ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年1号
判断学
第128回 オバマ大統領への期待

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

奥村宏 経済評論家 JANUARY 2013  70       第一期オバマ政権の無策  オバマ大統領が再選されたが、これでアメリカ経済はどう なるのだろうか?  いま、世界中の目が第二期オバマ政権の経済政策に注がれ ている。
二〇〇八年のリーマン・ショック以後、アメリカは 一九二九年の世界大恐慌以来の不況に襲われ、そこからの脱 出の糸口が見つけられないままの状態が続いている。
 そこでオバマ大統領が再選されたことで、なにか新しい政 策が打ち出されるのではないか、という期待が高まっている のである。
 第一期のオバマ政権では、それまでのブッシュ共和党政権 時代とほとんど変わらない政策を続けてきた。
 このことは、かつてクリントン政権の大統領経済諮問委員 会の委員長を務めたこともあるジョセフ・E・スティグリッツ が、二〇一〇年に出した『フリーフォール』(楡井浩一、峯村 利哉訳、徳間書店)の第二章「急降下する経済とオバマの戦 略」で書いている通りである。
スティグリッツによると、「オ バマが大統領に就任したとき、アメリカ人はいっせいに安堵 のため息をついた。
ようやく?なんらかの?対策が打たれる と考えたからである」  ところが、これに対してオバマ政権は?その場しのぎ?の 保守的な戦略を採用した(同書六四頁)。
 それはなにより金融政策にあらわれているのだが、ウォー ル街に都合のよいような政策を続けるだけで、なんら新しい 政策を打ち出すということをしなかった。
 こうしてアメリカ国民だけでなく、世界中の人が失望した のであるが、それだけに第二期のオバマ政権はこれまでと変 わった新しい政策をとる必要がある。
 ところが、これまでのところ新しい政策が準備されている ような気配は感じられない。
しかし、これから何か新しい政 策が打ち出されるのではないかと期待されている。
       スティグリッツの指摘  先にあげたスティグリッツは二〇〇一年にノーベル経済学 賞を受けたイエール大学教授であるが、クリントン政権に深 くかかわっていただけでなく、世界銀行の副総裁兼チーフ・ エコノミストでもあった。
 それだけにアメリカ経済だけでなく、世界経済の実態につ いても詳しい経済学者である。
 彼が二〇〇二年に出した『世界を不幸にしたグローバリズ ムの正体』(邦訳、徳間書店)は世界的なベスト・セラーにな った。
私もこの本を読んで大いに共鳴したものであるが、そ の後、スティグリッツは『世界に格差をバラ撒いたグローバリ ズムを正す』とか『世界を不幸にするアメリカの戦争経済』 (いずれも邦訳は徳間書店から出ている)なども書いて、グ ローバリズム、そしてそれを推進した新自由主義の政策をき びしく批判してきた。
 最近では『世界の九九%を貧困にする経済』(邦訳、徳間 書店)という本を出しており、アメリカ経済がバブル化して いったことを詳しく分析している。
 それはアメリカ経済の中で金融が肥大化して、ウォール街 の金融資本があまりにも強くなりすぎているためで、それに よって住宅金融が膨張してバブル経済になったという。
もっとも、それを遡れば二〇〇一年に起こったエンロンやワ ールドコムという巨大株式会社の倒産にまで行きつくのでは ないか‥‥。
 このことを私は二〇〇二年に出した『エンロンの衝撃』(N TT出版)という本で指摘しており、これはアメリカにおけ る巨大株式会社の危機のあらわれだ、と主張した。
 そこでアメリカ政府がこれに対してどのような政策を打ち 出すのかということが注目されたのだが、ブッシュ共和党政 権はもちろんのこと、オバマ民主党政権になっても新しい政 策は出されてこなかった。
 アメリカ経済はリーマン・ショック以来の不況から抜け出せていない。
そ の根本的な原因は巨大化しすぎた株式会社にある。
再選を果たしたオバ マ大統領には、ニューディールに匹敵するような政策が求められている。
第128回 オバマ大統領への期待 71  JANUARY 2013       巨大株式会社にメスを!  問題は単にウォール街、すなわち金融資本にあるのではな く、アメリカの巨大株式会社(ジャイアント・コーポレーショ ン)にある、ということを認識する必要がある。
 先にあげたスティグリッツの本ではウォール街の金融資本に 焦点が合わされているが、巨大株式会社の問題としては認識 されていない。
 その点で重要なのは二〇〇九年に起こったGMの倒産であ るが、それをさらに遡れば二〇〇一年のエンロン、ワールド コムの倒産にまで行きつく。
 このようにアメリカの巨大株式会社があまりにも大きくな りすぎていることが問題なのである。
 ?規模の経済?と?範囲の経済?を追求することでアメリ カの大企業は巨大株式会社になったのであるが、その規模が あまりに大きくなりすぎたこと、事業の範囲があまりにも拡 がりすぎたこと──これが問題の根底にあるのである。
 そこでアメリカの巨大株式会社は?リストラクチャリング? という名前で構造改革をしようとしてきたのだが、それは一 部の従業員を首切りする、というだけで、会社そのものを改 革するということはしなかった。
 そこで求められるのは、政府が主導することによって巨大 株式会社にメスを入れるということである。
 それは一九三〇年代にルーズベルト政権が打ち出したニュ ーディール政策に匹敵するような政策であり、それがオバマ 政権に求められているのである。
 ところがオバマ政権は巨大株式会社の経営者たちと密着し ており、その点では共和党政権とあまり違っていなかった。
 これが世界的に失望を生んでいるのだが、ここでオバマ大 統領は果たして期待に応えられるような政策を打ち出すこと ができるのか?  いま、世界中の人がそれに注目しているのである。
       ウォール街への批判  アメリカでは一九二九年の世界大恐慌のあと、F・ルーズ ベルト大統領のもとでニューディール政策が実施された。
 そしてウォール街の金融資本である銀行に対して、証券業 務を分離させるという政策を打ち出した。
 これが?グラス・スティーガル法?であり、日本でも戦後、 導入されて銀行と証券が分離された。
 ところがその本場のアメリカで一九九九年にこのグラス・ スティーガル法が廃止され、銀行が証券業務を兼営してもよ いというになった。
そして日本もこれに同調したのであるが、 このようなことが規制緩和政策として新自由主義の名前で行 われてきたのである。
 それがアメリカではバブル経済を生み出し、やがて崩壊す ることで?リーマン・ショック?となったのである。
 スティグリッツの本を読むと、このようなことがはっきり わかるのだが、それだけにこれを規制するような新しい政策 がオバマ政権によって打ち出されることが期待された。
 にもかかわらず、これまでのところオバマ政権はウォール 街を規制するような政策を実施していない。
 そしてGMやクライスラー、AIGやシティグループなどの 巨大株式会社を国民の税金で救済する政策をとってきた。
 そこで、これに対する反対運動として?ウォール街を占拠 せよ?(OWS)という運動が起こっているのである。
 そうだとすれば、再選された大統領はここで抜本的な政策 を打ち出す必要があるのだが、今のところそれらしい動きは 報道されていない。
 そこで世界中の目がいまオバマ大統領に向けられているの である。
 アメリカ経済を立ち直せるためには、もちろん経済政策全 体にメスを入れる必要がある。
国民の税金で大企業を救済す るというこれまでの政策ではなんら問題は解決しない。
おくむら・ひろし 1930 年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。
日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。
近著に『東電解体 巨大株 式会社の終焉』(東洋経済新報社)。

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