ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年2号
3PL再入門
第2回 荷主企業の物流ノウハウ消失

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

3PL 再 入門 梶田ひかる 高崎商科大学 特任教授 トランコム(株) ロジスティクスソリューションアドバイザー 《第  回》  長期にわたって3PLを利用し続けることで荷主 企業の物流ノウハウは失われていく。
その穴を埋 めるため、対照的な2つの現象が同時に起きてい る。
3PLを自社物流に戻す外部委託の揺り戻し と、大規模なグローバル企業を中心とした4PLの 導入だ。
FEBRUARY 2013  84 毎年二割の荷主が3PLを止めている  
械丕婿埔譴呂修涼太犬ら今日まで約二〇 年間にわたって常に成長を続けてきた。
世界 同時不況とも言われるこの数年間においても 基本的なトレンドは変わっていない。
 業績低迷時にはコスト低減のニーズが増す こと、また海外市場に進出するに当たって現 地で物流システムを構築するのに3PLの利 用が容易であること、さらには3PLへの委 託で効果の出ているケースが多いことなどが、 その背景にあると想定される。
 しかし、いったん3PLへの委託に踏み切っ たものの、改めて自社物流に戻すというケー スも毎年一定の割合で発生している。
 米アームストロング&アソシエイツ社がグ ローバル3PL市場の動向について毎年作成 している3PL調査の二〇一三年度版が一二 年十一月五日に発表された。
これによると「3 PLを止めて自社物流に戻した」と答えた企 業が回答全体の二二%に上っている。
この約 二割という値は、ここ数年間ほぼ横ばいで推 移している。
 また同調査は、荷主企業が「3PLを使わ ない理由」についてもアンケートを取っている。
その回答を見ると、「想定したほどコスト削減 ができない」「3PL事業者の物流ノウハウが 自社よりも低い」といった3PL事業者側の 能力に関する問題よりもむしろ、「物流が自 社のコア・コンピタンス(中核能力)だから」 「ロジスティクスは重要だから」など、荷主自 身に起因する理由の方が多くなっている。
 その一方で筆者は最近、グローバル3PL を手掛けている複数の日系物流企業から、3 PLから4PLに変えようとしている荷主が 増えているという話を聞いている。
グローバ ルで一〇〇社近くの3PLを使用しているよ うな超大手企業が、これまで自社で管理して いた3PLについて、エリア単位にまとめて 4PLに委託し始めているという。
ちなみに、 ここで言う4PLとは、商標を持つアクセン チュアが定義したそれではなく、単に複数の 3PLの管理を行う事業者を指す。
 一見すると、これらの現象は相反している ようだが、その根は同じところにあると筆者 は考えている。
すなわち、荷主企業における 物流ノウハウの消失である。
「性善説」に基づく日本型管理の限界  
械丕未魃潦蠅鳳人僂垢襪燭瓩砲蓮荷主側 に物流ノウハウが必要になる。
このことは、 とりわけ日本では理解されにくいようなので、 少し紐解いて説明したい。
 海外の荷主企業と日本の荷主企業では、委 託した物流業務の管理方法が大きく異なって いる。
いわゆる性悪説と性善説の違いである。
一般に海外の荷主は運用開始後も3PLに対 して事細かに指示を出し、かつ業務が正しく 行われているかを厳しくチェックする。
それ に対して日本の荷主には?お任せ?が目立つ。
2 荷主企業の物流ノウハウ消失 かじた・ひかる 1981年南カ リフォルニア大学OR理学修士取得。
同年日本IBM入社、91年日通総合 研究所入社。
2001年デロイトトー マツコンサルティング入社(現アビ ームコンサルティング)。
11年4月高 崎商科大学商学部特任教授。
同月、 トランコム(株)のロジスティクスア ドバイザーに就任。
