ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年3号
特集
中国の第三者物流 佐川急便――現地から日本の顧客へ直送

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

ているのに対し、フットウエアを中心としたグラビス ブランドの製品は主に中国で生産している。
そうであ るなら、グラビスの物流は日本ではなく中国で処理で きないか。
「作業を行うところはサプライチェーンの なるべく川上の、しかも人件費の安い場所が有利だ。
そして輸送は混載して、なるべく太くする。
日本では バラして配送ネットワークに乗せるだけ」。
そんなア イデアが恒川ディレクターの頭をよぎった。
周囲を見回しても手本になるような事例はなかった。
中国で生産して日本で販売するという物流は、ユニク ロを始めとして既に多くの日系企業で運用されている。
しかし、中国の物流センターで宅配便のラベル貼りま で処理して日本の顧客に直送しているケースなど、ど こにも見当たらなかった。
「中国からのダイレクト・ディストリビューションは 絶対的に新しいモデルだった。
その実現が容易ではな いことは十分、推測できた。
顧客の求めるリードタイ ムに合わせたオペレーションのコントロール。
日本の 商慣習や日本語に合わせた流通加工。
それを現地で 処理するには、管理のきめ細やかさとITの支援がど うしても必要な条件になる。
しかも荷主とロジスティ クス・プロバイダーが完全なパートナーの関係にない と成功しない」。
そう恒川ディレクターは考えた。
全てをゼロベースで構築する必要があった。
まずは 物流コンペを開催して、パートナーを選ぶことにした。
日本から現地に発注指示を出して、最終的に日本の 顧客に商品が納品されるまでのトータルリードタイム は一〇日と設定した。
これに各工場の立地と物量のデ ータを添えて要件書を作成。
どこに拠点を構えて、ど のようなフローで顧客に納品すべきか。
中国に強いと 言われる物流企業やIT系の物流ソリューションプロ バイダーなどに広く提案を求めた。
割高な日本国内の物流を回避 スノーボードのトップメーカー、バートンスノーボ ードは日本およびアジア市場向けの物流を補完するセ ンターを、二〇〇二年に香港の佐川流通センター(S RC)内に設置した。
中国各地で生産した商品の一 部を同センターに集約。
日本向けの流通加工を施して、 コンテナにまとめて輸出。
そのまま日本の宅配便のタ ーミナルにコンテナを持ち込んで、全国の小売店に納 品している。
海外から日本の顧客に直送し、割高な日本国内の 物流・倉庫内業務を避けた。
しかも、バートンの社員 は一切商品に手を触れることなくフルフィルメントが 完結する。
「このダイレクトモデルの物流によって、日 本国内に在庫して物流を処理した場合と比べて、トー タルコストを劇的に下げることができた」と、同社で アジア地区のロジスティクス担当責任者を務める恒川 寛オペレーションディレクターはいう。
基本的に同社は日本で販売する製品の物流を茨城 県つくば市で集中処理している。
世界各地の工場から 調達した「バートン(BURTON )」ブランドのスノー ボード用品を「つくばSRC」に集約、そのまま佐川 が流通加工から納品まで処理するという流れだ。
しかし日本市場の売り上げが急拡大したことで、ピ ークシーズンになると床面積約三〇〇〇坪のつくばS RCはオーバーフローを起こすようになっていた。
そ のためSRC周辺に四カ所の賃貸倉庫を手当しなけ ればならない状態だった。
そこに加えて二〇〇〇年か ら「グラビス(gravis )」ブランドのフットウエア・バ ッグ・アパレル製品などが急成長してきた。
それまで の物流体制で処理しきれないのは明らかだった。
同社のスノーボードの用品の生産地が北米に集中し MARCH 2004 14 佐川急便――現地から日本の顧客へ直送 大手メーカーと中堅・中小企業では、中国進出のアプローチも全 く違う。
佐川急便は後者をターゲットにして、新しいモデルを構築し た。
従来、日本国内で処理していた物流を全て現地に移管し、大幅 にコストを削減。
現地から直接、日本のユーザーに直送することで、 荷主の手を一切煩わせないフルフィルメントを実現している。
第2部独自モデルでニッチ市場を開拓 二〇〇二年六月にアイテムを絞ってトライアルを実 施した。
