまし た。
また太平 洋地域の市場 にも強いDH Lは、アジア 市場でも大き な存在であり、アジア内需の拡大からとくに大き な恩恵を受けると考えられています。
国際インテ グレーター四社の中ではTNTが、最大の地盤と する欧州市場の不調によって最も苦戦しています。
買収の脅威にもさらされています」 ──株式市場やファンドは、欧州のロジスティクス 企業にどのようなプレッシャーをかけていますか。
 「圧力を受けているのはTNTだけであり、そ の理由は経済状況によるものというより企業のマ ネジメントの問題です。
その他については金融市 場からの圧力はほとんどないと言っていいでしょ う。
これまでのところ世界貿易が堅調に推移し、 各社とも相応の利益を上げることができているか らです。
しかし一二年に、経済危機が欧州から全 世界に拡がれるようなことがあれば、この状況は 変化するかも知れません」 ──今後のグローバル物流市場の勢力図の変化を どう見ますか。
 「グローバル市場においては今後、アジアのロジ スティクス企業の力が強まっていくでしょう。
た とえば豪トールグループは世界各地で積極的に拡 大を続けており、この先数年で大手の一角を占め るようになると考えられます。
またグローバルサ プライチェーンと欧州・北米における販売チャネル の整備を進めている中国のメーカーには、中国や アジアのロジスティクス企業の助けが必要です。
シ ノトランスのような企業が、そこで恩恵を受けそ うです。
そして欧米系企業もアジアを将来の成長 源ととらえ、同地域での拡大政策を続けていくは ずです」 「欧州の経済危機でアジア勢が台頭する」 英トランスポート・インテリジェンス ジョン・マナー・ベル 
達釘

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