ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年6号
特集
ロジスティクスの手引き 外資が仕掛ける物流資産リストラ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2004 28 拠点売却で累損を一掃 東証一部上場の機械メーカーである日本コンベヤは 三月末、大阪・大東市に保有する土地、および本社 建物と物流倉庫を売却した。
物件は土地面積が約七 万平方メートル、本社建物と倉庫の延べ床面積が約 七万六〇〇〇平方メートルに及ぶ大規模なものだ。
売 却額は約七三億円に上った。
日本コンベヤは前々期に続き二〇〇三年三月期の 決算でも赤字(最終利益ベース)を余儀なくされた。
今回の資産処分で過去二年間で悪化した財務体質を 一気に改善することを狙う。
対象物件の帳簿価額は 約一一六億円。
売却しても「固定資産売却損」が発 生する。
特別損失の計上を強いられ、二〇〇四年三 月期の決算も赤字に終わってしまう。
ただし、物件の 土地再評価差額金計上前の帳簿価額は約二六億円だ ったため、土地再評価差額金の取り崩しなどによって 累積損失を一掃できる。
最終的には未処分利益とし て二二億円を確保できる見通しだという。
もともと同社は今回売却した土地に本社と工場を 構えていた。
しかし事業の拡大に伴い用地が手狭にな ったのを受けて、八一年に兵庫県姫路市に新工場を 建設。
大東市の土地には本社機能だけを残し、生産 機能はすべて新工場に移管した。
その後、旧工場の跡 地には新たに物流倉庫を建設し、それを摂津倉庫など 地元の倉庫会社に賃貸して収入を得てきた。
姫路への移転に際して、跡地を手放さなかったのは 土地の値上がりによる含み益の拡大が見込めたからだ。
旧工場の周辺には住宅地が拡がっている。
大阪港や 伊丹空港まで三〇分でアクセスできるなど交通の便も いい。
実際、同社の思惑通り、土地の含み益はバブル 期に取得価格の数倍にまで膨らんだという。
ところが、九〇年代に入り流れが変わった。
バブル 崩壊の影響で土地の含み益は徐々に目減りしていった。
ようやく最近になって底値を這っていた土地の価格は 回復基調に転じているものの、往時のような上昇の勢 いがあるわけではない。
将来の大幅な値上がりも期待 薄だ。
そもそも同社にとって倉庫のリース事業は売却に好 都合なタイミングが訪れるまで土地を寝かしておくた めの副次的なビジネスにすぎなかった。
これ以上、値 上がりが見込めないのであれば、含み益が少しでも残 っているうちに売却を済ませてしまったほうがいい。
最終的にはそう判断して、資産処分に踏み切った。
売却によるメリットは大きい。
資産の圧縮でバラン スシート(B/S)をスリム化できる。
結果として自 己資本比率が高まる。
そして何よりも売却で手にする 資金で損失の穴埋めが可能になることが最大の魅力だ った。
同社では拠点の売却を機に、倉庫のリース事業 から撤退。
今後は本業であるコンベヤ事業に経営資源 を集中的に投下していく方針だという。
こうした動きに対して市場の反応も悪くなかった。
昨年末の段階で、同社の株価は六〇円台にまで落ち 込んでいた。
それが資産売却の発表直後、一時的に 一四〇円台にまで回復した。
その後、業績予想の下 方修正が発表されたことで再び九〇円台にまで落ち込 んでいるものの、本業に専念するという戦略そのもの は市場関係者から一定の評価を得たようだ。
今回、日本コンベヤから資産を譲り受けたのは特定 目的会社(SPC)の「インダストリアル・リート・ ワン」(IRO)だ。
三井物産、中央三井信託銀行、 不動産ファンド運用会社のケネディ・ウィルソン・ジ ャパン(KWJ)の三社が昨年一〇月に設立した。
K WJの濱口治孝管理本部社長補佐は日本コンベヤか 外資が仕掛ける物流資産リストラ 外資系不動産会社が豊富な資金力をバックに日本の物 流市場での活動を本格化している。
