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SEPTEMBER 2013 34
センコー
商流まで担う「流通情報企業」へ脱皮進む
逆風をよそに三期連続最高益
センコーは、住宅/ケミカル/流通ロジスティク
ス(以下:流通ロジ)分野の貨物取り扱いを得意
とし、トラック運送を中心に鉄道利用、海上運送、
国際物流など幅広い物流サービスを手掛けている。
近年、積極的なM&Aによって業容拡大を図って
いるうちの一社であり、流通ロジ分野を中心とし
た物流センター運営/3PLニーズへの対応が着実
に進められている。 なお、同社が転換を標榜する
「流通情報企業」とは、従来の総合物流の枠組みを
超える高品質なサービスを提供する企業を指す。
同社の収益基盤拡充の取り組みとその成果はこ
れまでの業績に表れている。 二〇一二年度を最終
年度とする前中期経営計画において、同社は売上
高三〇〇〇億円(〇九年度比七二三億円増)、営
業利益九〇億円(同二九億円増)の数値目標を掲
げてきた。 それに対し一二年度実績は、売上高こ
そわずかに届かず二九三五億円にとどまったもの
の、営業利益九九億円、営業利益率は三・四%を
確保した。 前中計以前の一〇年間の同社の営業利
益はおよそ五〇億〜六〇億円レベル(平均五三億
円)、営業利益率は平均二・八%であった。 永年に
わたる構造改革と事業ポートフォリオの転換、さら
には近年の積極策が、収益力の大幅な改善につな
がったものととらえている。
同社は旭化成グループ/積水化学グループ/積水
ハウス/チッソグループといった大型荷主(以下:
関係荷主四社)との関係が深い。 関係荷主四社が
工場から施工現場へ納入する合成樹脂や住宅建材
等の輸送を中心に業務を展開してきた。 九〇年代
前半には関係荷主四社向けの売上高が全体の約半
分を占めていたほどであった。 それだけに、九〇
年代後半以降の国内経済の低迷および新設住宅着
工戸数減少の影響は大きく、既存の主力事業に依
存する体質からの脱却を目指した経営改革に取り
組んできた。
新たな収益基盤として注力してきたのが流通ロ
ジ事業である。 ホームセンター向けの物流オペレー
ションを担っていた同社は、九〇年代後半にそれ
までのノウハウに加え、商流をも包括する情報シス
テム「ベストパートナーシステム」の提供を通じて、
物流センター運営業務の拡大を進めてきた。 いわ
ゆる物流業務に加え、受発注機能やファクタリング
等の商流機能を担うことで、荷主企業のサプライ
チェーン・マネジメント全般の効率化に貢献してき
たものと著者はとらえている。 イオングループに代
表されるGMS、ドンキホーテ等の量販店、ドラッ
グストアにまで請負業務領域を拡大させ、量販/
小売分野を中心に3PLの実績を着実に積み上げ
てきた。 ここで培ったノウハウが、住宅分野での
調達物流につながる等の成果となった。
加えて、M&A等を通じた新たな事業領域の拡
大が、近年の特徴として挙げられよう。 〇七年度
以降で見ると、建設用資材輸送、ファッション物
流、引越、生協向け家庭用品卸売、百貨店向け物
流、商事・貿易、重量物・特殊貨物輸送といった
機能が取り込まれ、新たな事業領域の拡大が図ら
れている。 得意市場の成熟化に対し、事業領域拡
大を通じた提供サービスの拡充や貨物波動の吸収で
成長を図っている点は評価できるだろう。
物流子会社再編や物流部門の完全外部委託とい
った物流アウトソーシングニーズが顕在化する中で、
柔軟かつ品質の担保された提供可能サービスを広
長年主力としてきた合成樹脂と住宅建材の国内市場
が成熟化したことに対応し、事業ポートフォリオの転換
を進めてきた。 その効果が業績に表れてきた。 既存荷主
の物量減少を事業領域の拡大でカバーし、コスト削減に
よって収益力を向上させている。 新中計では総額1000
億円相当の投資を計画。 拠点拡充にアクセルを踏む。
一柳 創 大和証券 シニアアナリスト
ひとつやなぎ・はじめ
1997年3月早稲田大学理工学部
土木工学科卒。 同年4月大和総研
入社、企業調査部インフラチーム
に配属。 99年から物流担当に。
PROFILE
物流企業の値段第86回
35 SEPTEMBER 2013
特集3PL白書 2013
キャッチフレーズの「物流を超える、世界を動か
す、ビジネスを変える」は新中計においても踏襲
されており、基本的な方向性自体に変わりはない
ものととらえているが、特筆すべきは投資規模で
