ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年8号
特集
物流子会社のM&A 丸全昭和運輸&スマイルライン

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2004 18 実運送会社を買収 横浜市に本社を置く東証一部上場の丸全昭和運輸 は今年七月、ライオンの孫会社にあたる「スマイルラ イン」を買収した。
スマイルラインの発行済み株式総 数の九〇%を取得、連結子会社としてグループ内に 組み込んだ。
買収額は未公表。
スマイルラインの従業 員約七〇人をそのまま引き継いでいる。
スマイルラインは、ライオンの物流子会社、「ライ オン流通サービス」の一〇〇%出資子会社だ。
トラッ クを持たない親会社に代わって実運送を担当してきた。
カバーしてきた領域は主にライオンの生産工場〜卸の 製品輸送。
年商は約十三億円(二〇〇三年十二月期) で、売り上げの九割以上をライオングループ向け業務 で占めている。
丸全昭和とライオンは一九六三年からの付き合いだ。
同年十一月に設立されたライオン流通サービスを通じ て東京工場〜卸の製品輸送を任されるようになったの が最初の取引だった。
以来、ライオンは千葉、川崎、 大阪など全国の工場で丸全昭和に輸送の一部を委託 するようになった。
当初、販売物流のみだった丸全昭 和の守備範囲は、次第に工場への原料供給といった 調達物流にまで拡がり、両社の関係は年を追うごとに 深まっていった。
丸全昭和がライオン側からスマイルラインの譲渡を 持ち掛けられたのは今年一月。
それから約半年という 短期間で話はまとまった。
現在、ライオンは中期経営 計画(VIP計画:Value Innovation Plan)のSC Mプロジェクトで物流関係会社の再編成による収益 力の改善に取り組んでいる。
今回の株式譲渡はその一 環だった。
ライオン流通サービスはこれを機に実運送 の機能を捨てて、今後は協力運送会社の管理業務に 専念するという。
丸全昭和にとって株式譲渡の話は渡りに船だった。
スマイルラインをグループ傘下に収めることはライオ ンとの結びつきをこれまで以上に深める絶好のチャン スだからだ。
古い付き合いとはいえ、丸全昭和がライ オン流通サービスから受託している年間の仕事量はス マイルラインの年商とほぼ同じ規模にとどまっている。
一方、ライオン流通サービスの売上高は約一七一億 円。
輸送業務の多くは他の協力運送会社に流れてい るというのが実情だ。
「ライオンから子会社を譲り受けることで、物流の パートナーとしてより強固な信頼関係を構築できる。
もちろん最終的なゴールは他社に流れているライオン の物流業務を少しでも多くこちら側に引き込めるよう にすることだ」と丸全昭和の久保登常務取締役営業 本部長は力説する。
実は丸全昭和が取引のある荷主企業の物流子会社 を買収するのは今回が初めてではない。
二〇〇二年四月には創業時から付き合いのある大口荷主の一つであ る昭和電工の物流子会社を引き受けている。
昭和電 工から株式譲渡されたのは昭和物流、昭和アルミサー ビス、昭和エルダーサービスの三社。
この時には計二 〇〇人の従業員を受け入れた。
金額は公表されていないが、昭和電工は物流子会 社の売却によって手にした資金を連結欠損金の穴埋 めに活用した。
当時、昭和電工は本業以外の事業や 関係会社の売却などリストラ策を推進中で、物流子 会社の再編もメニューの一つに含まれていた。
丸全昭 和は「主要顧客である昭和電工の物流改革をサポー トするために物流子会社を引き受けた」(山形正治経 理部長)という。
丸全昭和が昭和電工から子会社を買収した目的は 丸全昭和運輸&スマイルライン ――子会社受け入れで元請けの座を狙う 今年7月、丸全昭和運輸は長年付き合いのあるライオンの 孫会社にあたる「スマイルライン」を買収した。
丸全昭和は2 年前にも昭和電工の物流子会社を引き受けた。
ここ数年で物 流子会社の買収を積極化している。
一連の買収劇は荷主との 結びつきを深めるのが目的だという。
(刈屋大輔) 19 AUGUST 2004 スマイルラインのケースと同じように、その後の取引 を拡大することにあった。
その思惑通り、子会社引き 受け後、昭和電工からの仕事量は増えつつあるという。
それだけではない。
子会社の売買を境に昭和電工サイ ドから物流に関する情報が頻繁に提供されるようにな ったり、物流関連のプロジェクトチームのメンバーに 加えてもらえるようになるなど、以前よりも結びつき が強まっている。
元請けの座の確保に成功 元請け物流会社としてのポジションを与えられるよ うにもなった。
昭和電工には昭和物流と昭和アルミサ ービスを経由せず、直接地場の運送会社と業務委託 契約を交わしている工場が数カ所あった。
しかしこれ を改め、昭和物流と昭和アルミサービスが実運送会社 をコントロールできる体制に徐々に移行しつつあると いう。
今年三月には昭和電工向けの業務に特化する実運 送子会社「SASロジスティックス」を新たに設立し た。
元請け化が進んだ結果、仕事を失ってしまった地 場の配送会社「南堺運輸」(民事再生手続き中)をこ の子会社に組み込んだ。
SASロジスティックスの従 業員は二〇〇人。
年商は約二〇億円を見込んでいる。
このように物流改革を通じて昭和電工との結びつ きは強まっているものの、昭和物流と昭和アルミサー ビスの両子会社が昭和電工から請け負っている物流 業務は、全体の一割程度にすぎない。
依然として昭 和電工が二社のほかにも物流業務を外部委託してい るためだ。
物流を二社に丸投げしないのは同業者との 競争に晒すことで緊張感を維持するとともに、サービ ス・料金の面で有利な条件を引き出すことを目的と している。
「物流子会社の買収は物流専業者にとって荷物の安定 確保につながる。
ただし、旧親会社が受け入れ先に半 永久的に物流業務を委託してくれるとは限らない。
顧 客企業が満足できるサービスを提供し続けることがで きなければ、いずれ取引はなくなってしまう。
現実は それほど甘くはない」と久保常務は説明する。
実際、スマイルラインの買収でも丸全昭和が勝ち取 ったのは「実運送のトップシェア会社」というポジシ ョンにすぎない。
元請けの座には依然としてライオン 流通サービスがどっしりと腰を下ろしている。
取引先 からの依頼で物流子会社の買収に踏み切った企業の 多くは、丸全昭和のように「荷主との関係が親密にな ることが最大のメリット」と口を揃えるが、旨味はそ れほど大きくないようだ。
ある物流会社の幹部は「(物流子会社を引き取って ほしいという)荷主からの打診を呑むかどうかは取引 金額で決まる。
取引の大きい荷主から頼まれたら仕事 を失いたくないから決してノーとは言えない。
荷主からの受け入れ要請はある意味、優越的地位の濫用だ。
荷主企業が物流会社に子会社の受け入れと物流業務 の委託を?抱き合わせ販売〞するケースはこれからも 増えていく。
物流会社にとっては悩ましい問題となり そうだ」と本音を漏らす。
物流会社にとって物流子会社のM&Aはビジネス を拡大するチャンスであることは間違いない。
ただし、 荷主からの要請に二つ返事でイエスと回答するのは危 険だ。
余剰人員というコスト要因を押しつけられるだ けで、思惑通りに商権を拡大できない可能性もある。
今後も丸全昭和ではこれまでと同様、取引先から要 請を受けた際には、投資に見合うだけの成果が上げら れるかどうかをきちんと精査したうえで引き受けるか どうかを判断していくという。
丸全昭和運輸の久保登 常務取締役営業本部長

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