ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年9号
ケース
豊田自動織機――3PL

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SEPTEMBER 2004 30 3PL事業を本格化した理由 豊田自動織機の3PL事業が静かに日本 の物流市場を席巻している。
同社は二〇〇二 年初めに物流ソリューション事業(3PL事 業)に本腰を入れ、矢継ぎ早に業務提携を交 わしながら取扱高を急拡大してきた。
現在の受注ベースの売上規模は約三〇〇億 円。
日本で3PL事業トップの日本通運の同 分野の売り上げが約一三〇〇億円、日立物流 のそれが約九五〇億円(いずれも二〇〇三年 度実績)であることを考えると、参入二年半 の豊田自動織機の急成長ぶりが分かる。
トヨタグループの他社に対する物流改善の 取り組みは、外部から見ると分かりにくい。
これまでにもトヨタ自動車は関連会社や系列 企業、さらにダイエーや日本郵政公社などの 物流改善にあたってきた。
その一方でフォー クリフトなどの物流機器を扱う「L&F事 業」(ロジスティクス&フォークリフト)でも 物流コンサルティングを手掛けてきた。
これに対して豊田自動織機が二年半前から 手掛けている3PL事業は、過去にトヨタグ ループが物流分野で行なってきた活動とは明 確に一線を画するものだ。
豊田自動織機で3 PL事業を統括する竹内和彦専務はこう強調 する。
「L&Fで手掛けてきた物流コンサル ティングは、あくまでもフォークリフトや物 流機器を買ってもらうところに帰結する。
一 方、いま我々がやろうとしているのは純粋な トヨタ流を武器に物流事業に本腰 発足2年半で売上300億円を受注 物流業界で“トヨタ”の存在感が急速に 増してきた。
トヨタグループの本家、豊田 自動織機は2年半前から3PL事業に本腰を 入れている。
それ以前から同社のL&F事業 では物流コンサルティングを手掛けていた が、これとは明確に一線を画して物流改善 そのものを事業化した。
すでに受注ベース の売り上げは約300億円に達している。
豊田自動織機 ――3PL 31 SEPTEMBER 2004 物流事業だ。
もちろんL&Fとの相乗効果は あるが基本的な目標がまったく違う」 豊田自動織機の3PL事業は「トヨタ生産 方式」(Toyota Production System: TP S)の考え方に基づいて荷主の物流を改善し、 そこで生み出される付加価値から事業利益を 得ようというものだ。
改善によって既存の物 流業務の運営コストを下げ、豊田自動織機は その削減額の一部を手にする。
欧米流のゲイ ンシェアリング(成果配分)に基づく物流事 業を、日本で本格展開しようという野心的な 取り組みである。
3PL事業を本格化したきっかけは、二〇 〇一年四月にトヨタ自動車からL&F事業の 販売部門を譲り受けたことだった。
このとき 豊田自動織機は、販売する組織が変わったら売り上げが減ったという事態は許されない、 と全社一丸になってフォークリフトや物流機 器の拡販に取り組んだ。
しかし、フォークリ フトを単体で売るのは簡単ではなかった。
当然のことながら、顧客が望んでいるのは フォークリフトそのものではない。
こうした 機器を使って物流を効率化することにある。
フォークリフト販売の現場で改めてそのこと を実感したことが、豊田自動織機が物流ソリ ューションを事業化する出発点になった。
TPSを物流事業に本格活用 もっともフォークリフトを単体で売ること の難しさは、L&F事業がまだトヨタ自動車 の一部門だった時代から同じだった。
二〇〇 一年三月以前には、フォークリフトの製造は 豊田自動織機が、販売はトヨタ自動車が担当 するという分業体制を敷いていた。
