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OCTOBER 2004 14
IT活用――物流の因果関係を洗い出す
平均値や合計値では管理できない
九七年以降、花王は全国の物流センターで処理し
ている日々の詳細な出荷実績を全てデータベースに蓄
積している。 「一行一行の注文をはじめ、納品、品切
れ、その時点での在庫状況、あるいは納品に行ったら
店が閉まっていたといった些末な情報に至るまで、
?生〞のデータを一切合切貯め込んでいる」と松本執
行役員はいう。
データの保存期間は五年間。 データベースの規模は
今やテラバイト級(ギガバイトの一〇二四倍)に達し
ている。 この膨大な生データの蓄積が同社のロジステ
ィクス管理の基盤になっている。 データベースからコ
ストの発生原因を分析。 ?犯人〞を突き止め、再発を
防止するというアプローチだ。
約一〇年前に同社は物流管理の方法を抜本的に改
めている。 それまで工場物流と販売物流に分かれてい
た管理組織を一新。 九三年に新たにロジスティクス部
門を新設して傘下に統合した。 部門長には基幹工場
の一つ、川崎工場長を務めていた松本執行役員を起
用。 他のスタッフも大きく入れ替えた。
新設されたロジスティクス部門には、それまでの物
流管理をいったん白紙に戻し、ゼロからマネジメント
の体系を作り上げることが求められた。 そこで同部門
は従来のような物流業務の高度化・自動化ではなく、
生産から販売に至る仕事の進め方そのものをマネジメ
ントしようという狙いを立てた。
物流コストや在庫水準の大枠は販売活動や生産活
動によって決まる。 例えばトラック輸送費は距離、数
量、商品特性、車種、運用といった要因からコストが
構成されている。 このうち物流部門が直接管理してい
るのは車種と運用だけだ。 一般に商品別の物流コスト
は商品の設計時点で八割が決まってしまうと言われる。
残り二割をいくら効率化しても、その効果は知れてい
る。 全体の仕組みをマネジメントしなければ、全体の
最適化は実現できない。
とはいえ、ロジスティクス部門が生産部門や販売部
門の活動を直接コントロールするという構図は現実味
に乏しい。 大幅な権限の委譲には反発も予想される。
メーカーとは別法人の販社ともなればなおさらだ。 政
治的な権限を持って命令を下すのではなく、各部門が
自ら最適化を進めるように促す仕組みを構築する必要
があった。 各部門の活動とロジスティクス・コストの
因果関係を明らかにすることが、その前提になると考
えた。
ところが肝心のデータがなかった。 もちろん各部門
では日々の活動データを管理している。 しかしロジス
ティクス部門が手に入れることのできるのは、一カ月
単位の平均値や合計値などの、いわば?縮退〞したデ
ータだった。 平均値や合計値では活動とコストの因果
関係を明らかにするどころか、日々の物流業務を管理
することさえできない。
物流の実務に必要なのは、その日に処理する物量の
情報だ。 そのために生産部門や営業部門から事前に
計画は伝えられている。 しかし実際にはその日になら
ないと物量は確定しない。 そもそも販売計画は売上金
額ベースで作成されている。 それに対して物流の実務
に必要なのは、在庫管理単位(SKU: Stock
Keeping Unit
)の情報だ。 従来はその差を担当者の
経験と勘で埋めていた。
人為的な判断には当然、限界がある。 見込み違い
やミスはもちろん、時間的な制約も大きい。 担当者の
目はどうしても物量の大きな売れ筋商品や新製品に向
く。 扱いの少ない商品は後回しになる。 工場や販社で
在庫水準や物流コストの大枠は、物流部門には手の届かない
生産活動や営業活動によって決まる。 そこで花王のロジスティ
クス部門は情報の活用に突破口を求めた。 膨大なデータベース
を駆使して他部門を自発的に全体最適へと向かわせる、新しい
仕事の進め方を作り上げた。 (大矢昌浩)
第1部
特集
15 OCTOBER 2004
も同様だ。 その結果、アイテム数では八割を占めるB
商品、C商品の管理が疎かになる。 それが過剰在庫や
欠品発生の温床になっていた。
毎日の物流の実務を管理する上でも、また全体最
適の仕組みを作る上でも、情報基盤の整備が必要だ
