ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年11号
特集
中国シフトで変わる国際物流 中国の新興物流企業と人材育成

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2004 24 一万社を超える3PL ここ数年間で中国全土に無数の?物流〞会社が誕 生した。
ある統計によると、社名に物流の二文字が入 っている企業の数は中国全土でおよそ八〇〇〇社に 上るという。
これまで○×運送や○×倉庫と名乗って きた会社の多くが近年、○×物流と社名を変更して いる。
?物流〞は現在の中国経済で最もホットなキー ワードのひとつとなっているのだ。
また米マーサー・ヒューマン・リソース・コンサル ティング(Mercer Human Resource Consulting )と 中国物流・購買連合会の共同調査によると、中国の 3PL企業は現時点で既に一万社を超えているとい う。
この調査における3PLの定義には曖昧な部分が あるものの、そこで数え挙げられている物流企業は大 きく以下の四つのタイプに分けられる。
?伝統的な運輸企業や倉庫企業から 転身してきた現地企業 シノトランスやコスコ、中海物流(China Shipping Logistics )、中鉄物流(China Railway Uuited logistics )といった大手企業が代表格。
?外資系3PL企業 DHL、UPS、FedEx、EXELおよび日系 の大手物流企業など中国国外からの参入組。
?大手荷主企業の物流子会社 上海百聯物流、青島ハイアール物流、北京物美物 流など、中国の大手メーカーや流通業者の物流子会 社。
?現地の民間新興企業 上海大通、広州宝供、宅急送などのベンチャー企 業。
このうち北京に本社を置く宅急送を、今年の七月 に訪問した。
九四年に設立された同社は北京〜上海 間を中心としたドア・ツー・ドア輸送を行っている。
二〇〇三年の年商は約三億三〇〇〇万元(約四三億 六〇〇〇万円)で前年比六五%増。
「二〇〇三年度中 国トップ一〇〇成長企業」で全業種中の四位にラン クされた急成長企業だ。
現在、同社は北京、上海、広州、沈陽、成都、武 漢、西安の七都市に子会社を配置し、全国二〇〇カ 所余りに拠点を配置している。
従業員数は約六〇〇 〇人。
車両台数は約一〇〇〇台となっている。
日本 の物流配企業並の貨物追跡システムを整備し、大都 市間は翌日、同じ省内なら当日という配送リードタイ ムを謳っている。
同社の創業者、陳平社長は日本のヤマト運輸でア ルバイトをしていた経験があり、社名からも分かる通 り宅急便から事業ノウハウを学んだという。
孫悟空を モチーフにした会社のシンボルマークも、その影響だ ろう。
九五年には長野県に本社を置く物流会社の一 城とも合弁契約を結んでいる。
もっとも中国市場における宅配サービスはまだ初期 段階にある。
宅急送が実際に手掛けているのも、ほと んどは企業間物流であり、日本市場に当てはめると宅 配便というより特別積み合わせ業者に近い業態になっ ているようだ。
それでも日本の松下電器産業を始め、 ノキアやモトローラ、ルーセントテクノロジーといっ た大手の外資系メーカーを主要荷主に抱えている点は、 他の現地民間物流業者とは一線を画している。
同様に「?現地の民間新興企業」の一つに挙げた 宝供物流も、P&Gやフィリップス、ネスレといった 外資系大手メーカーを主な荷主としている。
宝供物流 の年商は約三億元(約四〇億円)、従業員数一〇〇〇 人と、規模的にも宅急送とほぼ似通っている。
ただし 中国の新興物流企業と人材育成 中国の物流市場が質的にも進化し始めた。
これまで主役を担 ってきた政府系や外資系物流企業とは別に、民間の新興物流企 業の台頭が目立ってきた。
昨年11月には「物流師」が国家資格 に認定され、人材育成も本格化している。
同資格を取得した在 日中国人コンサルタントが現地の事情を報告する。
