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OCTOBER 2004 24
ECRの前提は流通機能の分化
――在庫を持つ物流拠点の集約を進めていますね。
「我々は雑貨分野で北海道から九州まで全国六つのD
C(在庫型物流拠点)を構えています。 発注をいただ
いてから二四時間でお客様に商品を届けるというサー
ビスレベルから距離が規定され、DCの立地が決まっ
ています。 九〇年代には二〇カ所くらいあったのです
が、五年前から集約を進めてきました」
――現状でも、まだ減らす余地はありますか?
「当社には『メガDC』というコンセプトがありま
す。 工場と一体化した在庫拠点をこう呼んでいるので
すが、この機能を整えていくと、それ以外のDCの役
目はだんだんと少なくなっていきます」
「我々は現在、高崎(群馬県)と明石(兵庫県)に主
力工場を構え、さらに日本で扱う製品の五〇%を海
外から輸入しています。 したがって最終的には、高崎、
明石、東京港、大阪港の四カ所に『メガDC』を置
き、そこから顧客に直送できるようにしていきたい。
向こう二年間でそこまで持っていくつもりです」
――御社が提唱しているE
CR(効率的な消費者対
応)には「ハブDC」とい
うコンセプトもあります。
「『ハブDC』というのは、
メーカーと店頭の中間にあ
る卸さんなり小売りさんの
物流拠点です。 ECRのな
かで我々は、流通の機能を
分化しています。 中間流通
に一つだけ在庫拠点『ハブ
DC』を置き、小売りさん
の店頭に向けたピッキングや仕分けをそこで担っても
らう。 これを複数のカテゴリーで、しかもトータルカ
テゴリーでやることが望ましい。 その一方でメーカー
の『メガDC』では、『ハブDC』にトラック単位で
届けられるような効率化を進めていくわけです」
「この辺の考え方が花王さんとは対極に位置するの
ですが、我々はメーカーが『ハブDC』を手掛けるべ
きではないと考えています。 『ハブDC』の担い手は、
大手卸さんであり、ご自分でできる大手チェーンさん
であるべきです。 もちろん条件さえクリアしていれば、
誰が参加してくれても構わないのですがね」
――ハブDCの普及については流通企業の自主的な取
り組みを一方的に待つしかないということですか?
「我々がオファーする内容が、『ハブDC』を助長し
ていければと考えています。 だからこそ『メガDC』
では、規模と効率のあるお客様にとってより効率的に
なるようにしています。 その一つが工場直送です。 工
場からトラック一台を満載できる注文であれば、ここ
で発生するロジスティクスコストの削減分をすべてお
客様にお渡しする。 そうすれば、このような単位で注
文できる規模のお客様は、さらに競争力を増すことに
なる。 そうやって自然と集約が進めばいい」
花王にも中間流通を担って欲しい
――九六年に花王システム物流がイトーヨーカ堂の共
配事業を手掛けようとしたとき、P&Gは猛反発しま
した。 その理由を、あらためて教えてください。
「主に二つあります。 我々が考えるハブDCの運営
にあたっては、純然たるロジスティクス機能に特化し
ていただく必要があります。 公平で透明性のあるもの
でなければなりません」
「花王システム物流という会社は、親会社が花王さ
「中間物流は3PLに担って欲しい」
日本の複雑な流通に柔軟に対応しようとしてきた花王。 対照的に“ある
べき姿”を追い求めてきたP&G――。 いずれ劣らぬ合理的な企業でありな
がら、流通に対する両社の姿勢はまったく違う。 P&Gで日本と韓国のカス
タマーサービスとロジスティクスを統括する松田実ディレクターに、同社
の目指す中間流通について聞いた。 (聞き手・岡山宏之)
松田実P&Gファー・イースト・インクノースイーストアジア
カスタマーサービス/ロジスティクスディレクター
規模効率化システム 店舗(棚)効率化システム
1. 店舗ベースのユニ
ット配送
2. 多品種・少量・多頻
度配送
ハブDC構想導入後のサプライチェーン
1. 小品種・大量・定期
配送
2. 最大容量トラック
によるユニット(パ
レット)配送
メーカー工場 ハブDC 店 舗
●ハブDCの概念図
Interview
特集
25 OCTOBER 2004
んだし、役員も花王さんから派遣されています。 その
ような会社が、競合企業のプロモーション情報などを
一社で独占的に見られる状況は正しくないというのが
一つありました。 それから、現状ではそこで得られる
利益は最終的に花王さんに流れることになる。 我々の
協力が競合相手の利益になるというのは不自然な話で
す。 反発した理由はこの二つです」
「花王システム物流に、本当にパブリックな会社と
して独立していただき、情報も透明になるということ
であれば、むしろ歓迎します。 かつて僕は花王さんに、
『純然たるロジスティクス事業者として生きていただ
けるのであれば、花王ロジスティクスは、ハブDCの
機能と能力という意味では一番近い立場にいる』と言
ったことすらあります。 ただし、花王さんのサブ組織
である限り賛同できません」
――仮に情報漏洩を防ぐ仕組みがきちっと整い、第三
者が監査するといった枠組みになってもダメですか。
「それは考えられると思います。 たとえば半分以上
の取締役が花王さん以外であれば監視能力があると言
える。 しかも、共配事業を通じて得る利益が花王さん
には渡らない。 この二つさえ明確であれば、僕は花王
さんにどんどんやっていただきたい」
――「ハブDC」の担い手として3PLの可能性は?
