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SEPTEMBER 2004 10
オペレーションで差が開く
マニュアルを超える
物流業界では現在、作業経験の乏しいパート/ア
ルバイトを使って、いかに現場の生産性を高めるかが
課題となっている。 判断業務を排除して作業を単純
化。 マニュアルを作成して全員に徹底させる。 作業分
析には「IE(インダストリアル・エンジニアリン
グ)」や「ABC(活動基準原価計算)」など生産管
理の技術を応用。 目指すは時給の安い学生アルバイト
を使って安定したサービスを維持しているマクドナル
ド――そんな?定石〞だ。
バブル時代の人手不足から一転、物量の波動に合
わせた柔軟な労働力の確保が可能になったことから、
マテハン活用による自動化から、人間系の管理に焦点
は移った。 「TQC/TQM(全社的品質管理)」「シ
ックスシグマ」といった品質管理手法や、BPRを始
めとした「変革のマネジメント」を物流に適用しよう
とする動きも活発だ。
しかし、こうした管理の徹底だけでは「強い現場」
は実現できない。 ハマキョウレックスの大須賀正孝社
長は「鬼軍曹を雇って徹底的に厳しく管理するのも一
つの手だろう。 しかし長続きはしない。 そのうち現場
は鬼軍曹の目を盗んでこっそり手を抜くようになる。
それよりも現場の一人ひとりが責任感を持って『動か
される』のではなく『動く』ようにしなければダメだ」
という。
その手法として同社は「日替わり班長制度」を考
案した。 パートを含めた現場従業員が日替わりで班長
を務めるという仕組みだ。 新人のパートでも当番の日
には、現場のリーダーとして正社員やベテランに指示
を出す。 その日の目標をクリアする責任を持たされた
パートは、どうすれば現場が上手く回るか考えざるを
得ない。 この経験が指示を受ける側に立った時にも活
きてくる。 現場に自律性が生まれるという。
もっとも、こうした現場の自律性と、定石とされる
マニュアルによる管理の徹底は互いに相容れないもの
のように映る。 実際、トヨタ自動車の現場では「マニ
ュアルはいわば?悪〞だ。 信用されていない。 彼らが目
指しているのは、マニュアルを超えることだ」と、同
社の現場管理に詳しい一橋大学大学院の遠藤功客員
教授は解説する。
マニュアルを不要としているわけではない。 それど
ころか現場スタッフには始めに標準化した動作を徹底
的に叩き込む。 そのため職場の一角には「改善道場」
と名付けられた訓練場を設置しているほどだ。 しかし
マニュアル通りに作業できることは現場作業員として
いわば当たり前、改善の入り口に立ったに過ぎない。
その後、トヨタの現場スタッフは自分の作業のム
リ・ムダ・ムラをなくすことに始まり、前工程・後工
程を視野に入れた改善、さらには人材育成や仕掛けの
開発へとステップアップしていくことが期待される
(図1)。 そして最終的には一人ひとりがトヨタ流の
「改善魂」を持つことが目標とされる。
いくら詳細なマニュアルを作っても、現場作業員の
全ての動作をカバーすることはできない。 現場では事
前に想定していなかった出来事や変化が常に発生して
いる。 しかも顧客と直接向き合っている物流現場のオ
ペレーションは、処理量を自分の都合でコントロール
できる生産現場と比べて変動の幅と多様性が大きい。
その分だけ現場の自律性が重要になる。 しかし、トッ
プダウンの発想に基づく上意下達のアプローチでは自
律性は育たない。
三菱ふそうトラック・バスは八月二三日、品質管
理の国際規格「ISO9001」の認証を失効する
SCMの普及と3PLの台頭によって、ビジネスモデルの議
論は峠を越えた。 戦略は既に明確になっている。 次のテーマはオ
ペレーションだ。 マニュアルを徹底するだけでは足りない。 自律
的に考えて実行できる「強い現場」を育てる必要がある。
(大矢昌浩)
第1部
第2部
11 SEPTEMBER 2004
特集 物流の 現場力
見通しだ。 同社は三菱自動車から分社する以前の九
八年八月に財団法人日本ガス機器検査協会の審査を
パスして認証を取得した。 しかし同協会は一連のリコ
ール隠しを理由として三菱ふそうに対し登録停止措置
を通告。 これによって同社は二三日に期限を迎える認
証の継続審査を受けられなくなった。
美浜原子力発電所3号機の蒸気漏れ事故で、ずさ
