2005年3号 |
keyperson 鈴木威雄 富士ロジテック 社長 |
*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
KEYPERSONMARCH 2005 2旦那衆では生き残れない 物流不動産フ ンドの台頭は既存の倉庫業者にどのような影響を与えるのでし うか 経営の選択肢が増えるという意味では歓迎だ 実際 彼らからは施設を使 て欲しいというオフ をよく受けるし 検討もしている しかし今のところ当社が直接 地主や既存倉庫と交渉するより賃料の高い場合が多い 契約期間の制約もある 顧客との3PL契約は一般に三年程度 当社としては施設に関して それ以上の長期契約を結ぶことは避けたい そのため 今のところ契約したことはない 倉庫業界には物流不動産フ ンドの動きを脅威だと見る向きもあります た 当時の倉庫業界では異端でした 周囲からは猛烈な抵抗を受けた 社員たちも本業に徹してくれという 実際 倉庫業はあくせくしないほうが 利益が上がる 新しいことを始めると 必ず収益性は落ちる 倉庫業界のある先輩からは 倉庫屋というのは旦那衆で そういうことはやらないもんだ あれは車夫馬蹄のやることだ と諭された それでも業態転換を進めた理由は? 当社の生き残りの問題だととらえたからだ 以前に私はメ カ に勤務していたことがある その時には倉庫なんて ないほうがいいと思 ていた ユ ザ の目から見れば確かにそうだろう 完全になくすのは無理でも できる限り小さくしたいと考えているのは事実だ ないほうがいい産業など いずれ縮んでいく そうした産業の社長として 顧客に評価してもらえる業態に転換しない限り 当社は生き残れないと考えた かなり極端な意見に聞こえます 別に私だけが言 ている話ではない 三菱倉庫の中興の祖と言われる松村正直さんは 日本が高度経済成長を続けている最中に 業としての倉庫業はいずれなくなる と喝破していた 地主の家業としての倉庫業は残 ても インダストリ としては存在しなくなると予言していた 今もその言葉は私の頭に焼き付いている 実際 ゆ くりとではあるが 倉庫業はその過程を歩んできているように思う まずトラ ク運送会社が攻勢をかけてきた 運送会社が倉庫業の正式な資格をとらずに 保管庫 と称して 事実上の倉庫業を営むようにな た 倉庫業界はそれを取り締まるよう しきりに行政に圧力をかけていたが 私は顧客がそれを望んでいる以上 抑えるべきではないと考えていた むしろ倉庫業者も保管庫を作るべきだと主張した その結果 当時の倉庫業界から完全なつまはじきにあ た 旦那衆という意識は今でも倉庫 それは理解できない 不動産フ ンドは自分で倉庫業を営業するわけではない しかし 倉庫業者は不動産業の側面を持 ています 大昔に購入した簿価の安い土地 償却の済んだ施設に荷物を保管して利益を上げるというのが これまでの倉庫会社のイメ ジです 確かに私もかつては同じようなイメ ジを倉庫業者に対して持 ていた 何もしなくても利益が上がる 左団扇でいい商売だ ただし 三輪車を漕いでいるようなもので面白くも何ともない それが嫌で 漕がなければ倒れてしまう 二輪車に乗り換えるぞ と言 て業態転換を進めた 流通加工や輸出入代行などを始めて 今でいう3PLへの転換を図 てき鈴木威雄 富士ロジテ ク社長 倉庫業という産業はいずれなくなる 倉庫業者の多くが現在 3PLビジネスへの参入を図 ている その先駆者として知られるのが富士ロジテ クだ 地方の老舗倉庫業者から3PLへの業態転換を進めたことに伴い 同社にと て土地や建物などの資産の持つ意味は全く変わ た 聞き手・大矢昌浩 3 MARCH 2005業界に残 ていますか だいぶ変わ てきたとは思う 危機感はあるはずだ 単に荷物を預けているだけという荷主はどんどん減 てきている 実際 昔のやり方では儲からなくな ている 事実上の廃業も少なくない しかし倉庫業から3PLの転換は容易ではありませんね 