ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年3号
ケース
アスクル――物流センター

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

31 MARCH 2005四年越しで実現した名古屋センタ 二〇〇一年七月開設予定の名古屋センタ の設置は延期しました およそ四年前にアスクルが出したニ スリリ スにこんな文言があ た ここからも分かる通り 同社は名古屋に物流拠点を新設する計画を過去にい たん撤回したことがある コストメリ トを享受できる見通しが立たなか たためだ 当時の発想は単純で 当日配送エリアを拡大するために名古屋に物流拠点を新設しようと考えた しかし かなり精緻なシミ レ シ ンをしたところ 配送距離が短くなることで得られるコストメリ トより 土地代・家賃の負担の方が大きいことが分か た それで 採算を度外視して当日配送にこだわるような ヘンな競争は止めようということにな た と アスクルの鈴木博之取締役は振り返る 九三年に事業をスタ トして以来 急成長を続けてきたアスクルだが 実は一時期 業績の伸びに疑問符がついたことがある 二〇〇一年五月期の決算を目前に控えて 同社は業績予想を大幅に下方修正した 折りしも同年一月には文具業界のガリバ コクヨが カウネ ト を立ち上げてアスクル追撃の姿勢を鮮明にしていたこともあり 市場やマスコミの一部では アスクルの急成長もここまでか という見方すらささやかれた 名古屋センターで庫内運営を自社化柔軟な評価・報酬体系で現場を磨く昨年9月に名古屋センターを稼働した。
現状で全国6カ所目となる物流拠点だが、既存拠点とはまったく異なる物流管理に挑んでいる。
アスクル自身が直接、作業者の労務管理まで手掛けて、各人の生産性に応じた評価・報酬体系を実現しようというのだ。
アスクル――物流センター 名古屋での拠点新設の断念もこうした雰囲気のなかで起こ たのだが その後のアスクルはまた成長軌道に戻 た しばらくは東京の DCMセンタ の準備にエネルギ を注いでいたため手が回らなか たが 中京エリアの市場規模を考えれば物流拠点の設置は時間の問題だ た 実際 物件探しは継続的に続けていた この案件が 二〇〇三年四月にプロロジスとの接触を本格化したことで大きく動いた もちろんアスクルとしては プロロジスだけでなく多くの不動産関係者や倉庫業者に自分たちの要望を伝えてはいた だが寄せられる提案は決め手を欠くものが多か たようだ そんな中でプロロジスが持ち込んでくる案件は アスクル側の希望するポイントを的確に抑えていた 物件の数そのものが豊富だ たばかりか 建築物を建てるコストの提示なども正確で素早く 賃料もアスクル側が想定していたのとほぼ近いレベルの数字を提案してきた 何よりも提案内容が合理的で 我々の試算と比べても妥当なものだ た と鈴木取締役 アスクル専用に新設する物件でありながら 一〇年という短めの契約期間も評価できるものだ た これらを高く評価したアスクルは 名古屋センタ の不動産兼建物のオ ナ としてプロロジスと契約することを決め 二〇〇三年十一月に着工した 本誌特集二十一ペ ジ参照 物流アウトソ シングの限界 明日来る アスクル というサ ビスレベルを社名で広言している同社は 事業のスタ ト以来 常に物流業務を重視してきた 営業タ ゲ トは中小規模の事業者が中心で 現在の登録顧客数は全国二〇〇万事業所余り こうしたアスクルのビジネスモデルにと て 極端に多頻度小口化されたモノの移動を低コストで行える物流インフラは欠かせない要素だ た それだけに名古屋センタ 以前に手掛けた物流拠点でも多くの工夫を重ねてきた 先進的な物流事業者と手を組み 自ら率先してWMS 倉庫管理システム の高度化や マテハン利用の効率化などに精を出した 新たな物流拠点の稼働を経験するたびにこの傾向は強まり 二〇〇二年に東京でDCMセンタ を立ち上げたときには 元請の協力物流業者に現場運営を任せる一方で わざわざアスクルの社員が現場に常駐して作業者と一緒にQC活動などに取り組むようにな た ただし 当時のアスクルには まだ建物や設備こそが物流現場のノウハウと考えていた面があ た 工夫を凝らした物流センタ に 適切にマテハンを配置して商品をスム ズに流す そうい たモノを動かす技術を中心に物流現場を捉えていた 自社開発したWMSにしても し せんはモノの動きを制御するツ ルに過ぎなか た そうしたやり方に徐々に限界を感じるようにな てきたと鈴木取締役は述懐する 物流で最後に差がつくのは現場を運営する力 一人ひとりの作業者の力を高め たくさん働MARCH 2005 32■施設概要所在地:愛知県東海市、敷地:18,991m2、倉庫面積:31,100m2、トラックバース:42バース、総投資額:13億円(リース代含む ※アスクル分のみ。
プロロジスの土地・建物への投資金額は未公表)、賃貸者:プロロジスパーク名古屋、出荷開始:2004年9月、従業員数:約150人、年間取扱売上高:最大200億円、仕入先数:約400社アスクル名古屋センター■アスクルの物流拠点の設置状況 
