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富士通ゼネラルは、エアコンを中心とする
空調機器や、プラズマディスプレーをはじめ
とする映像情報機器など、いくつかの事業を
手がけている。 このうちエアコンは同社の売
り上げの六割近くを占める主力事業だ。 国内
よりも海外の売り上げ構成比が高く、なかで
も欧州での販売量はエアコン全体の三割を占
めており最も大きい。
昨年夏はその欧州が記録的な猛暑に見舞わ
れ、エアコン販売は好調だった。 これにより
同社は二〇〇三年度の連結決算で、過去最
高の営業利益を確保する見込みだ。
価格競争の激化がSCMを後押し
エアコンは、すでに普及の進んだ成熟型商
品だ。 しかし海外市場、とりわけ東欧諸国や
ロシア、中国などでは、まだ旺盛な需要があ
る。 米国でも環境負荷の少ない省エネルギー
タイプを中心に売り上げは伸びている。
ただ需要が大きい一方で、市場での価格競
争も厳しくなっている。 ここ数年、韓国や中
国のメーカーが海外市場へ本格的に進出しは
じめてから、競争はいっそう激化した。 これ
までも富士通ゼネラルでは、生産の効率化や
部材単価の引き下げなどによる原価低減を進
めてきた。 だが、こうした従来の手法で市場
の要求する価格を実現するのはもはや困難で、
抜本的な業務の見直しによるコスト構造の改
善が不可避だった。
急速に展開したグローバル化に対応するた
海外市場へのリードタイムを短縮
ITより業務プロセス作りに重点
富士通ゼネラルが世界規模でSCMの構築
に取り組んでいる。 海外市場におけるエア
コンの競争力強化を図る施策の柱として、
受注から出荷までのリードタイムを短縮す
る。 業務プロセスの設計から着手し、必要
に応じてITサポートを行う“手作りのSCM”
である。 これを含む複数の対策によって、
今期中に連結在庫の4割削減を目指す。
富士通ゼネラル
――SCM
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め、オペレーションを再構築する必要にも迫
られていた。 中東地域を足がかりに海外への
進出を果たして以来、富士通ゼネラルはわず
か一〇年ほどで、欧州、米国、オセアニア、
アジアなどの一〇カ国に販売拠点を展開して
きた。 この他にも各地の代理店を通じて世界
中で製品を販売している。
一方、同社の生産拠点は、二〇〇一年十
二月に国内のエアコン工場を閉鎖したときか
ら、すべて海外にシフトしている。 現在では
タイと中国(上海)の工場で日本および海外
市場をカバーしている。
売り上げが天候に左右されるエアコンは、
需要予測が難しく、もともと在庫リスクが大
きい。 生産と販売をグローバル化したことで、
さらにリスクは増大していた。 同社の従来の
オペレーションでは、販社や代理店から受注
してから商品を現地の倉庫まで届けるのに、
主要市場の欧州の場合、五カ月近くかかって
いた。 このため販売機会ロスや過剰在庫を防
ぐために、リードタイムの短縮を求める取引
先の声が高まっていた。
このような背景のもと、富士通ゼネラルで
は二〇〇三年からSCMの構築に取り組んでいる。 在庫削減によって市場競争力の強化を
図るため、「SCM推進統括部」が中心とな
ってリードタイム短縮を柱とする施策を進め
てきたのである。
これに先立つ昨年一月、同社は「トータル
コストダウン推進本部」という全社横断的な
組織を立ち上げている。 世界規模での競争激
化と価格低下に対応していくには、従来の事
業分野ごとの縦割り組織ではなく、全社を横
断する組織のもとで、商品設計から物流にい
たるまでのすべてのコスト構造を改革する必
要があると考えたからだ。
同推進本部は四部門からなる。 技術面から
コストダウンを追求する「VE(バリュー・
エンジニアリング)推進統括部」、事業部間
の部品の共通化や共同購入を進め、全社的視
