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DECEMBER 2004 40
メルシャンは二〇〇二年春から、生産・販
売・物流のプロセスを効率化する「カエルプ
ロジェクト」に取り組んできた。 同社の主力
事業である酒類カンパニーを舞台に、?ワイ
ン・洋酒などの各事業部と、?営業部門の支
社、および?生産・物流部門という三つのグ
ループがプロジェクトを推進している。
関係部門ごとに管理指標を設けて目標達成
のためのマネジメント・システムを確立し、
その結果として利益改善を図るというのがプ
ロジェクトの狙いだ。 これによって調達や生
産・物流コストの低減、在庫圧縮、営業活動
の生産性向上などによるトータルコストの削
減をめざしている。
三つのグループのうち生産・物流グループ
は、ロジスティクス部と酒類製造部、購買部
によって構成されている。 各部は共通の目標
として在庫削減を掲げながら、工場などを実
行部隊とするサプライチェーン・マネジメン
ト(SCM)を推進してきた。 こうした取り
組みの結果、「カエルプロジェクト」では、す
でに一〇億円の物流コスト削減を達成してい
る。
一〇年以上前に組織を統合
メルシャンには、生産部門と物流部門とが
一体となって在庫削減を進めてきた歴史があ
る。 同社は九三年三月に生産・調達・物流
部門を統合して「生産物流部」という組織を
発足した。 この組織が現在のロジスティクス
生産と物流が一体でSCMに注力
在庫4割減・物流費10億減を実現
3年間で4割近くの在庫削減に成功した。
実需に応じて小刻みに生産するSCMシス
テムが軌道に乗り、生産部門と物流部門
が一体となって在庫減らしに注力した成
果だ。 無在庫中継方式で直送する物流ネ
ットワークの構築も寄与した。
メルシャン
――在庫削減
41 DECEMBER 2004
部の前身となっており、今回のプロジェクト
の成果はこうした積み重ねを土台として実現
した。
一〇年以上前の組織統合によってメルシャ
ンは、生産計画の立案から原料・資材、およ
び輸入品の調達、在庫配分・輸送計画作成
までの機能を一元化した。 このとき現在にまで至る同社のロジスティクスの基本的な体制
ができあがった。 まず事業部が予算計画を立
てる。 その利益目標を達成するために生産物
流部が生産・調達・物流計画を立案して最
適な仕入れ・生産・物流体制を決め、コスト
削減にまで責任を負うという体制である。
その後、組織の名称は生産物流部からロジ
スティクス統括部に変わり、さらに二〇〇四
年四月に発足したロジスティクス部へと変遷
してきた。 ただし、生産と物流が一体になっ
て在庫削減に取り組むという基本は変わって
いない。
もっとも二〇〇一年に自社開発したSCM
システム「メルクス」がフル稼働してからは、
ロジスティクス部の守備範囲は従来より広が
った。 生産・調達・物流計画の立案だけでな
く、新たに販売予測業務が加わり、支社の受
注機能を吸収するなど営業活動の領域にまで
踏み込むようになった。 その一方で、SCM
システムのなかに計画作成のプロセスのない
工場の製造管理や購買管理のための組織は分
離し、それぞれ酒類製造部、購買部として独
立した。
現在のメルシャンのロジスティクス部は、
「メルクス」の運用を軸に需要予測から生産
計画・在庫補給計画までをトータルで管理し、
生産部門と協力しながらコストダウンを進め
る役割を担っている。
同部は「SCM推進グループ」および「営
業ロジスティクスグループ」という本社組織
と、「物流管理センター」、「受注センター」と
いう実務部隊からなる。 SCM推進グループ
はSCMシステムの構築と運用を担当。 また、
営業ロジスティクスグループは主に物流ネッ
トワークの構築に携わっており、このほかに
営業部門と連携しながら商品が出荷した後の
小売店での実売情報の収集などにもあたって
いる。