あろう。 事業拡大のための新規拠点設置、資本提
携・M&Aを念頭に、一六年度までの四年間で一
〇〇〇億円相当(うち一三年度計画一一三億円)
の投資を行う方針が示されている。 業容拡大を果
たした一二年度までの四年間累計でも三四六億円
(年平均九〇億円)にとどまっていることから、投
資スタンスの積極化がうかがえる。
使途の一つに、物流センター事業の業容拡大へ、
保管面積を一二年度二二一万?から八〇万?増床
し、三〇〇万?体制を目指す方針が示されている。
既に発表された一三年度竣工済み/建設中の物流
センターは十二拠点、計二八万?に達しており、投
資予定額の多くが投入されることとなろう。
課題は「グローバル」と「ものづくり」
持続的成長に向け、物流センター事業の業容拡
大を図るとともに、前中計からの積み残し課題で
もある「グローバル」、新たな挑戦となる「ものづ
くり」へと事業領域を広げ、消費と生産をつなぐ
中間流通機能を担う「流通情報企業」としての地
歩を固めることが求められよう。
「グローバル」での事業展開との観点からは、一
時期の円高が是正されたとはいえ、荷主企業の海
外進出は今後も続くものとみられる。 生産・調達・
販売といった局面ごとに、海外での物流機能の提供
やコスト低減対応が求められる場面も多くなろう。
既にアジアや北米で足掛かりとなるビジネス獲
得・拠点整備が進められており、現地での物流ネ
げることが、他社との差別化や業容拡大につなが
ったものととらえている。
これらの取り組みを通じ、一〇〜一二年度累計
で一五〇億円程度となった既存物量減少/料金改
定の影響を、M&A効果や新規拡販で補う形とな
った。 また、営業利益面では、燃料単価上昇や既
存物量減・料金見直しのダメージを、M&Aを含
む増収効果に加え、三〇億円を超すコスト改善効
果で吸収し、長引く景気低迷や厳しい競争環境に
もかかわらず、過去最高益更新を果たした。
同社は今、さらなる積極的な経営方針を示して
いる。 一三年四月に策定された新たな中期経営計
画では、創業一〇〇周年に当たる一六年度を最終
年度として、売上高四〇〇〇億円(一二年度比一
〇六五億円増)、営業利益一五〇億円(同五一億
円増)、営業利益率三・八%(同〇・四pt改善)
という意欲的な数値目標が設定された。
ットワーク構築に努めている。 同社特有の案件で
もあるカザフスタンのように、先行者メリットを享
受することも焦点となってこよう。
また、「ものづくり」の観点では、例えば、医療
医薬分野での品質検査や建築材料の事前加工/施
工業務などが念頭に置かれているもよう。 より積
極的にサプライチェーンに関与していくことは、他
社との差別化にもつながるのではないだろうか。
収益性改善に向けては、前述の取り組みに加え、
物流事業のさらなる効率化を果たす必要があろう。
大型拠点整備等を通じて、拠点集約等を適宜行っ
ているものととらえているが、複合センター化や既
存空きスペースへの案件組み入れ等、保有資産の有
効活用を果たす必要があろう。 また、M&A等に
伴い、管理コスト面の負担増大が想定され、管理
機能の一元化や重複業務の統合等が求められよう。
将来的な輸送需要の大幅な伸長が見込み難く、
多くの企業が総合物流サービスを掲げる中、荷主
企業との継続的な関係構築には、サービス差別化
やコスト競争力といった優位性の確保とともに、積
極的にサプライチェーンへの関与を果たすことが焦
点になってくると筆者は見ている。
七月末に発表された同社の一三年度第1四半期
実績では、特別目的会社の連結影響を除いた実質
ベースでも一割の営業増益と順調な滑り出しを見
せた。 既存顧客の取扱量減少等から一部の3PL
企業はやや苦戦を強いられており、同社自身もケ
ミカル関連では減収を余儀なくされる等、事業環
境は必ずしも良好とは言い難い。 その中でも、着
実な拡販が行われていること、またそれを収益に
結び付けられていることは評価できる。 引き続き、
同社の取り組みを注視したい。
セグメント別売上高推移
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
10
年3月
11
年3月
12
年3月
13
年3月
14
年3月
(予想)
2277
2410
2704
2935
3100
(億円)
その他事業
商事・貿易事業流通ロジスティクス
その他物流
ケミカル物流
住宅物流
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