隠坑坑鞠5月 
隠坑坑暁8月 
隠坑坑糠7月 同年9月 
横娃娃闇7月 同年9月 
横娃娃映4月 
横娃娃嫁4月 同年6月 
横娃娃看9月 埼玉県入間郡に「所沢物流センター」を設置 (97年7月に「東京センター」へ移転) 予定通り「東京センター」(辰巳)を閉鎖し、 「DCMセンター」(青海)に統合 愛知県東海市に「名古屋センター」を稼働し、アスクル自身が物流業務を直接管理 時 期  内 容 大阪市住之江区に「大阪センター」を設置 東京都江東区辰巳に「東京センター」を移転 「大阪センター」を規模拡大のため移転 宮城県仙台市に「仙台センター」を設置 福岡県糟屋郡に「福岡センター」を設置 神奈川県横浜市に「横浜センター」を設置 東京都江東区青海に「DCMセンター」を設置  33 MARCH 2005いてくれた方には より多くの報酬をお支払いできるようにしなければ現場力は高まらない ところが現場運営を外部事業者に任せている従来型のセンタ では 評価・報酬体系を我々がいじることはできなか た このような問題意識から アスクルは名古屋センタ で 現在の物流アウトソ シング全盛の時代に これと真 向から対立する実験をスタ トさせた センタ 内の物流管理をすべてアスクル自身が手掛けるようにしたのである 約一五〇人のスタ フが働く同センタ には現在 物流管理を束ねる元請業者が存在しない 著名な物流企業も協力業者として名を連ねてはいるが 彼らの役回りも 現状では物流分野に強い人材派遣業者の一社に過ぎない アスクルは名古屋センタ で 物流の現場力を高めるノウハウを確立しようとしている 労務管理にまで踏み込んだ現場の管理システムを作ることができれば 作業者のモチベ シ ンが向上し 全体の生産性の底上げが期待できる 通販事業を営むアスクルにと ては そうしたノウハウこそが長期的にライバルと差別化するための競争力の源泉になると判断しているのである 生産性に応じた報酬体系アスクルの狙いを実現するためには 個々の作業者ごとの生産性を正確に把握することが前提になる だがマテハン機器を駆使する従来型業務フロ では これが簡単ではなか た だからこそ名古屋センタ では ピ キングのやり方を 従来のデジタルピ キングや小物ソ タ による仕分けから 無線LANを利用するカ トピ キングに全面的に切り替える必要があ た 物量の波動に応じて人員を増減しやすいカ トピ キングの柔軟性も評価していたが それ以上にカ ト式であれば作業者一人でピ キング作業が完結する点に着目した 作業者一人ひとりの生産性を正確に把握することが可能で ミスが発生した場合の原因の特定も容易だ マテハン重視のフロ より 個別の作業者の問題点が圧倒的に 見える ようになる 名古屋センタ では PMS プロダクテ ビテ ・マネジメント・システム と呼ぶシステムを導入している WMSと同様にアスクルが自社開発したシステムで 個々人の業務内容や作業結果 生産性などに関するデ タを自動的に取得することができる あらかじめ作業者ごとに 時間あたりにこなすべき作業の数値目標などを設定しておき これに対して実績はどうだ たかとい た管理にも使う このように書くと アスクルは機械によ て人間の行動を完全に管理し それに基づく冷徹な成果主義を実現しようとしているかのような印象を受けるかもしれない しかし 同社が追求しているのは単なる成果主義ではない そうい た管理とはいわば対極にある 個々人がマイペ スで仕事をできる職場環境を実現しようとしている 従来の固定化された時給の考え方の中では 現場運営を高度化しようとしたら 最後は生産性の低い人を切るしかなか た 生産性に応じて時給そのものを柔軟に上下させられれば 生産性の高い人も低い人もそれなりに働ける職場が実現する 今後の日本ではシルバ 層が間違いなく増えていく こうした人たちが気持よく働ける職場環境を作り出すことが 必ず当社の強みになると確信している 鈴木取締役 実際 カ トピ キングによる処理スピ ドを測ると 遅い人と早い人では一時間あたりの処理量が三倍も違うという結果に驚かされた こうした生産性の違いを 従来の労務管理の枠組みの中で公平に処遇するのは難しい 結局 最終的には 生産性の高い人は本気を出さなくなり 指導しても生産性が上がらない人は切り捨てるしかない この壁を破る仕組みを 最先端のITを駆使して構築するのが名古屋センタ の使命なのである アスクルの鈴木博之取締役 MARCH 2005 34現在 アスクルがやろうとしていることは 製造業者が工場で生産革新に励んだり 小売りが店舗オペレ シ ンの高度化に取り組むのと似ている しかし 同業の通販業者の世界を見渡してみたときに アスクルとま たく同様の発想で物流センタ の生産性向上に取り組んでいるライバルがいるかとなると 恐らく皆無だろう もちろん物流拠点を自ら運営している通販業者もいれば 外部の協力物流業者を上手く利用することで似たような効果を追求している企業なら少なくない しかし アスクルのように 既存の物流体制がそれなりに上手く機能しているなかで 自ら物流分野に踏み込んで このように挑戦的な取り組みをしている事例は聞いたことがない 