った。 データベースの構築がロジスティクス部門の最
初の仕事になった。 「実は蓄積したデータをどう使う
かについては最初から明確な考えがあったわけではな
かった。 そのため生データをどのようなエレメント
(要素)に切り分ければ後から使えるのか、当初は試
行錯誤が続いた」と松本取締役は振り返る。
結局、システムを構築し、充分なデータを蓄積し、
さらにそれを活用できるだけのスタッフを揃えるまで
に約四年を費やした。 この取り組みと並行して進んだ
IT技術の革新によって、パソコンやメモリーなどの
関連費用は格段に安くなっていた。 それでも社内のシ
ステム部門などからは「本当にそんなデータが必要な
のか」と詰問されることも少なくなかった。
データで各部門を最適化に誘導
しかし新しい仕組みが動き出した九七年度以降、周
囲の雑音は消えた。 情報活用の効果が誰の目にも明
らかだったからだ。
図1
は花王のロジスティクス部門
で管理している在庫金額と欠品発生率の推移を示し
ている。 通常、在庫を減らすと欠品率は上昇する。 し
かし同社は在庫の大幅な削減と欠品率の削減を同時
に実現している。 ロジスティクス部門の開発した需要
予測システムが効果を発揮している。 (本特集第2部
参照)
輸送費を始めとした物流業務のコストも下がった。
在庫が減ったためだけではない。 例えば輸送の積載効
率を考慮してシャンプーの詰替用などで使用する袋状
パッケージの寸法を修正している。 データベースを整
備したことで、アイテム別の物流コストを全て算出で
きるようになった。 そこからパッケージのわずかな変
更で大きなコスト削減が実現できることが分かった。
シミュレーション結果をロジスティクス部門は開発
部門に提案した。 生産ラインの変更には多少の投資が
発生するものの開発部門は提案を受け入れた。 これに
よって積載効率は三三%向上した。 パッケージの材料
費を削減した分まで含めると、年間で一億円以上のコ
スト削減効果が出た。
販売部門も協力している。 物流センターの在庫量や
オペレーション・コストは、その地域にある小売店の
特売などの影響をモロに受ける。 しかし事前に特売情
報を入手することができれば欠品の回避やコスト管理
も容易になる。 そこで特売がある時は一週間前までに
予定情報をロジスティクス部門に連絡してもらえるよ
うに販社や事業部に依頼した。 最前線で顧客と接し
ている営業マンの仕事が一つ増える。 しかし、依頼が無視されることはない。
他部門がロジスティクス部門の提案や依頼を受け入
れるのは、それが自分の成績に直接跳ね返ってくるか
らだ。 データベースから弾き出した取引別・アイテム
別の物流コストは、そのまま各部門の業績に反映され
る。 「権限を委譲しなくても、各部門は自分で判断し
て協力してくれる仕組みになっている」と松本執行役
員。 これも情報活用の成果だ。
新しいマネジメントが動き出したことで同社の仕事
全体の流れは大きく変わった(
図2
)。 生産部門や営
業部門の活動の結果に振り回されていたかつての物流
部門は、今やサプライチェーン全体の活動をコントロ
ールする存在に役割を変えた。 物流管理がロジスティ
クス管理に進化した。
ロジスティクス部門の役割 物流部門の役割
新しい仕事の流れ 従来の仕事の流れ
アイテム別コスト
需要予測
取引別コスト
実行
実行
実行
評価/見直し
評価/見直し
評価/見直し
最適化調整
最適化調整
最適化調整
デ
ー
タ
ベ
ー
ス
分
析
ハンドリング開発
保管計画
輸送計画
実行
実行
実行
ハンドリングコスト
保管コスト
輸送コスト
経
営
計
画
商品開発
生産計画
販売計画
開発部門
生産部門
販売部門
開発部門
生産部門
販売部門
図2 図1 在庫と欠品を同時に減らした
97
年度
98
年度
99
年度
00
年度
01
年度
02
年度
03
年度
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0.12
0.10
0.08
0.06
0.04
0.02
0
(%)
《在庫金額比率(
97
年度期末基準)》
《欠品件数》
欠品件数
在庫金額
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