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19 DECEMBER 2004
キャッシュフロー経営のキーマン
「ロジスティシャン
!?
何、それ?」
そう思われた読者の方は、ぜひ拙稿を読み進めて下
さい。 この言葉、まだ辞書にも掲載されていません。
とりあえず本稿では、「ロジスティクスに携わる人」と
いった程度の緩やかな定義で話を進めていきます。
筆者は前職でメーカーの海外営業部門の、主に発
展途上国を担当している、なかなか優秀な営業マンで
した。 当時は「ロジスティクス」の知識は皆無で、言
葉すら聞いたことがありませんでした。 しかし今にな
って考えれば、営業マンとして順調に業績を伸ばして
いたのはロジスティクスのお陰だったと思います。
私が担当する以前は、途上国向けの取引は、二〇
フィート/四〇フィートといった海上コンテナ単位が
主でした。 海外の商取引では、物流費は売り手ではな
く買い手の負担です。 運賃は先方に実費を請求します
(ただし、輸出申請やL/Cの手数料などの各種の貿
易実務の諸費用は売り手の負担です)。
それまで取引先の多くは、物流費を削減するために、
コンテナ単位の大きいロットで発注していました。 と
ころが筆者が担当する前後から少量の航空便の受注
が増え始めました。 当然、取引先の物流コストは増大
します。 それを理由に同僚や先輩の営業マンは、商談
時に大口出荷を薦めていました。
しかし筆者は顧客の要望どおり少量の出荷に応じて
いました。 顧客が小ロット購入を希望する理由を知っ
ていたからです。 超低金利の日本にいると忘れがちで
すが、発展途上国では借り入れ金利がベラボウに高い
のです。 一五%はざらで、地域によっては二五%とい
うことも珍しくありません。
借入金利が高いと、在庫の持ち越しは命取りになり
ます。 一割でも売れ残ったら、利益が吹っ飛ぶどころ
か、借金だけが残るのです。 キャッシュフロー経営と
いう言葉は当時まだ一般的で無かったと思いますが、
現実には既に、物流コストが増えても、棚卸資産(在
庫)の陳腐化リスクを軽減するキャッシュフロー重視
の経営に移っていたのです。
ご承知のとおり、キャッシュフロー経営には、棚卸
資産の最適化や在庫回転率向上の実現といったロジ
スティクスの構築が不可欠です。 本稿では、ロジステ
ィクス構築を支える人的資源であるロジスティシャン
について、述べたいと思います。
物流とロジスティクスの違い
『物流マン』と『ロジスティシャン』についての説
明の前に、物流とロジスティクスの違いに触れておく
必要があります。 図表1は、日本工業規格(JIS)、
ロジスティクス用語辞典、広辞苑による物流とロジス
ティクスの定義(説明)を整理したものです。 文面だけで理解するのは難しいでしょうから、寿司
屋の仕事を例に違いを説明します。 ネタの鮮度が品質
に重要なインパクトを与える寿司では、前日の売れ残
りの鮮度の落ちたネタでは、美味しくない寿司を提供
すること、つまり顧客サービスの低下につながります。
また、売れ残りのネタを破棄することになれば(不
良在庫の処分)、その分だけ利益を圧迫することにな
ります。 寿司屋の大将が在庫(仕入れ)と仕掛品(仕
込み)を最適化することにより、新鮮なネタで顧客満
足度を高めるだけでなく、ネタの処分損が少ない分、
利益率も高まります。
企業活動も同様です。 原材料や製商品の過剰在庫
は、経営に悪影響を及ぼします。 街の寿司屋であれば、
大将が経験に基づき、最適化に向け一人で判断すれ
ロジスティシャンの役割
欧米の産業界では、ロジスティクスの専門家は「ロジスティシ
ャン」と呼ばれ、その役割が重視されている。 ロジスティクス最
高責任者、CLOともなると上席副社長として営業担当責任者よ
りも上位に置かれるのが普通だ。 それだけにロジスティシャンに
求められる能力要件もハイレベルだ。
第3部
浜崎章洋 日本ロジスティクスシステム協会 関西支部マネジャー
DECEMBER 2004 20
ば良いのですが、一定の規模のある会社組織ともなる
と購買・生産・販売・物流など部門間の調整が必要
になります。
しかし企業では、購買部門は調達コスト低減、生
産部門は製造原価低減というように、従業員の評価
に部分最適の尺度を用いることが多いため、部門間の
調整は容易ではありません。 購買・製造部門は、コス
ト低減のため発注量や生産の単位を大きくしがちで、
結果として余分な在庫を抱えてしまうことになります。
それを避けるには、従来型の部門最適を目指す組織や
評価尺度ではなく、生産・販売・物流などの業務を
総合的に最適化するための意思決定ができる組織と
評価尺度が必要です。
このように会社全体を最適化することが「ロジステ
ィクス」の役割だと筆者は考えます。 一方、「物流」
