ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年3号
特集
第3部 輸送の見える化 解説 貨物トレースで何ができるか

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2013  28 輸送中の在庫を引き当てる  国際輸送の可視化でソニーグループは同業他社 に先行してきた。
二〇〇一年に当時のソニーロジス ティックスが自社開発した物流管理システム「E − LOG」を本格稼働させ、国際貨物のトレースに 乗り出した。
荷物の位置やステータス情報の把握と いう基本機能のほか、輸送中の製品までを含めた 在庫の一元管理、最適な物流会社・ルートの自動 選定、物流会社の実績評価など、今振り返っても 先進的な機能を備えていた。
 稼働からの数年間、E −LOGはソニーグループ における国際輸送管理の基幹的なシステムとして の役割を果たした。
しかし、次第にその存在感は 薄まり、現在では一部の機能を残すのみになって いる。
背景には、ビジネスを取り巻く環境の変化 がある。
 
−LOGが稼働した当時、ソニーにとっての主 要マーケットは欧米だった。
メーンの出荷拠点であ る中国から欧米の主要港に向け、効率良く製品を供 給することが国際輸送における最大の課題だった。
 〇〇年代半ばからその構造が変わった。
消費市 場として成長する中南米や中近東、東南アジア諸国 など新興国への製品供給が急速に増え始めた。
同 時に、それら新興国での現地生産の割合も高まった ことから、現地への部品供給も必須となった。
ソ ニーの国際輸送の焦点は、新興国への製品・部品 供給にシフトした。
その傾向は加速度的に速まり、 現在では新興国向けの物量が欧米向けを上回って いる。
 これに対応して今年四月、新たな可視化システム を全面的に稼働させる計画だ。
同社の三宅武志物 流本部プラット フォーム戦略部 統括部長は「こ れまで欧米航路 の可視化では効 果を上げてきた が、近年ビジネスが伸びている新興国向けでは対 応が進んでいなかった。
新システムの稼働を機に、 グローバル全体の輸送状況を把握できる体制を整え る」と説明する。
 国際輸送の可視化には大きなメリットがある。
自 然災害や天候、政情リスクなどで輸送や通関に何 らかのトラブルが発生しても、状況を正確に把握で きていれば自社の生産計画や販売計画に及ぼす影 響を分析し、対策を打てる。
顧客に対していち早 く状況を知らせ、積極的な対応を取ることでCS (顧客満足)の向上にも繋がる。
 輸送中在庫の引き当ても可能になる。
欧州の販 売在庫が欠品しても、船便で現地に向かっている 輸送中在庫の量や到着日が正確に見えていれば納 期を回答できる。
割高な航空便を緊急手配したり、 過剰に在庫を抱えておく必要は無くなる。
 今後適用が進んでいくIFRS(国際財務報告 基準)への対応も期待されている。
日本企業の多 くが採用している現在の会計制度では、工場出荷 段階で売り上げを計上する。
IFRSが適用され れば、売上計上のタイミングが最終の納品段階ま で後ろ倒しになる。
 仮に自社の工場間や倉庫間、サプライヤーとの物 流は可視化できていても、納品まで管理を徹底で きていなければ、期末や月末に正しい売り上げを 計上できず経営成績に悪影響が及んでしまう可能  海上輸送をメーンとするグローバルビジネスでは、輸送 中の在庫ステータスを捕捉するトレースシステムが不可欠 のツールとなっている。
さらに新興国シフトが国際輸送の 見える化に、イベント管理という新たな課題を突き付け ている。
トラック輸送の見える化も国内より新興国がそ の舞台になっている。
            (石鍋圭) 野村総合研究所 石井伸一 上席コンサルタント 貨物トレースで何ができるか 第3部 輸送の見える化 解説 29  MARCH 2013 性がある。
納品までの進捗を管理することで、こ の問題を解消できる。
 ただし、そのための輸送管理システムの構築は 一筋縄では行かない。
野村総合研究所の石井伸一 上席コンサルタントは「自社の国際輸送を完全に見 える化できている荷主企業はほんの一握り。