実際 転換の過程では滅茶苦茶に金がかか た 運送会社の保管庫に対抗して 最初に当社はコンビニの流通加工に手を出した 八〇年代の初頭のことだ 全く経験はなか たが そのコンビニの当時の物流部長が当社の熱意を買 てくれて 何とか受注することができた ところが実際に蓋を開けてみて真 青にな た それまでの倉庫業は基本的には昼間の商売だ た それに対してコンビニの物流は深夜二時に荷受けして四時までに店舗別に仕分けし 五時までに出荷するという仕事だ しかも従来はパレ ト単位 最低でも段ボ ル単位だ たマテハンを 耳かき一本 お豆腐半丁という単位で処理しなければならない その対応に追われ 現場では過労で身体を壊すものが相次いだ 赤字もじ ぶじ ぶ出た 当時の当社の年商は四〇億円程度 それに対してコンビニの仕事は年間一億円ぐらいの赤字を出していた 累積赤字が五億円になれば 会社の存続自体が危うくなる しかし ギリギリまで頑張るつもりだ た 社内からは囂々たる非難の声 血の小便が出た しかし歯を食いしば て対応していくうちに 深夜作業の労働力を確保する方法や ピ ス単位の仕分けを処理するシステムなど 徐々に仕組みができてきた そうした運用のノウハウと コンビニ自身の店舗が増加したこともあ て累積赤字は四億円をピ クに少しずつ減り始めた それからは収益源にな た? いや 累積赤字を解消した頃に そのコンビニは物流を自社化し 当社との契約は打ちきられた もちろん残念ではあ たけれど この案件を機に社内が一変した 自信がついた 新しい案件を検討する場合にも あの時に比べたら何ということはないと腹が据わるようにな た 最近では私も3PLを始めたいという人から相談を受けることがある しかし や ぱり授業料は要る コンピ タシステムを作り替えて 社員の意識を変えるのは容易ではないと話している 自社資産はバラスト水 倉庫業者から3PLへの業態転換によ て資産 アセ ト の持つ意味も変わりましたか 資産を持つ意味は確かに変わ た かつては当社も運営している倉庫施設の八〇% 九〇%を自社の資産として所有していた それが現在では五〇%を切 ている 過半数を賃貸でまかなうようにな たわけだ しかし それは3PL化だけによるものではない 3PLを意識する以前から アセ トに頼り過ぎると流動性がなくなるという危惧は持 ていた 地方の中堅倉庫会社である当社が自社の持つアセ トだけで商売しようとすれば 事業展開も限られてしまう 3PLを本格化させるに当た て さらにそれが顕著にな た 3PLの倉庫には従来以上に 適地 が求められる しかも契約はいつ打ちきられるか分からない それを当社の資産として持つには無理がある そこで資産を持たない弱点を逆手にとることを考えた 大手物流企業の提案は豊富なアセ トを持 ているだけに それに縛られる しかし元々 アセ トのない当社なら本当の適地を提案できる まず荷主企業のロジステ クスの分析から適地を見出す ほとんどの場合 そこには当社の施設はない しかし 日本中どこにだ て空いた倉庫はある そうした倉庫を持 ている倉庫会社に対して当社から一緒に組もうと持ちかける その上でコンペに参加する このやり方で大手の物流企業に対しても一勝五敗程度の勝負ができるようにな た しかし 大手物流企業の中には自社所有している倉庫の賃料をダンピングして価格攻勢に出てくるところもあります まともに賃料を払 ても勝ち目がないのでは ダンピングすれば結局 受注後に値上げせざるを得なくなる 悪い評判はすぐに荷主に拡がる 長続きしない ただし当社も完全なノンアセ トにはしたくない 経営の安定性を考えると 船の重心をとるためのバラスト水のように 一定の割合で自社資産も保有しておきたい 重りの分だけ船足は遅くなるが 走行は安定する これは多分に経営者としての感覚的なもので その意味では私もやや保守的なのかも知れない すずき・たけお 1943年生まれ。 |