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AUGUST 2004 78
一日一〇〇〇万円儲ける
今回は最初に二〇〇四年三月期の決算を報
告しておこう。 連結ベースでの売上高は約二
三六億円、前期比一五・五%増だった。 これ
に対して営業利益が約二〇億円、同三九・七%
増。 期初に公約した数字を達成できたことに
なる。
すごい? いや当たり前だ。 ウチの仕事の
メーンはセンター運営事業だ。 運送事業と違
って、センター事業はある日突然お客さんが
消えてなくなるということがない。 センターを
新設すれば、売り上げは増える。 予算と実績
の乖離が小さい。
前期(二〇〇三年度)は決算で目標達成と
なったが、一〇〇点満点だったとは言えない。
数字以外の部分でマイナスがあった。 例えば、
社員全員参加型の経営ができていない。 収支
日計表や日替わり班長制度をすべての事業所
に浸透させることができなかった。 トータルで
八〇点といったところだ。
ウチの会社は売り上げを追求しているわけ
ではない。 利益の確保を最優先としている。 こ
れは以前にも説明したと思うが、当面の目標
は一日当たり一〇〇〇万円の利益を確保する
ことだ。 年間で三六億円。 最低でも年三〇億
円の利益を叩き出せないようでは東証一部上
場企業として恥ずかしい。
ただし、あまり儲けすぎても良くない。 お客
さんにもきちんと儲かった分を還元しなければ
ならない。 しかし、儲けないと還元もできない
わけだから、やはり企業というのは利益を出す
よう最大限努力すべきだ。 物流業というのは
道路など社会インフラを利用してサービスを
提供している。 だから税金もきちんと払わない
とな。
会社では中長期的な目標の一つとして売上
高一〇〇〇億円の達成を掲げている。 そのためには地道に仕事を増やしていくことが肝心
だ。 しかしそれとは別に増収に向けた一つの
手段としてM&A(企業の合併および買収)
がある。 売り上げ規模のある物流企業を買収
してハマキョウグループに組み入れることで、
一〇〇〇億円を達成してしまうというやり方
だ。
これまでオレの頭のなかにM&Aという発
想はなかった。 そもそも横文字なんてオレには
似合わない。 しかし、そんな冗談を言ってばか
りはいられない。 いまやウチの会社も一部上
場企業だ。 株主さんたちの期待にしっかりと
応えていく必要がある。 いい案件があれば、今
第17回「
運
送
会
社
の
再
建
請
負
人
」
「何とかしてもらえないか」――そういってオレのところに
助けを求めてくる運送屋の社長さんが最近、増えてきている。
景気は回復基調にあるというのに、なぜか赤字続きで会社が
火の車なのだそうだ。 治療は簡単だ。 収支日計表の導入でど
んぶり勘定を改めればいい。
大須賀正孝ハマキョウレックス社長
――ハマキョウ流・運送屋繁盛記
79 AUGUST 2004
後はM&Aも検討していきたいと思っている。
第一回センター長試験
今期(二〇〇四年度)の業績は連結で売上
高二七五億円を見込んでいる。 これに対して
営業利益が二三億円。 周囲にはやや堅めの予
想だと言われている。 今期中に新たに稼働す
る物流センターは、現在までに確定している
ので四つ。 最終的には八カ所くらいが新規で
立ち上がりそうだ。
すでに決まっている四カ所のうち、一カ所
は小売りの一括物流センターだ。 東北地区を
中心に約四〇店舗を展開する食品スーパー向
けに物流サービスを提供する。 スーパーから物
流を任されている食品卸から依頼されるかた
ちで、センター内のオペレーションと配送を請
け負う。
もう一カ所はとても面白い案件だ。 しかし、
現段階では詳細を説明できない。 中部地区で
の仕事、ということだけにとどめておこう。 そ
のうちオープンにできるようになると思う。 雑
