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JULY 2004 40
今年四月、医薬品卸最大手のクラヤ三星堂
は、同業の中堅企業、アトル(本社・福岡
市)とエバルス(同・広島市)の二社と、持
株会社方式による経営統合に向けた一歩を踏
み出した。
まず二社がクラヤ三星堂の子会社となり、
続いて今年一〇月にクラヤ三星堂が社名を
「メディセオホールディングス」に変更して事
業持株会社へ移行、医薬品等卸売り事業を
分社して、改めて設立する新会社「クラヤ三
星堂」に継承させる。 これによって、アトル、
エバルス、新「クラヤ三星堂」を含めた一五
の子会社が、「メディセオホールディングス」
のもとに経営統合され、仕入れ、物流機能な
どが一元化される。 新体制のスタートに先立ち、クラヤ三星堂
は二〇〇四年度から三年に渡るメディセオグ
ループの中期連結経営計画を策定した。 シス
テム統合と管理機能の集約による効率化、ス
ケールメリットの追求による収益性向上、情
報提供など顧客支援強化――といった施策を
進め、二〇〇七年三月期に一兆七八〇〇億
円の売上高を達成するというものだ。 さらに
長期ビジョンとして?二〇〇九年三月期に売
上高二兆円、営業利益率二%〞という経営
目標も明らかにした。
クラヤ三星堂の二〇〇四年三月期連結決
算では、売上高は一兆二八三九億円、営業利
益は一五三億円、営業利益率は一・二%。 医
療制度改革などの影響で今後、経営環境はま
売上2兆円めざし物流機能を強化
システムも一元化し機能統合進む
医薬品卸最大手のクラヤ三星堂は4年前
の合併以来、資本・業務提携を繰り返して
経営規模の拡大と事業基盤の強化を図って
きた。 新たに東西に大型物流拠点を整備す
る一方で、グループの情報システムを一元
化するなど積極的に機能を統合。 いまや業
界の流通再編を一歩リードする存在だ。
クラヤ三星堂
――流通再編
41 JULY 2004
すます厳しくなると予想される。 そのなかで
同社は、グループ会社の経営統合をはずみに、
医薬品卸トップとしてさらに大きな飛躍をめ
ざそうとしている。
在庫の集中管理に向けて拠点集約
現在のクラヤ三星堂は、二〇〇〇年四月に
三星堂、クラヤ薬品、東京医薬品の三社が合
併したことで発足した。 医療費抑制や薬剤比
率の縮小などから医薬品市場の成長が鈍化し、
医薬品流通の構造改革が迫られるなかで、三
社は生き残りをかけて合併という道を選んだ。
経営基盤を強化するとともに成長力を確保し、
収益性の向上を図る狙いである。
この合併で、北は北海道から西は広島に至
るまで営業地域を広げた同社だったが、時をおかずしてさらなる業務提携、資本提携に乗
り出した。
まず同じ年の七月に、井筒薬品(本社・京
都市)の株式を取得し子会社にした。 続いて
同年九月に平成薬品(同・岐阜市)と資本
提携し、一〇月には潮田三国堂薬品(同・水
戸市)、チヤク(同・千葉市)の二社とも資
本提携。 十一月にはアトル、エバルスの二社
との経営全般に渡る業務提携をスタートした。
さらに翌二〇〇一年二月に千秋薬品(同・秋
田市)を買収。 この時点ですでに、合併前か
ら一〇〇%子会社だった「やまひろ」(現や
まひろクラヤ三星堂)を加えた六社がクラヤ
三星堂のグループに入り、後に経営を統合す
ることになるアトル、エバルスとの業務提携
も動き出していたわけだ。
合併と相次ぐ提携によって、営業エリアを
一気に全国へと拡げたクラヤ三星堂にとって、
優先課題の一つが物流機能の統合と、情報シ
ステムの一元化だった。 仕入れを一本化する
とともに、各社の物流機能などを統合して競
争力を強化することが、経営統合の大きな狙
いだったからだ。
同社が扱う医薬品には、病院などの医療機
関や調剤薬局向けの「医療用医薬品」と、一
般薬局やドラッグストアなどを販売チャネル
とする「一般用医薬品」とがある。 このうち
医療用が売り上げの九割近くを占めている
(二〇〇三年度連結決算で八七・三%)。
医療用医薬品の川下流通は長年、商物一
体が慣習となっていた。 卸売業者の「MS」
(マーケティング・スペシャリスト)と呼ばれ
る営業担当者が、病院や調剤薬局を回って、