現在に至る。
PROFILE 85  FEBRUARY 2013 委託業務内容、物量推移の調査、サービスレ ベル、品質等について書面化していないこと が多く、チェックも甘い。
 こうした?お任せ型?は、荷主にとって確 かに楽ではある。
しかしながら、物流システ ムの品質やコスト低減に向けた改善への取り 組みは、委託した3PL事業者の能力や考え 方に依存することになる。
加えて、3PL事 業者の入れ替えも難しくなる。
 
械丕婿業者にとっても、お任せ型の委託 は必ずしもプラスに働くとは限らない。
新たな 業務が加わっても、そのことを荷主から口頭 で伝えられるだけで書面化されず、契約料金 は据え置きといったことがまま起きる。
?良き に計らう?ことを望まれているのである。
 とてつもない難題を荷主から突き付けられ ることさえある。
例えば誤納品の発生をきっ かけに、目視検品であるにも関わらずPOS 検品並みの低いミス率を維持するように指示 される。
設備投資無しには、到底達成できな い水準だ。
 しかしながら、この指示は厳格に守る必要 はない。
荷主側のチェックが甘いため、頑張っ ている姿を見せてさえいれば、大きな問題に はならない。
その半面、いくらオペレーショ ンを工夫してもその能力や苦労に関心は持た れない。
そのような状況では、3PL側のモ チベーションが上がるはずもない。
 荷主企業が管理のための労力やコストを軽 視して、性善説をベースとしたお任せ型の委 託を採ることで、物流システムのライフサイク ル全体では、結果的に高コスト・低品質な物 流となってしまう可能性がある。
 性悪説をベースとした3PL委託では、あ らかじめ設定された管理指標値に基づいて委 託業務の状況が常にチェックされる。
管理指 標は3PLが?悪さ?をしないように監視す るレーダーである。
例えば、コストを抑制す るために、作業を無理に急がせればミスが多 発する。
そこでコストと品質双方の観点から 管理指標を設定し、委託業務の実施状況を把 握する。
そして指標には、達成が可能な現実 的な目標値を設定する。
そうすることで機会 費用の発生を防ぐのである。
 委託業務の作業条件が変わったら、それを 書面化して責任の所在を明らかにする。
さら には契約の更改期には入札を行い、より良い パートナーを選択する。
日頃から業務プロセ スを書面化し、データの収集・分析を行って いれば、入札のためのRFPの作成や、業者 の切り替えも容易になる。
 こうした性悪説に基づく管理は、3PL事 業者にとって厳しいものであるかのように感 じるかも知れない。
しかし、実際には荷主か ら無理難題を押し付けられることが無くなり、 頑張った分の成果が適正に判断されるように なるなど、3PL事業者にも多くの恩恵があ る。
 そもそも従来の性善説ベースの委託は、海 外展開においては通用しない。
また日本国内 においても労働者の質の低下や外国人労働者 の増加が進んでいる。
性善説ベースから性悪 説ベースへ、日本の荷主企業も委託業務の管 理方法を転換すべき時期に来ている。
3PL化によるノウハウの消失  荷主が3PLを採用する理由の一つに、物 流管理要員の社内育成がコスト・経験の双方 から難しくなってきたことが挙げられる。
物 流システムの構築・運営経験が豊富な3PL 事業者の能力を活用することで、その穴を埋 めようというわけである。
 その一方、3PL事業者に委託した業務を 管理するには、先述の通り、物流のノウハウ を荷主企業側で持たなければならない。
ノウ ハウが無ければ3PLに具体的な指示を出せ ず、結果として?お任せ型?になってしまう。
しかし、ノウハウは自社で現場を持たなけれ ば蓄積できない。
ここに大きな矛盾がある。
 これは3PL事業者側でも同じである。
近 年では大手のみならず中堅でも、配送は傭車 中心で運営しているところが多い。
