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MAY 2013 48
厚労省がメーカーに安定供給を指導
ジェネリック(後発)医薬品メーカー大手の
東和薬品は昨年一〇月、岡山県に「西日本物
流センター」を稼働した。 これに先立つ二〇
一一年一一月には山形県に「東日本物流セン
ター」(稼働時の名称は「山形配送センター」)
を稼働しており、国内を東西二拠点でカバー
する体制を整えた。
これによって東和薬品の物流管理は大きく
変わった。 同社は異なる品目を生産する工場
を国内三カ所(岡山、山形、大阪)に構え
ている。 従来は三つの工場の一角にそれぞれ
「配送センター」を設けて、各工場で作る製品
を管理していた。 営業所や代理店からの注文
にも配送センターごとに対応するため、取引
先にとっては一回の注文で三回の荷受け作業
が発生することも珍しくなかった。
一連の物流改革を主導し、一〇年四月から
物流部長を務めている安孫子健治執行役員は、
「配送センターの役割は指示された製品を届け
ることだけ。 組織図上は営業部門の傘下に位
置していたが、営業からも生産からもほとん
ど孤立していた」と振り返る。
そんな同社が物流の再構築に乗り出した背
景には、ジェネリック医薬品を普及させよう
とする国策がある。 新薬の特許が切れてから
登場するジェネリック医薬品は、成分や効用
は先発薬と同じで価格が三割以上安い。
このため欧米の主要先進国では、二〇〇
〇年代半ばの時点でジェネリック医薬品のシ
ェア(数量ベース)が既に五割を超えていた。
しかし日本では、たびたび普及策が打たれた
にもかかわらず二割にも達していなかった。
そこで政府は「経済財政改革の基本方針
二〇〇七」(〇七年六月閣議決定)に、一二
年度末までにジェネリック医薬品の「数量シ
ェアを三〇%(現状から倍増)以上にする」
という数値目標を明記した。 これを受けて厚
生労働省が「使用促進アクションプログラム」
を策定。 普及活動を本格化した。
当時のジェネリック医薬品は、「採算性な
どの問題ですぐに製造販売が中止になること
がある」とか、「発注から納品までに時間が
掛かることがある」といった問題を医療現場
から指摘されていた。 このため厚労省はメー
カーに対して、「安定供給」や「品質確保」、
「情報提供」などの指導を強化した。
「安定供給」のための具体的な施策として
「納品までの時間短縮」や「在庫の確保」と
いった方針が提示され、「卸売業者への翌日
配送一〇〇%」といった目標も掲げられた。
求められたのは、まさに物流の高度化だった。
ジェネリック(後発)医薬品の普及を促進する
条件として、国から“安定供給”を義務付けられ
た。 「物流部」を新設して在庫責任を明確化し、東
西2カ所に新たな物流センターを稼働させた。 アウ
トソーシングではコストメリットを得られないと判
断して、施設への投資から現場運営まで自社で賄
っている。
拠点政策
東和薬品
東西2カ所に自社運営のセンター新設
安定供給を担保して後発薬の普及促進
東和薬品で物流部長を務める
安孫子健治執行役員
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ジェネリック医薬品メーカー各社は、市場を
拡大する強力な推進力を得る一方で、多くの
課題を突き付けられることになった。
計四〇億円規模の物流投資
この〇七年に東和薬品は物流の高度化に向
けた活動をスタートさせた。 従来のやり方に
は、そもそも無理があった。 岡山・大阪・山
形の「配送センター」に異なる製品を在庫す
る体制では、全国への翌日配送を徹底するの
は難しい。 一回の注文に対して三つの拠点か
ら発送するのも明らかに不合理だった。
そこで新たに東西二拠点にフルラインで製
品を在庫する物流センターを設けて、東日本
と西日本それぞれに製品を供給するという考
え方に改めた。 物流専業者へのアウトソーシ
ングも検討したが、コストメリットを見出せ
なかったため、センターの自社運営を基本に
物流を再構築することになった。
その後、物流を見直す動きは、社内で別に
進行していた山形に新工場を建設するプロジ
ェクトと合流することになる。 山形の新工場
への投資総額は約二〇〇億円。 〇七年度の東
和薬品の連結売上高が二九二億円で、営業
利益が四四億円だったことを考えると、かな
り思い切った投資と言える。
その新工場の一角に「東日本物流センター」
を設けることにした。 旧山形工場で工場長を
務めていた安孫子執行役員を中心メンバーと
する「新工場建設プロジェクト」で、物流セ
ンターの機能も含めて検討を
重ねた。 社内には物流ノウ
ハウの蓄積がなかったことか
