ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2004年5号
特集
ICタグは使えない JR貨物──コンテナの所在を一元管理

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2004 22 JR貨物──コンテナの所在を一元管理 貨物駅の広い構内で目的のコンテナを探し出すのに苦労して いた。
今年1月から東京を皮切りに、全国のコンテナ駅を対象 にICタグを活用した位置管理システムの導入を進めている。
そ れによって荷役作業のスピードアップを目指している。
(刈屋大輔) 耐久性が導入の決め手に 日本貨物鉄道(JR貨物)のICタグの歴史は九 九年に始まった。
「コンテナ列車の編成報告」と呼ば れる業務にICタグを活用したのが最初だった。
編成 報告とは、発駅側が「どの貨車にどのコンテナを積載 したか」という情報を着駅側に知らせる業務。
着駅側 はその情報をベースに列車到着後の作業計画などを立 てている。
従来、発駅側は貨車番号とコンテナ番号を専用の 用紙にメモ。
その情報をパソコンで「FRENS」と 名付けられた貨物情報ネットワークシステムに入力、 着駅側に提供していた。
メモを取るのは現場の作業員 たち。
人手による作業のため、番号の写し間違えなど ミスが発生するケースも少なくなかった。
この問題を解消する目的で導入したのがICタグを 使った「自動読み取りシステム」だった。
発駅側の作 業員が貨車とコンテナに貼付したICタグをハンディ ターミナル型のリーダーで順番に読み取っていく。
そ してハンディで読んだデータを「FRENS」を通じ て着駅側に送信するという仕組みだ。
つまり、ミス発 生の原因の一つだった人手によるメモ取りの作業を、 ICタグとハンディで自動的に読み取るようにしたわ けだ。
システムの導入効果は大きかった。
データの入力ミ スはなくなった。
さらにタグにリーダーをかざすだけ で済むようになったため、作業時間を大幅に短縮する ことに成功したという。
当初、JR貨物では「自動読み取りシステム」にバ ーコードを活用することを検討していた。
ところが、 バーコードにはコンテナを繰り返し使用している間に 汚れがついたり、損傷したりして読み取れなくなって しまう恐れがあった。
これに対して、ICタグは一個当たり二〇〇〜三 〇〇円とバーコードに比べ割高だが、頑丈で汚れにも 強い。
タグは雪などに覆われても、電波を発するため、 雪を払いのけなくても読み取ることができるといった 特徴があった。
最終的にこの耐久性が採用の決め手と なった。
「貨物列車は時速一〇〇キロ超で走行することもあ る。
風で飛ばされたりしない、ある程度しっかりとし たデータキャリアが必要だった。
離れた位置からでも 読み取れるとか、複数をまとめて読めるといったIC タグを象徴するような性能にはほとんど興味がなかっ た。
バーコードなど他のデータキャリアと比較して、 もっとも壊れにくいのがICタグだった。
それがIC タグを選んだ一番の理由」と花岡俊樹IT改革推進 室長代理は説明する。
コンテナ荷役を迅速化「自動読み取りシステム」を応用するかたちで、今 年一月からは「コンテナ位置管理システム(TRAC E)」の運用も開始した。
このシステムはICタグの リーダーやGPS、無線LANなどを搭載したフォー クリフトと、コンテナと貨車に貼付されたICタグな どで構成されている。
フォークリフトに備え付けられ た情報端末のモニターを見れば、目的のコンテナの置 き場所が一目でわかる、という仕組みだ。
コンテナを運ぶフォークリフトの位置をGPSで追 跡する。
フォークリフトがコンテナを地面に置いた時 に、フォークリフトのリーダーがコンテナに貼付され ているICタグを読み取る。
GPSで把握したフォー クリフトの位置情報とコンテナ番号を紐付けして、そ の情報をデータベースサーバーに送る。
それによって 第3部バブルに釘刺す現場からの報告 23 MAY 2004 コンテナがどこに置かれたかを管理している。
同社では「TRACE」を東京貨物ターミナル(品 川)に導入。
その後、大阪、札幌など徐々に対象を 拡げていった。
現在では全国一一九のコンテナ駅で運 用している。
今年度中にはコンテナ全駅(一四二駅) への導入を済ませる計画だという。
同社の貨物駅では長らく非効率な荷役作業が行わ れてきた。
例えば、通運業者が持ち込んだコンテナ貨 物を駅構内のどこに置くか。
その場所は基本的に作業 員任せだった。
そのためコンテナを置いた作業員とは 別の作業員が貨車に積み込むコンテナを探す場合、見 つけ出すまでに相応の時間が掛かっていた。
行き先の 違う列車にコンテナを積んでしまっていたことに出発 直前に気づいて、慌ててコンテナを差し替えるといっ た作業ミスが発生することも少なくなかった。
ところが、「TRACE」導入後は「フォークリフ トの動きに無駄がなくなった。
作業ミスも大幅に減っ た。
経験の浅い作業員でもスピーディにコンテナを出 し入れできるようになった。
駅におけるコンテナ荷役 作業の生産性は飛躍的に向上した」と花岡室長代理 は説明する。
列車の積載率を大幅アップ 来年一月、JR貨物では「FRENS」をインタ ーネットベースのシステムに切り替える。
それに合わ せて、通運業者との間で運用している列車予約のルー ルも抜本的に見直す計画だ。
現在は通運業者が事前 に利用したい列車を指定して予約する仕組みになって いる。
それが新システムでは通運業者が発着駅と配達 予定日を「FRENS」に入力すると、システムが自 動的に最適な列車を選択してくれるようになる。
通運業者はこれまで列車の輸送枠を確保するため、 荷主から仕事を請け負う前にJR貨物に予約を入れ ていた。
いわゆる空予約である。
そして通運業者は予 約した輸送枠を列車運行日のギリギリまで手放さなか った。
そのため、JR貨物は予約にキャンセルが発生 しても、列車の利用を希望する他の顧客にその輸送枠 を振り分けることができなかった。
その結果、列車の 積載率が上がらないという悩みを抱えていた。
しかし、新システム稼働後は「どの貨物をどの列車 に載せるのか」を決める権限がJR貨物側に移るため、 従来に比べより柔軟な列車編成が可能になる。
現在、 コンテナ列車の積載率は七割程度と言われているが、 今後は「列車のセールスの仕方が一八〇度変わること で積載率の大幅アップが期待できる」(花岡室長代理) という。
これまでは予約済みの輸送枠にきちんと貨物が入る か、それともキャンセルになって空のままかのいずれ かだった。
そのため駅でのオペレーションもシンプル だった。
時間的な余裕を持って作業を進めることできた。
しかし、新予約制度導入後は列車編成が頻繁に 見直されるようになるため、現場のオペレーションが 従来に比べ複雑になることが予想される。
その際に威力を発揮するのが「TRACE」だ。
急 な作業変更のオーダーが入っても目的のコンテナをす ぐに見つけ出すことができるため、列車へのコンテナ の積み込みをスムーズに行える。
現場が混乱する心配 はないという。
同社は予約システムの刷新と、「TRACE」の全 国導入に計六〇億円を投じる。
かなり大規模なIT 投資だ。
それでも「フォークマンの数を減らしたり、 作業時間を短縮できるなど業務の効率化が進み、年 間数億円のコスト削減が見込める。
投資に見合うだけ の成果が得られる」(花岡室長代理)としている。
フォークリフトに搭載された情 報端末のモニター。
コンテナの 位置が一目で分かる

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