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JUNE 2004 50
幻に終わったソフト導入計画
二〇〇〇年二月、リコーは数百億円を投じ
るITの刷新計画を、正式決定の直前で白紙
撤回した。 同社のSCM推進室などが約一年
かけてまとめたERP(統合業務パッケージ)
やSCMソフトの導入計画に、桜井正光社長
が待ったをかけたのである。
この投資計画を担当者が説明した席上、い
ったんは桜井社長もOKを出した。 しかし翌
日、担当者あてに電話を入れて前言を撤回。
ソフトの導入ではなく、業務改革に取り組む
ことによってSCMを推進するよう改めて指
示を出した。
SCM推進室の大門一永室長は、このとき
の様子を次のように振り返る。 「業務レベル
がまだERPについていけない。 まずITを
導入して、それに応じて業務を変えていくと
いう考え方もあるのだろうが、そうするとリ
コーの場合は各担当者がパソコンのなかで勝
手な活動を始めかねない。 それではダメだ。
まずはERPを使いこなせるくらいに業務の
実力を上げろ、ということだった」
桜井社長の真意は推測するしかないが、こ
の判断がリコーのSCMプロジェクトにとっ
て転機になったことは間違いない。 以降、同
社にとってSCMは、ITの問題ではなく、
業務改革と同義になった。 その後も現在に至
るまでリコーは、ERPやSCMソフトを導
入してはいない。
システム刷新計画に社長が“待った”
業務改革を先行させ在庫3割削減
99年にSCM推進室を発足し、改革を本
格化した。 一般に理解されているSCMとは
かけ離れた取り組みだったため、これまで
その全体像を社外に公表してこなかった。
曲折を経て当初目標だった600億円分の在
庫削減が見えてきた今、リコーのSCMは新
たな段階に入りつつある。
リコー
――SCM
51 JUNE 2004
結果を見る限り、このときの桜井社長の判
断は高く評価できる。 その後、大規模なIT
投資に見合う効果を挙げられない会社が続出
したという理由からばかりではない。 実は当
事者であるSCM推進室の担当者も、「途中
からコンサルタント主導になってきていて、
やっている自分たちですら少し心配になって
いた」(大門室長)。 いわば、迷いを抱えてい
たのである。
二〇〇〇年初頭といえばITバブルの絶頂
期だ。 株式市場がネット関連株をもてはやし、
日本人の多くが?IT革命〞が産業革命なみ
のインパクトを遠からず社会にもたらすと信
じていた。 投資余力のない企業ならまだしも、
好調な業績を続けていたリコーがIT投資を
躊躇する理由は、少なくとも外部からは見え
なかった。
この状況下でIT投資にストップをかける
という判断は、誰にでも下せるものではなか
ったはずだ。 こうした経営トップの姿勢は、
その後のSCMプロジェクトでリコーが着実
に成果を挙げる原動力にもなったとみて差し
支えないだろう。
業務改革へと変容したプロジェクト
リコーのSCMプロジェクトはスタート時
から一貫してトップダウンで進められてきた。
九八年末に実施した泊まり込みの役員研修で
SCMに関する経営レベルの認識を深めると、
これを受けるかたちで九九年三月に社長直轄
の組織としてSCM推進室を新設した。
このとき経営陣がSCM推進室に期待した
狙いは主に二つあった。 一つはSCMの主眼
ともいうべきキャッシュフローの改善だ。 と
にかくキャッシュにこだわり、キャッシュを
生み出すための活動を求めた。 もう一つは、
顧客への価値の提供である。 時間指定納品や、
必要なものを一括して届けるサービス、また
トナーなどの消耗品を顧客に迅速に届けるサ
ービスなどを通じて、エンドユーザーを念頭
におきながら「顧客視点のSCM」を実現す
ることを期待された。
こうした課題をクリアするためSCM推進
室には、販売、生産、資材、需給調整など社
内の幅広いセクションから人材が集められた。
発足から二カ月間は経営企画室長がSCM推
進室長を兼務して、対処すべき課題を整理し
た。 次の段階では大手コンサルティング会社
