ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年11号
特集
中国シフトで変わる国際物流 ザラ(ZARA)―グローバルSCM

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2004 26 ザラの本社で婦人服のマーケティングを担当してい るイザベル・ボーゲスさんは、「何かが起こり始めて いる」と感じていた。
彼女が勤務しているラコルーニャ近くのザラの店舗 では、新製品のカーキ色のスカートが、棚に並べてか らわずか二、三時間だというのに?飛ぶように〞売れ ていた。
しかも店舗マネジャーはまだまだ売れると言 う。
その前日、顧客の反応を見るために、わずか二八 〇〇セットのスカートを一部の店舗に出荷したばかり とは、とうてい思えない状況だった。
ボーゲスさんは、スペイン南西部のセビリアにある いくつかの店舗にも電話を入れてみた。
そこでもカー キ色のスカートは順調に売れていた。
店舗から寄せら れるこうした情報に加えて、ザラの本社の社員がその スカートを身に付けている姿も目にした。
「社員が新製品を着ているというのは、とてもいい サインです。
ここの社員はいつでも自社の製品に対す る一番厳しい批評家ですからね」(ボーゲスさん) より多くの店舗から売れ行き好調という同じような 反応が返ってくると、ボーゲスさんは新製品がヒット 商品になるであろうことを確信した。
三大陸に広がる ザラの全店舗に新製品を数日中に供給できるよう、た だちに手筈を整えた。
多くの企業が、顧客ニーズや市場の変化に素早く 応えられる仕組みを持っていると主張する。
しかし、 実際にその言葉通りの機敏なサプライチェーンを実現 できている企業はほとんどない。
そうした企業の中に あってザラは例外的な存在だ。
同社は、世界のファッションの先端であるロンドン のオックスフォード通りや、パリのシャンゼリゼ通り、 ニューヨークのレキシントンアベニューの店舗に最新 のファッションアイテムを並べるためのサプライチェ ーンを実現している。
そこではデザインから製造、出 荷までの工程が極めて迅速にこなされている。
二〇〇一年五月、ザラのサプライチェーンの高い能 力を信じた投資家たちは、ザラの親会社であるインデ ィテクスが公開した全体の二五%の株式に二三億ユー ロ(一ユーロ=一三〇円換算で約三〇〇〇億円)の 値段をつけることで支持を表明した。
四〇年ほど前に スペインでわずかな資金を元手に事業を開始した創業 者は、依然として六割以上の株式を保有していたため、 株式公開後はスペインで一番の資産家となった。
およそ二カ月後には、インディテクスの株価は公開 時からさらに二五%も値上がりしていた。
株式時価総 額の合計は一二〇億ユーロ(一兆五六〇〇億円)と なり、同業のベネトン、リミテッド、ネクストを上回 った。
スペインの一地方都市で中小企業として出発し た同社は、このような偉業をどのようにして達成した のだろうか。
無借金で成長し続けるインディテクスザラの創業者であるアマンシオ・オルテガ・ゴアナ 氏は、一九六三年にスペイン東北部のラコルーニャで 女性用のパジャマと下着を製造する工場をスタートし た。
その後、七五年に取引先の一つであるドイツの卸 が、大量の注文をキャンセルしてきたときザラは最初 の店舗をオープンした。
当初の狙いは、単にキャンセルが出た製品を売りさ ばくための自前の販路を確保することにあった。
しか し、この体験によってゴアナ氏は、製造業と小売業の ?結婚〞こそがファッション業界で事業を拡大するた めに重要であることを体得した。
これが現在までのザ ラの進化を下支えする教訓となっている。
あるマーケティング担当の役員は、次のような比喩 ザラ(ZARA)―グローバルSCM ファッション業界で“ヨーロッパのギャップ”と呼ばれているザ ラ(=ZARA)は、スペイン東北部のラコルーニャに本社を構える 典型的な製造小売業者(SPA)だ。
婦人服を中心にデザインから 製造、販売までを手掛け、日本を含む世界30数カ国に600店舗以 上を展開している。