貨向けの物流センターだ。 こうしてセンターが増えていくと、センター
を切り盛りするセンター長の数がどうしても足
りなくなる。 そこでウチの会社ではセンター長
育成のため、新たに「センター長資格制度」と
いう仕組みを導入した。 この制度については
以前にも連載の中で説明したが、要はセンタ
ー長として適任かどうか試験を行い、それに
合格すれば、誰でもセンター長に昇格できる
という制度だ。
今年三月、第一回目となる試験を実施した。
その結果、二十一人が合格し、センター長の
資格を手に入れた。 このうち一五人は完全合
格。 残りの六人は多少改善すべき点があるも
のの、それを克服できればセンター長として十
分に活躍できるだろう、という「条件つきでの
合格」だった。
試験は一次がペーパー、二次が役員面接。 ペ
ーパーテストではセンター作業についてだけで
はなく、センター運営に欠かせない「労務・総
務」に関する設問も含まれている。 センター長
に求められるのは、お客さんからのオーダーに
応じて間違いなく製品を出荷することだけでは
ない。 雇用や保険などセンターで働く人たちの
マネジメントも重要な仕事だ。 試験ではその能
力もきちんと確かめるようにしている。
合格者は二〇代後半から三〇代前半の若手
が圧倒的に多かった。 これに対して四〇代か
ら五〇代には合格者が少なかった。 センター
運営には柔軟な発想が欠かせない。 若手は頭
が柔らかいが、四〇代から五〇代の社員は固
定概念というものに縛られてしまっているよう
だ。
例えば、一〇人で処理する作業を六人で済
ませるにはどうしたらいいか。 その問いに答え
が出せない。 正解はこれも以前にも説明した
が、「少しずつ人数減らしていき、一人当たり
の生産性を高めていく」なのだが、そういった
アイデアが浮かばない。
一時間や二時間遅れてもトラブルにならな
い納品先があっても、納期に厳しい他の納品
先と同じようなスケジューリングで作業を進め
ている。 本来、厳しい納品先の仕事を先に済
ませてから、時間に余裕のある納品先の作業
に取り掛かれば、少ない人員で作業を処理で
きるのにもかかわらず、そのことに気がつかな
い。 年配の受験者たちは生真面目すぎるのだ
ろうか。
合格の秘訣は経験を積むこと
センター長試験は希望すれば誰でも受験で
きる。 しかし合格するのは容易ではない。 合
格するためにはどのような準備や勉強をすれば
いいのか。 受験者のために参考書や授業を用
意しているわけではない。 合格するためにはセ
ンターの運営で少しずつ経験を積んでいくし
かない。
新たに21人がセンター長の資格を手に入れた
〇万円の赤字があっ
た。 そして最終的に
は二億円の資金不足
が発生して経営破た
んに追い込まれた。
オレが経営に関与
するようになって、
まず収支日計表を記
入させるようにした。
人件費や燃料代、車
両修繕費などのコス
トを日割り計算して
収入から差し引く。
その日いくら利益が残ったのかを終業時に毎
日計算する、というものだ。 同社のどんぶり
勘定体質を改めるのが目的だった。
その結果、業績は日を追うごとに回復して
いった。 あっという間に黒字転換できた。 現
在では月に四〇〇万円、年間五〇〇〇万円の
利益を確保している。 年に三〇〇〇万円の赤
字があったわけだから、約八〇〇〇万円の改
善に成功したことになる。 同社は約八〇〇〇
万円の累損を抱えていたが、それもあと一年
で一掃できる見通しになった。
このほかに茨城に本社を置くトラック運送
会社の再建も引き受けた。 この会社は年商一
八億円。 順調に業容を拡大してきたが、先代
の社長さんが経営の第一線から離れた途端に
流れが変わってしまった。 売り上げ減とコスト
アップで年に七〇〇〇万円の赤字を抱えるよ
AUGUST 2004 80
前述した通り、初めてとなる今回の試験で