この体制 でフォークリフトの国内シェアを四〇%まで 高め、圧倒的な首位の座を守ってきたのだが、 それを支えたのは強い販売力だった。
トヨタグループは一九六〇年にフォークリ フト販売の全国ネットワークの構築に着手す ると、六六年には早くも国内首位の座につい た。
その後も顧客に密着した営業活動で、小 規模事業主を中心にがっちりと顧客の懐に入 り込んだ。
しかし、高度成長期が過ぎ去り、 日本経済が成熟し始めると、こうした手法に よる拡販の余地は次第に減っていった。
そこで八六年にフォークリフト以外の物流 機器を扱う「物流システム」の販売に着手し、 九八年には産業車両部門という組織の名称を L&Fに変更。
「L」(ロジスティクス)とい うソフト面を強化することで、ハード販売の テコ入れを図った。
二〇〇一年四月に「トヨ タL&Fカスタマーセンター」と称するマテ ハン機器の大規模なショールームを開設した 狙いも、ソフトによって製品の販売力を高め ることだった。
最終目標はあくまでも機器の 拡販であって、物流そのものを事業として手 掛けようとはしてこなかった。
これがL&F事業すべてを豊田自動織機が 手掛けるようになったのを機に変わった。
「我々には物流機器があるし、トヨタ生産方 式という大いなるノウハウがある。
そのうえ 資金力もある。
より重要なのは人材だ。
当社 の社員には、たゆまぬ改善で品質向上を図る という意識が脈々と息づいている。
こうして 考えていくと、物流センターの企画から構築、 運営、さらにはサプライチェーン全般の効率 化そのものを事業化できるのではないかと思 った」と竹内専務は振り返る。
前述した通りトヨタ自動車には、昔から取 引先に物流の改善指導をしてきた経験がある。
ただし、それは自動車産業に限定した話だっ た。
トヨタ自動車の社員の間では、長年の努 力の結晶であるTPSは売り物ではないとい う意識が強い。
このことがTPSを自動車産 業以外に活用するという発想そのものを遠ざ 図1 豊田自動織機の3PL事業の公表されている主な業務提携 2002年 3月 11月 同月 2003年 4月 10月 11月 2004年 1月 5月 時期 内容 同事業のために豊田自動織機100%出資でALSO(ア ドバンスト・ロジスティクス・ソリューションズ) を発足、ALプロジェクト推進室を担当する竹内和 彦専務が社長に就任 日本アクセス(旧雪印アクセス)に5%出資 ALSOを通じて丸紅グループの低温食品流通に60 %出資 2月に資本参加(豊田自動織機の出資比率10.17%) したトランコムと共同出資で「アルトラン」(同 60%)を発足 コクヨロジテムと共同出資で「KTL」(同50.5%) を発足 高末と共同出資で「ALTロジ」を発足 資本参加した富士物流(同26%)と共同出資で「TF ロジスティクス」(同51%)を発足 土地・建物を拠出して菱食の「横須賀フルラインセ ンター」を本格稼働、常温商品の一括物流を実施 けてきた。
そのようなことが豊田自動織機には可能だ った理由は、トヨタグループのなかで同社が 置かれている立場によるところが大きい。
豊 田自動織機は一九二七年に自動織機を製造・ 販売するために設立された。
三三年に自動車 部を設置すると、四年後にはこの部門を分離 してトヨタ自動車工業が発足。
これがトヨタ 自動車の前身になった。
今でも豊田自動織機 はトヨタ自動車の株式を五・四%保有する大 株主であり、同時に豊田一族の多くが経営に 参画するグループの源流企業だ。
とはいえ現在では、この親子関係はトヨタ 自動車の成長によって完全に逆転している。
豊田自動織機の売り上げに占める「繊維機械」の構成比は三・九%に過ぎず、同社の主 力はいまや完全に自動車関連事業だ。
「ヴィ ッツ」や「RAV4」といったトヨタ車の組 み立てや、カーエアコン用コンプレッサーの 製造を手掛ける自動車事業が、総売上の過半 を占めている。