そのよう な組織では、輸送システムの再編案を考える 能力が育ちにくい。
 協力配送会社への下払いを処理しているだ けでは、輸送条件によって輸送コストがどの ように変化するのかを経験できない。
どの荷 物を組み合わせれば効率的な共同配送が可能 になるのか。
輸送条件をどう修正すれば車両 の回転率が上がるのか。
その結果、具体的に どれだけコストが下がるのか、踏み込んだ提 案が難しくなる。
 荷主企業にとっても3PLの採用は、社内 における物流ノウハウの消滅という危険性を はらんでいる。
長期に3PLを採用し続けれ ば、年月を経るのに伴い、物流経験者が定年 退職や人事異動などで組織から去って行く。
 また物流システム技術はICT(情報通信 技術)の進展と歩調を合わせて急速に進化し ている。
過去に培ったノウハウの陳腐化も著 しくなっている。
そのことを重く見た荷主企 業は、3PLを止めて自社管理に戻し、物流 管理人材の確保と育成を図ろうとする。
 もちろん、物流ノウハウを持った人材を外 部調達、すなわち中途採用して社内に確保す ることはできる。
ただし、そうした属人的な ノウハウでカバーできるのは、他社並みの能 力である。
 そして、他社並みで構わない、物流で差別 化しようとするのでなければ、中途採用では なく、3PL事業者の管理自体を外部に委託 するという手もある。
それが、ここ数年目立っ ている4PLである。
 大規模なグローバル企業で、なおかつ物流 業務を事細かにチェックすることを重視する 荷主が、その選択肢として、3PLの利用を 止めて自社管理に戻す、あるいは委託範囲を 拡大して4PL化するといった両極端の動き に出ている。
それが一見すると矛盾する現象 が同時に出現している理由であろう。
自社管理 か、4PL化か  
械丕眠修砲茲辰栃流ノウハウを失うこと が、その荷主企業にとって、どれだけの意味 を持つのか。
それは大きく次の三つの要素で 決まってくると筆者は考えている。
一つは、 その企業にとって物流はコア・コンピタンスな のか。
二つ目は、他社より優れた物流ノウハ ウがあるか。
そして三つ目は、その企業の規 模である。
●大手流通業に見られる 自社物流と3PLの共存  物流がコア・コンピタンスとなるのは主に 流通業である。
米ウォルマート、米アマゾン等 は他社を凌駕する物流ノウハウを重視しており、 それゆえに自社物流もしくは物流子会社を残 している。
 それと同時に多くの拠点を3PL化してい る。
企業規模が大きいとこれが可能になる。
マザーセンターとも言うべき自社物流拠点で、 物流の各種実績を収集し、それをベンチマー クとして3PLに委託しているセンターを管 理するのである。
 マザーセンターで新たな改善案をテストし、 成果が出たらその方法を他センターに展開する。
センターを複数設けているのなら、最低でも 一カ所を自社で運営することにより、ノウハ ウの蓄積と3PL活用を同時に図ることがで きる(図1)。
 このように一カ所を自社で運営するという パターンは、製造アウトソースでも見られる。
マザー工場だけは自社で運営し、他は外部に 委託しているという事例は枚挙に暇がない。
生産設備を持たない?ファブレス?と言われ る企業でも、テスト工場を自社で運営してい ることが多い。
●大手製造業で見られる4PL化  
苅丕眠修寮莇遒韻箸覆辰燭里亙謄璽優薀 モーターズ(GM)の子会社、ベクターSC Mであろう。
米大手ロジスティクス業者のC NF社が八〇%、GMが二〇%を出資する ジョイントベンチャーとして二〇〇〇年に設立 された。
 ベクターSCMはGMが各地で使用する3 PLを管理する4PL事業者である。
ただし GMはその後、〇六年にCNFからベクター FEBRUARY 2013  86 3PL 再 入門 図1 大手流通業に見られる物流ノウハウ展開 マザーセンター 3PL ●新技術の開発 ●新手法の開発 ●ベンチマーク  データの計測 物流管理部門 3PL 3PL 3PL 新技術・新手法の展開 管理指標目標値の提供 SCMの持ち株を買い取り、完全子会社化し ている。