野で部品購入費の削減にあたる「調達企画
部」、連結在庫を削減するための政策を立案
する「IC(インベントリー・コントロール)
推進統括部」、そしてSCM構築を担当する
「SCM推進統括部」の四部門だ。 トータル
コストダウンという課題に対して四つの部が
それぞれの切り口から施策を立案し、工場や
販社などと一体になって取り組んできた。
このなかでSCM推進統括部が課題とした
のは、商品を受注してから出荷するまでのリ
ードタイムの短縮だ。 前にも述べたように、
従来の生産・出荷の業務プロセスでは、エア
コンを欧州の取引先へ届けるまでに五カ月近
くかかっていた。 このリードタイムを当面、
半減させることをSCM推進の具体的な目標
として掲げた。 オペレーションを見直すこと
によって市場とのタイムラグを小さくし、在
庫の圧縮を図ろうというわけだ。
受注〜出荷L/Tを半分以下に
一般にSCMの構築には二通りのアプロー
チがある。 一つは、ERP(統合業務パッケ
ージ)やSCMソフトなどのITをまず導入
し、これにあわせて実際の業務を変えていく
方法。 もう一つは、先に業務プロセスをつく
り、それを現場で運用しながら必要に応じて
業務支援のためのITツールを導入していく
やり方だ。 富士通ゼネラルは後者の方法をとった。 松
本清二取締役SCM推進統括部長はその理
由を、「SCMの構築を業務改革としてとら
える以上、業務内容を明確にしたうえで現場
でもんでいくという方法が相応しいと思った
からだ」と説明する。
「いきなり情報システムを導入すると、ブラ
ックボックスのようで担当者に中身が分かり
にくく、オペレーションがうっかり抜け落ち
る危険もある。 これに対して業務プロセスの
設計からとりかかる方法は、時間はかかるも
のの、現場の人たちが業務の内容を把握しな
がら進めることができる。 進めながら改善点
が見えてくるメリットがある」
こうした方針のもと、SCM推進統括部は
富士通ゼネラルの松本清二
取締役
昨年四月にリードタイム短縮のための業務プ
ロセスづくりをスタートした。 もっとも一言
でリードタイムといっても、そこには部材調
達期間、生産期間、輸送期間などの要素があ
り、それぞれの分野で課題をクリアしていく
必要がある。 このため、いくつかのステップ
を踏むことにした。
従来の同社は、月次サイクルで生産・販
売・出荷計画を立てていた。 販社や代理店か
ら受注してから部材を発注し、これを工場で生産・出荷するまでに九〇〜一二〇日を要し
ていた。 この期間をまず四六日に短縮する。
エアコンを生産している上海工場(中国)
の場合、部材の五割(金額ベース)を日本な
どから輸入しており、これらの輸入部材の調
達に約三週間かかる。 第一ステップでは、こ
の三週間という部材調達リードタイムは制約
条件としてあえて変更しない。 まずは計画の
サイクルを月次から週次に短縮することで四
六日間というリードタイムを目指す。
さらに次のステップで調達方法を見直す。
輸入部材については仕入れ先メーカーに現地
の保税倉庫で在庫を用意してもらい、部材を
現地調達できるようにして三〇日までリード
タイムを短縮する。 最終的にはJIT(ジャ
スト・イン・タイム)での部材調達による生
産を実現することによって、受注してから十
二日間で出荷できる体制を目指す方針だ。
出荷計画を起点に動く
第一ステップの?四六日モデル〞では、週
次サイクルで販社の購入計画と工場の供給計
画、部材の調達を同期化させることが、リー
ドタイム短縮のカギになる。
従来のオペレーションでは、月次で販売予
測・生産予測を行っていた。 販社の生産依頼
をもとに本社が生産・出荷・在庫計画を立て、
生産の二カ月前に工場へ「生産仕込み指示」
を出していた。 工場ではこれに従って部材を
調達し、約一カ月かけて生産する。
しかし、本社では販社の売り上げや在庫状
況を把握できなかったため、需要を正確に予
測するのが難しかっただけでなく、販売状況
