ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2013年5号
物流行政を斬る
第26回 国が非常時の物流政策を検討通常時の物流の合理化こそが最も効果的な災害対策になる

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2013  74 スピード感と周知活動が欠落  東日本大震災が発生してから早いもので二年が経 った。
東北地方における物流網が寸断され、企業活 動のみならず住民生活に全国レベルで甚大な被害が あったことは記憶に新しい。
こうした経験を踏まえ、 国土交通省は現在「災害に強い物流システムの構築」 に向けた取り組みを行っている。
今年三月十二日に、 二〇一二年度における取り組みの総括と一三年度の 方針が発表された。
今月はその内容について考察す る。
 「災害に強い物流システムの構築」は、一一年十 二月に国交省のアドバイザリー会議が発表した「支 援物資物流システムの基本的な考え方(以下『基本 的な考え方』)」のコンセプトが下敷きになっている。
「基本的な考え方」ではまず、東日本大震災時にお ける物流の状況に関する振り返りがなされ、次の問 題点が指摘された。
 ?地方公共団体の業務に物流業者・団体が参加し ていなかったことなどにより、円滑な輸送や物資集 積拠点運営等に支障を来した?被災地情報、物資 関係情報等が途絶えた?市町村自身の被災等により、 国が非常時の物流政策を検討 通常時の物流の合理化こそが 最も効果的な災害対策になる  東日本大震災以降、災害に強い物流システムの構築 を目指して活発な議論がなされている。
打ち出される コンセプトや施策は一定の評価に値するものの、大局 観が欠落している。
災害時の物流対策は、通常時の物 流施策とセットで議論されることが望ましい。
通常時 の物流が合理的であれば、非常時にしなければならな いことは、実はそう多くない。
第26回 国・県・市町村の間の連携が十分ではなかった?大 量の支援物資が送り込まれたことから、物資集積拠 点の機能が低下?避難生活が長期化する中で、ニー ズに合わない支援物資が在庫として滞留──の五点 である。
 そして、それに対する施策を次のように発表して いる。
●現行の災害時協力協定内容について不足がないか 確認し、必要に応じて内容の見直し、追加の協定 締結を行う ●避難所・行政機関施設、物資集積拠点等におい て情報通信手段が途絶しないよう、衛星通信機器 や自家発電機器を整備 ●訓練の実施等、事前の備えの徹底、物流集積拠点 運営においては、物流事業者の能力を最大限発揮 できるようにするとともに、拠点として備えるべ き機能や配置の在り方について検討した上で、リ ストアップしておく ●必要な情報項目や単位を整理し、発注様式を統一 することにより、物資に関する情報を円滑に交換 できるようにする  筆者なりに集約すると、?民間事業者の活用?情 報システムの整備?物流業務の標準化・共通化── ということになろう。
 これを受けてスタートした「災害に強い物流シス テムの構築」の一二年度における取り組みは、大き く分けて四つである(表参照)。
そして、一三年度 の取り組み方針としては、次の二つを大きく掲げて いる。
?.全国レベルでの取り組み──?今年度に各地 域で取りまとめた知見等を「基本的な考え方」 や「マニュアル」等の形で統一化 ?関係省庁 間での取り組みが必要な事項の調整 ?国交省 研修センターでの自治体職員等を対象とした 災害物流に関する研修の立ち上げ ?.各地域レベルでの取り組み──?支援物資物 流の基本的な考え方の自治体等への普及 ?具 体的な連絡体制の整備、対応手順の確定、関 係者間での認識・情報共有、これらを検証す るための訓練の実施 ?民間物資拠点のリスト アップの拡充、官民の協力協定の締結促進  この一連の経緯に対して申し上げたいのは、スピ 物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 寺嶋正尚 75  MAY 2013  ード感の欠如である。
先に示した「基本的な考え方」 は東日本大震災のわずか半年後に策定されたにもか かわらず、その実現に長い時間が掛かっている。
い まだに自治体に浸透させるためのマニュアル作りや、 具体的な連絡体制の整備・対応手順の確定などを 掲げている。
様々な専門機関が、近い将来、かなり 高い確率で大震災が起こると予測される中において、 何とものんびりした動きと言える。
一刻も早く実行 すべきだろう。
 周知活動も不足している。
こうした計画は、全国 の地方自治体および民間事業者など関係者に平時か ら広く浸透していなければ効果を発揮しない。