のアクセンチュアの助けも借りながら徹底し
た現状分析を行った。
当時のリコーは、自分たちが世界中で抱え
ている在庫の量すら正確に把握できずにいた。
各地の販社によって異なる商品コードや、情
報インフラの未整備などが原因だった。 だか
らこそSCM推進室としては、発足から約一
年後に全社的なITの刷新計画を打ち出した
のだが、冒頭で述べたように、この計画は桜
井社長に却下されてしまった。
ITへの投資計画を白紙撤回したのを機に、
SCM推進部とアクセンチュアの関係も変わ
った。 当時のアクセンチュアにとっては、顧
客企業にERPやSCMソフトの導入支援を
行なうことは大きな収入源だった。 だがリコ
ーに対しては以降、純粋な業務アドバイザー
として、他社の情報を提供したり、海外現法
との窓口役として業務改革の手助けするとい
った役回りを担うことになった。 それから約三カ月後、リコーは全社的に改
革を推進するための体制を作った。 構造改革
のための委員会を部門ごとに設置し、ここを
現場レベルの実行部隊と位置づけたのである。
しかし、この組織は一年ほどで再び見直しを
余儀なくされることになる。 各部門の主張ば
かりが前面に出てきてしまい、部門間の連携
が思うように進まなかったためだ。
結局、翌二〇〇一年の二月になると、リコ
ーは改めてSCMプロジェクトの推進体制を
整えた。 新たに各事業本部のトップを改革の
責任者に据え、各責任者は「ステアリング・
コミッティ」のメンバーも兼務して互いの活
動にアドバイスを出し合う体制を作った(図
1)。 これによって、改革の実行を現場の責
SCM推進室の大門一永室長
任者がコミットし、SCM推進室は全体の進
捗状況や整合性を管理するという役割分担が
ようやくできあがった。
社内体制が整ったことでプロジェクトは順
調に進みはじめた。 社長が在庫削減の方針を
明言しただけでも効果を生んでいたのだが、
さらに多くの施策を積み上げてリードタイム
の短縮や在庫削減を具体化していった。
リコーが社内で使っている在庫に関する指
標(期末の棚卸資産÷月平均売上原価)の
推移を見ると、プロジェクトの成果がよくわ
かる。 SCM推進室が発足した九九年三月末
に二・三カ月分あった在庫は、直近の二〇〇
四年三月には一・七カ月分へと三割近く減っ
た。 二〇〇五年三月期の目標値である一・五
五カ月も視野に入ってきた。 そうなれば六〇
〇億円分の在庫を削減するという当初目標を
達成できるはずだ。
トヨタ生産方式から受けた影響
ITに偏重することなくサプライチェーン
改革を進めるというリコーの考え方は、トヨ
タ生産方式の影響を色濃く受けている。 実際、
同社は各部門の担当者レベルの交流を通じて
トヨタからノウハウを学んできた。 現在のリ
コーの生産方式は「基本的には『かんばん方
式』の思想をそのまま踏襲している」と大門
室長が言い切るほど関係は深い。
リコーが「かんばん」を採用しているわけ
ではない。 これを可能な限り電子的に行おう
としてきた点はトヨタとは異なる。 だが「整流化」(物の流れを整え
る)によって仕掛品を徹底的に
減らそうとしている点や、「次工
程はお客様」といった考え方を徹
底している点は、トヨタとまった
く同じだ。
また、「源流保証活動」と称し
て仕入れ先メーカーの指導を行っ
ているのも、トヨタの「系列」に
倣った活動だ。 最近のリコーは、
単にトヨタ生産方式を参考にす
るだけでなく、トヨタ流の物づく
りの考え方を徹底的に自社化す
ることに成功した企業として、当
のトヨタ関係者ですら一目おく存
在になっている。
リコーがトヨタ流の物づくりを
志向するようになったのは八〇年
代のことだ。 以降、「整流化」を
実現するために多くの活動を行っ
てきた。 しかし、これまでのリコ
ーには組織横断的な取り組みが
なかなか根付かなかった。 そのた
め今回も社内では、「SCMで組
織横断的な活動が根付いたらリ
コー始まって以来だ」と言われて
いたという。
「当社の売り上げの七割を占め
る画像事業に関していうと、販
