ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年8号
ケース
米ダウコーニング 欧米SCM会議㉙ 企業向けネット販売が売上の3割に拡大発注ルール徹底と自動化で低価格化実現

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2013  46 B to B取引のネット化を推進  当社ダウコーニングは、シリコーン製品や 特殊潤滑剤を製造するメーカーです。
設立 は一九四三年でアメリカでも最も古いジョイ ント・ベンチャーの一つに数えられています。
ダウ・ケミカルとガラス製品などを作るコーニ ングが五〇%ずつ出資しました。
この出資比 率は今も変わっていません。
 現在、当社はアメリカ、アジア、ヨーロッ パなどに二万五〇〇〇社の顧客を抱え、七〇 〇〇を超す製品やサービスを販売しています。
二〇一二年十二月期の売上高は約六一億ドル (六一〇〇億円)で、その半分以上を北米以 外で売り上げています(図1)。
 私自身は一九九四年にベルギーで当社に入 社し、中国、日本、ドイツなどでの勤務を経 て、ミシガン州の本社勤務となり、二〇一一 年からダウコーニングの一部門である「ザイ アメター(XIAMETER)」を率いる立場とな りました。
 ザイアメターとは、低価格の製品を安全か つ便利に提供することを目的に構築した当社 のeコマース事業です。
それまで当社はR& Dを重視して、革新性のある製品やソリュー ションを提供することに精力を傾けてきまし た。
しかし、ザイアメターのビジネスモデル は、それとは大きく異なっていました。
 当社がザイアメターを立ち上げた理由は大 きく二つあります。
一つはインターネットを 介したB to Bビジネスの拡大です。
そしても う一つは、新たな顧客層の出現でした。
 インターネットがビジネスの在り方を大き く変えたことは、今や誰の目にも明らかです。
グローバル化の進展、同業他社との競争激化、 情報の透明性の向上、製品が陳腐化するスピ ードの速さ、顧客ニーズの変化など例を挙げ ればきりがありません。
 しかし、現時点でB to B取引において、ど れだけインターネットが使われているかといえ ば、それほど多いとは言えません。
ネットの ビジネス利用が進んでいるとされるアメリカで さえ、二〇一〇年時点のB to Bのeコマース の実績は三〇〇〇億ドル(三兆三〇〇億円) で、取引全体の四・四%にすぎません。
二〇 一三年末でも、それが五五九〇億ドルになる 程度だと予想されています。
 それだけ拡大余地は大きいと言えます。
実 際、多くの企業がeコマースのプラットフォー ム構築に巨額の投資を続けています。
 シリコーン業界の動向を、一九八〇年代、 九〇年代というように一〇年単位で振り返っ てみると、顧客ニーズの大きな変化を読み取 ることができます。
八〇年代においては、当 社の顧客の多くは、より良い機能と革新的な 製品に比較的高価な対価を支払う傾向があり ました。
そのため当社は研究開発の投資に見 合うだけの代金を顧客に請求することができ ました。
 それが九〇年代に入ると、手厚いサービス  コモディティ品をネットで販売する「XIAMETER」 事業が売上全体の約3割を占めるほど拡大している。
発注ルールの厳守や取引の自動化によって、サプラ イチェーンのコストを極限まで削り、低価格化を実 現した。
同事業を担当するヨーン・ブルームハム氏 がこれまでの取り組みを解説する。
欧米SCM会議㉙ 米ダウコーニング 企業向けネット販売が売上の3割に拡大 発注ルール徹底と自動化で低価格化実現 社名 ダウコーニング 本社 アメリカ、ミシガン州ミッドランド 創業 1943 年 社長兼CEO ロバート・D・ハンセン 売上高 61 億2000 万ドル(6182 億2000 万円) 最終利益 1 億88000 万ドル(189 億8800 万円) 従業員 1 万1986人 (注1)1ドル=101円で換算 (注2)同社の売上高と営業利益は、2012 年12月期の 決算数字より 会社概要 47  AUGUST 2013 より、革新的な製品を安く手に入れることを 顧客は求めるようになりました。
顧客側の製 品知識が高まってきたため、こちらから技術 者を送り込むようなサービスは割高と映るよ うになってきました。
 二〇〇〇年代に入ると、低価格化の流 れが一層鮮明になってきます。
インターネ ットの普及が、その流れを加速させること となりました。
「プライス・シーカー(price seeker)」とも呼ばれる顧客が台頭していまし た。
彼等のニーズに当社は応えるべきなのか。
それとも、そうした顧客を安い価格で製品を 提供している同業他社に奪われてしまうのは 仕方のないことなのか。