バートンは全ての業務を独SAPのERP (統合業務パッケージソフト)で処理している。
物流 のオペレーションもSAPのモジュールをカスタマイ ズした「Zパック」と呼ぶ独自システムを全世界で利 用している。
香港でもZパックに基づいたフローで処 理することになる。
「要はつくばSRCの業務を、そ のまま香港に移管する必要があった」と、佐川側でこ のプロジェクトを担当した仁浜章本社営業本部課長 はいう。
従来から業務を請け負っていたため、オペレーショ ン自体は熟知していた。
しかし、実際にトライアルを 開始すると、いくつか課題も浮上した。
「香港は英語 が通じるので言葉の問題はそれほどなかった。
しかし 現地のスタッフは日本流の細かなピッキングや流通加 工のオペレーションに慣れていない。
プロセスを安定 させるのには骨が折れた」と仁浜課長。
数カ月かけて 一つひとつ課題を潰していった。
並行してITインフラを整備し、同年十一月に本格稼働にこぎ着けた。
海外シフトの効果は絶大だった。
現場スタッフの人 件費は日本に比べて三分の一。
賃金水準が安いこと に加え、繁閑差に合わせて柔軟に労働力を確保できる ため、固定費負担が大幅に下がった。
保管費用も安 い。
必要に応じて各地の工場から小ロットで調達すれ ば済むため、保管する在庫水準自体を下げることがで きた。
しかも日本への輸送は混載によって集約できる ので効率がいい。
その結果、日本で処理した時と比較して「海外シフ トによって逆に割高になる緊急国際輸送や例外処理 などが発生した場合のワーストケースでも、四〇%は コストが安く済んでいる。
心配されたリードタイムも 現在は九九%以上が指定日ぴったりに納品できてい しかし、納得できる回答は少なかった。
「色々な会 社に声をかけた。
なかには極端に安い価格を提示して くる会社もあったが、業務内容を考えると、そうした 会社は逆に信用できなかった。
評価フォーマットを作 って、誰が見ても納得できる形で採点したが結局、最 後に残ったのは従来からつき合いのあった佐川だっ た」という。
日本式オペレーションを現地に移管 香港を使ってはどうか――それが佐川の提案だった。
ライセンスやインフラ面で制約の多い中国本土と違い、 自由貿易港として成熟した香港であればバートンの求 める柔軟なオペレーションにも対応できる。
国際輸送 網が充実しているのはもちろん、一国二制度とはいえ、 本土とは地続きの国内であることから中国各地の工場 からの調達もスムーズだ。
従来から佐川は現地法人の佐川急便(香港)有限 公司を通じて、世界最大規模を誇る香港のアジア・ ターミナル(ATL)に七万二〇〇〇平方メートルの 物流センターを確保していた。
現地では珍しいハンガ ー輸送用のマテハン機器などを備え、主にシェンカー やパナルピナなどの大手船会社から現場のオペレーシ ョンを担っている。
その業務内容は日系企業の出先機 関というより、現地企業に近い。
この佐川香港のATLに拠点を置くことで、日本 への直送に必要な条件はクリアできる。
日中間の国際 輸送も佐川の貨物追跡システムを使うことで、バート ンの送り状番号から商品のステータスをインターネッ トで検索できる、という提案だった。
恒川ディレクタ ーは香港のセンターを見学し、現地の管理レベルと日 本とのコミュニケーションを確認した上で、佐川の提 案を採用することに決めた。
15 MARCH 2004 中国SRC 宅配便 ターミナル 現地工場A 現地工場B 現地工場C ユーザー ユーザー ユーザー 現地で日本の値札 付けや宅配便のラ ベル貼りまで処理 コンテナごと宅配便 のターミナルに持ち 込んで翌日全国納品 ●佐川とバートンは海外からの直送モデルでビジネスモデル特許を申請した 特 集 バートンスノーボードの 恒川寛オペレーションデ ィレクター MARCH 2004 16 る」と恒川ディレクターは胸をなで下ろす。
当初の計画通り、香港のATLにはグラビスの一 〇〇〇アイテムを搬入。
その安定稼働を確認した後に、 中国や他のアジア諸国で生産しているバートンブラン ド製品の物流の一部も日本から現地に移管することに した。
これによって、つくばSRCのオーバーフロー も解消できた。
こうしてバートンと佐川は、日本の物流を海外に移 管することに成功した。
佐川はこのモデルをベースに バートンと共同でビジネスモデル特許を申請。