は二十一人が合格した。 つまり、新たに二十
一カ所センターを設けても問題ないわけだ。 し
かし今年の新設予定は八カ所。 センター長が
余ってしまう計算になる。 合格者の中には「条
件つき」が六人含まれている。 そこで当面は
二十一人をセンター長と副センター長に分け
て、センター運営の修業を積んでもらうつもり
だ。
合格者だからといって、スタートから上手
にセンターを運営できるとは限らない。 お客さ
んに迷惑を掛けないようにするためにも、軌道
に乗るまでは新米センター長をサポートする体
制が必要だ。 ウチの会社では各地域を担当す
る役員がつきっきりで新センターの面倒を見
ることが通例となっている。
今回の合格者のうち、センター長としてす
ぐに一本立ちできるのは三〜四人だろう。 彼
らは恐らく黙っていてもセンターを軌道に乗せ
ることができる。 しかしそのほかの合格者たち
は慣れるまで少し時間が掛かりそうだ。
センター運営の難易度は取り扱い商品によ
って異なる。 例えば食品(ドライ)を扱うセン
ターは比較的運営が容易だとされている。 食
品は年間を通して出荷量の波動が小さいから
だ。 これに対してアパレル製品はシーズンごと
の波動が大きい。 そのため作業員をムダなく
配置するのが難しい。 新米センター長はいき
なり上級のアパレルに携わるのではなく、食品
センターから経験を積んでいくのが好ましい。
今回は二十一人の合格者が出たが、次回の
試験からは合格者が減ることが予想される。 実
力のある社員の大半は今回の試験でセンター
長の有資格者となったからだ。 それでも年に
一〇人くらいは新しいセンター長が誕生する
のではないかと期待している。 毎年一〇人ず
つ合格者が出れば、毎年一〇カ所ずつセンタ
ーを増やしていける。 そうなれば一〇〇〇億
円達成の時期を早めることができるだろう。
運送屋のV字回復を支援
最近、付き合いのある運送会社の社長さん
やオーナーから、会社の経営再建を手伝って
ほしいとお願いされる機会が増えている。 しか
しオレも時間に余裕があるわけじゃない。 そう
した依頼の大半については「収支日計表を始
めたほうがいい」といったワンポイントアドバ
イスを提供するにとどまっている。
それでも、なかにはもっと踏み込んだかたち
での手助けを求めてくるケースもある。 例えば、
二〇〇二年に買収したある運送会社。 同社の
社長さんに「何とかよろしく頼む」と頭を下
げられて、買収を引き受けた。 社長さんには
そのまま社長職を続けてもらい、経営はオレ
の言う通りに進める、ということを買収の条
件とした。
社名からもわかるように、この会社の主要
顧客は食品メーカーだった。 工場〜問屋間の
輸送を手掛けていた。 年商は六億円。 運送会
社としては小さくない。 これに対して三〇〇
売上高 23,606 15.5%
営業利益 1,962 39.7%
経常利益 1,910 43.8%
当期純利益 888 51.1%
単位:百万円 前年比伸び率
ハマキョウレックスの2004年3月期決算(連結)
81 AUGUST 2004
うになった。
この茨城の会社にはウチの会社から社員二
人を派遣して再建に取り組んだ。 先ほどの会
社と同じように最初に収支日計表を導入した。
その結果、五〇〇〇万円の利益を確保できる
メドが立った。 実現すれば、約一億二〇〇〇
万円の改善に成功したことになる。
儲かっていない運送会社の多くは収支がき
ちんと管理されていない。 いまやっている仕事
が黒字なのか赤字なのか。 それを社員が分か
っていない。 しかし収支日計表をつけるように
なれば、儲かっているのかどうかが一目瞭然だ。
社員というのは時に経営者よりもしっかり
としている。 赤字であることが分かれば、それ
を解消しようと頑張る。 黒字であれば、もっ
と仕事に精を出して儲けの幅を大きくしよう