当社は岐路に立たさ れました。
 そして我々は今までよりも安い価格で販売 しながらも利益を確保できる方法はないもの かと模索し始めました。
その結果として行き 着いたのが、ザイアメターでした。
二〇〇二 年に「ザイアメター」というネット専門の販 売チャネルを立ち上げたのです。
徹底してムダを削ぎ落とす  ザイアメターの立ち上げ前に、我々は大手 顧客に聞き取り調査を行いました。
主だった 顧客を訪問して、新しいサービスでは後で挙 げるようないろいろな制約が付くのだけれど、 その点についてどう考えるのか聞いて回った のです。
 どの顧客も、初めは当社の申し出に警戒心 を抱いたようで、ザイアメターの業務内容を 子細に尋ねてきました。
要求された制約に従 ってビジネスを行うことで、どのような見返 りがあるのかを見極めようとしていました。
 結局、多くの顧客がビジネス上の制約より 見返りの方が大きいと判断し、我々の提案に 乗り気になりました。
その結果、ダウコーニ ングの社内でザイアメターの立ち上げにゴーサ インが出たのです。
 ザイアメターで販売する製品はこれまでの ダウコーニングの製品と同じです。
同じ工場 で、同じ生産プロセスを経て製造された製品 で、製品テストや規格も同じ。
当然ながら各 国の法律や規制にも則しています。
つまり、 これまで当社が七〇年近くにわたって市場に 供給し信頼を得てきた製品と全く同じものを、 ザイアメターは安価に販売したわけです。
 先に挙げたような製品の特性を熟知した 顧客は、電話によるカスタマー・サポートや、 製品に問題が起きた時に客先に駆けつけるテ クニカル・サポートといったサービスを必要と していません。
ザイアメターではそうしたサ ービスを省きました。
 それに加えて、サプライチェーンにおける サービスレベルに差を付けました。
業務プロ セスを徹底的に標準化して、自動化を追求す ることで効率を高めたのです。
そうやって販 売に関わるコストを大きく抑えることで、低 価格化を実現したのです。
 ザイアメターの設立は、単に新たな販売チ ャネルを作るというだけでなく、当社のサプ ライチェーンに規律を持たせ、効率化を進め る絶好の機会となりました。
 サプライチェーン上には、遅配や過剰在庫、 割高な運賃、非効率な倉庫業務といった問題 が常に山積しています。
これらの問題を当社 だけで解決することはできません。
サプライ チェーンの効率化には、どうしても顧客の理 解と協力が必要なのです(図2)。
図1 ダウコーニングの世界に広がるサプライチェーン 地域ごとの本社 生産工場 倉庫 サービスセンター 科学技術センター 顧客に求めた七つのルール  サプライチェーンの効率化を妨げている最 も大きな要因は、顧客からのさまざまな要望 にあります。
例えば、顧客は発注した製品を すぐに届けてくれることを求めます。
発注の 締め切りなどない方がいいと考えています。
 当社では?顧客思いの営業マン?が、そう した顧客の無理な要求に応え、その結果とし て売り上げが上がったのはいいけれど、利益 は残らなかったというケースが少なくありま せんでした。
 生産効率やその後のサプライチェーン業務 の効率を考えれば、締め切りを厳守すること は不可欠です。
発注単位も、ドラム缶一本か ら、パレット一枚分、貸切トラックの半分だ けの貨物──などということになると、非効 率な構内業務と割高な輸送料金として跳ね返 ってきます。
こうした問題の多くは、ザイア メターという部門を設立することで解消へと 向かっています(図3)。
 ザイアメターで顧客が発注する際には、当 社が決めた次の七つのビジネス・ルールを守 ってもらっています。
 一つ目は、どこの工場で作られた製品か、 あるいはどこの倉庫に保管されていた製品を 納品するのかは、当社で決めさせていただく ということです。
工場の稼働状況や、倉庫の 在庫水準を見ながら、当社にとって最適なと ころから客先に届けさせていただくというこ 客のメールアドレスに送られて、発注が完了 します。
全て自動で、簡単、かつ効率的にで きるようになっています。
 四つ目は、発注の時期や発注量に従って、 同じ製品でも三つの料金帯を設けています。
顧客には、発注形態に合わせた料金がネット の画面上に提示されます。
五つ目は、世界中 で六つの支払いサイトを設けており、これに よって金利などが変動してきます。
 六つ目は、発注の締め切りにも厳格なルー ルを適用しています。
原則として二週間(十 二営業日)前に発注を締め切ります。
それよ り後で発注しようとしても、できない仕組み とです。
 二つ目は、一回当たりの発注の最小単位と 最大単位です。
発注量があまりに小さいと、 庫内作業の手間や配送費が割高になってしま います。