に変化があってもそれを生産数量に反映でき
ずにいた。 このため実需とのあいだでギャッ
プが生じ、これが過剰在庫などを生み出す一
因になっていた。 また販社サイドでも、納期
回答のサイクルが一カ月と長いため細かな在
庫計画を立てられずに在庫を多めに持ってし
まう傾向があった。
そこで新しい業務プロセスでは、半月ごと
に販社がPSI(購入・販売・在庫)計画
を作成し、これをもとに工場では週次で日単
位の出荷計画を立てるようにした。 購入計画は、「予測分(数量変更可能)」、
「仮決定分(減数のみ変更可能)」、「決定分
(変更不可)」の三段階に分けて立てる。 これ
によって、部材メーカーは予測情報をもとに
早くから部材を準備できるようになり、週次
で計画を見直すことで市場との大きな乖離を
なくすことが見込める。
さらに新しい業務プロセスでは、購入計画
をもとに、?生産計画〞ではなく、まず?出
荷計画〞を立てるところがミソだ。 つまり、
出荷計画からさかのぼって生産計画を決める
かたちをとる。 この出荷計画が販社の購入計
画に対する納期回答にもなる。
「将来、JIT生産を実現していくために
は、工場が、生産計画ではなく出荷計画を起
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図1 海外向けエアコンのリードタイム
部材
先行分
150日前
生産
準備
輸送期間
100日前 50日前 0日
出荷
受 注
受 注
部材の発注から納入 製造サイクル
(着荷)
現 状
施策後 生産計画に基づき部材を先行準備
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点にして動けるような業務の流れを作ってい
くことが重要。 それがこのモデルを運用する
うえで大きなポイントになる」と松本取締役
は言う。
すでに、この四六日モデルの設計は昨年十
一月に終えている。 その後、現地でサンプル
データを使いながら検証を行い、今年五月か
ら一部のアイテムで実運用を開始した。 一〇
月までに目標の四六日プロセスで完全稼動で
きるようにしていく予定だ。 その時点で、欧
州向けの場合、受注した商品を販社などの倉
庫に納めるまでの期間が、従来の最長五カ月
から二カ月半へと縮まる見込みだ。
必要に応じてITサポートも検討
富士通ゼネラルが設計通りにサプライチェ
ーンを運用していくためには、いくつかの課
題をクリアする必要がある。 例えば、果たし
て工場は週サイクルで業務をまわしていける
かどうか、というのもその一つだ。
週次の業務プロセスでは、工場は週の始め
に購入計画から出荷計画を立ててバンニング
計画を作成し、船便の予約などを行う。 これ
をもとに生産計画を立て、機種別に必要な部
材の数量を割り出し、部材メーカーに部材の
所要情報や納期指示を送る。 メーカーからの
納期回答を受けて、金曜日には出荷計画を確
定しなければならない。 この作業を、新たな
ITを導入せず帳票ベースで運用するため、
現場作業の負荷はどうしても大きくなる。
同様のことは販社にも言える。 このモデルでは販売
予測の精度を高めることが
重要で、そのために販社で
は、顧客ごとに販売実績や
イベント、販促情報などの
情報をこまめに吸い上げ、
予想と実績の管理を行いな
がらデータを蓄積していく
必要がある。 同社のエアコ
ンは壁掛けタイプだけでも
四五〇ものアイテムがあり、
それぞれについてデータを
もとに予測を行うのは大変
な作業だ。
このため同社では、運用
状況をみながら業務支援の
ための情報システムを導入
していくという。 課題を抽
出したうえで、必要に応じ
てITによる支援体制を整
えるというのは当初からの
方針だった。
ただこのときにも、需要予測システムなど
大掛かりなものを導入する考えはない。 「魂
が入っていなければシステムはきちんと機能
しない」と見るからだ。 「何が売れているのか