本来であれば 3PL事業者などが こうした仕組みのシステム化や体系化に率先して取り組むべきなのだろう ところがたいていは センタ 長の腕の見せ所 とばかりに精神論的に対処しており 物流現場のマネジメント手法としてシステマチ クに高度化しようという動きにはならない その意味でアスクルの試みは 物流現場の管理を近代化する希有な取り組みといえる 再びアウトソ シングする可能性同社の名古屋センタ では現場デ タの収集・分析をPMSで行 ているが このシステムは勤怠管理システムともつなが ている DCMセンタ の運営にアスクルの社員が携わ た経験から開発したもので 作業者が個別に持 ているICカ ドによ て行動履歴を自動で把握できるようにな ている 個人ごとに入室可能なゾ ンを制限するセキ リテ 対策のための仕組みとも連動している こうして集ま てくるデ タから 従業員の生産性とモチベ シ ンを高めるマネジメントの仕組み を構築していくことが 名古屋センタ の当面する課題だ ITの開発というよりは むしろ業務改善のために行うQC活動などの枠組み作りや 作業者の多様性に応じた評価・報酬体系の構築などが求められる 過去に例のない取り組みだけに 結果が明らかになるまでには一年やそこらは様子を見る必要がありそうだ センター内の概要2004年9月の竣工式に列席したスタッフたち背面ピッキングを採用したケースピッキング1階にある高速自動仕分機で方面別に仕分ける自動回転ラックを導入し省スペース・省人化センターの機能を左右するカートピッキング4階までを貫く自動倉庫と搬送台車で省力化 35 MARCH 2005仮に望ましい仕組みを確立できたとしても すでに稼働している物流センタ の管理を自社運営に切り替える可能性は低い これから作るセンタ については当然 自社運営がいいか 業務委託がいいのかを検討することになるだろう だがすでに業務委託しているセンタ の自社化はしない マネジメントを変えれば現場の人たちも変えなければならない それなりの習熟度にある人たちを変えるのは得策ではない と鈴木取締役は言う アスクルの物流管理は現在 過渡期にある もしかしたら将来的には 名古屋センタ 内の一定のゾ ンについては再び外部への業務委託に戻す可能性だ てある という 名古屋センタ で獲得するであろうノウハウは あくまでも同社のソフト面の資産として活かされていくことになりそうだ まずは生産性の高い仕組みが本当に可能なのかどうかを 自ら見極める段階にある コア業務として物流管理を磨くそれにしてもアスクルの高成長ぶりは見事という他ない 二〇〇五年五月期の連結売上高は一四二〇億円 前期比十一・一%増 を見込んでおり 勢いは衰える気配がない すでに通販事業者のト プグル プに位置していながら なお二桁成長を維持している 九三年に文具専門の通販として取扱アイテム数五〇〇種類からスタ トしたのが いまや最新カタログに掲載しているアイテムの数は一万七六〇〇種 このうち文具が占める割合は約二五%に過ぎず 同社の枕言葉も 文具の から オフ ス用品の に変わ た これだけ多様な商品を全国六カ所の物流拠点にすべてフルラインで在庫し 当日・翌日配送のニ ズに応えている 本稿では 最新の取り組みである名古屋センタ の労務管理に焦点を当てたが これは過去の蓄積の上に成立している面が大きい 多数の顧客に当日・翌日配送を約束する輸送網や 取引先メ カ を巻き込んだ需給調整の高度化など アスクルのロジステ クスには先進的な取り組みが豊富にある なかでも 欠品を防ぎながら在庫を抑制するための需給調整の仕組みは ユ ザ と直結しているアスクルならではの強みだ たとえば名古屋センタ では 配送カバ エリアを六つに分け 過去の販売実績から一万七六〇〇品目の商品が向こう六カ月でどれだけ売れるかを毎週 各エリア単位かつ単品ベ スで予測している 購買デ タの蓄積を反映できるだけに その予測精度は高い こうした情報を 取引先メ カ 四〇〇社余りに公開し 共同で在庫削減や欠品防止に役立てている しかも このような作業は既にITによ て標準化されているため カタログの更新によ て掲載アイテムが数千種類 変更にな ても簡単に対応できる 事業のスタ ト以来 約一〇年間かけて磨き上げてきたSCMは日本有数のレベルにある ビジネスモデルやITの先進性を追求する一方で 一番重要なのは現場で働いている人たち と言い切るところに アスクルの本当の強さがある この言葉が飾りではないことは 同社の本社が倉庫内に置かれていることに如実に表れている 写真 二〇〇一年にアスクルが文京区から江東区に本社を移転したとき ここは東京物流センタ の五階だ た 同社にと て物流は それほど身近な業務なのだ 名古屋センタ の具体的な成果ははまだ見えない しかし たとえ結果的に外部委託に戻すことにな ても この経験を通じて磨かれる物流の現場力は アスクルにと て必ず将来の糧となることだろう 岡山宏之 外観からは想像しにくい洒落た社内アスクルの本社は倉庫の5階にある東京都江東区にあるアスクルの本社

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