売上高純利益率で常に10%前後を維持する親 会社インディテクスの中核ブランドでもあるザラの最大の武器は、 綿密に作り上げられたサプライチェーンだ。
特別寄稿Case Study カーサ・フェドウズ ジョージタウン大学(アメリカ) マイケル・ルイス ワーウィック大学(イギリス) ホセ・マルシア セビリア大学(スペイン) 27 NOVEMBER 2004 特集 中国シフトで変わる国際物流 を用いて?結婚〞の意味を説明する。
「我々が持って いる一〇本の指のうち、五本を工場の上に置き、残り の五本で顧客動向に触れているようにすることが重要 なのだ」 七九年までに直営店舗を六店に増やしたザラは、八 〇年代に入るとスペインの主要都市に店舗を展開して いった。
八八年には初の海外店舗をポルトガルのポル トにオープン。
八九年にはニューヨーク、九〇年には パリに出店した。
もっとも同社の海外進出が本当に本格化することに なるのは、親会社のインディテクスが九〇年代後半に ヨーロッパやアメリカ、アジアの三大陸二九カ国に進 出したときだった。
このときインディテクスは、海外 進出と並行して、ザラとは違った顧客層を取り込むた めに、いくつかのブランドを買収しながら小売業とし ての幅を広げていった。
ポール・アンド・ベアやマッ シモ、ドゥッチ、ベレシェカ、ストラディバリウスと いった小売りチェーンを傘下に加えていった。
各ブランドは独立採算制を採っており、それぞれ 別々の受発注システムや倉庫・配送システム、それに 協力業者を持っている。
各ブランドチェーンに共通し ているのは、手頃な価格で流行の衣類を提供すること だ。
そのためにインディテクスグループのすべてのブ ランドは、似通ったサプライチェーンの管理手法を用 いることで市場ニーズに迅速に対応している。
インディテクスは二〇〇二年までに三九カ国で一二 八四店舗をオープンした。
そして、この積極的な海外 進出はすべて手元資金によってまかなわれてきた。
二 〇〇一年の株式上場ですら、これによって成長資金を 得るためのものではなかった。
同社の成長を支えるビジネスモデルの基本は、?ネ ガティブ・ワーキング・キャピタル〞と呼ばれるもの だ。
支払いより先に、売上金を回収するという手法で ある。
インディテクスの売り上げが九一年の三億六七 〇〇万ユーロから二〇〇一年には三二億五〇〇〇万 ユーロに増え、同じく純利益が三一〇〇万ユーロから 三億四五〇〇万ユーロに拡大していることなどが、こ のモデルの成功を雄弁に物語っている。
多くの同業他社が苦戦を強いられた二〇〇一年だ けをみても、インディテクスの売り上げは前年比二 七%増を記録し、純利益も三二%伸びた。
この年の インディテクスのEBITDA(利払い前・税引き 前・償却前利益)とEBIT(利払い前・税引き前 利益)は業界トップだった。
成功のカギは欧州での集中出店 ザラはインディテクスのグループ企業の中で、総売 上の七五%を占める最大の部門である。
二〇〇三年 春までにザラは世界三三カ国に五六五店舗を展開し ている。
中でも最も店舗数が多いのは本国スペインで、ついでフランス、ポルトガル、メキシコ、ギリシャと なっている。
日本のような市場に対しては、潜在的な成長が見 込めるにもかかわらず、スペインと地理的に離れてい るという理由で、ザラは資本投下に慎重な姿勢をとっ ている。
八九年に最初の店舗をオープンしたアメリカ においてでさえ、同社は二〇〇二年までにわずか八店 舗しか展開していない。
ザラはほとんどの店舗を自社で運営している。
二〇 〇一年の時点では、わずか十二店舗が日本とメキシコ とドイツでジョイントベンチャーとして運営されてお り、三一店舗がフランチャイズ制を採っているに過ぎ なかった(すべてスペイン以外)。