小刻みに作り効率よく出荷する
こうした組織体制のなかでロジスティクス
部門は、生産部門と協力しながら在庫削減に
取り組んできた。 具体的には、まず工場の生
産体制を見直すことが在庫削減には最も有効
だという考え方を、工場と共有するところか
ら始まった。
理屈では、一カ月に一回しか生産していな
い製品を、二回に分けて生産すれば月間の平
均在庫数量は下がる。 つまり生産を小刻みに
行うことで在庫を減らすことができる。 生産
の頻度を上げると製造ラインを切り替えるた
めの時間やコストは増加してしまうが、在庫
削減によって商品の陳腐化による棚卸処分損
をなくせばキャッシュフローの改善につなが
る。 保管料などの物流コストも減る。 トータ
ルコストを削減するには、生産効率を追及し
ていた従来のやり方より、生産頻度を高める
方が有効だという論法である。
まずはこの認識を生産部門と共有したうえ
倉庫・デポ
◆SCMシステムの概要
海外メーカー
得意先
購買部 製造部
生産指示
発注
支社
出荷変動情報
事業部
ロジスティクス部
包材・原料必要数
物流管理
センター
配送計画
出荷計画
原材料
調達先
Poket
システム
発注計画
システム 在庫計画
システム
貨物追跡
システム
生産計画
システム
情報の流れ
物の流れ
PKチーム 出荷計画
工 場
で、小刻みな生産体制を実現するための生産
計画システムの開発にとりかかった。 月次だ
った生産管理を週次に短縮して、在庫変動が
一定の数値内におさまるようにコントロール
しながら、週の初めに在庫数量と販売計画を
もとに生産数量を決定し、毎週見直しを行っ
ていく。 これに続いて需要予測システム、資
材・輸入品発注システム、在庫補給システム
を相次いで開発し、二〇〇一年にこれらのシ
ステムをつないで「メルクス」として本稼動
させた。
並行して生産体制も見直した。 まず、工場
の勤務を三交代制に変えて稼動率を上げた。
続いて首都圏で工場の統合に着手し、首都圏
にある藤沢・川崎・流山という三つの工場の
瓶詰め工程を藤沢工場一カ所に集約した。 藤
沢工場ではそのために全面改築を行い、これ
までに包装棟、物流棟(物流センター)、製
造棟の順でリニューアルを行ってきた。 現在
もまだ製造棟の工事が続いているが、来年春
にはすべて完了する予定だ。
このリニューアルによって、数量比で全製品の八五%を藤沢工場で瓶詰めできるように
なった。 物流棟でも、二二機のスタッカーク
レーンを備えた自動倉庫や、パレット上に複
数アイテムを自動で積み付けるピッキングロ
ボットなどの導入によって機械化を進めて、
出荷機能を大幅に強化した。
以前、メルシャンの首都圏向けの出荷基地
は、川崎にある「物流管理センター」一カ所
だけだった。 各工場で生産した商品や輸入品
をすべて川崎のセンターで一元管理して、各
地のデポへと補給していた。 物量の多い時期
に川崎センターの保管スペースが足りなくな
ると、周辺に外部倉庫を借りていた。 いった
ん工場の製品を外部倉庫に保管しておき、こ
れを川崎センターに横持ちしてから出荷する
という非効率なかたちになっていた。
この物流体制を、藤沢工場の物流センター
が完成したときに刷新した。 出荷基地を川崎
の物流管理センターのほか、藤沢工場の物流
センターと、横浜の倉庫の三カ所に増やし、
取扱商品と出荷エリアによって各拠点を使い
分けるようにしたのである。
藤沢工場で生産する商品の大半は、藤沢物
流センターから全国に出荷する。 このうち生
産数量の少ない商品と他工場製品および輸入
品は、東日本向けは川崎物流管理センターか
ら出荷し、西日本向けを横浜の倉庫から出荷
するようにした。 三カ所から出荷する体制を
とることで、一時保管用に確保していた外部
倉庫をすべて廃止した。
中継方式でデポ(在庫拠点)を廃止
配送については、すでにこれ以前から無在
庫中継拠点を経由するクロスドッキング方式
を採用していた。