を寿司屋の仕事に例えると、店内の給仕や出前(配
達)、厨房に材料や調理器具を効率よく適正な状態で
収納する(保管)、お土産用の折詰(包装)などに当
たります。
「在庫管理」の二つの側面
次に図表2を参照ください。 これは、製造業と流通
業の約一〇社に、ロジスティクス部門の役割の実態を
筆者がヒアリングした結果をまとめたものです。 パタ
ーン?と?は従来からある物流部や物流管理部、ある
いは物流企画部といった組織の業務内容です。 ここで
は?に注目し、ロジスティクス部門の役割について説
明したいと思います。
筆者は、ロジスティクス部門の役割は二つあると考
えています。 ひとつは在庫すなわち棚卸資産の陳腐化
を最小化するとともに、顧客や納品先への欠品、調達
先(仕入先)の欠品など機会損失の最小化など、在
庫マネジメントにスコープをあてたものです。 筆者は
これを「在庫政策」と名付けました。 このような機能
は、一般的には「在庫管理」と呼ばれているので、少
し説明が必要だと思います。
「在庫管理」は、立場によって定義や意味が異なり
ます。 例えば、物流会社や荷主企業の物流部門にと
って、在庫管理という言葉は、製品や商品が過不足
なく管理されているかという「現品管理」の意味か、
あるいは製商品が適正な状態で、かつ効率よく保管さ
れているかと言った「保管管理」の意味で使われるこ
とが多いです。 いわゆる英語の「Stock Control
」に
図表2
輸配送、保管、荷役、包装、流通加工など物流の機能を実務とする、あ
るいはその管理の機能である物流部や物流管理部の名称をロジスティクス
と変えただけ。 この場合、ロジスティクス部門が管理把握しているのは、
多くは販売物流だけであり、調達や製造、販売部門等と連携した適正在庫
水準の管理などは行っていないことが多い。
上記よりは発展的で、物流システムの企画が主な仕事である。 この段階
では、物流業務を外部委託(アウトソーシング)していることがあるため、
パートナー企業の管理と評価が主な仕事としている。
需要予測や需給調整により、在庫の陳腐化と機会損失を最小化するとと
もに、各部門の全体最適化によるトータルのロジスティクスコストを最小
化することが役割となっている。
パターン?
パターン?
パターン?
物流部門の名称が変わっただけ
物流システムの企画、物流協力会社の管理が主な役割
需給調整機能など「調達・生産・販売・物流」を最適化する役割
製造業者10社へのヒアリング調査をもとに作成(2002/8 浜崎)
物資を供給者から需要者へ、時間的、空間的に移
動する過程の活動。 一般的には、包装、輸送、保管、
荷役、流通加工及びそれらに関連する情報の諸機能
を総合的に管理する活動。
調達物流、生産物流、販売物流、回収物流など、
対象領域を特定して呼ぶこともある。
アメリカのマーケティング関係者によって、流通
の物理的側面の管理について主張された“physical
distribution”の直訳語である「物的流通」の省略語。
商品の供給者から需要者・消費者への供給につい
ての組織とその管理方法およびそのために必要な包装、
保管、荷役、輸配送と流通加工、ならびに物流情報
の諸機能を統合した機能をいう。 (以下省略)
モノを生産者から消費者へと流通させる上で必要
な包装・荷役・輸送・保管および情報流通などの諸
活動の全体
物資流通の活動目標を最終需要の必要条件や環境
保全などの社会的課題への対応に求め、包装、輸送、
保管、荷役、流通加工及びそれらに関連する情報の
諸機能を高度化し、統合化を進めるとともに、調達、
生産、販売、回収などの分野との一体化、一元化を
図る経営活動。
もともと軍隊で武器、食糧などの補給を行う兵站
の意味であるが、その考えを物的流通に当てはめ、
単に物流部門の局部的な効率化を図るのではなく、
原材料の調達、生産、保管、販売、情報などの全体
的な流れを総合して、統合的なシステムとすること
を意味する。 ロジスティクスは、消費者の要請を基
本として、販売・製造・調達を統合したマーケット
インの戦略的な考え方で、プロダクトアウトの考え
方による物流とは立脚点を異にする。
企業が、必要な原材料の調達から生産・在庫・販
売まで、物流を効率的に行う管理システム
日本工業規格(JIS)1999年
基本ロジスティクス用語辞典[第2版]
(社)日本ロジスティクスシステム協会
監修
広辞苑[第5版]
物流(物的流通) ロジスティクス
図表1
21 DECEMBER 2004
あたる部分です。 これに対して在庫を最適化するとい
う「Inventory Management
」にあたる部分を「在庫
政策」として区別しています。
余談になりますが、大手流通業A社では、「商品が
あれば販売できた」という販売機会損失額を年間数