減損会計の導入を控 え、物流拠点のリストラを進める荷主企業や物流企業と の結びつきは強まる一方だ。
“黒船”が持ち込んだ「物流 拠点の所有と運用を分化する」という考え方が徐々に日 本でも浸透しつつある。
本誌編集部刈屋大輔 ロジスティクスの手引き 特 集 29 JUNE 2004 ら物件を購入した理由を、次のように説明する。
「大阪の中心部へのアクセスがとてもいい場所で、こ れだけの大型物件は今後なかなか出てこないだろう。
利用ニーズがあり、テナントも探しやすい。
常に高い 稼働率を維持できそうだ。
実際に現在、倉庫はほぼ満 庫の状態。
投資に見合うだけの収入を十分に確保で きる物件だった」 高まる拠点売却ニーズ IROは物流施設に特化した不動産投資信託事業 (REIT)を展開している。
ファンドを創設して資 金を調達し、それを元手に日本各地にある物流拠点 を購入、もしくは新たに開発してユーザーである荷主 企業や物流業者に提供。
賃貸収入など施設の運用益 で出資者たちに配当を行う。
日本コンベヤの案件のスキームはこうだ。
まず日本 コンベヤと中央三井信託が不動産管理処分信託契約 を交わす。
日本コンベヤは中央三井信託から信託受 益権を取得する。
日本コンベヤは信託受益権をIR Oに譲渡することで、譲渡代金として七三億円を受け 取る。
IROは三井物産、中央三井信託、KWJな どからの匿名組合出資、および金融機関からのノンリ コースローンによって資金を調達し、譲渡代金に充て る。
日本コンベヤは物件売却後も本社建物を引き続き 利用する。
そのため中央三井信託との間で賃貸借契 約を結び、賃料を支払う。
一方、倉庫部分を賃借し ていた摂津倉庫はこれまで、日本コンベヤと賃貸借契 約を交わしていたが、これを改め、新たに倉庫の管理 者となる中央三井信託と契約する。
今後、IROは 日本コンベヤと摂津倉庫から徴収する賃貸収入をベー スに出資者たちに配当を実施していく(図1)。
物流施設を売却した企業が、売却先から改めてそ の拠点を賃借するスキームは「セールス・アンド・リ ースバック」方式と呼ばれる。
今回、日本コンベヤと 中央三井信託は本社建物に関してこの方式を採用し ている。
それによって日本コンベヤは売却に伴う本社 の移転といった作業を発生させずに済んだ。
テナントとして倉庫に入居する摂津倉庫にも大きな メリットがある。
「日本コンベヤは倉庫業のプロでは ない。
そのため施設の修繕など摂津倉庫のニーズへの 対応がこれまで十分ではなかった。
不動産のプロであ るKWJがアセットマネージャーとして倉庫を管理す る体制に移行することで、摂津倉庫の利便性は格段 に高まるはずだ」と三井物産物流本部の小林真物流 事業部事業開発室コーディネーターは力説する。
日本コンベヤのプロジェクトは三井物産、中央三井 信託、KWJの三社連合にとって初めての案件だった。
それが無事に成功を収めたことで、三社のもとには物 流施設の売却を検討する企業からの問い合わせが相次いでいる。
今年六月には第二号案件が立ち上がる 予定だ。
今後も積極的に物流施設の購入を進め、合 計投資額が三〇〇〜五〇〇億円を超えた時点で東京 証券取引所に上場する計画だという。
中央三井信託の不動産業務部REIT設立準備室 の宮本先朗氏は「生産拠点の海外シフトに伴い、日 本国内の自社物流施設を手放したいというメーカーが 多い。
彼らが保有する物流施設の中には転用が可能 な優良物件も少なくない。
物流施設に特化したRE ITはビジネスになる。
上場後五年以内に資産規模 三〇〇〇億円を達成したい」と意気込んでいる。
自社保有の物流施設を売却して新たにリースのかた ちで施設を利用する――。
