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SEPTEMBER 2004 12
労務管理をITで見直したセンコー
「子供が熱を出したので今日は休ませてください」、
「親戚に不幸があったので欠勤します」――。 パート
タイマーやアルバイトの作業者によって支えられてい
る物流の現場では、労務管理の巧拙がそのまま生産
性に跳ね返る。
作業量に応じて過不足のない人材で運営することが、
優れた物流現場の条件であることは言うまでもない。
しかし、これが簡単ではない。 物流現場の作業量には
必ず波動がある。 とりわけ消費者の近くで活動してい
る流通業のバックヤードでは、物量の季節波動や曜日
ごとの変動が避けられない。
流通業者向けの物流受託で毎年一〇%以上の成長
を続ける大手物流業者のセンコーにとっても現場の労
務管理は頭痛のタネだ。 同社は従来、現場の管理を
基本的に現場リーダーの裁量に任せてきた。 小規模の
物流拠点であれば、現場リーダーの目配りだけでもそ
れなりに管理できるのだが、数百人規模の作業者を抱
える大規模センターとなると、こうした?属人的〞な
管理には限界があった。 荷主のコスト低減の要請に応
えるために、作業者の生産性をチェックして改善活動
を進めるどころか、ごく基本的な勤怠管理すらままな
らない状況に直面してしまった。
そこでセンコーは、昨年一月に独自に開発した「就
業情報ネットワークシステム」を稼働させた。 それま
でのタイムカードによる勤怠管理を全廃し、従業員は
タッチパネルやバーコードのスキャニングで出退勤や
作業内容に関する情報を入力する。 この情報をオンラ
インで管理することによって、物流現場における人材
配置をリアルタイムで把握することが可能になった。
給与計算のための会計への連動も実現できた。
新システムの導入は、情報の入力作業など管理業
務の省力化にもつながり、物流センターの人件費の抑
制にも威力を発揮した。 同社IT推進室の野村康則
室長は「現場リーダーが作業状況をリアルタイムでチ
ェックできるようになったことで、状況に応じて人員
を動かせるようになった。 また、こうして現場の情報
を表示することで、一カ月前に立てる要員計画に基づ
いて現場を運営しようと努力する姿勢が強化されて収
支改善につながった」と胸を張る。
もっとも、システムはまだ発展途上にある。 時間別
の作業内容を細かく管理して、作業者ごとの生産性
をチェックするといった機能は次のステップで開発す
る計画だ。 現場作業を標準化することがシステムを進
化させる条件になる。
今年四月には「生産管理部」という部署を発足さ
せた。 物流現場の生産性向上にITを活用する狙い
だが、まずは効率的な標準作業を体系化し、現場管
理に有効な生産性の指標を選ぶ必要がある。 このため
コンサルタントの支援を受け物流ABC(Activity
Based Costing
)の導入実験も進めている。
ヤマトロジスティクスが頼るABM
物流分野におけるABCの活用には否定的な意見
も多い。 いわく、細かい活動結果を積み上げても全体
は見えない、調査が大変なだけでメリットがない――。
しかし、たいていはABCの一側面しか見ずに批判し
ている。 いま物流現場でもてはやされているのは、原
価計算の手法としてのABCではなく、現場管理に
?ABC的〞な考え方を持ち込むことだ。 その効果が
明らかに大きいからこそ、広く支持されている。
実際、ヤマト運輸グループでロジスティクス事業を
手掛けるヤマトロジスティクス(YLC)は、ABC
この仕組みが現場を変えた
強い物流現場には共通点がある。 貪欲に改善に取り組む人材
と、そうした人材によって磨かれ続ける仕組みを必ず持ってい
る。 「人材」と「仕組み」。 この2つが両輪となって、バランスよ
く機能すると現場は変わる。 (岡山宏之)
第1部
第2部
13 SEPTEMBER 2004
特集 物流の 現場力
を自分たちになりに解釈した「ABM」(Activity
Based Management
)を駆使して現場改善を進め、着
実に成果をあげている。
ヤマトグループは現在、組織再編を進めながらロジ
スティクス事業のテコ入れを図っている。 今年一月に
ヤマト運輸からロジスティクス事業を分割してYLC
に統合し、四月には全国四〇カ所以上のセンター運
営事業をすべてYLCに移管。 さらに一〇月には、Y
LCとヤマトグローバルフレイト(YGF)、ヤマト
パーセルサービスの三社を合併する。 存続会社こそ規
模の大きいYGFだが、合併後は再び商号をヤマトロ