そのうえ豊田自動織機の発行 済み株式の二三・五%をトヨタ自動車が保有 しており、こうした関係だけをみればトヨタ 自動車の系列企業にすら見える。
それでも豊田自動織機がグループの源流企 業であるという事実に変わりはない。
そのこ とを誰よりも自覚しているのはグループの社 員たちであり、それだけに豊田自動織機がT PSを使って新規事業を手掛けることへの抵 抗も少なかった。
こうした状況下にあって同 社は、単にTPSを売り物にするのではなく、 そこから生み出される付加価値で収益を上げ る3PL事業を本格展開することになった。
トヨタブランドの威力 新たに手掛ける3PL事業は、豊田自動織 機の社内で「ALプロジェクト」(アドバン スト・ロジスティクス)と名付けられた。
実 務面ではL&F事業が手掛ける物流コンサル ティングと重なる面もあるが、既に述べたよ うに、二つの事業は目標が異なる。
まったく 別の組織が担当することになった。
そのための新組織として二〇〇二年一月に 「ALプロジェクト」が発足したときのメン バーは八人。
このうち六人は他部門との兼務 だった。
専任わずか二人の小規模なスタート だったが、その後の展開は早かった。
二〇〇二年三月に一〇〇%出資の子会社 「ALSO」(アドバンスト・ロジスティク ス・ソリューションズ)を設立すると、竹内 専務が社長に就任。
この会社を3PL事業の 企画や物流センターの運営を担う組織と位置 づけ、その後は豊田自動織機やALSOを通 じて、物流会社や荷主企業との業務提携を矢 継ぎ早に進めた。
物流現場の実務運営にまで 責任を持てる体制を構築し、同時に物流事業 を円滑に進めるための事業スキームを整える 狙いがあった。
豊田自動織機が物流現場とどう関わるかは 案件ごとに異なる。
自ら物流現場の運営まで 担うケースもあれば、元請け的な立場で改善 指導を施し、現場運営そのものは既存の物流 業者に任せるケースもある。
いずれにせよ豊 田自動織機の役割は、物流改善の知恵を提供 し、結果としてそれを実現することにある。
営業を開始した当初から、豊田自動織機の 提案に対する荷主企業の反応は極めて良かっ たという。
それも当然だろう。
トヨタ流の効 率化を導入することで自社の業務を高度化し たいと願う企業は数え切れないほどある。
に もかかわらず従来は、トヨタグループの指導 を正式に受けられるのは取引関係のある一部 の企業だけだった。
ダイエーや日本郵政公社などに改善を指導 SEPTEMBER 2004 32 ■豊田自動織機の事業概要  (2004年3月期連結) 売上高 1兆1643億円 経常利益   589億円 当期利益 336億円 従業員数 2万7431人 1926年豊田佐吉氏が発明し た自動織機を製造するために 設立、33年自動車部を設置、 37年自動車部を分離独立し てトヨタ自動車工業を設立、 56年フォークリフトの製造 を開始、2001年トヨタ自動 車からL&F(ロジスティク ス&フォークリフト)の販売 部門を譲り受け、産業車両に おける製販統合を実施 ■沿 革 ■事業別の売上構成 自動車関連 産業車両 51.9% 38.1% 繊維機械 3.9% その他 6.1% 図2 豊田自動織機の事業概要 33 SEPTEMBER 2004 してきたのは、あくまでも例外だ。
社会的な ニーズが大きく、トヨタにとっても将来的に ムダではないと判断できる事例だけが対象だ った。
?改善は永遠なり〞を信条とするトヨ タにとっては、自動車産業だけを見渡しても、 やるべきことがまだ限りなくある。
他産業を 指導している余裕はない。
他産業へのトヨタ流の改善指導を担ってき たのは、トヨタのOBや、TPSに詳しい経 営コンサルタントたちだった。
有名なところ では、トヨタ自動車の主査だった鈴村喜久男 氏(故人)が立ち上げたNPS研究会や、T PSの創始者の大野耐一氏に師事した経験を 持つ山田日登志氏のPEC産業教育センター (本誌二〇〇四年四月号参照)などがある。