フレームワークス凌屹 コンサルティング部 Report 25 NOVEMBER 2004 特集 中国シフトで変わる国際物流 ビジネスモデルは全く違う。
同社の特徴は、鉄道輸送とトラックを組み合わせた 遠距離のドア・ツー・ドア輸送だ。
日本と同様に中 国でも、鉄道は旅客を中心に運行されていることから、 鉄道貨物は時間帯や安定運行といった点で制約を受 けている。
しかし宝供物流の場合は旅客列車に連結さ れる貨物車を借り切って幹線輸送に使用することで安 定輸送を確保している。
ITの活用にも力を入れてい る。
現在、宝供物流では荷主別のシステムに対応して XDL(多企業間データ交換)などの連結方式を使 い分けているという。
市場拡大で人材育成が急務に このように中国本土にも外資系荷主のニーズに対応 できるレベルの民間物流企業が育ちつつある。
これに 伴い物流の専門知識を持った人材の育成が急務にな ってきた。
専門家の話によると、二〇一〇年までに物 流専門家の人材需要は約三〇〜四〇万人に拡大する と予測されている。
しかし国内で育成できる物流専門 人材はせいぜい年間五〇〇〇人程度と言われている。
専門人材の極端な不足が中国物流業の成長の足か せになっている。
そのため現在、中国各地で様々な物 流セミナーが盛んに開催されている。
しかし、講師に よって講義の内容はバラバラで、レベルも低いと言わ ざるを得ない。
実戦的な講義は少ないのが現状だ。
こうした現状に中国政府も危機感を募らせている。
対策として昨年十一月、物流分野では中国初の国家 資格となる「物流師認証制度」がスタートした。
その ニュースを聞いて、筆者は資格試験に先だって開催さ れる物流師育成講座を受講するために今年二月、上 海に飛んだ。
受講期間は約一カ月。
カリキュラムは、物流全域に わたる専門知識とマネジメント技術をロジスティクス のコンセプトに従い、体系的に把握できるように構成 されていた。
講師は年齢こそ若いものの、物流の専門 学科を卒業し、実務経験を経て現在はコンサルティン グ会社を経営しているという経歴で、実践的と言って いい講義内容だった。
物流師と同様の制度を、日本では「物流技術管理 士」制度として日本ロジスティクスシステム協会が運 営している。
双方のカリキュラムを比較すると、日本 の場合は文字通り「管理」に主眼が置かれていて、よ りシステム的な指向が強いように感じる。
一方、中国 の物流師には日本のカリキュラムには存在しない「物 流市場分析」、「購買・供給物流」、「販売物流」とい ったプログラムが組み込まれているが、「SCM」、「ロ ジスティクスと環境」、「行政・グローバルリスク」と いった体系的な内容は含まれていない。
この講座を受講した後、すぐに第一回物流師資格 試験が実施された。
全国の受験者数は約二〇〇〇人。
資料を見る限り日本から参加したのは私だけのようだ った。
選択式の設問のほか、案件分析など記述させる 問題もあった。
五月に結果が出た。
合格率は約五〇%。
およそ一〇〇〇人が晴れて「物流師」の国家認証を 受けることになった。
幸い私もその一人に加わること ができた。
中国の物流師認定制度は始まったばかりで、カリキ ュラムなどにまだ偏っているところも見られる。
しか し中国で使用される物流用語の標準化や人材育成に は大いに役立つことだろう。
(Ling Yi) 中国上海市生まれ。
九二年二月来日。
九七年三 月、静岡県立大学経営情報学部卒業。
化学品商社を経て二〇〇一年、 フレームワークス入社。
現在、同社コンサルティング部所属。
日本 物流学会会員。
二〇〇四年六月、中国「物流師」資格取得。
PROFILE 「宅急送」の社内に貼られていたポス ター。
「宅急送――フェデックスとの差 はあとどれくらい?」と書かれている 貨物追跡システムを始めとしたITの活用にも積 極的(宅急送) 宅急送のホームページ http://www.zjs.com.cn/

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