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図1 改革の推進体制
SCM改革全体統括
全社構造改革検討委員会
SCMリーダー:SCM構造改革担当役員
構造改革実行プロジェクト
改革プロジェクト名 改革責任者
部門構造改革
推進委員会
SCM改革推進プロジェクト
SCM推進室
(リーダー:SCM推進室長)
ステアリング・コミッティ
販売担当役員、生産担当役員、画像システム事業本部長
海外事業本部長、販売事業本部長、生産事業本部長
経理本部長、資材統括センター長、生産統括センター長
製品事業部長、RS事業部長、IT/S本部長、SCM推進室長
役割
●SCM改革の全体最適の
維持/整合性の管理
●新SCM導入プランの効
果のモニターと全体の進
捗管理
●リコーグループへのSCM
改革活動の報告/情宣活
動
情報システム構築プロジェクト
IT/S
役割
●SCMシステムの設計/開
発/テスト/導入
●技術環境の構築/整備
リーダー:IT/S本部長
国内営業改革 サブリーダー:IT/S副本部長
サービス改革
米州営業・サービス改革
欧州営業・サービス改革
アジア・中国営業・サービス改革
生産・調達改革
コンフィギュレーション改革
設計改革
サプライ改革
経理業務改革
生販計画改革
物流改革
販売事業本部長
販売事業本部長
海外事業本部長
米州販売会社副会長
海外事業本部長
欧州販売会社会長
海外事業本部長
中国販売会社副会長
アジア販売会社社長
資材統括センター長
生産統括センター長
製品事業部長
画像システム事業本部長
RS事業部長
経理本部長
SCM推進室長
SCM推進室長
役割
●構造改革テーマの落
としこみ・実行進捗
モニター
●全体最適の視点から
業務プロセス・業務
運用ルールを設計
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売と生産の双方に専務クラスの責
任者がいる。 全社横断的な責任
者となると結局、社長しかいない。
ある事業だけを切り出して、一人の責任者がその事業のSCMを
進めようとすれば一気に進むのだ
ろう。 しかし、リコー全体でSC
Mを進めようとしたら専務同士の
調整といった作業が避けられない。
これをどうするかが当初は一番の
課題だった」(大門室長)
過去の経験を踏まえて、リコー
は今回のSCMプロジェクトで多
くの工夫を施した。 SCM推進
室とは別に、前述したような全社
的な推進体制を整備したのもその
一つだ。 また、SCM推進室が中
心になって、経営レベルの狙いを
各事業部レベルの実務にまで落と
し込んで明示したことも効果的だ
った。 経営指標と日常活動の関
連を「キャッシュフローとSCM
改革の関係」として明確に整理し
たのだ(図2)。
SCMの最終的な狙いは、言
うまでもなく経営基盤の強化にあ
る。 業務改革や在庫削減はそのた
めのステップに過ぎない。 ここで
はROA(総資産事業利益率)な
ど経営指標の改善に結びつかない
取り組みは評価には値しない。 にもかかわら
ず現実には、そうした意識の希薄な取り組み
が少なくない。 リコーのようにSCMの最終
目的を、現場レベルの活動にまで落とし込ん
で説明している企業が稀なことと無縁ではな
い。
さらにリコーは、現場レベルの取り組みを
後押しする評価基準も持っている。 九九年か
ら利用している「バランス・スコアカード
(BSC)」がそれだ。 リコーの社内では現在、
「
S
M
O
(
Strategic Management by
Objectives:
戦略的目標管理)」と呼んでい
る制度だが、平たく言えば、経営レベルの目
標を従業員の活動にまで細分化して、評価制
度に組み込んでしまう管理手法である。 SCMのためだけに導入した手法ではない
が、こうした仕組みを活用できるメリットは
大きかった。 「SMOでは経営トップと現場
が契約を交わす。 そのなかにSCMに関する
項目があれば、その部門は絶対にやろうとす
る。 だから、ある時期の我々にとっては、S
MOのテーマとして、いかにSCMの取り組