こうしたコンサルタントは、改善の指導は しても物流現場の運用までは手掛けない。
一 方、豊田自動織機の3PL事業の提案は、実 務の運用にまで責任を持つ。
対価は成果配分 が基本のため、荷主の懐は痛むどころか潤う 可能性が高い。
そのうえムダのない物流で競 合他社に対する優位性を確保できる見込みも あるとなれば言うことはない。
豊田自動織機 の3PL事業の急成長は、まさにトヨタブラ ンドの威力といえるだろう。
相次ぐ巧妙な事業提携 現在、改善を手掛けている荷主企業の顔ぶ れはそうそうたるものだ。
オフィス用品最大 手のコクヨ、食品卸の菱食、ホームセンター 大手のカーマ――。
他にも大手流通業者や、薬品卸、家電量販チェーンなど、一〇社余り で三〇〇億円という売り上げを叩き出してい る。
一案件ごとの規模の大きさも同社の3P L事業の特徴の一つといえる。
特筆すべきは資金力を活かした業務提携の 数々だ(図1)。
豊田自動織機が進めてきた 業務提携には大きく二つのパターンがある。
一つは、急拡大する3PL事業の受け皿とし て、現場運営に携わる有力な物流業者を資本 提携で囲い込むパターン。
もう一つは、特定 の荷主の物流効率化を実現する狙いで組織や インフラに資金を投じるパターンだ。
今年一月に富士物流との間で締結した事業 提携は、前者の典型といえる。
このケースで 豊田自動織機は、富士電機ホールディングス が保有していた富士物流の株式二六%を取得 し、富士電機グループと並ぶ大株主の座につ いた。
そして、これとは別に富士物流と共同 出資で「TFロジスティクス」という新会社 を発足。
豊田自動織機は新会社に五一%を出 資して経営権を握っている(図3)。
この業務提携の枠組みについて、一方の当 事者である富士物流の中尾博社長は、「非常 に巧妙につくってある」と説明する(本誌二 〇〇四年八月号参照)。
富士物流にしてみれ ば、単に豊田自動織機の傘下に入って主体性 を失うような事態は避けたい。
片や豊田自動 織機の立場では、実権を握ってコントロール できなければ、同社が荷主にいくらトヨタ流 の改善指導を施しても、物流の現場でそれを 実践できず3PL事業そのものが絵に描いた 餅で終わりかねない。
豊田自動織機の資本力があれば一方的な買 収も可能なのだろうが、優秀なパートナーほ ど強権的な関係は望まない。
ましてや業務提 携によって、トヨタ流の自律的な現場改善と いう強みを発揮してもらうためには、パート ナーとの関係作りが3PL事業の競争力を左 図3 富士物流と交わした業務提携の枠組み 議決権の 28% 51% 49% 共同経営 議決権の 27% ALSO 富士物流 TFロジスティクス 顧客企業 提案 商談 商談 サービス 提供 委託 実務委託 豊田 自動織機 富士電機グループ 豊田自動織機 富士物流 TFロジスティクス SEPTEMBER 2004 34 右する重要なポイントになる。
だからこそ、 それぞれの業務提携には工夫が凝らされ「極 端な言い方をすれば一つとして同じものはな い」(竹内専務)のだという。
物流業者との業務提携とは別に、物流イン フラへの投資にも積極的だ。
菱食の「横須賀 フルラインセンター」に土地・建物を拠出し ているのは、その典型的なケースだ。
荷主の 物流インフラへの投資を肩代わりしてセンタ ー運営の実務を受託し、ここでの改善成果を 分け合う。
似たような枠組みで他にも大手流 通業者の物流業務を受託しており、同社の3 PL事業の手法の一つとなっている。
ターゲットは「生産」と「流通」 豊田自動織機が新たに元請け的な立場で参 画するケースでは、既存の物流事業者とほぼ 重複して売り上げを計上することになる。
こ うした構図は、一歩間違えれば物流業界の名 目上の売上高ばかりを水増しする。
結果的に 物流業界全体の利益率を薄めるだけという話 にもなりかねないが、このような指摘を竹内 専務はきっぱりと否定する。