んな管理体制を露呈した関西電力も、かつてTQC
活動の優等生として知られていたという。 実際、同社
は一九八四年に日本科学技術連盟からTQC活動の
最高の栄誉とされるデミング賞を受賞している。 雪印
乳業も食中毒事故を引き起こす以前は、食品の品質
基準「HACCP」を始めとした各種の認証取得は
もちろん業界最高水準の品質管理体制を自負し、周
囲からもリーダー企業と目されていた。
トップダウン経営の落とし穴
ISOシリーズやHACCPなどの品質規格は、そ
れを調達購買の条件にする顧客企業が増えていること
もあって、物流企業も含めた多くの企業が、経営トッ
プの旗振りの下に今も取得に向けた改善活動に取り
組んでいる。 しかし、その先行企業による一連の不祥
事は、認証取得や全社的な改善活動が、必ずしも経
営品質を保証するわけではないことを示している。
なかでも三菱ふそうの場合には、リコールに繋がり
兼ねない事故やクレームの事実を隠蔽するために、国
土交通省の抜き打ち検査が入った時に、関連資料や
データを誰がどこに隠すのか、一人ひとりの役割分担
を決めて訓練までさせていたことが明らかになってい
る。 まさにTQCさながらの全社一丸運動だ。
その結果として同社は今や存亡の危機に立たされて
いる。 常識を欠いた上からの指示に、現場はなぜ黙々
と従ったのか。 同社の現場に下から上へと突き上げる
ダイナミズムがあれば、これほど傷口を大きくせずに
済んだはずだ。 経営と現場が乖離した会社はいずれ枯
れる。 現場のオペレーションに立脚する物流ビジネス
では、この原則がいっそう強烈に作用する。
戦略とビジネスモデルだけで、物流企業が生き残る
ことはできない。 手足を全く持たない3PLも少なく
とも今の日本では通用しない。 投資家による物流会社
の買収意欲が高まっている現在も、オペレーションを
下請けに頼った物流子会社には買い手がつかない。 現
場のオペレーションは物流企業の生命線だ。 長期的な
視野を欠いた人件費削減や、過度な締め付けで現場
力が削がれれば、物流企業はビジネスの基盤を失う。
図2は日本ロジファクトリーの「物流現場チェック
リスト」から、主な項目を抜粋したものだ。 同社はト
ヨタ生産方式の「5S(整理、整頓、清掃、清潔、
躾)」をベースに、物流現場に当てはめる形で一〇〇
以上にも及ぶチェック項目を整理している。 どれだけ現場に管理が徹底されているのかを測る目安として使
用する。 そのうち表に掲載したのは全てクリアできて
当然、一つでもバツが付けば要注意というレベルの最
低限の常識だ。
ところが実際には、常識が通用しないほど荒れた物
流現場が珍しくない。 土埃にまみれた車両、掃除の行
き届かない作業場。 「時間厳守」「きれいに」といった
モラールを喚起する張り紙が空しい。 出勤カードの保
管棚に空きが多いのはリストラのせいか。 忙しくして
いるわけでもないのに作業員は訪問者への挨拶もしな
い。 コスト削減のしわ寄せで現場は疲弊している。 物
流企業にとって現場はコストセンターであると同時に
コスト競争力の源泉でもある。 改めて現場から経営を
考える必要がある。
図1 改善のレベル
よく清掃されている
自主的にあいさつができる
身なりが統一されている
自分が当日やるべき仕事内容を理解している
朝礼(ミーティング)がある
時間帯ごとの仕事内容が明示されている
全員がきびきびと仕事をしている
何がどこにあるかすぐにわかるようになっている
返品商品などは一ヶ所に保管されている
休憩スペース・トイレは整然として清潔に保たれている
使用器具・備品などの「定物定置」が徹底されている
モラールを喚起する張り紙がない
実績と目標を全員がわかるように明示している
責任者は現場作業員に信頼されている
より大きな効果を上げる
ための人材育成、
仕掛けの開発
上級レベル
前工程・後工程も
視野に入れた
業務連鎖の改善
中級レベル
自分の業務や作業、
工程のムダ・ムラ・ムリ
をなくす
初級レベル
スタート
ステップアップ
指導 マニュアルを作成し
作業を標準化する
ステップアップ
ステップアップ
指導
遠藤功著『現場力を鍛える』(東洋経済新報社)
156頁「改善のレベル」を元に本誌が作成
指導
図2 物流現場のチェックポイント
日本ロジファクトリー資料より本誌が抜粋
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