ザラが新規出店のためのロケーションを決めるとき インディテクス及びザラの企業概要 親会社 インディテクス 本社所在地 スペイン東北部のラコルーニャ、1963 年創業 会長 アマンシオ・オルテガ・ゴアナ 従業員数 39760 人(2003 年期末時点) 店舗数 1922 店 売上高 45 億9890 万ユーロ 純利益 4 億4650 万ユーロ(同580 億4500 万円) うちザラの売上高 32 億1960 万ユーロ(同4185 億4800 万円) ザラの店舗数 626 店舗(2003 年期末時点) ※この企業概要はオリジナルの文章にはなく編集部の責任により書き添えた。
(5978 億5700 万円=いずれも2003 年決算数字、 1 ユーロ= 130 円換算) ……………… ………… ………………… …………… ……………… ……………… ……………… … ……… NOVEMBER 2004 28 には、コンスタントに黒字を確保できるだけの顧客が いる地域に店舗が属しているかどうか、広範囲にわた る市場調査を行う。
さらにザラは、常に人通りが多く、 一流の店舗が並ぶ商業地区に店を構えようとする。
こ うした土地は賃料が高いことも少なくないが、顧客が 心地よくのびのびと歩き回れるスペースを確保するこ とが売上増につながるという考えから、ザラの売り場 は常にゆったりとレイアウトされている(写真)。
店内のレイアウトや家具の配置、それからウィンド ーのディスプレイまで、すべてラコルーニャの本社で デザインしている。
新しい店舗を立ち上げる時には、 本社から?フライング・チーム〞が派遣される。
ザラのCFO(最高財務責任者)を務めるボージ ェ・デ・ラ・シエルバ氏は、その理由を次のように説 明する。
「本社の役割は、ストア・マネジャーが売り 上げや顧客対応に集中できる環境を整えること。
彼ら がエアコンのようなことに気を遣わなくていいように するのが我々の仕事だ」 店舗のロケーションや人通りの多寡、内部のレイア ウトといったことは、ザラにとって特に重要な意味を 持っている。
というのも、ザラはほとんど広告にお金 をかけていない。
二〇〇一年の実績を見ると、同業他 社が売り上げの三・五%を広告に費やしたのに対し、 ザラは〇・三%しか広告費を使っていない。
マーケティング担当役員のミギュエル・ディアズ氏 は「われわれにとって店舗と口コミこそが広告の役割 を果たすのだ」とその理由を説明する。
さらに店舗の 重要性を強調するために、こう続けた。
「インターネットはザラの小売り戦略にとってさほ ど大きなインパクトを持っていない。
顧客が洋服を買 うときには、実際に試着してみて、どのように見える のかを確かめる必要がある。
だから我々はウェブサイ トを通じて大量の商品が売れるとは思っていない」 典型的なザラの店舗は、婦人用、紳士用、子供用 の三つのセクションからなり、それぞれにマネジャー が配置されている。
婦人服が売り上げの六〇%を占め、 紳士服と子供服がそれぞれ二〇%を売り上げる。
スト ア・マネジャーは通常、婦人服のマネジャーが兼任し ている。
ザラはセールス担当者のトレーニングを大切にする と同時に、店舗内部からの昇進を特に重視している。
店舗で働く従業員の報酬は、月給と、店舗全体の売 り上げから分配されるボーナスから成っている。
ストア・マネジャーは各店舗の損益に責任を持つが、 商品の価格やコスト、商品の注文量を決める権限は 本社にある。
実際、ストア・マネジャーの評価を判断 する際の重要な基準は、どれだけ正確に売り上げを予 測できたか、そして結果としての売り上げの伸びであ る。
ストア・マネジャーを評価する単純だが大切な指 標は、一年前と比べてどれだけ売り上げが増えたのか だ。
具体的に言うと、二〇〇三年六月の第三木曜日 と、二〇〇二年六月の第三木曜日とを比較するとい った具合だ。
ザラの戦略は、一年を通して顧客に多種多様な製 品を供給し続けるというものだ。
ディアズ氏はこう言 う。
「我々はファッション業界に属しているのであっ て、普段着を売っているわけではない。
我々の顧客は、 商品そのものが気に入ったから買う。
ザラというブラ ンド名に引かれて買うわけではない」 顧客にとってザラの店舗とは、ファッションの最先 端の洋服を見つけることができる場所であり、そして より重要なことは、すべての商品が限られた数しか置 いていない場所であるということだ。
