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MARCH 2012 20
郵船ロジスティクス
──世界で戦う規模とリソースを確保
欧米のグローバルプレーヤーと互角に戦うために1兆円企
業を目指している。 郵船航空サービスと日本郵船が「NYK
ロジスティクス」のブランド名で展開していた物流事業を統
合し、総合化路線を突き進む。 グループ内にキャリア機能を
持つことに縛られず、同時にハードの裏付けを他社との差
別化手段として利用する。
年間一〇〇万TEUが分岐点
──二〇一一〜一三年度の中期経営計画では、海上
輸出貨物の取扱量を二〇一〇年度の四四万TEU
(旧郵船航空サービス=YASと日本郵船の物流事
業「NYKロジスティクス」の合計)から、最終年
度の一三年度に一〇〇万TEUに引き上げる目標を
打ち出しました。 三年間で倍以上という目標数値は、
M&Aを織り込んだものですか。
「基本的には自律成長で達成したいと考えています。
一一年度は残念ながら東日本大震災と円高、タイの
大洪水の三重苦に遭い、一〇年度並みの四五万TE
U程度になる見込みです。 しかし、水面下では荷主
の案件を投資的に捉えて物量を押さえていくという
取り組みを続けてきました。 一二年度は特殊なこと
が起きない限り、ぐんと伸びる手応えがあります」
──取扱規模にこだわる理由は?
「グローバル市場で競争力をつけるためには、物
量が必要です。 実際、DHLやキューネ+ナーゲル
など世界トップクラスのフォワーダーは、バイイング
パワーを武器にキャリアから低コストでスペースを仕
入れ、その価格競争力によってさらに物量を増やす
という循環を回すことで、すさまじい勢いで規模を
拡大しています」
「航空輸送の世界では、従来からフォワーダーが、
荷主から貨物を集荷し、キャリアを使って輸送して
きました。 これに対して海上輸送は、荷主と船会社
が直接契約を結ぶことが多かった。 ところが近年は
海上輸送もフォワーダーがコントロールするマーケッ
トに変わりつつある。 これに伴って海上フォワーディ
ングにおいて物量の重要性が増しているんです」
──その背景にあるのは。
「船会社がM&Aをで巨大化したことがきっかけ
です。 大手船社は自社の規模拡大のスピードに、荷
主に対する集荷営業が追いつかず、相当程度をフォ
ワーダーに依存するかたちで輸送スペースを埋める
ようになった。 トップクラスのフォワーダーに競争力
のあるレートをどんどん出して、荷物を積んでもらっ
ている。 そのため最近ではトップクラスのフォワーダー
とそれ以外との競争力の差が広がっています」
──競争力のあるレートを仕入れるために、必要な
物量の目安が一〇〇万TEUということですか。
「そういうことです。 航空フォワーディングでいえば、
これも当社は中計の目標数値としていますが、輸出
取扱量五〇万トンでしょう。 われわれとしては『サー
ビス・メード・イン・ジャパン』を掲げ、お客さま
に付加価値を提供したいという思いがあります。 し
かし、それを評価してもらうためには、まず価格競
争力とスペース供給力が必要です」
──郵船ロジは将来的な目標として、「世界トップ5」
入り、「売上高一兆円」を掲げています。
「海上フォワーディング、航空フォワーディング、
ロジスティクスのすべての分野においてスケールを拡
大していかなければ、欧米の大手フォワーダーと戦
うことはできません。 でなければ五年、一〇年先を
見据えると、存在すら危うくなってしまうという危
機感を持っています」
「当社の場合、日系といっても旧NYKロジの、
特に欧米の現地法人では、売り上げ構成比のマジョ
リティを現地の荷主が占める会社が多かったんです。
そのため競争相手は必ずしも日系物流企業ではなく、
欧米の大手フォワーダーでした。 そして彼らを見ると、
海上、航空、ロジスティクスのどれを取ってもスケー
ルが大きく、競争力がある」
郵船ロジスティクス 村上章二 取締役常務執行役員
第1部 目指せアジアの物流メジャー
21 MARCH 2012
「今後の主戦場となるアジアでも、当社は彼等と
競争していかなくてはなりません。 アジアで日系荷
主ばかりでなく欧米系の荷主を取り込んでいかない