みを入れてもらうかが最も重要な活動テーマ
だった」と大門室長は説明する。
桜井社長が随所でリーダーシップを発揮し
てきたことも見逃せない。 毎月一回程度のペ
ースで開いているSCMの定例ミーティング
に同席して、常にプロジェクトの進捗に耳を
傾けてきた。 社長が現場の責任者と話をする
ときには自らSCMの進捗状況を確認した。
図2 キャッシュフローとSCM改革の関係
ROA
経営資本
税引き前利益率
税引き前
利益率
売 上
売掛金削減
その他
売上原価
(直接費)
売上高
限界利益
経営資本
経営資本
回転率
経費
(間接費)
在庫削減
●登録の早期化
●固定設備の見直し
●アウトソーシングの積極活用
●在庫削減による負債圧縮が可能
●固定資産削減が可能
●付帯業務削減による営業本来業務集中
●顧客満足度向上(納期回答など)
●調達コスト削減
――部品共通化
?. 在庫低減による経費の削減
?. 業務改革による諸経費の削減(ワークフロー改革)
?. 不動在庫破棄ロスの低減
?倉庫料 ?保管料 ?荷役費 ?運送料
?営業業務改革 ?サービス業務改革 ?物流業務改革
?生販業務改革 ?生産管理業務改革
?不動廃棄損失(製品、ユニット、部品)
?不動処分粗利ロス、予備軍(6カ月以上)低減
?. 生産改革
?生産体制変更工数
?セル化→人員(工数)
?. モデル化
?営業業務効率化
?梱包費 ?後付装着費
?. MB&R
?偏在庫
?. コンフィグレーション化
(工場キッティング)
?コンフィグ費用
?梱包費 ?運送費
?. 設計改革
●オプション ●部品共通化
●モジュール化
?製品・部品管理費用
?型代・部品費
?試作・評価費
?設計工数→人員(工数)
・設置時間短縮
?CE工数
税引き前
利益
キャッシュ
アウトフローの
削減
キャッシュ
インフローの
増加
ROA展開図 キャッシュフローに対するSCM改革の貢献
※太枠がSCMの重点管理領域
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好調な業績を続けるなかで、リコーが体質改
善に成功した大きな要因がここにある。
物流子会社との役割分担
最近ではSCMを導入しているという企業
はもはや珍しくなった。 だが企業によっては、
SCMとロジスティクスの活動を混同してい
るケースも多い。 在庫削減やリードタイムの
短縮といった現場レベルの狙いが共通してい
るために、そうした混同が起こる。 リコーの
活動にも、端からみるとかなり分かりにくい
面がある。
リコーグループには、「グループ全体の物
流戦略を立案するのは物流子会社であるリコ
ーロジスティクスの役目」という方針がある。
このため物流子会社が営業展開している国内
については、物流に関する業務改革も子会社
の役割となる。 リコー本体が中心に進めてき
た今回のSCMプロジェクトでも、物流改革
の立案や実行は子会社と一緒に進めてきた。
ただし、これはあくまでも?物流〞に関す
る話であって、?ロジスティクス〞の話では
ない。 物流とロジスティクスの用語の定義を、
ここで詳細に説明するつもりはないが、両者
は大きく異なる。 一般に?物流〞が輸送や保
管、荷役といった活動を指しているのに対し
て、?ロジスティクス〞は販売や生産活動ま
で含む物の流れ全般を一元的に管理する機能
を指している。
用語の持つ本来の意味からすると、今回の
プロジェクトでリコーが進めてきたのは、S CMというよりは?ロジスティクス〞の導入
といったほうが実体に近い。 もちろん将来的
には取引先企業との協働によってサプライチ
ェーンを高度化するSCMを志向しているが、
少なくとも現状に至るまでの活動は大半がリ
コー社内の話だ。 ロジスティクスの一部とし
て、物流の見直しも含まれていた。
その際に、総勢十数人に過ぎないSCM推
進室が具体的な物流活動を管理するのは現実
的ではないため、物流子会社と役割分担をし
ている。 リコーの場合、子会社の名称に?ロ
ジスティクス〞という言葉が含まれているた
め、なおさら見誤りがちだが、ここで子会社