顧客が自分と同じ服を着ている人たちと頻繁に出く 顧客が心地よく買い物できるようにとゆったりと レイアウトされたザラの婦人服売り場 特集 中国シフトで変わる国際物流 29 NOVEMBER 2004 わして嫌な気持ちにならないようにという配慮から、 各店舗が抱える一アイテム当たりの在庫量は極力低く 抑えている。
一つの商品に対して、だいたい在庫は二、 三点といったところだ。
店舗のディスプレイで使って いる服が在庫のすべてであることすらある。
在庫を低く抑える結果、ザラの店舗では、閉店近く なると空になった棚をいくつも見つけることできる。
つまり、本社が新たにデザインした商品を切れ目なく 供給し続けなければ、店舗の運営そのものが成り立た ないのである。
主力は若いデザイナー陣 ザラの店舗が、最先端のファッションアイテムを手 頃な価格で提供し続けることが可能なのには理由があ る。
そのデザインから、原材料の調達、製造、輸送と いったサプライチェーン全体に、本社が強い影響力を 行使している。
ザラはすべての製品を自社でデザインしている。
デ ザイナーや市場動向の専門家、バイヤーからなる約三 〇〇人の?コマーシャル・チーム〞と呼ぶスタッフを 抱えている。
このチームが毎年約四万アイテムをデザ インし、そのうち一万アイテムが店頭に並ぶ。
同業他 社と違って、来シーズンのデザインと並行して、すで に市場に出回っている現行シーズンの製品の手直しも 行う。
同社のデザイン部門は活発でダイナミックな雰囲気 を奨励している。
あえて?プリマドンナ〞と呼ばれる ようなエースデザイナーは作らず、平均年齢も二六歳 と若い。
デザインのアイデアは、トレードフェアーや ディスコ、ファッションショーや雑誌などから吸収す る。
店舗から上がってくる多くの顧客の声も、デザイ ンに取り込んでいる。
婦人用、紳士用、子供用のデザイナーは、インディ テクスの本社に隣接する近代的なビル内の別々のホー ルに入居している。
それぞれの職場はオープンスペー スになっており、床から天井までガラス張りで、目の 前に広がる田園風景を楽しめる。
こうした職場では、デザイナーが一カ所に固まり、 中央には市場動向の専門家ばかりがいて、また別の一 角にはバイヤーが集まっている。
部屋の中心部には大 きな円形の机がいくつか置かれており、そこでいつで も好きなときに会議を開けるようになっている。
座り 心地のいいイスや、最新のファッション雑誌が並べら れたラックもある。
加えて、気楽に何でも話し合える 雰囲気がある。
まず、デザイナーが手書きでラフデザインを描き、 市場動向の専門家とバイヤーを交えて議論する。
どの 製品でも同じプロセスを経ることが、ザラの製品群に 一定のスタイルを維持するのに役立っている。
それか ら生地の波紋や色などを調整したうえで、コンピューターを使ってデザインを描き直す。
次の段階に進むときには、その製品が利益を生み出 せるかどうかの判断が必要になる。
それをクリアした ら、次は同じホールに居る熟練の職人たちが手作業で サンプルを作る。
もし質問や問題点などがあれば、職 人たちは同じホールにいる担当デザイナーのところま で歩いて行き、その場で話し合って即座に解決するこ とができる。
市場動向の専門家たちは、それぞれが担当している 複数の店舗との情報交換について責任を負っている。
ストア・マネジャー出身の彼らにとっては、担当する 店舗とどれだけ密接な関係を築けるかが腕の見せ所だ。
彼らは本社にありながら電話で店舗と頻繁に連絡を取 り、売り上げや注文状況、新商品、その他の関連事 ザラの本社に隣接する「デザイン・ホール」では 活発な議論が展開されている NOVEMBER 2004 30 項を常に話し合っている。
こうしたコミュニケーショ ンをより実りあるものにするため、ストア・マネジャ ーは市場データを簡単に本社と交換するための手のひ らサイズの機器を持っている。
どの製品を、どのタイミングで、どのくらいの分量 で作るかは、通常、デザイナーと市場動向の専門家、 バイヤーが一緒になって決定する。