「そもそも3PLというのは、公平性があり、透明
で、独立していて、利益が特定のところに流れるよう
なことがないといったものです。 それさえ担保されれ
ば、花王システム物流さんは立派な3PLになれる。
現状は3PLではないからこそ問題なんです」
テクノロジーが流通の変化を後押しする
――日本でも日雑卸の再編が急速に進み、欧米流のサ
プライチェーンを実現できる素地が整ってきました。
「九〇年代の後半に、我々はECRに基づいてトレ
ードターム(取引条件)を変えさせていただきました。
その当時、我々が言っていた、さらに集約され、効率
の高いところが徐々に全国化していくだろうという予
想は当たっていた。 日本では時間がかかるともみてい
ましたが、着実にその方向に向かっています」
「P&GとしてもCBD(カスタマー・ビジネス・
デベロップメント)という組織を作りました。 これは
文字通り、カスタマーのなかに入っていって、カテゴ
リー戦略をカスタマーと一緒に考えていくための組織
です。 従来と違うのは、セールス(営業)だけでなく、
IT、ファイナンス、ロジスティクスなど複数の機能
を持つチームが対応していくということです」
――いま日本には何チームのCBDがあるのですか。
「約一〇チームです。 各チームが複数のお客様を抱
えていて、売上上位五〇社くらいに対応しています」
――上位一〇社くらいでは通用する手法かもしれませ
んが、残り四〇社については採算は厳しいのでは? 「我々が『ハブDC』のところで望んでいるのは卸
さんの集約です。 現実に全国規模の卸さんが二つでき
ています。 これが将来的には、それこそ一〇本指以内
くらいのプレーヤーが、日本全国をカバーしていくよ
うになるとみています」
「ある意味で、それが次のテクノロジーが一気に普
及するタイミングにもなるのではないでしょうか。 五
年とか一〇年先には日本でもチップ(ICタグ)が実
用化され、パレット/ケース単位で使われるようにな
るはずです。 そして、こうした分野に投資できる企業
は限られている。 たぶんその投資なくして、次のステ
ージに進むことはできません。 大きな淘汰が起きるは
ずです。 いま我々は、こうした変化に備えて戦略的に
手を打っているということです」
●近年のP&Gの日本における取り組み
1996年
1997年
1999年
2002年
米P&Gが「ECR」を本格化した。 90年代後半に同社が日本で行った制度改
革は、すべてこの「ECR」を意識したもの。 いわば93年が出発点になっている。
販売組織に「CBD」(カスタマー・ビジネス・デベロップメント)を導入。 それ
まで基本的に営業だけが携わっていた顧客との接点を、主要顧客ごとに複数
の機能(営業、生産、物流、IT、財務など)を持つチーム単位に変更。
「BDF」(ビジネス・デベロップメント・ファンド)によって小売業者に支払う販
促金(リベート)制度にメス。 新制度では全小売業者に対して商品カテゴリー
ごとに一定比率の販促金を設定し、小売業者はその範囲内で特売戦略をたて
る。 従来の複雑な取引制度を、公正で簡素な一つの体系にまとめる狙い。
「新取引制度」を日雑分野に導入。 一回の取引物量などに応じて価格体系を
明示する“メニュープライシング”によって、同じ条件で商品を購入する顧客に
ついては、その業態が卸か小売業者かは問わないようにした(右図参照)。 こ
れにより将来的に増えるであろう小売業者との直接取引に備える意味も大き
い。 この新取引制度を2000年に菓子、2001年にペットフードの分野に拡大。
「新取引制度」の次段階として、20トン車で工場から直接買うとか、P&Gが示
すEDIの要件を満たす場合などのインセンティブを盛り込んだ価格体系を提示。
●「新取引制度」で卸と小売りを並列に位置づけた
P&G日本
卸売(代理店)
卸売(二次店)
大手小売り 中小小売り
従来の流通
大手小売り 中小小売り
大手小売り 卸売
P&G日本
1999年10月〜
(日用雑貨のみ)
1993年
(米国)
日本における動き
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