サプ ライチェーン上に存在する物流企業の情報連携が取 れていないことが最大の要因だ」と指摘する。
 グローバル企業の多くは、陸送、保管、港湾荷 役、海上輸送、航空輸送、通関といった国際輸送 の各機能を、複数の物流企業に委託している。
そ の数は一般に、少なくとも五社、多い場合では五 〇社以上と言われている。
例えばソニーの場合、取 引のある船会社だけで約二〇社にも上る。
 各物流企業は受託した荷物をインボイス番号や B/L番号、コンテナコードなどを使って管理して いる。
それらの情報を全て繋ぎ合わせることで、国 際輸送の可視化は初めて実現する。
 ただし、各物流企業が輸送管理に採用するコー ドや、表記方法などはそれぞれ異なる。
そのコー ドを同一のフォーマットに統合して紐付け、一貫し たルールを設けて運用する必要がある。
そこには 当然、システム投資や各物流企業の協力が欠かせ ない。
コストと手間の掛かる話だ。
 石井氏は「欧米の先進企業と違い、日本企業は まだサプライチェーンに対する投資に消極的なとこ ろがある。
そのため大手であっても、未だに電話 やメールで物流企業に状況を確認している企業も 多い。
しかしそれでは正確性にも迅速性にも欠け る。
国際輸送の可視化に本腰を入れた企業との差 は、今後ますます開くだろう」と言う。
 国際輸送の見える化は物流企業を選別するカギ  ソニーは年間七万〜八万FEUの海上貨物を取 り扱っている。
現在、メーンの出荷拠点は中国と マレーシアで、そこから日本や欧米、新興国など 世界中のマーケットに製品を供給している。
この ほかサプライヤーや協力工場が各地に広く分散し、 部品、半製品、完成品の在庫が国際間を複雑に行 き来している。
 欧米向けと比べて新興国への国際輸送の管理は ハードルが高い。
三宅武志物流本部プラットフォー ム戦略部統括部長はこう説明する。
 「マザーベッセルが安定したスケジュールで行き交 う欧米航路は、リードタイムが長くても比較的ビジ ビリティ(可視性)を確保しやすい。
それに比べて、 新興国向けの航路はスケジュールが不安定になりが ち。
主要港のキャパシティや安定稼働性にも、欧 米とは段違いの差がある。
さらにそこからフィーダー ベッセルで生産拠点まで運ぶとなると、輸送の可 視性はいよいよ危うくなる」。
 ソニーは〇一年に貨物トレースシステム「E − LOG」を自社構築していたが、これはあくまで 欧米航路を想定 したものだった。
ビジネスの重点が 新興国にシフト したことや、外 部システム環境が 整ってきたを受 け、グローバル ネットワークを可 視化できる新た な体制作りに乗 り出した。
 一一年中頃か ら、物流本部の中国におけるサポートチームが牽引 する形で検討が始まった。
E −LOGのコンセプト をほぼそのまま踏襲し、その上で新興国までカバー できるシステムと運用体制を低コストで実現するこ とを目指した。
 メーンシステムには大手外資ベンダーが提供する パッケージソフトを採用することに決定した。
また、 ニッチキャリアを活用するエリアについては、フォ ワーダーのシステムで補完することも検討している。
 昨年後半からは船会社を交えてのトライアルに 移行した。
実際の出荷データを基に、画面への情 報反映やユーザビリティを確認した。
この段階で最 も大きな課題となったのが、トラッキングする荷物 情報の網羅性、迅速性、正確性だという。
 可視化システムの鍵は、全ての輸送情報を正確 に素早くアップデートできるかどうかに掛かってい る。
優れたシステムを整備しても、入力のタイミン グが遅れたり誤った情報を報告してしまっては意 味が無い。
その作業は各船会社が担うことになるが、 徹底させるのは容易ではない。
 田崎英夫物流本部プラットフォーム戦略部国際 輸送企画課統括課長は「最初は満足の行くレベル で情報を可視化することができなかった。
そこで、 入札説明会の時に船会社に対して協力を要請する とともに、可視化システムへの入力対応を委託の マスト条件の一つに加えた。
結果、荷物情報のカ バレッジはかなり拡がった」と振り返る。
 手応えを得て、段階的に実運用に切り替えてきた。