今後は 他の荷主にも展開していく計画だ。
ただし「このモデ ルは荷主企業の協力が絶対条件。
荷主側にオペレー ションに対する理解がないと成功しない。
実際、バー トンさんには全面的な支援をいただいた」と佐川の仁 浜課長はいう。
バートンからは既に次の宿題も与えられている。
一 つは中国から欧米市場への顧客直送だ。
中国で物流 を処理して消費地の顧客に直送するという日本モデル を、欧米市場向けにも適用したいという要請だ。
佐川 としては中国側のオペレーションは可能だが、米国や 欧州内での宅配は現在のネットワークでは処理できな い。
難題だが「弊社にとっても意義深い挑戦になる。
何とか対応したい」と仁浜課長は前向きだ。
次のテーマは深 への再移管 これと並行して、香港から中国の深 に拠点を再 移管するという案も検討されている。
香港の物価は日 本に比べれば安いとはいえ、現場スタッフの賃金は月 収ベースに換算すると一〇万円を超える。
ATLの賃 料もアジア内では高水準だ。
これに対して、香港から 電車で一時間足らずの距離にある深 の物価は一ケ タ安い。
通関処理や港湾施設の整備も急ピッチで進 Interview 「中堅・中小企業のコストを三分の一に」 山本賢司 佐川急便 執行役員営業本部国際事業部長 ――日系企業の海外進出は、中国で安く作って日 本や欧米の消費地で販売するというモデルから、 中国本土の市場向けにシフトしています。
それに 対して佐川は、どのようなサービスを提供します か。
「それは一部の大企業の話であって、中堅・中 小企業の進出の実態は全く違います。
中小企業 にとっての中国ビジネスは、現地に自社工場を立 てることではありません。
現地のベンダーが作っ た安い商品を日本に輸入するという商売がいまだ に圧倒的です。
しかもベンダーの規模が小さいの で、複数のベンダーから荷物を調達する必要があ る。
そうした会社こそが当社のターゲットです」 ――具体的なソリューションとしては? 「中国の複数のベンダーからの調達をとりまと めたいというニーズが何より大きい。
そのため当 社が現地に倉庫を設置して、お客さんに代わって 荷物を集約する。
さらに現地で最終的な流通加工 まで処理して、それをコンテナに取りまとめて日 本の当社のセンターまで運ぶ。
そのまま宅配便の ネットワークでユーザーに直接納品するというモ デルです。
これによってトータルコストは従来と 比べて最大で三分の一ぐらいに圧縮できる」 「これまでは中国で調達した製品を日本の港ま で運び、日本国内で検品や出荷処理をするという のが一般的なやり方でした。
しかし、流通加工を 人件費の安い中国で処理してしまうことで、その 部分のコストが大幅に下がる。
さらに中国からの 輸送を納品先別にまとめて、地方港で荷揚げする ことで国内の宅配料金も抑えられる。
そういう事 業を展開していきます」 ――そうした3PLサービスを中国本土で展開す るには、広範囲のライセンスが必要になりますね。
「八〜九種類のライセンスを取らないと、一連 のオペレーションを自社で完結できません。
それ を昨年、当社は取得しました。
3PLのライセン スです。
同じライセンスをとらない限り、他の物 流会社は当社と同じことはできません」 「実は私は最初、当社の中国物流はモノになら ないと思っていました。
私が海外事業部に着任し た二年前の時点で、既に中国には香港を始め、上 海や深 、西安などに拠点を持っていましたが、 ライセンスがないために実際のオペレーションは 現地の物流会社に頼らざるを得ない状態でした。
それでは事業として成り立たない」 「そこで、まずはライセンスを取得することから 始めました。
といっても中国は権益の国ですから、 日系の資本でライセンスを取得するのは容易では 「中国の物流ビジネスでは、 ライセンスがコストに直 結する」 17 MARCH 2004 んでいる。
しかも、佐川は昨年、他の日系物流企業に先駆け て活動地域や事業内容に対する法的な制約を受けな い、総合物流事業のライセンスを中国本土で取得して いる。
二〇〇三年九月に中国有数の企業グループ保 利集団との合弁で保利佐川物流有限公司を設立。
中 国初の本格的3PL業者として名乗りを上げた。
「これによって香港並みの柔軟なサービスを中国本 土の深 で提供する環境が整った。