医薬品の情報提供や販売のほか物流業務まで
を担当してきた。
このMSによるデリバリーを基本としなが
ら、この分野では一般に二通りの物流形態が
とられている。 一つは医薬品卸の営業所で在
庫を持つ「分散方式」。 もう一つは、エリア
ごとに物流センターを設けて在庫を集約する
「集中方式」だ。
分散方式は、顧客に近いところに在庫を持
つため緊急な配送の要請に対応しやすい反面、
品揃えの規模に限度がある。 これに対して集
中方式は、緊急な注文への対応ではやや不利
だが、その分、品揃えで優位に立ち、受注時
クラヤ三星堂の業績の推移(連結)
14,000
13,000
12,000
11,000
10,000
9,000
8,000
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
01.3 02.3 03.3 04.3
(年月)
営業利益(単位・億円)
売上高(単位・億円)
営業利益
売上高
医療用医薬品
87.3%
医療機器 4.8%
一般用医薬品 3.8%
試薬 2.3%
その他 1.8%
商品別の売上高構成比
の在庫引当率が分散方式よりも高くなる。 運
用の効率化という点からも、分散方式より有
利だ。
すでに合併前から集中管理方式をとってい
た三社は、合併後もこの方式のメリットを最
大化するため、重複するエリアの物流センタ
ーを集約することで、ひとまず機能の統合を
図った。
関西地区を中心に商圏を展開していた三星
堂は、二〇〇〇年の合併以前には兵庫と大阪
に物流センターを設けていた。 一方、東京に
本社のあったクラヤ薬品は大宮と浦安および
大阪の三カ所。 また、東京医薬品は、神奈川
と東京・練馬の二カ所にそれぞれ物流センタ
ーをもっていた。 合併後はまず、このうちク
ラヤ薬品の大阪と、東京医薬品の練馬のセン
ターを廃止して、五センター体制でスタート
した。
さらにその後、資本提携により六社がグル
ープ入りしたのを受けて、物流本部ではただ
ちに、将来の?売上高二兆円〞という連結経
営目標まで視野に入れた物流インフラを構築するためのプラン作りに着手した。
「卸にとって物流と情報システムは事業基
盤の根幹をなすもの。 経営戦略に遅れずにつ
いていくことは至上命題だ。 それにしても二
兆円という売上規模は、インパクトの大きい
数字だった。 早急に物流体制の増強が必要だ
と感じた」と執行役員の下牧久二郎物流本部
副本部長は述懐する。
東西にメガ物流センター設置
物流インフラは、東西の「メガ物流センタ
ー」を軸に構築することにした。 首都圏と近
畿圏にそれぞれ大型物流センターを整備して、
グループ企業の物流機能を集約するという手
順である。
まず西の近畿圏から着手した。 近畿圏では、
合併前に各社が使っていたセンターがいずれ
も老朽化して手狭になっていた。 このため兵
庫県加東郡に新たに「西日本物流センター」
を建築し、ここに周辺の物流を集約すること
にした。
「西日本物流センター」は二〇〇一年一〇
月に竣工し、十一月から稼動した。 三階建て
で延べ床面積が四万四〇〇〇平方メートル。
年間取扱高が五〇〇〇億円の規模で、近畿
地区を中心に二府十一県を配送エリアとする。
土地と建物および物流機器・システムへの投
資額は合わせて一〇三億円。 パレット自動倉
庫、ケース自動倉庫、小物仕分けソーターな
どの自動化機器を装備し、機械化と作業の標
準化によって、ローコストオペレーションと
顧客ニーズへのフレキシブルな対応をめざし
た。
物流センターでは、営業所のMS別に商品
をピッキングして配送する。 ピッキングから
出荷までのサイクルを、一バッチにつき一時
間と短く設定。 一日の受注行数はおよそ七万
行で、これを八時間で処理している。
オーダーピッキング方式ではなく、バッチ
ごとにトータルピッキングをした後に、八台
の小物仕分けソーターでMS別に自動仕分け
する方法をとっている。 人手による作業は、
トータルピッキングと、仕分けラインに商品
を投入する際にバーコードを読み取る作業だ
けで、省力化が大幅に進んだ。 また作業の標
準化によって、人員の半数以上をパートタイ
マーに置き換えることも可能になった。
この西日本物流センターに続いて、東日本