今年四月からは全面的に導入する予定だ。
当面は 課題を洗い出しながら、貨物トレースに主眼に置 いて運用を進める。
それが実現できれば、一元的 な在庫管理やコスト管理など、より高度な運用に 挑む方針だ。
三宅武志物流本部プ ラットフォーム戦略部 統括部長 田崎英夫物流本部プラ ットフォーム戦略部国 際輸送企画課統括課長 新興国シフトに新システムで対応 ソニー 特集 物流の 見える化 最新版 にもなる。
国際輸送の管理を担う元請け企業や3 PLは、陸海空の輸送キャリアからステータス情報 を集め、荷主からの問い合わせに常時対応しなけ ればならない。
レスポンスに時間が掛かれば信用は 失墜する。
 大手フォワーダーや3PLは既に可視化システム を自社で整備し、荷主へのサービスレベルの向上を 図ると同時に、物量拡大のための強力な営業ツー ルとして位置付けている。
中堅以下の物流会社に とっても国際輸送の可視化システムは今や必須ツー ルとなりつつある。
可視化支援サービスが充実  システムベンダーはこれを商機と見ている。
N ECは昨年五月、可視化支援サービス「NeoSarf/ Logistics」をリリースした。
この領域ではまだ珍 しいとされるSaaS型を採用している。
リリー ス後に物流企業や荷主企業から一〇〇件以上の引 き合いを受けているという。
 
裡釘淡鯆漫Ρ人◆Ε機璽咼攻肇愁螢紂璽轡腑鷸 業部の海老沢美佐子氏は「荷主企業と物流企業と の契約期間は年々短くなっている。
限られた荷主 のために高額なシステム投資をするのは物流企業に とって非常に重い。
SaaS型ならスモールスター トを切ることができ、ランニングコストも低く抑え られる」と説明する。
 統合サービスプロバイダーの米GXSは〇三年か ら、同じくSaaS型の可視化支援サービス「GXS Active Logistics」を提供している。
特徴は物流企 業のデータをEDIによって自動収集し、即座に 管理画面に反映させることができる点で、これま で世界三万社との接続実績を持つ。
特に物量の多 い大手荷主や物流企業に有効だという。
 やはり引き合いは伸びている。
同社の小野寺亘 営業本部部長は「一貫して一定のニーズはあるが、 東日本大震災やタイ洪水以降、サプライチェーンの 重要性が改めて認識された。
それに伴って、可視化 に対する引き合いもより強くなっている」と言う。
日本での見える化ニーズは限定的  一方、日本国内における可視化の対象はトラッ ク一台単位の動態管理にまで落とし込まれている。
GPS(全地球測位システム)やGIS(地理情 報システム)を駆使して、物流をリアルタイムで把 握することも容易になっている。
 もっとも、日本国内のトラック輸送は出荷翌日 もしくは翌々日には到着し、オペレーションも安定 しているため、見える化に対するニーズは限られて いる。
海外で普及しているTMS(運行管理シス テム)も日本ではほとんど販売実績がない。
 国内輸送の可視化は日本よりもむしろ中国のよ うな新興国が舞台となっている。
国内輸送の足が 長いことに加えて、インフラや法制も整っていな い。
独特の商慣習もある。
現地の物流事業者の品 質も高くない。
その半面、生産拠点や消費市場と して重要な役割を果たしている。
そういった国の 物流にこそ、可視化は求められている。
MARCH 2013  30 GXS のActive Logistics 取得ステータス実績データ例一般的な取得予定トラッキングポイント 組立工場 保税倉庫 積港 空運、海送 揚港 鉄運&陸上 組立工場 輸送 受注出荷 通関 陸送 船積 出港入港通関 陸揚 CY 納品 本船 切替 鉄道 出発 鉄道 到着 陸送 終了 受領 CY 確認 出荷 指示 任意のトラッキングポイントを設定し、国際輸送の進捗を把握する 中国工場海貸業者/通関業者/陸上輸送業者/航空会社北米 GXS Active Logistics NECの可視化シス テムの管理画面。
イベント情報など を常時確認できる  山九は〇四年から、中国国内において自動車部 品物流への取り組みを本格化させている。
きっかけ はトヨタ系のティア1サプライヤーからの声掛けだ った。