ら、複数の物流機器メーカ
ーから提案を募ってパートナ
ーを選定した。
その結果、ダイフクをパ
ートナーに選び、両社の間で
センターの構築プロジェクト
を組んだ。 東和薬品がまず
物量や処理能力などの要件
を提示し、これをダイフクが
具体的なセンターの設備へと
落とし込み、さらに見直す
作業を繰り返した。
〇九年に新工場の建設に着手すると、同時
並行で「東日本物流センター」の構築に取り
組んだ。 「原材料・製品倉庫棟」として一万
平米余りのスペースを確保し、収容能力五〇
〇〇パレットの自動倉庫などを配備した。
一方の「西日本物流センター」は岡山工場
内にスペースを確保できなかったため、二キ
ロメートルほど離れた場所に保有していた土
地に物流センターを新設した。 六〇〇〇パレ
ットの収容能力を持つ自動倉庫などの設備と
建物だけで約二二億円を投じている。
先の東日本物流センターの場合、工場と棟
続きになっているため、「物流センターへの
投資額だけを切り離して勘定するのは難しい。
だが金額的には西日本物流センターと同程度」
(安孫子執行役員)という。
成長市場で伸びる東和薬品の業績(単体)
「東日本物流センター」は山形
工場と同じ建物内にある。 総
額22 億円を投じた「西日本物
流センター」と設備はほぼ同等。
ジェネリック医薬品はメー
カーごとの固有名称から成
分名を示す一般名称へと
変わる過渡期にある。
バーコードも刷新中。 〈旧〉〈新〉
500
450
400
350
300
250
200
150
100
50
0
4.5
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
売上高・営業利益(億円)
棚卸資産回転期間(カ月)
96/
3
97
/3
98
/3
99
/3
00
/3
01
/3
02
/3
03
/3
04
/3
05
/3
06
/3
07
/3
08
/3
09
/3
10
/3
11
/3
12
/3
売上高
営業利益
在庫回転期間
3 工場で生産して東西2 拠点で物流を管理
(山形県上山市)
※工場と同じ施設内
(山形県上山市)
東日本物流センター
(岡山県勝田郡)
※工場から約2?
西日本物流センター
山形工場
(大阪府門真市)
大阪工場
(岡山県勝田郡)
岡山工場
物流業務の重要性が増したことを受けて、
一〇年四月には社内に「物流部」を新設。 安
孫子執行役員がその責任者に就いた。 生産部
門と営業部門の間を取り持ちながら業務をコ
ントロールする必要性から、両本部の担当役
員による共同管掌の組織とされたが、従来と
は違って生産や営業からは独立した部門とし
て活動していくことになった。
その後、建設中の新山形工場の一角で一
一年一一月に「東日本配送センター」が稼働。
その約一年後に「西日本物流センター」も動
き出した。 このタイミングで「大阪配送セン
ター」を閉鎖し、東西二拠点体制による物流
管理を本格的にスタートさせた。
在庫は、センターに最低二カ月分、各地の
営業所に一・三カ月分の合計三・三カ月分を
基準としている。 「これだけ在庫があれば、ま
ず欠品しない。 しかし、われわれの取扱アイ
テムは一五〇〇SKUと多いため、大口の注
文が入ると途端に一部の製品が手薄になって
しまう。 このため最近は、生販会議を物流部
が主催するなどロジスティクス的な考え方で対
応している」(安孫子執行役員)という。
「東和式直販」を自社物流で支える
実は東和薬品には安定供給の要請に応える
という狙い以外にも、物流を高度化しなけれ
ばならない理由があった。 「東和式直販体制
の確立」である。
かつての有力医薬品卸は大手先発薬メー
リック医薬品の取り扱いを増やしている。 こ
れに伴い流通チャネルを直販から卸経由に改
めるジェネリックメーカーも増えてきた。
それでも東和薬品は直販方式にこだわり続
けている。 「今は信頼を得ることが一番大事。
そのためにも流通の末端まで自分たちで手掛
けて、製品の良さを知ってもらいたいという
気持ちが強い。 直販だからこそ代理店さんな
どから寄せられる納品時間や梱包形態などの
要望に柔軟に応えられるというメリットもあ
る」と安孫子執行役員は強調する。
その直販チャネルはこれまで、東和薬品の
製品を専属に近いかたちで扱う代理店を中心
に組織していた。 しかし最近は直営の営業所
を増やしている。 代理店が育つのを待ってい
ては市場の拡大に間に合わないため、営業所
に各地の代理店を補完させている。
営業所の数は現在、全国五五カ所まで増え
た。 各営業所にはMR(医薬情報担当者)の
ほか、一カ所に二、三人ずつ配送専門のスタ
ッフを配置している。 通常、MRは製品配送
も手掛けている。 だが緊急配送のニーズに即