既に日系企業か らの依頼による?バートンモデル〞の日本直送サービ スを小規模ながら開始している。
今年秋には深 に新 センターも稼働する。
仕事はいくらでもある」と保利 佐川の塚田勝彦総経理はいう。
さらに新センターを舞 台にしたバートンとのプロジェクトが軌道に乗れば、 佐川にとって格好のモデルケースになる。
バートンの恒川ディレクターは近く深 に視察に行 く予定だ。
「深 はコスト的には確かに魅力的だ。
し かし、それだけでは決断できない。
書類やモノの流れに時間がかかれば当社にとっては致命傷になる」とい う。
SAPを使いリアルタイムでオペレーションを行 うためのITインフラは整備できるか。
さらには通関 申請などの書類手続きが本当にスムーズに処理される のか。
そこを見極める必要がある。
「これらのリスク要因を佐川さんがロジスティクス・ プロバイダーとして絶対保証するというのであれば、 個人的には深 への移管にもGOサインが出せる」と 恒川ディレクター。
佐川の二〇〇三年の海外事業の 業績は売上高約九七億円、利益が約四億円だった。
今 期は一二二億円と大幅な売上増を見込んでいる。
バ ートンモデルを中国本土で展開することができれば、 目標の達成も見えてきそうだ。
特 集 ありません。
実際、最初の一年はかなり苦しみま した。
その経験から現地資本の強力なパートナー が何としても必要だと痛感するようになりました」 ――しかし、それ以前にも佐川は日新や近鉄エク スプレスなどの中国に強い日系企業や、シノトラ ンス、天城国際貨運といった現地企業と提携して います。
それを利用すれば済んだのでは。
「提携先といっても当社の仕事を、特別に安く 請け負ってくれるわけではありません。
彼らはあ くまでも我々と同じ物流業者です。
同業者に頼っ ていれば、いつまでたっても当社の中国事業は自 立できない。
当社と競合しない全くの異業種で、 しかも中央政府や自治体に発言力のある現地資 本をパートナーにする必要がありました」 ――それが保利(POLY)集団だったわけです ね。
「そうです。
当社との提携を申し出ていた現地 の企業集団がいくつかありましたが、そのうちの 一つが保利でした。
保利はホテル経営や不動産開 発なども手掛けていますが、調べてみると人民解 放軍とのパイプが太く、貿易業務に強い。
その関 係でゼネラルモータースやベンツなどの欧米の大 手メーカーとは提携を結んでいたのですが、日系 企業との提携は本格化していなかった」 ――昨年、保利との合弁で設立した保利佐川物流 有限公司は、地域や機能の制約を受けない総合物流企業として出発しました。
中国では異例のこと だと聞いています。
「それも保利が動いてくれたから実現したんで す。
当社が独自に動いても間違いなくライセンス は取得できなかったでしょう。
保利佐川物流は今 年中にも中国に七拠点を新設します。
保利と組ん だおかげで、中国事業の展開のスピードが一気に 上がりました」 ――これまで佐川急便の海外展開は他の大手物流 会社に比べて出遅れていた印象がありました。
「それは否定できません。
もともと当社のメー ンの顧客は、他のフォワーダーや大手物流会社と は層が違います。
海外に自社専用のセンターを構 えられるような大企業ではなく、中堅以下の企業 です。
それだけ海外進出のペースも鈍かった。
し かし、ここにきて当社の顧客層も海外展開を本格 的に始めるようになってきた。
これには当社も何 としても応えなければいけない」 ――中国国内市場向けの物流は、どう展開します か。
既に上海と北京で宅配会社を設立しています が。
「中国の宅配事業の採算は当面、厳しいと言わ ざるを得ません。
実際、現状では赤字です。
3P Lと違って宅配便のようなインフラビジネスは、 ネットワークが整わないと利益も出ない。
当面は コツコツとネットワークを広げていくしかない。
それでも3PL事業が軌道に乗れば、そこから宅 配の荷物も発生する。
また宅配のネットワークを 持っていることを武器に3PLの売り込みもでき る。
そうした相乗効果を狙っていきます」 保利佐川物流有限公司の作業風景 今年10月を予定しているセンターの稼働を 前に、既に日系企業から3PLサービスの依 頼がいくつも舞い込んでいる。
現在は借庫 で対応している状態だ。

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