と努力するものだ。 例に挙げた二つの運送会
社はまさにその通りだった。
こうして最近は運送会社の再建を請け負っ
ているわけだが、その際にはいくつか条件を設
定させてもらっている。 そのうちの一つはウチ
の会社主導で再建を進めさせてもらうという
ことだ。 余計な口出しはさせない。
対象になる会社の社長さんには「再建を進
めているあいだ、あなたたちはロボットとして
機能してもらうことになるが、それでも構わな
いか」と聞くようにしている。 それが呑めない
場合には依頼を断っている。 口は挟むな、カ
ネとノウハウだけよこせ、というのではあまり
にも都合がよすぎるからな。
社長の給与をカットする
どんな会社でも業績が悪いのはすべて社長
の責任だ。 社長は一番給料をもらっている。 だ
から会社が苦しくなったら、最初に手をつけ
るべきは社長の給料だ。 それでも足りないよう
であれば、社長が頭を下げて、社員に給与カ
ットをお願いする。 コスト削減はそういう順番
で進めていくべきだ。
しかし実際にはとんでもない社長さんたちが
多い。 ある会社の社長さんは会社が傾きかけ
ているというのに自分が使用している自動車
を新車に買い替えていた。 どうしてそんなこと
をするのかと尋ねたら、「社内の規定で社長の
使用車は三年ごとに新車に切り替える」と決
められているそうだ。 それを聞いてオレは腰を
抜かしそうになったよ。
ワンマン経営者というのは百害あって一利
なしだ。 後進に道を譲らずにいつまでも社長
のイスにしがみついている経営者は会社の成
長に悪影響を及ぼす。 自分はまだまだ現役で
やれるという自信があっても、周囲がそう見て
いないケースがある。 会社の発展のために適
当な年齢で経営の第一線から退く。 それが社
長の最後の仕事だ。
地元企業のスズキの鈴木修会長に「いまの
日本人の精神・肉体年齢というのは実際の年
齢の七掛けだ」と教えられた。 会長さんは七
四歳だから、五〇歳ちょっとということか。 確
かに会長さんは見た目にも若いし、元気でバ
イタリティがある。 五〇代といっても十分通
用するだろう。
オレは六三歳だから、四〇歳ちょっとだな。
だからまだまだ第一線で頑張ったほうがいいわ
けだ。 いや、その逆だ。 年寄りが頑張りすぎる
と下の連中が育たなくなる。 会長さんの「七
掛け論」には同意するが、それを会社経営に
当てはめて考えてはいけないような気がする。
バトンタッチは早いほうがいい。 以前も説
明したが、オレは会社で一番働いていると自
負している。 だから一番多く給料をもらって
いる。 しかし仕事量が一番でなくなったら、さ
っさと社長を辞めるつもりだ。
年を取れば、人間は誰でも記憶力が低下す
る。 身体の動きも鈍くなる。 そろそろオレも引
き際というものを考えなければならない。 しか
し今日とか明日に引退するつもりはない。 ま
だまだ元気だ。 「社内で一番の働き者」という
ポジションを維持できるという自信もある。
それでも引退後はどうやって過ごしていくか。
そろそろ準備を進めておく必要はあるだろう。
(以下次号に続く)
おおすか・まさたか
一九四一年静岡県
浜北市生まれ。 五六年北浜中卒、ヤマハ
発動機入社。 青果仲介業などを経て、七
一年に浜松協同運送を設立。 九二年に現
社名の「ハマキョウレックス」に商号変
更した。 二〇〇三年三月に東証一部上場。
主要顧客はイトーヨーカ堂、平和堂、フ
ァミリーマートなど。 流通の川下分野の
物流に強い。 大須賀氏は現在、静岡県ト
ラック協会副会長、中堅トラック企業の
全国ネットワーク組織であるJTPロジ
スティックスの社長も務めている。 ちな
みにタイトルの「やらまいか」とは遠州
弁で「やってやろうぜ」という意味。
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