例えば、青森には無在庫中継基地が二カ所ある。 青森の得意先から発注のあった商品を、
藤沢と川崎のセンターでそれぞれの中継基地
別にトータルピッキングして、夜間から翌朝
にかけて大型車で基地まで運ぶ。 基地には事
前にピッキング情報が送られているため、ト
ラックが着き次第、配送先別の仕分け作業を
開始する。 仕分けを終えてからルート別に二
トン車に積み込み、午前中のうちに顧客へと
配送する。
かつてメルシャンでは全国各地にデポ(在
庫拠点)を置いていた。 だが、この無在庫中
継配送の採用によって、二〇〇一年秋までに
東北・北陸・中部および東京地区のデポを相
次ぎ廃止した。 昨年一〇月には広島のデポも
廃止し、大阪のデポからの中継配送に切り替
DECEMBER 2004 42
メルシャンの針生健二ロジステ
ィクス部長
メルシャン藤沢工場の外観
物流センターの設備イメージ
包装棟、物流センター、製造
棟を順番にリニューアルした
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えた。 すでに無在庫基地は全国に三〇数カ所
あり、運送会社一〇社に中継配送を委託して
いる。
現在、残っているデポは札幌・大阪・熊
本・沖縄の四カ所に過ぎない。 同社では、全
国で翌日午前中という短いリードタイムの配
送サービスを実施しているため、首都圏の工
場から遠距離にあるこれらのデポでは在庫を
持って対応するという体制をあえて維持して
いる。
無在庫中継配送への切り替えによるデポの
廃止と、二〇〇一年の「メルクス」の稼動に
よって、本格的な在庫削減のための環境が整
った。 そして、この環境下で二〇〇二年に
「カエルプロジェクト」がスタートした。 これ
までにメルシャンの総在庫は二〇〇一年比で
三分の二以下に減り、これがトータルコスト
の削減に大きく寄与している。
業務推進本部副本部長(執行理事)を兼
務するメルシャンの針生健二ロジスティクス
部長は、生産物流部の時代からロジスティク
ス部門に籍を置き、在庫を減らすための社内
啓蒙に力を入れてきた。 針生部長はプロジェ
クトの成果について、「みんなの意識が変わ
ったことが一番の要因」と強調する。
「工場は生産効率だけ考えるのを止め、営
業も欠品を恐れて安全在庫を多く持つという
発想を捨てた。 利益を上げるためには在庫を
減らさなければいけない、という一つの方向
にベクトルをあわせることができた。 これが
根本にあったからこそ、SCMシステムの導
入やデポの整理、生産体制の変更などの効果
が浸透した」
全国規模の貨物追跡システムも
「カエルプロジェクト」のなかで生産・物流
グループは、在庫削減のほかにも輸配送コス
トの削減や顧客満足向上などをテーマにサブ
プロジェクトを次々と立ち上げてきた。 現在
でも十三のサブプロジェクトが進行しており、
具体的なテーマは「例外出荷を減らす」、「大
口直送を増やす」、「滞留品の早期処理」など
さまざまだ。 あるサブプロジェクトの成果が
上がると終了し、また次のテーマを探すとい
うことを繰り返している。
こうしたサブプロジェクトのなかから、物
流システムの高度化につながる成果も生まれ
ている。 今年から導入をスタートした全国規
模の貨物追跡システムが、その一つだ。
得意先からの配送状況の問い合わせにもっ
と迅速に対応する方法はないか、という長年
の懸案がこのサブプロジェクトのテーマだっ
た。 前述した通りメルシャンには首都圏の三
カ所の出荷基地と、地方にある四つのデポ、
三〇数カ所の中継配送基地がある。 これらの
デポや基地の輸配送を担当する運送会社は、
メルシャンと直接取り引きのあるところだけ
でも十数社ある。 さらにその委託先や、緊急
時などに利用する宅配業者まで加えると大変
な数にのぼる。
大手の特別積み合わせ業者や宅配業者は、
それぞれ独自のシステムで貨物追跡を実施し
ているが、地域の配送業者にはその仕組みが