いったん決まると、 材料の調達から製造、倉庫に置く在庫量の調整まで、 その後のすべての工程をバイヤーが管理する。
地域ごとのサプライヤーを使い分け ザラはほぼ五〇%の製品を、スペイン国内にある二 二カ所の自社工場(そのうち一八工場がラコルーニャ 近辺にある)で製造している。
しかし縫製については 協力会社を使っている。
自社工場はシングルシフトで 稼働しており、独立したプロフィットセンターとして 運営されている。
残り五〇%の製品は約四〇〇社あ る外部のサプライヤー(協力会社)に生産を委託して いる。
その四〇〇社のうちの七〇%はヨーロッパにあ り、残りはアジアにある。
ヨーロッパにあるサプライヤーの多くは、スペイン とポルトガルという至近距離に拠点を構えている。
拠 点までの距離が近いというメリットを利用して、ザラ はこうしたサプライヤーには最新の季節商品を?クイ ック・レスポンス〞で生産させている。
一方、リードタイムが長くかかるアジアのサプライ ヤーからは、生産スケジュールがあらかじめ決まって いる?定番商品〞を調達する。
アジアのサプライヤー は、品質の高さと低コストに定評があるからだ。
大量 で安定した注文を出すザラは、多くのサプライヤーか ら得意先とみなされている。
どこのサプライヤーから何を仕入れるかは、通常、 バイヤーが決定を下す。
この決定を下すための大切な 基準は、生産のスピードとコスト、それに十分な製造 能力である。
もしバイヤーが、ザラの自社工場からで は納得のいく価格やリードタイム、品質が望めないと 判断すれば、自由に外部の工場を使う権限が与えられ ている。
自社内で製造するとき、ザラは調達する繊維素材の 四〇%を親会社インディテクスの別の子会社であるコ ムディテルから仕入れている。
コムディテルの売り上 げのほぼ九〇%はザラとの取引だ。
こうして仕入れる 繊維素材の半分以上は、色を染める前の状態で購入 する。
シーズン途中で、売れ筋の色に素早く染め変え るためである。
容易に色を変えられるように、ザラは ファブリカラーという会社とも密接に連絡を取り合っ ている。
同じくインディテクス傘下のこの会社にとっ て、ザラとの取引は全体の二〇%を占める。
残りの繊維は二六〇社のサプライヤーから購入して いる。
特定のサプライヤーに依存し過ぎないようにと いう配慮と、サプライヤー同士の競争を奨励する目的 から、いずれのサプライヤーとの取引もザラの総取引 の四%を超えないようにしている。
ザラの社内でCAD(コンピューターによる設計・ 製造)を使って素材を裁断し、続いて協力会社が縫 製を行う。
協力会社は、裁断された繊維やボタン、ジ ッパーなどを、指定された工場までトラックで取りに 来る。
ラコルーニャには約五〇〇社の協力会社があり、 そのほとんどはザラの仕事だけを手掛けている。
品質 の維持や労働法の順守、それに製造スケジュールに間 に合っているかどうかを確かめるため、ザラは彼らの 業務を常に注意深くチェックしている。
縫製を終えた協力会社は、受け取りに来たのと同じ 工場に縫製済みの製品を運び込む。
製品はアイロンが 協力輸送会社の車両にはザラのロゴが印字されている 31 NOVEMBER 2004 けのときに一つずつ規格に合っているかどうかを検査 する。
こうして完成した製品にラベルをつけ、プラス チックの袋に詰めて、物流センターに送り込む。
ラコルーニャにある一〇カ所の工場と物流センター の間には、空気圧を利用する輸送管が設置されている。
製品はこの輸送管で物流センターへと送られる。
また、 外部のサプライヤーから調達する完成品については直 接、物流センターへと運び込まれる。
このような製品 については、抜き取り検査の方法を用いて品質管理を 行っている。
二四時間で欧州内の全店舗に納品 すべての製品は、ラコルーニャにあるザラの大型物 流センターを通過する。
五階建てで延べ床面積五万 平方メートルのこの物流センターは、最新鋭のオート メーション機器を備えている。
物流機器の多くは、デ ンマークのサプライヤーの協力を得ながらザラとイン ディテクスの社員が開発したものだ。