日本の荷主企業と物流企業 に「物流拠点の所有と運用を分化する」という考え方 ケネディ・ウィルソン・ ジャパンの濱口治孝管 理本部社長補佐 不動産管理 処分信託 信託受益権 譲渡代金 匿名組合出資 信託受益権 譲渡 ノンリコース ローン 中央三井信託銀行 日本コンベヤ 摂津倉庫 金融機関 IRO SPC(特別目的会社) 三井物産 中央三井信託銀行 ケネディ・ウィルソン・ジャパン他 日本コンベヤ 賃貸借契約(本社部分) 賃貸借契約(倉庫部分) 図1 物流拠点売却のスキーム ※1 ※1 借入人が保有する特定の資産から生じるキャッシュフローのみを拠り所として債務    履行がなされるローン JUNE 2004 30 を提案してきたのはKWJ、プロロジス、AMBプロ パティコーポレーション、ジョーンズラングラサール といった外資系の不動産開発会社だった。
彼らは、日本の不動産価格が賃貸収入による投資 リターンだけで評価しても買える水準にまで下落した のを受けて、相次いで日本市場に進出してきた。
数年 前から荷主企業と物流企業向けに、既存の物流施設 を買い取ってリース、もしくは新たに土地を購入し、 そこに物流施設を開発してリースするといったサービ スの提供を始めた。
外資系による開発ラッシュ こうした発想は既に欧米では広く浸透しているもの の、日本では馴染みが薄かった。
もともと日本企業で は工場や本社建物に限らず、物流施設も自社の資産 として保有することが一般的だったからだ。
そのため スタート当初は苦戦を強いられた。
ビジネスモデルそ のものが理解されず、拠点を用意したものの、なかな かテナントが見つからないといった事態に見舞われる ことも少なくなかったという。
日本の不動産会社や営業倉庫会社に対する競争優 位性も発揮できなかった。
外資系の物件は日系の物 件に比べ賃料が割高に設定される傾向があった。
リー ス契約を打診されたある物流企業のトップは、「日系 は古くから所有している、償却が済んだ土地に倉庫を 建てるため賃料を安く設定できる。
これに対して、外 資系は新たに土地を購入して施設を用意する分、どう しても賃料が高くなってしまっていた」と指摘する。
それでも、土地や建物といった固定資産の現在価 額が帳簿価額を下回っている場合、その差額を特損 として計上することが義務付けられる「減損会計」の 導入が控えていることもあり、最近では自社保有の物 流施設を手放し、リース利用への切り替えを検討する 企業が増えてきた。
それに伴い外資系不動産会社も、 土地や物流施設の購入・開発など日本市場での動き を従来よりも活発化している。
九九年に日本進出を果たしたプロロジスは、これま でに日本国内で計七カ所の物流施設を立ち上げてい る。
拠点は特定テナント向けの「ビルド・トゥ・スー ツ型」と、複数のテナントが入居する「マルチテナン ト型」、既存施設を購入し賃貸する「アクイジション 型」の三タイプに分かれる。
そこに現在、日本通運、 DHLジャパン、ヤマトロジスティクス、松下ロジス ティクス、良品計画、アスクルなどが入居している。
七拠点はほぼフル稼働の状態だという。
二〇〇四年度には新たに「プロロジスパーク東海」 (竣工予定は七月)、「プロロジスパーク福崎」(同八 月)、「プロロジスパーク大阪」(同一〇月)「プロロジ スパーク成田?」(同十二月)の稼働に漕ぎ着ける。
さ らに二〇〇五年度にも「プロロジスパーク加須」(同 二〇〇五年三月)、「プロロジスパーク横浜」(同二〇 〇五年六月)の建設などを予定している。
「ようやく日本でも物流拠点を賃貸で利用するとい う発想が根付いてきた。
物流拠点新設を検討する際、 当社のような不動産開発会社への委託が選択肢の一 つに加えられるようになった。
ビジネスチャンスが拡 がっている。
当面は年間に延べ床面積で三〇万平方 メートル、五〇〇億円規模の投資を続けていきたい」 と山田御酒シニアバイスプレジデント日本共同代表は 説明する。
同様にAMBプロパティコーポレーションの日本法 人、AMBブラックパインも日本市場での活動を本格 化させている。
日本法人の設立は二〇〇三年三月。