限り、今後の成長はありません。 日本のニッチなフォ
ワーダーとして特定の顧客にサービスを提供し、縮
小均衡していくしかなくなってしまう」
輸送機能の裏付けを強みに
──日本郵船グループは、キャリア機能もフォワー
ダー機能も備えています。 しかし、キャリアとフォワー
ダーはまったく違うビジネスです。 二つの間にシナジー
効果はあるのでしょうか。
「それは現段階では必ずしも証明されているわけ
ではないし、今一番問われているところでもありま
す。 総合化の試練ともいえるでしょう。 それでもわ
れわれとしては、シナジーはあると判断しています。
フォワーダーの機能は顧客の視点でキャリアを選び、
顧客のために最適なサービスを作っていくというこ
とであり、特定のキャリアに偏らない、キャリアニュー
トラリティが絶対に必要です」
「しかし、キャリアの数は無限ではありません。
このため、マーケットでは輸送需要が船のスペース
供給を上回り、スペースを持つキャリア、つまりサ
プライサイドが強くなる局面が必ずある。 そのとき
にはグループに船や飛行機というハードの裏付けの
あるところが強くなる。 大口顧客がハードの裏付け
をサービス・パッケージの一つとして望むこともあ
ります。 これに対してサプライサイドが弱い環境では、
フォワーダーはどのキャリアでも選ぶことができる。
当社はマーケットの状況に応じてどちらの利点も活
かすことができます。 他社と差別化できるビジネス
モデルだと思っています」
──キャリアとフォワーダーを一定以上の規模でグ
ループ内に抱えている物流会社は、今のところDH
L以外に見当たりません。 そのDHLにしても、総
合物流のシナジー効果には疑問符が付く。
「日本郵船の連結業績をみると、物流セグメント
の経常利益は一〇年度で約八〇億円です。 日本郵船
が海運専業者の道を歩んでいれば、その利益はなかっ
たことになる。 日本郵船は一九八〇年代に、ほとん
どゼロから物流事業を立ち上げました。 それが市場
の拡大スピードを上回るペースで成長し、現在、当
社はおよそ三五〇〇億円の売上規模を獲得するに至っ
ています。 これは総合化の成果です」
「DHLにしても、彼等がすべての分野でトップ
クラスの機能を揃えていることが大きな武器になっ
ているはずです。 荷主が自社の物流をグローバルに
最適化するという思想で動くとき、頼りになるパー
トナーになれる。 そのために、DHLはアジアにお
いても存在感が大きい」
──とはいえ、荷主はまだグローバルな物流を一元
的に委託する動きにはありません。
「そうは思いません。 荷主のグローバルな生産・販
売体制が、点から線へ、さらには面へと進むに従って、
物流センターの運営とその間をつなぐ輸送を、一元
的にアウトソースして全体を最適化したいというニー
ズは当然生まれてくる。 少なくともアジアレベルで
はそうしたニーズが既に表面化しています」
「実際、当社ではそうした案件をいくつも追いか
けています。 そのために営業活動を、海上、航空フォ
ワーディング、ロジスティクスといった機能別の『プ
ロダクト営業』から、プロダクトを組み合わせて顧
客にとって最適な物流を構築するソリューション営
業に切り替えています」
2013 年度
中期経営計画の取り扱い目標。
2013 年度に海上輸出で100万TEU、
航空輸出で50 万トンを目指す
地域セグメント別売上構成。 日本以外でも大きな売り上げを稼ぎ出す
120
100
80
60
40
20
0
60
50
40
30
20
10
0
36
44
51
75
100
40
45
50
(万TEU) (万トン)
10年度11年度12年度13年度
航空貨物(輸出)右軸
海上貨物(輸出)左軸
注)旧郵船航空サービスとNYKロジスティクスの統合
対象会社の合計
米州
8% 欧州
9%
米州
37%
欧州
37%
南アジア・
オセアニア
15%
南アジア・
オセアニア
13%
東アジア
18%
米州
24%
欧州
19%
南アジア・
オセアニア
18%
東アジア
東アジア 18%
13%
日本
50% 日本
21%
郵船ロジ
(旧YAS)
NYK
ロジ
(統合対象
のみ)
2010 年度
物流大手の
特集
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