「たしかに私たちが単に既存の物流業者さ んと競争したら、余分な競争が増えるだけで、 世のため人のためどころか世の中の迷惑にな ってしまう。
そうではなく、我々が入ること で全体を括るような枠組みを作り、そこで荷 主さん、既存の物流業者さん、私たちの三社 が知恵を出し合う。
関係者がメリットを享受 できるような知恵を出せないのであれば、我々のビジネスモデルそのものが成り立たない。
そこで財源になるのは唯一、改善しかない」 強気の言葉の裏側には、トヨタ流の改善を 実践すれば、必ず大幅なコスト削減を実現で きるという強烈な自信がある。
そして今、と りわけ注力しているのが「生産」と「流通」 の二分野だ。
「生産」については分かりやす い。
トヨタグループが自動車分野でやってい る改善指導と同様のことを、他分野でも手掛 けていくというものだ。
より興味深いのは 「流通」分野への注力だ。
豊田自動織機は「コ モディティ分野」(日用品や必需品)という 言い方をしているが、いわば一般のスーパー マーケットで扱っている商品の物流を、営業 ターゲットの一つの柱に据えている。
その際に強く意識しているのが、小売りの 店頭を起点とする物流改善だ。
一部のマスコ ミはこれを「小売業にカンバン方式を導入」 などと書いているが、このような表現に惑わ されると豊田自動織機の真意を読み誤りかね ない。
同社が流通分野に注力するのには、ま ず小売り店頭への商品供給からスタートして、 店舗のバックヤードを改善し、そこから遡っ て将来的には物流センターや調達物流の改善 を進めるという狙いがある。
「こういう取り組みは、まず小売業者がそ の気にならなければ実現しない。
ここから流 通を遡って、将来的には調達の仕方などにま で改善の対象を広げていきたい。
そうやって ある時点でサプライチェーンを眺めれば、全 体として物の流れがよくなり、物流も改革で きたということになる。
すでに一部ではこう したことを始めている」(竹内専務) メーカーから小売りへのパワーシフトが進 んだ現在、この考え方そのものに新味はない。
それよりも生産分野で実績のある豊田自動織 機が、自ら資本を投じて川下の物流効率化を 手掛けることにこそ注目すべきだ。
同社が流 通分野に注ぐ視線の先には、いずれは中間流 通のプラットフォーム事業の担い手になると いうビジョンがある。
3PLの一大勢力を狙う 現在、豊田自動織機の3PL事業には約 一五〇人の専任社員が携わっている。
二年半 前にたった二人でスタートしてから、社内や トヨタグループから人材を集めて、これだけ の規模になった。
事業として成り立つかどう かも分からない段階で、これだけの人材を投 入できる物流事業者はそうは存在しない。
同 社はこうした人材を顧客企業の組織内に送り 込んで、内部からトヨタ流の改善活動を進め ようとしている。
豊田自動織機の試みの成否は、日本の3P L市場に大きなインパクトをもたらす可能性 が高い。
まず何よりも彼らは、トヨタブラン ドの強さと、成果配分を前提とする契約によ って、荷主と対等の立場で仕事をできる。
3 PLといえども下請け的な地位から抜け切れ 35 SEPTEMBER 2004 ていない日本の物流業の地位を、大きく底上 げするはずだ。
過去に花王の3PL子会社の花王システム 物流が、日雑分野の流通を舞台に物流事業を 手掛けようとしたときには、P&Gなどの猛 反発にあい、これがプラットフォーム事業の 妨げになった。
しかし、豊田自動織機は流通 分野でそのようなしがらみとは無縁だ。
その 彼らが業界トップの荷主企業と組んで合理的 な物流プラットフォームを作れば、他社はそ こで競争することを諦めて相乗りしてくる可 能性が生まれる。
もちろん、まだ豊田自動織機の物流事業が 上手くいくと決まったわけではない。