約一二〇〇人が働くこのセンターは、一週間に四 日稼働している。
実際に何人が作業に従事するかは、 その週に発送される製品の分量によって決まる。
製品 が到着してから八時間で、各店舗の注文はすべて箱詰 めされ、ハンガー輸送が必要な製品はラックに掛けら れて発送準備が整えられるようになっている。
興味深いことに、二〇〇一年六月の段階でインデ ィテクスは、ラコルーニャの物流センターがまだ許容 量の半分も使っていなかったにもかかわらず、二〇〇 一年一〇月に一億ユーロ(約一三〇億円)を投じて スペイン東北部のサラゴーサに新たな物流センターを 作ると発表した。
「この件に関して、財務的な正当性 を尋ねないでほしい」。
デ・ラ・シエルバCFOは冗 談めかして言う。
ラコルーニャにある物流センターに加えて、ザラは 季節が逆転する南半球の在庫を調整するためブラジル、 アルゼンチンとメキシコにも倉庫を持っている。
二〇〇一年の一年間でザラは物流センターから一 億三〇〇〇万ピースの製品を出荷した。
つまり典型 的な日には一日四〇万ピースが出荷されたわけだ。
こ のうち七五%の製品はヨーロッパ域内の店舗に向けて 配送された。
ザラは毎年、三〇万SKUの新商品を 投入する(一年間で約一万アイテムの新モデルを出し、 それぞれ五〜六色と五〜七サイズがあるため)。
契約 している輸送会社は、ラコルーニャでザラのロゴの入 ったトラックに製品を積み込み、ヨーロッパ中のザラ の店舗へと直送する。
すべてのトラックは、バスの時刻表のように細かく 決められたスケジュール通りに運行される。
例えば、 オランダの店舗からの注文は、木曜日の午前六時にラ コルーニャを出発するトラックに積み込む。
このため ラコルーニャへの帰り便を使って、別の荷物を運ぶことも容易にできる。
たとえば、中国から出荷された製 品を、ロッテルダムの港で積んでラコルーニャに運ん でくるといった具合だ。
航空便で出荷する製品については、ラコルーニャ空 港か、より大きなサンティアゴ空港を利用する。
通常、 ヨーロッパの店舗なら発注から二四時間以内に商品を 受け取ることができる。
アメリカなら四八時間、日本 なら四八〜七二時間となる。
発注から納品までのリードタイムは、ザラにとって 最も重要な事柄である。
同社のある役員は「我々にと って店舗までの距離とは、キロメートルで測るもので はなく、まさにリードタイムを意味している」と語る。
さらに同業他社のそれとは違って、ザラの物流には誤 出荷や荷痛みがほとんどない。
その精度は九八・九% 特集 中国シフトで変わる国際物流 NOVEMBER 2004 32 であり、シュリンケージ(紛失や万引きなどによる物 流上のロス)も〇・五%未満に過ぎない。
店舗からの発注は締め切り厳守 各店舗は一週間に二回発注して、同じく週に二回 商品を受け取る。
いつも決まった時間までに発注を行 わなければならず、スペイン国内や南ヨーロッパの店 舗なら水曜日の午後三時と土曜日の午後六時まで、そ れ以外の店舗は火曜日の午後三時と金曜日の午後六 時までとなっている。
もし締め切り時間に間に合わな ければ、次の機会まで発注を待たなければならない。
「われわれは締め切りを厳守している。
サプライチ ェーン全体の流れを効率化するためにも、その基点と なる発注は時間通りでなければいけない」とマーケテ ィング担当役員のディアズ氏は言う。
同じ商品が二週間以上店舗にとどまることのないよ うに、ザラはシーズン前の在庫は極力抑えている。
そ して、シーズンが開始してから売れ筋を見極めながら 迅速に商品を投入する。
これはシーズン前に在庫量を 決めようとする業界の慣習とは逆である。
ここに業界平均のシーズン前の店舗在庫の数字があ る。
例えば、秋冬物を店舗に運び込む七月下旬には 通常、予想する売れ行きの四五%〜六〇%分の商品 在庫を店舗で持つ。
これがザラの場合は一五%〜二 〇%と半分以下になる。
シーズンに入るとザラの店舗 在庫も補充され四〇〜五〇%に増えるが、同業他社 の店舗の場合はほとんど補充がないか、あってもシー ズンの売り上げの二〇%どまりである。