4PLを改めて内製に戻したことに なる。
 そして最近はGMに比べれば規模は小さい ものの、同じくグローバルで数十の3PLを 利用している製造業の4PL化が目立ってい る。
複数の3PLをエリア単位にまとめた4 PLの入札案件が散見されるようになった。
 いずれも物流力よりはむしろ製品力や生産 能力を差別化の源泉としている荷主企業であ り、グローバル物流システムの先進事例とし て取り上げられていても、物流をコア・コン ピタンスとはしていない。
 そして、これらの荷主企業は共通して4P L化の理由の一つに、3PL管理人材の不足 を挙げている。
またRFPを出した企業との 間に資本関係はなく、GMのように後で完全 子会社化するつもりも無いようである。
 物流がコア・コンピタンスではない製造業 が、長期にわたり3PLを使用すると、物流 管理人材が不足する。
そのために、これらの 企業は4PL化に進んだものと推測される。
ただし、これはまだほんの数例から導いた仮 説に過ぎない。
その成否を確認するには今暫 く大手各社の動きを見る必要がある。
●物流ノウハウのレベルで決まる国内物流政策  いずれにせよ、超大手企業は自社物流と3 PLの共存、あるいは4PL化に向かってい る。
この動きはグローバル展開している企業 において、これから規模の大きな順に広がっ ていくものと想定される。
 それではグローバル展開していないドメス ティック企業、あるいはグローバル展開をして いる企業の日本国内の物流は、どうするべき であろうか。
 現時点における物流ノウハウのレベルで判 断するのが適切であろうと筆者は考えている。
物流ノウハウが他社を凌駕するほどのレベル であるなら、それを残す。
ノウハウが無いの であれば3PL化を推進する。
3PL化すれ ば、業界ベストプラクティスは難しくとも、同 業他社並みのレベルは確保できる(図2)。
 その点で、日本における3PLは海外とは 事情が異なり、お任せ型委託の延長というか たちで、実質的な4PL的サービスが従来か ら一部で行われてきた。
自社単独のコスト削 減や料金交渉が限界に来ている今、荷主企業 の多くが、3PL化を進めて物流システムを 抜本的に改革すべき段階を迎えていると言え るだろう。
物流人材育成が改めて課題に  ただし、一つ懸念がある。
3PLを長期に 採用し続けた企業で物流ノウハウの不足が顕 著になってきているのは先述の通りだ。
それ に加え、荷主企業の真の意味でのロジスティ クス、つまり今でいうSCMから物流業務ま でをカバーできる人材が少なくなっていると 筆者は感じている。
 これは日本に限らず海外も同様のようで、 海外の論文や記事にも物流人材育成に関する ものがこのところ目立っている。
3PLの萌 芽期から二〇年を経た現在、物流ノウハウの 継承とさらなるノウハウの蓄積に、正面から 向き合うべき時期を迎えたようだ。
 物流コスト低減、在庫削減を進めるために は、もはや社内に聖域はない。
製品企画、製 品設計、調達先選定、生産システム、販売促 進手段、アフターサービスなど、さまざまな 部門の業務に踏み込んで最適化を進めるべき 段階に来ている。
 所属は荷主企業あるいは物流業のいずれで も構わない。
荷主企業の部門横断でコスト低 減の余地を探して解決策を考えられる人材の 育成が急務である。
彼等が次世代の物流シス テムの発展を左右することになる。
87  FEBRUARY 2013 図2 3PL 主導での物流ノウハウ展開 3PL 事業者 拠点1 拠点2 拠点3 物流管理部門 拠点N ●新技術の開発 ●新手法の開発 ●ベンチマークデータの計測 新技術・新手法の展開 管理指標目標値の提供

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