ジスティクスに変えて新生YLCを発足する。
この組織再編の過程で、現場運営のあり方にも徹
底的にメスを入れた。 「これまでロジスティクス事業
は『宅急便』のなかに入っていた。 運賃収入とセンタ
ー運営収入のトータルで採算が合っていればよかった。
しかしセンター運営だけを分社化した結果、作業コス
トだけで採算を取らなければいけなくなった。 従来、
あまり上手くマネジメントできていなかったこの分野
の収支を改善するツールとして、ABMはきわめて有
効だ」とYLCの星野芳彦取締役は強調する。
九〇年代後半にヤマトグループで最初にABMを
開発したのは、情報子会社のヤマトシステム開発だっ
た。 当初は典型的なITありきの仕組みで、ハンディ
ターミナルがなければ使えなかったのだが、これをY
LCが3PL事業などに活用するなかで、ITに依
存せず、どんな物流現場でも使える汎用的な手法へと
進化させてきた。
同社のABMでは、作業者は従事した作業内容を
「ABM個人別日報」(図1)に細かく記入する。 こう
書くと作業者にとって煩雑な印象を受けるかもしれな
いが、記入内容があらかじめ選択肢として用意されて
いるため、実際に書き込む内容は英数字くらいだ。 こ
こに記入された内容を、後ほどYLCの担当者がパソ
コンに入力し、「ABM工程別原価シート」などさま
ざまな切り口から集計する。
この集計結果を見れば、特定の荷主向けのどの作
業が「目標原価」と食い違ってしまったのか、作業ご
との収支はどうだったのかといった情報が一目瞭然で
分かる。 切り口を変えて情報を加工すれば、作業者ご
との収支や、作業内容ごとの採算性も簡単に明らかに
なる。 管理者や作業リーダーは、この集計結果をみな
がら作業者と一緒にムダを探す。 「何よりも現場を管
理するときに人同士のコミュニケーションツールとし
て使えることが大きい」(星野取締役)のだという。
現場のムダが明らかになれば、管理者が現場でやる
べき仕事も明確になる。 実際に問題を解消できるかど
うかはセンター長の腕次第だ。 つまりABMには管理
者の資質をも浮き彫りにする働きがある。 また、作業
データを蓄積して業種ごとに分析すれば、業種単位で標準的な作業原価を算出することも可能だ。 こうした
数値を3PLの提案に活かせば、採算割れの受注を
未然に防ぐというメリットも見込める。
トヨタも認めたホンダロジコムの管理
実は?ABC的〞な現場管理というのは、いま多
くの人たちが究極の改善手法として信奉しているトヨ
タ流の改善活動にも通じている。
愛知県春日井市に本社を構える中堅物流業者のホ
ンダロジコムは創業以来、四〇年近くをトヨタ自動車
の補修部品分野の協力物流業者として活動してきた。
日本ロジスティクスシステム協会が主催する「全日本
物流改善事例大会」で、最近四年間で二度、物流合
理化賞を受賞するなど、その現場力には定評がある。
ABM個人別日報
図1 ヤマトロジスティクスがABMに利用している書類
顧客No‐項目大‐項目小 時間
‐ ‐
‐ ‐
‐ ‐
‐ ‐
‐ ‐
‐ ‐
‐ ‐
*区分:社員区分を記入
作業日 月 日 区分 個人番号 氏名
9時 10時 11時 12時 13時 14時 15時 16時 17時 18時 19時 20時 21時 22時
顧客No
時間記入:10分=0.2H 20分=0.3H 30分=0.5H
40分=0.7H 50分=0.8H 60分=1H
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
L
M
N
O
P
Q
R
?入荷作業
1
2
3
4
5
6
7
8
9
?その他の作業
1
2
3
4
5
6
7
8
9
?出荷作業
1
2
3
4
5
6
7
8
9
?情報作業
1
2
3
4
5
6
7
8
9
検品
棚入れ
バーコード貼り
その他
ピッキング
検品
梱包
セットアップ
封入
特別出荷
積み込み
大分類
ABM工程別原価シート
?入荷作業
?入荷作業計
1 検品
2 棚入れ
3 バーコード貼り
?出荷作業
?出荷作業計
1 ピッキング
2 検品
3 梱包
4 セットアップ
5 封入
6 特別出荷
7 積み込み
?情報作業
?情報作業計
1 伝票発行
2 帳票発行
3 アソート
4 データ処理
?その他作業
?その他作業計
総計
1 返品処理
2 棚卸し
3 前作業・後作業
4 掃除
5 リフト作業
小分類 処理
件数
マネージ
作業H
キャリア
作業H
パート
作業H
アルバイト
作業H
派遣
作業H
人件費
計
1件当り
活動原価
目標
原価 差 収入 粗利
荷主名 平成 年 月 日