ザラのサプラ イチェーンが、正確な需要予測と、店舗からの売れ筋 情報を基に、市場の変化に俊敏に対応できていること の証左である。
それでも、もし商品が同じ店舗に二、三週間も売れ 残ったままだったら、ルート配送のトラックを使って、 同じ国内の別の店舗かスペインの店舗に横持ちする。
だがCFOのデ・ラ・シエルバ氏は、「店舗間の横持 ち分は店舗在庫の一〇%以下にとどめるようにしてい る」と言う。
実際、スペインに送り返される商品は、 全体から見れば取るに足らない分量でしかない。
ザラの店舗では新商品が次々と搬入され売れていく。
一度売り切れた人気アイテムの多くは再び補給されな いことを顧客も知っているため、すぐに買おうという 気になる。
こうしたすべての事柄が、ザラが同業他社 と比べて在庫を低く抑えていることにつながる。
このためシーズン終わりのバーゲンで叩き売る商品 の総量が少なくてすむ。
業界平均では、バーゲンの安 売り分を加えると、すべての商品を正規の価格で売っ た場合に対して実際の収入は六〇〜七〇%にとどま る。
これがザラの場合は八五%にまで上がる。
フランチャイズ制を見越した将来図 ザラは現在、世界中に約六〇〇店舗を構え、新た に毎週二店舗ずつオープンしている。
また、新店舗で は従来よりも大規模化することで増え続ける商品を売 りさばけるように工夫している。
約九〇%の新店舗がスペイン国外でオープンしてい るのも最近の特徴だ。
ほとんどの店舗は直営店だが、 ザラが打ち出した新たな二カ年計画では、出店する店 舗の三分の一はジョイントベンチャーかフランチャイ ズ方式を採るという。
もちろん、ジョイントベンチャーやフランチャイズ 方式で店舗を増やしていく利点は、すでに業界で十分 に認知されている。
その先駆けとなったのがベネトン で、二〇〇一年には一二〇カ国に六五〇〇のフラン チャイズ店を持ち、革新的なファッション業界のサプ ■ファッション業界の主要各社の売上高に占める在庫の割合(2000年と2001年)。
35.0 30.0 25.0 20.0 15.0 10.0 5.0 0.0 ホーゲル ベネトン マタラン GAP H&M インディテクス (ザラ) 27.5 30.5 14.7 16.3 13.0 12.9 12.1 13.9 10.9 14.6 10.9 9.4 2001年 2000年 (%) 33 NOVEMBER 2004 ライチェーンを作り出して成功を収めている。
フランチャイズ方式の利点は、容易に海外に店舗を 増やすことができ、財政上のリスクも少ないことだ。
遠く離れた店舗の売り上げを細かくフォローする必要 もない。
ザラと違ってベネトンは、フランチャイズ店 の在庫を自社の在庫として負担してないためだ。
もしザラが今後も海外で店舗を増やし続けるとした ら、ベネトンのようなフランチャイズ方法を採るよう になるのだろうか。
もしそうだとすれば、フランチャ イズ方式は、ザラがこれまで同業他社との差別化に成 功する要因となってきた緻密なサプライチェーンの仕 組みにどのような影響を与えるか。
今後、ザラの成長 物語の?第二章〞がどのように続いていくのか、業界 内外の注目が集まっている。
特集 中国シフトで変わる国際物流 本稿は『サプライ・チェーン・フォーラム』誌の2003 年第2号に掲載された記事を、同誌の許可を得て翻訳した。
同誌はフランスのボルドー・ビジネス・スクール内にあるサ プライチェーン・エクセレンス機構が年二回発行している。
同誌の内容や概略などについてはhttp://www.supply chain-forum.comで閲覧可能。
なお、この論文の完全原 稿(雑誌掲載のために要約する前の段階の論文)は、イン ディアナ大学の「International Business Education and Research(CIBER)」(後援:Production and Operations Management Society=POMS)におい て2003年度のケース部門賞を授与された。

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