が担っている役割は?物流〞の管理だ。 そも
そもトヨタ流の「整流化」のように部門間を
またぐ活動を、経営を分離されている物流子
会社が主導するのは現実的ではない。
リコーの取り組みは、現段階まではロジス
ティクスの導入だった。 これをSCMで重視
するROAなどの経営指標から展開し、なお
かつトップダウンで進めたからこそ大きな成
果を得た。 ロジスティクスを導入できていな
い企業に、SCMの実現もあり得ないという
意味で、同社のSCMプロジェクトは間違い
なく前進している。
五年たってもまだSCMの入口
ただ現在、リコーのSCMプロジェクトの
進捗状況は当初想定していたより、かなり遅
れているという。 IT中心の当初計画が途中
で様変わりしたこともあってゴールはまだ遠
い。 大門室長はこの点をこう説明する。
「私が資材部門からSCM推進室に異動し
てきたとき、三年間でSCMにメドをつけて、
また資材に戻るつもりだった。 当社のような
組み立てメーカーにとって最後にネックにな
るのは『資材』だと考えたからだ。 ところが
図3 リコーの生産/供給プロセスと支援システム
需要を満足する
供給をコントロールする
お客様のニーズを
満たすプロセス構築
・生産体制立案
・生産日程立案
・工場キッティング
・工場直送
受 注
生産計画
資材調達
部品受入
部品検査
部品格納
部品出庫
部品組立
部品検査
梱 包
出 庫
?生産計画立案システム
?生産同期購入システム
?定期発注システム
?自動要求システム
?在庫管理システム ?生産指示システム
RICOH NEW 生産管理システム
市場(お客様)
生産リードタイム短縮活動(受注〜ユーザー着迄)
55 JUNE 2004
現実には五年たってもまだ『販売』の領域を
やっている。 考えていたほど簡単な話ではな
かったということだ」
リコーの進めてきた改革が、部門間の?不
信感〞を取り除く地道な作業だったことも進
捗を遅らせる一因になった。 「初めから在庫
を減らそうとしたらできなかった。 現実に在
庫切れが発生しているから、販売サイドは在
庫を持とうとする。 在庫切れをなくすことこ
そが重要で、そのためには販社の一つ手前に
位置するリコーの販売本部が、必要なときに、
必要なものを届けられる体制を整えなければ
ならなかった」
生産と販売、販売と物流といった部門間に
根強かった不信感を払拭するためには、互い
に納得のいく体制を再構築し、その効果に関
係部門が納得する必要があった。 ITを導入するだけで解決できる問題ではなく、企業活
動そのもののルールを変えることを意味して
いた。 まさにロジスティクスの導入である。
逆の見方をすれば、こうした事情にまで踏み
込んだからこそ、時間は要したが本質的な体
質改善を進めることができた。
実際、九九年にスタートした今回の取り組
みが上手く回り出したのは、現場レベルで効
果を実感しはじめた二〇〇二年位からだった。
在庫削減によって資金繰りが楽になり、余計
な物流コストも減った。 そうやって現場が成
果を実感できた結果、部門間に横たわってい
た不信感が徐々に解消され、より一層ムダな
在庫が減るという好循環が生まれた。
ERPやSCMソフトの導入こそ見送った
が、必要に応じてITへの投資も続けてきた
(図3)。 営業活動をコンピュータで管理する
SFA(セールス・フォース・オートメーシ
ョン)なども、その一例だ。 今後はこうした
ツールで集めた情報を、いかにサプライチェ
ーンの効率化に活用していくかが課題になる。
仮に現在の同社がERPを導入すれば、もう
一段の体質改善を見込めるはずだ。
最近のリコーが注力しているプリンター事
業では、これまでの主力だった訪問販売方式
とは異なるサプライチェーンが必要になる。
家電に近い売り方をするプリンターでは、量
販チェーンや販売代理店などとのコラボレー
ション(協働)が避けられない。 販売サイド
だけをみても、SCM推進室が手掛けるべき
課題は山積している。
(岡山宏之)
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