センコーの野村康則
IT推進室長
ヤマトロジスティクスの
星野芳彦取締役
SEPTEMBER 2004 14
トヨタと資本関係があるわけではない。 社名からも
窺えるように、本多一族のオーナー企業である。 直近
の年商は約四八億円。 過去には売り上げの九割をト
ヨタに依存していた時期もあったが、現在では約五割
に下がった。 トヨタとの付き合いを通じて体得したノ
ウハウを3PL事業に活かして、物流アウトソーシン
グの受託事業を拡大してきたことが寄与している。
協力物流会社とは言っても、ホンダロジコムはトヨ
タの言いなりになるだけの会社ではない。 過去には、
渋るトヨタを説き伏せ、自らリスクを背負ってハンデ
ィターミナルの仕組みをトヨタの現場に導入した経験
もある。 「一〇年以上前の話だが、人手不足で物流現
場に人材がなかなか定着しない時期があった。 作業者
の経験が浅いため物流の品質が著しく落ちてしまった。
そこで我々は、目視での作業には限界があるとトヨタ
に訴え、当時、出回っていたペン型スキャナーを現場
管理に使いたいと申し出た」とホンダロジコムの本多
満副社長は振り返る。
なかなか首を縦に振ろうとしないトヨタの担当者に
対して、作業品質を保つためには絶対に必要だと説き
続けた。 最後は、もしトヨタが将来的に同様の仕組み
を導入することになったら、その仕組みを使うと約束
してようやく承諾を得た。 もちろんシステム導入のリ
スクはホンダロジコムの側にあった。
初めての挑戦だっただけに、当初の結果は芳しくな
かった。 だが徐々にシステムを使いこなせるようにな
ると、新人でも八割方は品質を維持できるようになっ
た。 結果が出たことでトヨタも認めてくれた。 このハ
ンディターミナルの仕組みはその後、トヨタの協力物
流会社の間で広く利用されるようになっている。
トヨタも脱帽する活動をできた理由を本多副社長は、
「常に『自分たちで考えろ』という教育をトヨタから
受けてきた」ことが大きいという。 「当社はトヨタに
人を育ててもらう一方で、社内に改善グループを置い
て常にチェックする体制を作ってきた。 トヨタ流の改
善活動が根付かない会社は、人を育てていない」
この言葉通り、いまホンダロジコムの物流管理部で
3PL事業を牽引している青山智課長は、二〇数年前
に同社に入社したとき、いきなりトヨタの現場に放り
込まれた経験を持つ。 ホンダロジコムにすればトヨタ
流の改善ノウハウを身に付けた人材を育てる狙いがあ
ったのだが、その思惑通り徹底的に鍛えられた。
「最初はゴミ箱の置き方ひとつとっても怒られた。 正
直なところ、なぜここまで言われるのかと思った。 し
かし、よくよく話を聞くと納得せざるを得なかった。
仕事には手順があり、これを効率よく進めるためには
それなりの仕組みがある。 ゴミ箱の置き場所にも一番
いい場所というのがある。 それを自分の頭で考えろと
いうことだった」(青山課長)
一年後にホンダロジコムに戻ってからは、トヨタで
の経験を踏まえて改善活動に取り組んだ。 その青山課
長が、前述したハンディターミナルの仕組みを進化さ
せ、現場の作業者のモチベーション向上に活用してい
るのが「目標管理個人カルテ」(図2)だ。 3PL事
業を進める際に、現場を上手く管理して作業コストを
抑えるツールとしてシステムを自社開発した。 従来は
手書きだった日報などの集計作業を、ITを活用して
効率化しようと考え、管理指標の体系化などを進める
なかで「個人カルテ」は生まれた。
このカルテを、毎月一回、作業者に給料を支払うと
きに一緒に手渡している。 そのときに注意すべきは
「決して叱るための道具ではないということ。 あくま
でも作業者一人ひとりの目標管理のなかで、頑張って
くれた人を誉めるために使っている」と青山課長。 実
図2 「目標管理個人カルテ」
目標値 累計値 目標達成率 過去最高値 能率値 部平均値 部平均との比較 部最高値
能率
品質
出勤率
出勤予定日数 出勤実績 欠勤日数 土曜日出勤予定日数 土曜出勤実績
累計値 今月値 実出庫
今月のアイテム数
実出庫
今月の工数
生産
能率
生産
工数
氏名 ●●●●●
1.15
1.00
0.85
0.70
0.55
0.40
能率実績推移 品質実績推移
1 2 3 4 5 6 7 12 (月)
200
150
100
50
0
1 2 3 4 5 6 12 (月)
実績 目標 達成率
5
4
3
2
1
0 0 0 0 0 0 0
目標 ミス件数
0.63 0.66 0.66 0.68 0.68 0.75