同 業他社に比べ多少出遅れた感があるが、その後一年 プロロジスの山田御酒 シニアバイスプレジデ ント日本共同代表 松下ロジスティクスが入居する「プロロジスパーク浦安」 31 JUNE 2004 間で埼玉県所沢市、千葉県船橋市に相次いで物流施 設を取得した。
所沢のテナントはパイオニアシェアー ドサービス、ホンダ・エクスプレス、ブリヂストンス ポーツで入居率は一〇〇%。
一方、船橋は東急エア カーゴなど二社が利用しており、こちらも一〇〇%の 入居率を確保している。
今年四月には日本最大の航空貨物専用施設となる 「AMB成田エアカーゴセンター」の建設に踏み切っ た。
同センターの敷地面積は約一四万平方メートル。
そこに三期に分けて延べ床面積計約一六万平方メー トル、五棟からなる施設を建設する計画だ。
まず第一 期工事として二階建てと四階建ての二つの施設を用 意する。
この成田プロジェクトの総投資額は一六五億 円に達するという。
「成田空港は将来の貨物量増加が見込まれている。
にもかかわらず、成田周辺には物流施設が足りない。
既存の物流施設はすでに埋まっている状態だ。
成田に は大規模な施設を用意しても高い稼働率を維持でき るだけのニーズがある」とAMBプロパティコーポレ ーションのブレーク・ベアード社長は期待を寄せてい る。
回収期間延長で賃料に割安感 日本の荷主企業や物流企業が物流拠点のリース利 用に前向きになった背景には、外資系不動産会社の 提示する賃料の割高感が日本上陸当時に比べて薄ら いできたことがある。
「ノウハウの部分なので詳しいことは説明できない が、簡単にいえば、各社とも従来から長めだった投資 回収期間を、さらに五年から一〇年、一五年と引き 延ばして賃料を設定している」(AMBブラックパイ ンの松波秀明日本代表)という。
3PL企業の日立物流は来年三月に稼働する「プ ロロジスパーク加須」への入居を既に決めている。
施 設は敷地面積約三万八〇〇〇平方メートル、延べ床 面積約五万八〇〇〇平方メートルの五階建て。
日立 物流では同施設をトイレタリー業界向けの共同物流 拠点として活用していく計画だ。
これまで同社の物流センターは自社投資物件が少な くなかった。
これに対して今回リース利用に踏み切っ たのは、プロロジスが提示してきた賃料が地域の相場 と比較しても妥当な水準だったためだ。
「以前から提 案を受けてきたが、これまで外資系不動産会社が開発 する拠点は相対的に割高だった。
しかし最近は日本企 業と遜色のない水準にまで改善が進んでいる。
利用し やすい環境になってきた」と日立物流の山本博巳社長 は説明する。
外資系不動産会社という新たなプレーヤーの登場も あって日本の物流施設の賃料相場は今後も下落傾向 が続くと見られている。
荷主企業や3PL企業といったユーザーたちにとっては歓迎すべき現象だ。
さらに 物流施設の所有と運用の分化が進めば、日本では馴 染まないとされてきたノンアセット型3PLの成長に つながる可能性もある。
今年四月、東京都は東京港や羽田空港に程近い大 田区・東海の商業施設用地約一・九ヘクタールの競 争入札を実施した。
その結果、AMBブラックパイン が都が提示した参考価格のほぼ二倍の約一〇七億円 で落札した。
AMBのほかに入札に参加したのはプロ ロジスとオリックス。
それぞれ約一〇三億円、約五九 億円で応札したという。
なぜか外資系と日系とでは入 札額に大きな開きがあった。
その理由は定かではない が、日本の物流不動産市場では豊富な資金力をバッ クにした外資系の躍進がしばらく続きそうだ。
ロジスティクスの手引き 特 集 AMBプロパティコー ポレーションのブレー ク・ベアード社長 AMBが確保した成田空港近くの土地。
日本最大とな る航空貨物専用施設が建設される予定

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