市場の変化をしっかりとらえて、短いリード
タイムで変化に早めに対応できるように、ま
ず一人ひとりが仕事の仕方を変えていく」と
松本取締役。 同社のSCM構築の根幹は、あ
くまで業務改革にある。
本格稼動に向けて組織をどうするかも大き
な課題になる。 SCMの構築にあたってSC
M推進統括部という事務局を新設したが、実
際の運用には事業部や営業部など従来の組織
がそのままあたっている。 IT同様、組織に
ついても既存のまま運用してみて、必要に応
図2 調達運用のイメージ図
95日前 70日前 5日前 0日
現 状
施策後
販売計画
生産計画
部材先行手配 機種別、ロット別
部材納入
製品製造
製品製造
5日
3日
製造実施計画
機種別、ロット別 部材発注
生産計画に基づく部材単位の準備状況(調達計画)
受 注
受 注
生産計画
引当 製造実施計画
発注 部材納入
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じて見直すという考え方をとったためだ。
さらに新しい業務プロセスでは、生産のフ
レキシブル化によって製品在庫の低減が期待
できる半面、予測のブレに応じて部材在庫が
増える懸念もある。 このため部材メーカーの
在庫も含めて部材在庫を専門に管理する組織
も必要になると見ている。
「短期間で製品をつくるプロセスができても
在庫が減らなければ意味がない。 顧客や取引
先とのコラボレーションによって、在庫削減
のためのコントロールをいかに実現するか。
これからが正念場だ」(松本取締役)
在庫削減については、「IC推進統括部」
を中心に対策を進めており、二〇〇四年度(二〇〇五年三月期)の連結決算では、棚卸
在庫日数を二〇〇三年度実績の三五日から
二〇日へと四割削減する目標を掲げている。
「トータルコストダウン推進本部」のもとで
の全社的な取り組みによる目標だが、リード
タイム短縮と短サイクル化による製品在庫の
圧縮効果を期待したものだ。
来年度には輸入部材の預託による「三〇日
モデル」のオペレーションをスタートする予
定だ。 さらに次のステップでは、JIT生産
のもとで日別の販売実績から毎日の出荷数量
を決定して、船積みの十二日前に受注を確定
する「十二日モデル」の構築も視野に入ってく
る。 ITよりも業務プロセスを重視する?手
作りのSCM〞のこれからが注目される。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
PSI 半月単位の
購入数量、時期
半月単位の
販売数量、時期
半月単位の
在庫数量、時期
《予測分》
数量変更可能
《仮決定分》
減数のみ変更可能
《決定分》
確定・・・変更不可
出荷計画に対する
L/Cの取得
(S/Oの発行)
代理店、販売会社の
在庫状況
(PSIの販売進捗)
着荷
検証
船便計画
船便、コンテナ
の仮予約
船便、コ ンテナ
の予約
出荷
対策会議
生産機種、数量、
時期、計画
生産量の仮決定
生産量の最終決定
生産
入庫
部材所要情報
25日納入部材の
納期指示
定時納入部材の
納期指示
部材納入
予定回答
実績回答
部材の準備
納入指示に基づいた
部材の出荷
図3 新業務の設計概要
納入指示に基づいた
部材の出荷
購入計画
生産計画
(生産量、時期)
調達計画
(調達量、時期)
出荷計画
(出荷量、時期)
納期管理
直販代理店/販売会社 本 社
工 場
出 荷 生 産 調 達
実 行
計 画
全
体
像
取引先
需要計画と同期化した供給計画の運用
(部材取引先を含めた)
計画に基づく実行管理
(部材取引先を含めた)
需給に関するマネジメント
(部材取引先を含めた) 部品、取引先選定管理
取引先納入条件管理
S/O発行管理
S/O発行管理
検証
検証
検証
日単位の着荷計画
(=納期回答)
PSI検証
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