エリアでも今年三月、埼玉県加須市に延べ床
面積二万七〇〇〇平方メートル、年間取扱高
三〇〇〇億円規模の「埼玉物流センター」を
着工した(土地を除く投資額四二億円を予
定)。 東日本では、千葉県浦安市にある旧ク
ラヤ薬品の「東京物流センター」(延べ床面
積三万七〇〇〇平方メートル、年間取扱高四
〇〇〇億円規模)をメガセンターとして位置
付け、今後、増改築による機能の拡張を行う
予定だ。 埼玉センターはこれを補う首都圏の
拠点として新設を決めた。
JULY 2004 42
クラヤ三星堂の下牧久二郎執
行役員
43 JULY 2004
新センターには、西日本物流センターで培
ったノウハウをそのまま持ち込み、フルライ
ンの品揃えで高品質高効率の拠点を構築する
計画だ。 来年の年明けに完成し、二月から稼
動する予定で、これに伴って大宮と神奈川の
センターは他に転用する。
経営統合後の物流体制は、この東西の三拠
点を中核とし、これに茨城県内にある潮田三
国堂薬品の内原物流センター、平成薬品の岐
阜物流センター、さらに九州地区にあるアト
ルの北部九州物流センターと南九州物流セン
ター、中国地区にあるエバルスの広島物流セ
ンター、御津物流センターを、メディセオグ
ループの物流ネットワークに組み込むことで
整備していく計画だ。
仕入れとセンター業務を一本化
新物流センターの整備と並行して、クラヤ
三星堂では新基幹情報システムの開発と、グループ各社との業務統合とを進めてきた。 二〇〇〇年の合併当初、販売・物流・会
計の基幹業務は東西でそれぞれ旧クラヤ薬品
と旧三星堂の仕組みで運用していた。 運用の
統合を行い、グループ各社とも共用できる新
基幹システムを構築することは、拠点整備と
並ぶ優先課題だった。 基幹システムの一本化
による業務統合を経て初めて、重複する業務
の集約や管理の一元化など経営統合のメリッ
トが出てくるからだ。
新基幹システムは二〇〇三年五月に完成し
た。 まず七月までにクラヤ三星堂で導入を完
了。 その後、グループ各社のシステムと順次、
接続しながら、物流センターへの在庫集約に
よる業務統合を進めてきた。
業務統合後は、クラヤ三星堂が商品を一括
で仕入れ、物流センターでのオペレーション
も一元的に管理する。 同社では昨年一〇月か
ら、グループのMS(三四五九人=二〇〇四
年三月末現在)向けに、受注機能などをもっ
た情報携帯端末「NOAH」の導入を開始し
ている。 この「NOAH」でグループ各社の
MSが受けたオーダーを、同社のホストコン
ピューターで一律に処理し、物流センターに
出荷指示が流れ、センターから各社の営業所
へ出荷が行われると同時に、グループ各社へ
の売上処理も行う形になる。
業務統合によって、グループ各社は物流セ
ンターでの在庫負担がなくなり、業務の重複
も解消する。 来年四月にはアトル、エバルス
を除く六社との業務統合が完了する予定だ。
二〇〇三年度、物流費の売上高比率はクラヤ
三星堂単体で一・〇七%だったが、六社との
業務統合後は、連結で一%以下に抑えること
を目指している。
クラヤ三星堂自身は、物流センターでの集
中管理体制のもとに、過去六カ月の販売実績
西日本物流センターのフロー
平屋倉庫
パレット自動倉庫
ケース自動倉庫
危険物倉庫
毒劇物庫
向精神薬庫
小出し品
エリア
オーター
ピック
総量
ピック
補充
補充
ケース自動倉庫
パレット自動倉庫
梱包・詰合わせ梱
パレット
入荷エリア
入庫設定
冷蔵・保冷庫 オーダー
ピック
オーダー
ピック
オーダー
ピック
支店別
アソート
総量ピック
入 荷 出 庫
入庫
補充
出庫
小物仕分
ソーター
方面別仕分ソーター
医療関連品
エリア
荷揃えエリア
2001年11月に稼働した西日本物流センター
■西日本物流センターの概要
(竣工)2001年10月、(所在地)兵庫県加東郡東条
町南山、(敷地面積)30,981平方メートル、(建物構
造)鉄骨鉄筋コンクリート造り3階建て、(建築面積)
14,808平方メートル、(延べ床面積)44,220平方
メートル、(駐車台数)トラック34台、(主な物流設
備)パレット自動倉庫11基<4,170棚>、ケース自
動倉庫12基<8,340棚>、ロータリーラック4基<