中国に統括会社を設置し、各工場任せだっ た調達物流に日本同様のJITやミルクランを導入 するという。
山九はそのパートナーに指名された。
 この要請に山九は戸惑いを覚えた。
岩丸克之ロ ジスティクス・ソリューション事業本部3PL推進 部部長は「当社はそれまで中国はおろか、日本国 内でも自動車部品を取り扱った経験がほとんど無 かった。
もし本格的に取り組むとなれば、JIT に代表される定時納品や作業進捗の予実管理、コ スト管理などをゼロから学び、しかもそれを中国 で実施しなければならない。
正直、不安も大きか った」と振り返る。
 それでも、中国における自動車産業が、今後一 層の拡がりを見せることは明らかだった。
トヨタ系 の大手ベンダーの物流を担っていれば、山九にも 必然的にビジネスチャンスが舞い込む。
また厳しい 物流品質の要求に応えていくことで、現地スタッ フの教育を図ることができる。
こうした判断の下、 自動車部品物流への本格進出に踏み切った。
中国国内のミルクラン  天津域内のミルクランが〇四年九月からスタート したが、問題はすぐに噴出した。
「ミルクランは分 刻みの定時納品・定時運行が命綱だが、現地ドラ イバーにとって二〇分程度の誤差は遅刻の範疇に 入らない。
時間に対する意識のズレを修正すると ころから始める必要があった」と岩丸部長。
 運行管理ボードを用意し、ルートごとにどの程 度の遅れが発生しているのかが一目で分かる体制 を整えた。
一五分以上遅れが発生している場合は 赤、五分以上の場合は黄色といった具合だ。
遅れ が発生していれば、すぐに荷主へ報告するととも に、ドライバーへの時間厳守を促した。
 ミルクランの荷役では、ドライバーが果たす役割 が大きい。
時間内にルートを回るために、率先し て積み降ろし作業をする。
進捗日報の作成・管理 なども業務内に含まれる。
しかし中国では車上受 け・車上渡しが常識で、いくら指導してもドライバ ーはそれ以上の 作業はしたがら ない。
山九はこ れに対応するた め、作業量・運 行量に合わせて 賃金を支払う給与体制を整備した。
 〇六年からは域内ミルクランと長距離輸送を組み 合わせる取り組みも始まった。
中国でのトラック輸 送の距離は日本とは比較にならない。
例えば広州 と天津の間は約二五〇〇?にも及ぶが、モーダルシ フトが進んでいない中国ではトラックで運ぶのが一 般的。
走る距離が長い分だけ、管理も難しくなる。
 
韮丕咾鯀桓嵶召謀觝椶靴討海量簑蠅謀たって いる。
域内ミルクランだけでなく、長距離輸送の 動態管理も徹底することで納期と品質の維持・向 上を図った。
雪害や濃霧などによる高速道路状況 をいち早く確認し、適切な代替ルートを指示する ためのツールとしても役立てている。
 さらに、貨物の無断積み替えやドライバーによる 貨物の盗難対策としての機能もGPSは果たして いる。
岩丸部長は「当社に限らず、中国では日本 以上にGPSが広く普及している。
動態管理や運 行管理に役立てたいという狙いの他に、防犯対策 の意味合いも大きい」と打ち明ける。
 スタートからの数年間は厳しい収支が続いたが、 同社の自動車部品物流はこの数年で軌道に乗り始 めている。
域内ミルクランから長距離輸送、倉庫 作業、フォワーディングへと受託領域が伸びたこと や、ティア1サプライヤーの物流を受託しているこ とが呼び水になって新たな自動車関連の荷主が増 えたこと、日本人スタッフが管理しなくてもJI T物流に対応できるようになったことなどが大き く寄与している。
 岩丸部長は「今後は中国で培ったJIT物流の ノウハウを、日本やアジア諸国に移植してセールス を強化する。
設備装置メーカーなど自動車産業以 外の荷主獲得も目指す」と意気込みを語る。
31  MARCH 2013 岩丸克之ロジスティクス・ ソリューション事業本部 3PL推進部部長 中国におけるGPS は、運行管理のほ か、防犯対策にも 活用 ミルクランの進捗 を一目で分かるよ うに工夫 特集 物流の 見える化 最新版

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