一方で、最大単位も決めているのは、 一度にまとめて大量の発注が来ると、手持ち の在庫で対応できず、時間外に工場を稼働す るようなことになりかねないからです。
 三つ目として、発注はインターネット経由 で行ってもらいます。
発注処理に、当社の従 業員がタッチすることはありません。
顧客が 当社のサイトにアクセスして、ログインして発 注します。
すると注文を確認するメールが顧 AUGUST 2013  48 戦略 図2 サプライチェーン上の問題 計画/ 個々の戦術 実行 どうすれば有効な事業計画 が作れるのか‥‥ 個々の戦術や実行となると 多くの問題が‥‥ ●遅配 ●過剰在庫 ●高い運賃 ●非効率な倉庫業務 販売実績を基にした 事業計画 基準生産計画 市場に焦点を当てる (原材料や各種サービス、 新規のアイデアなどに注力) 図3 1つの会社に2つの異なるブランド ダウコーニングザイアメター 安全性便利性 価格 イノベーションを重 視 効率性を重視 革新的 ソリューション 確立された ソリューション 製品に焦点を当てる による確認作業は不要となりました。
 また、従来よりも前倒しで発注してもらう ことで、当社からの遅配や誤配はほとんどな いレベルまで低減できました。
そして価格も、 業界内で十分に競争力を持つレベルを実現し ています。
 一〇年以上前に我々がザイアメターの事業 構想を発表した当初は、業界の内外を問わ ず、このビジネスモデルに懐疑的な見方をす る人が非常に多かったことを覚えています。
一つの製品に二つの価格を付けるというのは、 従来の商取引慣行からすれば非常識でした し、また、安い製品を販売するザイアメター が、ダウコーニングの売り上げを食い荒らし て(cannibalize)、企業全体として利益を上 げることができなくなる、と危惧する声もあ りました。
 しかし、結果は大きく異なりました。
まず、 ザイアメターは業務開始からわずか三カ月で 初期投資を回収しました。
また、ザイアメタ ー経由の新規の注文が増えて、工場の稼働率 が高まりました。
さらに、市場動向を意識し たザイアメターの価格付けにより市場全体の 需要が高まり、そのためシリコーン関連の製 品価格が上昇して、ダウコーニングの利益に 貢献するということも経験しました。
 ザイアメターは現在、当社の売り上げの約 三〇%を占めるようになっています。
これは業 界平均の一〇%前後を大きく上回ります。
取 り扱いアイテム数も立ち上げ当初四〇〇程度 でしたが、現在は二〇〇〇を上回っています。
 ザイアメター部門はまた、当社が、タイや ベトナム、ブラジルといった新興国に進出す る際にも、市場に食い込む武器となりました。
新興国であっても、製品知識が豊富で、ネッ トを使いこなせる顧客層には、非常に魅力的 なサービスと映っているようです。
 ただし、こうしたネットを使ったビジネスモ デル自体が、コモディティ化する可能性も低く はありません。
そうさせないために、顧客の ニーズを常に敏感に汲み取り、新しいビジネス モデルを模索し続けることが大事だと考えて います。
(フリージャーナリスト・横田増生) になっています(図4)。
 最後のルールは、一度発注し、倉庫内での ピッキング作業や混載作業が終わった後では キャンセルを受け付けないというものです。
 このような厳格なルールに則って発注を受 けることで、工場の稼働率は上がり、庫内作 業のスケジュールにも余裕が出てきます。
ま た、発注量が大きいため、運賃負担も低くて 済むのです。
立ち上げ三カ月で投資を回収  ザイアメターというビジネス・モデルに関 わっていて感じることは、ビジネスの要諦は、 「ギブ&テイク」にあるということです。
先ほ どの七つのルールが当社にとってメリットだと すると、そのルールを守ることで顧客に対し、 どのようなメリットを低価格以外の部分でも 与えることができるだろう、と考えていくこ とが重要です。
 当社は、ザイアメターを開始する前からS APのERP(基幹業務ソフト)を使用して います。
ERPは当社の業務のバックボーン と言えるほど重要な位置を占めています。
ま た、それは当社と顧客がリアルタイムで製品 のステータスに関する情報を共有するのに役 に立っています。
 このシステムのおかげで、顧客は、週末や 深夜であろうと、全ての発注をネット上で行 うことができ、その後のプロセスもネット上 で確認することができます。
電話やファクス 49  AUGUST 2013 1月の内の日にち 締め切り 締め切り 図4 顧客の発注と製品の受け取り =発注 当日 当日 管理されていない発注 ザイアメターにおけるビジネスルール

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