4,920棚>、小物仕分けソーター8台<800間口>、
方面別仕分けソーター<36シュート>
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から品目別・メーカー別に需要予測を行い、
ABC分析によって発注点・発注量を決定す
る在庫管理システムを早くから導入している。
「品揃えのノウハウでは他社に負けない」(下
牧副本部長)という自負が同社にはある。 「拠
点整備とシステム統合が完了すれば、その強
みが活き、業界でもかなりのアドバンテージ
を持つことができるようになる」と意気込ん
でいる。
薬局向けに新たな取引形態を導入
こうしてグループの機能統合を着々と進め
ながら、医薬品業界の環境変化を背景に、取
引先との連携強化による流通効率化の道も模索してきた。 ここ数年、この業界では医薬分業体制が急
速に進んだ。 医療機関への医薬品販売比率が
低下する一方で、調剤薬局のシェアが伸びて
いる。 クラヤ三星堂の二〇〇三年度業態別売
上高でも、調剤薬局が三四・四%と最も高く、
二〇〇床以上の大病院(二六・四%)、開業
医・診療所(一八・八%)を上回っている。
調剤薬局は経営環境が厳しいなか在庫を圧
縮する傾向が強く、注文品をすぐに届ける緊
急配送へのニーズが高くなっている。 同社の
物流センターでは都市部へは一日二回配送し
ているが、遠隔地は一日一便になる。 このた
め緊急配送への対応で営業所にもある程度、
在庫を持たざるを得ない。
現在、同社の総在庫日数は〇・五〜〇・
五二カ月という水準で、このうち営業所の在
庫が〇・一四カ月ある。 首都圏の医薬分業率
はすでに七割近いとも言われ、このまま進む
と営業所の在庫率が上がる懸念もでてくる。
このため同社では、緊急配送の抑制に向けて
調剤薬局への支援体制を強化してきた。 二〇
〇二年からは、「medks
―epi」という
調剤薬局向けの新取引形態を導入している。
薬局の薬剤使用実績をもとに需要予測を行っ
て発注数量を算出し、計画納品するというも
の。 使用実績に基づく消化払い取引だ。
薬局では在庫管理や発注業務の負担が軽減
し、欠品の解消やキャッシュフローの改善に
つながる。 卸側にとっても、計画配送が可能
になり、物流センターの作業を平準化できる
メリットがある。 実際、システムの導入後は
定期配送回数が四割減り、緊急配送は七割
も減ったという。 二〇〇四年三月末の導入数
は薬局の店舗数にして一四三七軒。 今年度は
三〇〇〇軒への導入をめざしている。
一方、メーカーに対しても、サプライチェ
ーン・マネジメント(SCM)構築のための
連携などを働きかけていきたい考えだ。 メー
カー各社は昨今、新薬の研究開発に資金をつ
ぎ込んで欧米企業との競争にしのぎを削る一
方で、物流についてはアウトソーシングなど
によるコスト削減に躍起となっている。 物流
拠点を集約して配送回数を減らし、配送先の
拠点数を絞り込む傾向も出てきている。 この
ままでは卸側の在庫負担増になりかねない。
これを避けるために、メーカーの生産・出
荷計画とクラヤ三星堂の販売計画との連携な
どによってSCMを構築し、一貫した物流体
制を築いていくことが不可欠と同社ではみる。
政府の保護政策のもとで長い間、安定収益
を確保してきた医薬品業界では、医療制度改
革の進展とともにメーカーも卸も急速な環境
変化に直面し、生き残りをかけた再編が進ん
でいる。 グループ化で経営基盤の強化を図り、
磐石の物流体制を固めることによって、同社
が今後、流通構造改革の主導権争いの優位に
立つことは間違いないだろう。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
クラヤ三星堂の物流ネットワーク
顧客
システム
物流
センター
出庫指示
業務センター
VAN等
業務センター・支店・営業所
営業MS(携帯端末)
仕入先
支店・営業所
DS別
MS別
出庫
MS・DS配送
EOS
電話・fax
訪問
受注
発注
入荷
情報の流れ
商品の流れ (西神)
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