0.64 0.68 94% 0.63 0.75 0.86 115% 0.63 5,212 1.26
50 0 0 0 65 0
18 17 1 1 1
4,390 6,570
点数表1月2月3月4月5月6月12月累計
能 率112 106 112 111 113 113 667
ミ ス100 100 100 100 100 100 600
出 勤100 90 80 100 100 90 560
その他0 30 30 30 30 60 180
合 計312 326 322 341 343 363 2007 ホンダロジコムの
本多満副社長
ホンダロジコムの
青山智課長
15 SEPTEMBER 2004
特集 物流の 現場力
績を残した作業者は別途、報奨制度や表彰などで称
える。 実績を徹底して数値で管理するこうした手法に
は、違和感を覚えた作業者もいたはずだ。 しかし反発
して辞めた人は誰もいなかったという。
ロジワンを変えたトヨタ流の人づくり
ホンダロジコムのように、トヨタとの三〇年以上の
付き合いを通じて改善体質を身に付けられた企業はあ
る意味で幸運だ。 一般の物流業者が、そうした?指
導者〞と出会える機会は多くない。 仮に機会に恵まれ
ても、物流業者の側に食らいついていく姿勢がなけれ
ば本気では教えてくれない。
ダイエーの物流子会社であるロジワンと、トヨタ自
動車の林郁夫氏の関係は、「人を育てる」というトヨ
タ流の改善指導を地でいくものだ。 トヨタがダイエー
のコンサルティングをスタートしたのは九九年三月だ
った。 以降、一年間にわたって林氏はダイエーの「川
崎プロセスセンター」に通い、そこで物流管理を担っ
ているロジワンの指導を続けた。
その目覚ましい成果については本誌でも何度か誌面
化(本誌二〇〇一年七月号、同二〇〇三年九月号参
照)しているため繰り返さないが、特筆すべきは、コ
ンサル期間が終了してからの林氏とロジワンの関係だ。
林氏は二〇〇一年以降も現在にいたるまで、ロジワン
の改善活動を側面から支え続けてきた。
一年に二回、ロジワンが実施する全社的な改善事
例発表会の最終大会に林氏は必ず顔を出す。 単に来
賓として参加するのではなく、あらかじめ時間を割い
て発表原稿を下読みし、誉めるべきポイントや改善点
を徹底的に探す。 審査委員として参加する大会当日
には、それぞれの発表を的確に講評してみせる。
この?お目付役〞の存在は、ロジワンがトヨタ流の
改善活動を持続するうえで大きな力になってきた。 全
国大会で優勝するような人材に、天狗にならずに新た
な改善活動を続けさせるには、より高いレベルに到達
するための具体的なアドバイスが欠かせない。 その役
割を林氏が担っている。 しかも、こうした行為に対す
る謝礼はゼロ、完全に手弁当なのだという。
ロジワンの雨宮路男取締役は林氏の助力をこう解
説する。 「人を育てるには誉めることが大切だ。 しか
し誉めてばかりでは進歩がないから、もっと良くなる
ためには何をすべきかを必ず指摘する必要がある。 こ
れを指摘できる目を持つのが難しい。 このような厳し
いやり取りを通じて人を育て、その人の知恵で仕組み
を進化させていく。 そういう循環がトヨタさんの改善
活動を進める両輪になっている」
改善に取り組まざるを得ない仕掛け
たしかにトヨタ流の改善活動には、誰もが手を抜け
ない仕掛けが巧みに織り込まれている。 改善活動を推
進する専門部隊を必ず置き、活動の成果を常にチェッ
クしている。 現場レベルでPDCA(Plan-Do-Check-
Action)を回し続けるのは当然で、定期的に現場で
行っている改善事例発表会が、いつも改善に取り組ま
ざるを得ない雰囲気を後押ししている。
こうした発表会で参加者は互いに徹底的に競い合
う。 実際、ロジワンの現場担当者と協力物流業者は
同じ土俵で競争している。 トヨタの直営現場とホンダ
ロジコムなどの協力物流業者もしかり。 現場改善に商
取引上の立場や肩書きの違いによる力関係が入りこむ
余地はない。 優れた改善活動を行った人間を公平に
評価し、成果を組織レベルで共有する。 こうした考え
方を率先できない経営者の下では、自律的な改善活
動など望むべくもない。
?協力事業者を巻き込んだ現場
の現場事例大会を毎月開催
「ロジワン横浜配送センター」の現場で催された改善事例発表会
?改善発表のツールもトヨタ譲り。
図表と数字で成果発表
?協力事業者のパートさんも改善
事例をプレゼンテーション
?発表は現場で。 関係者の厳しい
視線が発表者に集中するロジワンの
雨宮路男取締役
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