応できるとは限らないため、配送専門スタッ
フと分業している。
このように東和薬品はトラック輸送を除く
ほぼすべての物流業務を自社で運営している。
物流部には現在、六〇人弱の従業員が在籍し
ており、このうち二〇人余りが東日本物流セ
ンターで、三〇人余りが西日本物流センター
で現場実務などに携わっている。 大阪本社の
カーの系列色が強く、ジェネリック医薬品を
取り扱うことに必ずしも積極的ではなかった。
そのためジェネリックメーカーの多くは、大手
卸に頼らない直販に力を注いできた。
だが最近は卸のスタンスも変化し、ジェネ
MAY 2013 50
パレットの自動洗浄機も完備 A品のロケーションを示す表示 A品はパレットのまま庫内移動
C品はシンプルなラックで処理 B品にはフローラックを活用 ABC分析に基づいて在庫を配置
「東日本物流センター」のピッキングエリア
品を梱包前に全量、再スキャンしている。 小
売店で精算時に使われているPOSレジと同
様の工程を通過させることから、これを社内
では「POS検品」と呼んでいる。
一連の業務は「入社して一週間の人でも失
敗しない仕組みになっている。 ミスはほとん
ど発生していない」(同)という。
使用期限までバーコード化
製品に付記するバーコードについても最先
端の取り組みをしている。 医薬品や医療機器
には、品目を表すバーコード(JANコード)
とは別に、製品ごとの?変動情報?(使用期限
とロットナンバー)が必ず記されている。 こ
の変動情報は在庫管理にも不可欠だ。
近年は取り違い事故の防止や、市販後のト
レーサビリティの観点から、厚労省が変動情
報を表示する新たなバーコード規格を標準化
し、普及を図っている。 しかし実際に新しい
規格のバーコード表示が使われている割合は、
先発メーカーを含めても、製品の内箱の「販
売包装単位」で二%未満、外箱の「元梱包装
単位」でも二〇%程度にすぎない。
それを今回、率先して導入した。 生産ラ
インの見直しを伴うため簡単ではなかったが、
新工場の稼働に合わせて踏み切った。 当面は
物流管理にしか使えないが、将来的に流通段
階やユーザー層にまで活用が広がれば製品の
管理精度の向上につながると期待している。
このように物流品質の高度化を優先してき
たことから、トータル物流コストは、五年前
に同社がアウトソーシングを検討した時より
も上振れした感は否めない。 それでも、工場
と物流センターの間を往来する輸送業務では、
興味深いコスト削減策を実施している。
同社の国内三工場はそれぞれ生産する品目
が異なるため、工場と物流センターの間で常
に横持ち業務が発生する。 岡山工場と山形工
場にそれぞれ二二トンの低温輸送トレーラー
を配備し、ほぼ毎日、行き来させている。 こ
の際、岡山と山形から出発した二台のトラク
ターが富山で落ち合い、ここでトレーラーを
交換。 再び出発地に戻るという運用をしてい
る。 低コスト化と輸送業務のコンプライアン
ス遵守を両立させる工夫である。
一二年度末までに「ジェネリック医薬品の
数量シェアを三〇%以上」にするという厚労
省の目標は、結局、未達に終わり、普及率
は二五%程度にとどまった。 しかし厚労省は、
これからもジェネリック医薬品の使用を促進
していく方針だ。 一七年度末までに普及率を
六〇%以上(※算出方式が変わるため従来の
計算方式では三四・三%以上)にするための、
新たなロードマップを発表している。
今後も市場が拡大することを見込んで東和
薬品は東西の物流センターに、自動倉庫など
を拡張できる余地を用意している。 キャパシ
ティとしては「売上高一〇〇〇億円まで対応
できる」という。 既に準備は整っている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之)
管理スタッフは数人にすぎない。
同社の一五〇〇SKUという管理品目数は、
先発薬メーカーの物流拠点と比べるとかなり
多い。 しかも注文の六、七割はピースピッキ
ングを要するためミスが発生するリスクも高
い。 これを避けるため東西の物流センターで
は、バーコードによる管理を全面的に導入し
ている。 以前の「配送センター」の時代には
紙のリストに基づいて庫内作業を実施してい
たが、バーコード管理に改めることで作業品
質の向上と標準化を図っている。
センターでの作業にはダブルチェックの工程
も組み込んだ。 オーダー別にピッキングした製
51 MAY 2013
特注のカゴ車に積み出荷場へ 再び検品してダブルチェック
梱包して出荷ラベルを貼付 カートを使いピースピッキング
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