ない。 物流管理センターに「サービスセンタ
ー」を設けて問い合わせへの対応を集約して
はいるが、実際の業務はきわめて煩雑だ。 問
い合わせのあった地域を担当する運送業者を
納品伝票の控えをもとに割り出し、電話で業
者に連絡をとる。 そのうえで業者がドライバ
ーから事情を聞いて、ようやく配送状況を把
握できるというのが実態だった。
これを改善するため、運送会社に協力を呼
びかけて、どの業者の配送状況も一律に照会
できる方法を検討してきた。 その成果が実っ
て、今年からASPサービスによる貨物追跡
システムの導入を始めた。 運送会社にASP
サービスを提供するソフト会社のサーバーに
1階の平置き倉庫
リフター
自動ピッキングロボ
2階の立体自動倉庫
メルシャン藤沢物流センター
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アクセスしてもらい、インターネット経由で
情報の照会が可能になる仕組みだ。
大手宅配業者とはシステム上の連携をとり、
また地域の配送業者には事務所のパソコンやドライバーの携帯電話から「配送完了」など
の情報を入力してもらう。 そうすることでサ
ーバーで配送状況を一
元的に管理し、その結
果をメルシャン側はい
つでもどこでも自社で管理する出荷番号から
照会ができる。 問い合
わせへの対応を迅速化
でき、顧客へのサービ
スは着実に向上する。
年内にはこのシステム
の全国展開を終える予
定だ。
「カエルプロジェク
ト」は今年で終了する。
そして来年度からは、
また新たに全社的なコ
スト削減のプロジェク
トがスタートする。 ロ
ジスティクス部として
は「より一層の在庫削
減を進めるため」に営
業部門との連携強化
を図っていく方針だ。
今年一〇月末には、
バージョンアップした
需要予測システム「ポ
ケット」が、「メルク
ス」との連動によって本格稼動した。
従来の「メルクス」の予測システムは、過
去の実績と現在の販売の動きをグラフで追い
ながら予測を立てるという単純な仕組みに過
ぎなかった。 この予測値を参考に各支社の担
当者が販売計画を立てて、それを積み上げた
数字をもとに生産計画などの立案を行ってい
たため、各支社の思惑が入り計画値と実際の
需要との乖離率が二、三割と高かった。
そこで、精度の高い予測システムのパッケ
ージソフトを新たに導入した。 支社には小売
りチェーンにおける商品の新規採用や改廃、
特売情報などだけを入力してもらい、あとは
コンピュータが自動的に販売計画の作成まで
を行う。 この「ポケット」の仕組みでは、支社の営
業マン一人一人が情報をどれだけ正確に入力
するかという運用が鍵を握っている。 このた
めロジスティクス部では現在、「ポケット」専
任のチームを設けて営業部門との連携を強化
している。
メルシャンは「ポケット」の導入によって、
計画値と実需の乖離率を一割以内に抑えるこ
とを狙っており、それによって「さらに安全
在庫水準を下げることができる」(針生部長)
と期待している。 現在、メルシャンの国産品
のトータル在庫日数は平均で三〇日。 ロジス
ティクス部では今後、これを二〇日まで短縮
することをめざしている。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
報告・電話 報告・電話/無線
◆貨物追跡のシステムを刷新した
納品先店舗
納品先店舗
業態担当者
報告・電話
報告・電話 報告・電話
回答時間
インターネットサービス
配車担当者
配車担当者
物流センター
担当者
物流センター
担当者
担当者営業
(外出先)
ドライバー
ドライバー
情報入力
新サービスモデル
従来型モデル
n1 n2 n3 n4
n8 n7 n6 n5
n0
業態担当者
n1の発生時点で既に何時間か経過して
いる状況が多い現状
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