とこ ろが、今これらの内容を知っている人はどの程度い るだろうか。
実際に地震が起きてから、ようやくそ の存在を確認するようでは到底役に立たない。
理念 やコンセプトは大いに評価できるものなので、今後 は実運用に向けた努力に力を注いで欲しいところで ある。
平時から効率化を目指せ  さて、ここで掲げられた内容は、実は災害時にお ける支援物資にのみ当てはまるものではないことに 留意すべきだ。
例えば筆者が集約した?の「物流業 務の標準化・共通化」であるが、それが実現すれば 物流事業者や荷主企業に等しくメリットが発生する。
もちろんコスト削減効果も期待できることから、競 争力の強化にもつながる。
 従って、災害に対する備えを契機とし、平時にお いても対応すべき不可欠な内容ととらえ、業界をあ げて取り組むことが望ましい。
行政としても、その 方向に働き掛けるべきである。
使用するパレットや 受発注のフォーマットの共通化・標準化が依然とし て普及していない現状には通常時のオペレーション においても大きな問題がある。
常日ごろからこうし た取り組みを行っておけば、何も災害時に慌てる必 要はないのだ。
 また?の「情報システムの整備」も同様である。
例 を一つ出そう。
現在、諸外国から低廉な商品がわが 国に数多く輸入されているが、食品や医薬品等では、 トレーサビリティの確保が喫緊の課題になりつつある。
また、今後は環境問題への意識の高まりから、返品 や廃棄の問題への対応がますます不可欠になる。
行 き届いた在庫管理が今まで以上に大切になると思わ れる。
こうしたことを実現する情報システムの整備 は、官民挙げて取り組むべきものであり、何も災害 時にのみ必要とされるものではない。
 ?の「民間事業者の活用」に関しては、その方 向性は全くもって正しい。
が、ここには荷主の視点 が欠けている感が否めない。
支援物資を運ぶ必要性 が高いとき、それが最優先されるのは致し方ないが、 荷主企業もビジネスを行う事業者であり、支援物資 に関する物流を優先することで、実際の経営は打撃 を受ける。
こうした点に対する配慮も盛り込んでお かなければ、ビジョンは絵に描いたもちになってし まうだろう。
 物流システムや情報システムは、企業にとって生 命線である。
これらのインフラが盤石でなければ、 十分な企業活動は行えない。
企業はコスト削減やサ ービスの充実に日々奔走しているが、一企業の努力 には限界がある。
業界や国全体の立場から、施策を 講じることが不可欠である。
 非常事態においてだけでなく、常日ごろから様々 なことに備えておけば、災害時にしなければなら ないことは、実はそれほど多くない。
これを念頭に、 災害時における物流政策に関しては、通常時の物流 行政全体の中で、その在り方が論じられるべきだと 筆者は考える。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、流通経済研究所を 経て現職。
日本ロジスティクスシステ ム協会調査研究委員会委員、日本ボ タンタリーチェーン協会講師等を務め る。
著書に『事例で学ぶ物流戦略』(白 桃書房)など。
「災害に強い物流システムの構築」の2012 年度における取り組み ?.東日本大震災時の支援物資物流の経験から得られた教訓を基にした知見の整理(東北) ?広域的な物流拠点の開設の考え方と手順の明確化 ?物流事業者の参画を確保するための協力協定のひな形を提示、事前取り決め事項を整理 ?支援物資の送り手側のルールを提案 ?滞留物資への対処方法を提示 ?在庫情報管理システムの作成と品目分類の標準化 ?全国的に活用可能な資料や各種フォーマットの共有 ?.支援物資物流システムの検証(関東、中部、近畿、中国、四国、九州) ?物資拠点全体の規模等を検証 ?避難所までの配送を含めた支援物資物流全体の問題点の検証 ?自治体と連携した訓練等の実施 ?.官民の協力協定の締結促進(全国) ?輸送協定(トラック協会) :42→45(これに加えて1 件が締結に向け協議中) ?保管協定(倉庫協会)  :9→14(同、16 件が締結に向け協議中) ?専門家派遣協定(トラック協会・倉庫協会):21→29(同、10 件が締結に向け協議中) ?.民間物資拠点のリストアップの拡充(全国) ●11 年度は、4ブロック(関東、東海、近畿、中四国・九州)で395カ所の民間物資 拠点をリストアップしたが、12 年度は同様の取り組みを全国で実施。
新たに539カ所 をリストアップした。
●この結果、リストアップされている民間物資拠点は全国で934カ所になった。

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