トヨタ 流の改善活動を現場に定着させられず、事業 そのものが成立しない可能性だってある。
言 うまでもないことだが、トヨタ流の改善活動 を根付かせるのは簡単ではない。
荷主が豊田 自動織機から送り込まれた人材だけに頼って、 自律的に改善を進める現場を作れなければ、 事業化に見合う改善の成果を得ることも難し くなるはずだ。
それでも竹内専務は強気だ。
「我々の物流 事業はまだ揺籃期でよちよち歩きだ。
現状で は赤字だがこれは必ず良くなる。
今は目標と した改善幅を絶対にやり遂げるだけだ」。
五 年後に豊田自動織機の物流事業はどのような 姿になっているのだろうか。
日本の3PL市 場の近未来の勢力図を塗り替えかねない注目 の的といえるだろう。
(岡山宏之) ――御社の3PL事業の特徴は? 「私たちが物流ソリューション事業でお客様に訴 えていることは、極端な言い方をすれば一つだ けです。
トヨタ生産方式なりトヨタの考え方に 基づいて物流そのものを合理化しましょう、お 客さんと一緒になってやりましょう、そのために 私どもに物流をお任せいただきたい。
それが私 どもの基本的なビジネスモデルです」 「しかし、ご存じのように物流の現場には既存の プレーヤーがたくさんいます。
現場のプレーヤー たちに我々が、いきなり『どきなさい』などとい ったら余計な軋轢ばかりが増えてしまう。
です から私どもは既存のプレーヤーをそのまま巻き 込んで、物流そのものを私どもにお任せいただ きます。
そうした方たちと、より効率的な改善 を重ねて物流を良くしていく。
そこで生み出さ れるコストダウンの中から、お客様にもお返し しますし、我々も収益を頂戴するわけです」 ――ゲインシェアリング(成果配分)ですね。
「そう、まさにゲインシェアリングです。
既存 のプレーヤーはそれなりに収益をあげながらやっ てきているわけですが、その方たちも今まで通り のやり方では顧客のコストダウン要請に応えら れなくなっています。
かといって無理に要請に 応じようとす ると収入が減 ってしまう」 「 そ こ に 我々が入るこ とで、減収が 起きるとして もその幅をな るべく小さくするとか、あるいは収入を減らさ ないような工夫をする。
まあ、最も幸せなケー スとしては、コストダウン効果が大きくて現在 のプレーヤーの方々にも増益になってもらう。
こ れが一番いい。
いずれにしても、この三者がみ んな幸せになるようなかたちを我々は目指して いるわけです」 「そんなに上手くいくのかという話も一方には あります。
でも物流現場を私たちの目で見ると、 たいていムダがたくさんある。
改善の余地が大 きい。
だからこそ今では多くのお客様がトヨタ、 トヨタといってくれるわけです」 ――改善の成果がでなければ御社も利益が出な いというリスクを負っている。
「そりゃあ、そうですよ」 ――しかし、そこまでやり切れている物流事業者 は現状ではほとんどいません。
「たしかに口でそう言っていても、実際の物流現 場で『昨日のやり方と今日のやり方をこう変え て、今日のやり方と明日のやり方をこう変える つもりで活動している』などという物流現場を 私も見たことがありません。
たいていは俗にいう バージョンアップのような話でしかない。
ソフト の仕組みを変えたとか、昔は複数カ所でやって いたのを一カ所に集約したとかね」 「そんなことは当然なんです。
じゃあ、そうい う新しいバージョンに一年前に入ったときと今 日とでは何が変わったのですかということです。
みんな同じやり方をしていますよ。
ここで我々 は、一年前と今とではこんなに現場が変わった という世界を作りたいわけです。
それこそ改善 の結果なんです」 「改善できなければ我々の利益もない」 豊田自動織機 ALプロジェクト推進室担当 専務 竹内和彦

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