千億円と推測しています。 在庫政策は、単に総在庫
量を減らすだけでなく、欠品などによる販売機会損失
も最小化しなければなりません。 そのためには、欠品
や過剰在庫を発生させない需要予測や需給調整の機
能、欠品が予想される状況下では迅速に供給するリー
ドタイム削減の機能、生産(仕入)計画を流動的に
日々更新できる柔軟な体制の機能などが必要です。 在
庫政策とは、販売機会損失の最小化と棚卸資産の陳
腐化を防止するためのトータル在庫のマネジメントだ
と言えるでしょう。
ロジスティクスの重要な役割の二つめは、ロジステ
ィクスコストの最小化です。 これについては長年、コ
スト削減に取り組んでこられた実務家の読者の皆様に
説明は不要だと思いますので、本稿では説明を割愛い
たします。 図表3は、在庫政策とローコストオペレー
ションというロジスティクス部門の役割をイメージ化
したものです。 ロジスティクスとは、事業活動そのも
のと言えるでしょう。
物流マンからロジスティシャンへ
前置きが大変長くなりましたが、物流とロジスティ
クスには、明らかな違いがあることはご理解いただけ
たと思います。 違いがあるということは、担当者に要
求される課題/任務、求められる能力も異なるという
ことです。
まず、物流マンに求められる能力要件について説明
します。 図表4は、JILS関西支部が主催した物
流合理化推進研究会が開発した「物流人材キャリア
アップ診断シート」の抜粋です。
本シートは、物流人材に必要な知識や経験、能力
などを定量的にグラフ化する自己診断用の質問票です。
本シートでは、物流マンに必要な能力を
?企画立
案能力 ?リーダーシップ
?業務改善・遂行能力
?専門知識(物流)
?分析・評価能力 ?ネット
ワーク力 という六つに大別しています。 誌面の都合
上、図表4にはそのうち?業務改善・遂行能力と?
分析・評価能力だけを掲載しました。
これまで二〇〇人以上を試験的に診断しましたが、
本シートを活用することによって、対象者の物流の能
力や知識・経験の約八割は表現できるという感触を
得ています。
一方、ロジスティシャンに求められる能力はなんで
しょうか。 本稿を執筆するにあたり、ロジスティクス
部門の責任者数人にヒアリングしました。 うち、外資
系メーカーB社では、ロジスティシャンに求められる
能力要件の項目を整理した表があり、担当者・マネ
ジャー・責任者といったように、職位ごとに求められ
るレベルが設定されているとのことでした。
残念ながら、詳しい内容は、社外秘のため見せてい
ただけなかったのですが、ロジスティクスの部門長に
は、一〇〇を超える知識や実績の項目があるとのこと
です(ちなみに、図表4の物流人材キャリアアップ診
断シートは二八項目)。
また日用雑貨メーカーC社の部長は、「ビジネスは
戦争。 戦争に勝った企業が利益を得られる」と言い、
同社ではロジスティクス部門の管理職に求められる能
力は、「経営者になるために必要な能力」とイコール
だという認識でした。 これらのヒアリング結果や筆者
の考えを整理したものが、図表5です。
ローコストオペレーション 在庫政策
●コストの最小化
●生産性向上など
●需要予測
●需給調整
●在庫の最適化など
物流モジュール考慮
リサイクル考慮
生産歩留り考慮
新技術
新コンセプト
新製品
購買先の選定
購買品品質検査
購買価格の交渉
生産設備の保全
生産技術の革新
物流品質の向上
物流サービス向上
トレーサビリティ
キャンペーン
マーケティング
価格交渉
購買品現品管理
購買品調達物流
購買品の発注
生産計画の選定
生産リードタイム短縮
ロット管理
物流実務管理
物流コスト管理
物流拠点の選定
発注
顧客支援
市場動向の把握
開 発 調達仕入れ 生 産 物 流 販 売
図表3 ロジスティクス部門の役割についてのイメージ図
(網かけ部分がロジスティクス部門の役割)
DECEMBER 2004 22
なお語学力は、必須ではないでしょうが、持ってい
るに越したことはないでしょう。 余談になりますが、
優秀な人材を他社に紹介するヘッドハンティング会社
の人と話をする機会がありました。 その際、「ロジス
ティシャンの需要はありますか?」と質問をしたとこ
ろ、「日本に進出される外資系企業のお客様から、優
秀なロジスティシャンの要望がありますが、ビジネス
ベースで英語を使いこなせる人は極端に少ないため、
紹介に一番困る職種のひとつ」とのことでした。 本稿
をお読みいただいている読者の皆様、英語か中国語を
勉強しておくと、転職時に今よりも高給取りになる可
能性があるのではないでしょうか?
これからの時代、問題解決には情報技術(IT)の
活用が不可欠なので、図表5に加え、ITに関する
知識、常にコンプライアンス(法令遵守)を意識する
倫理観も必要だと思います。
図表6は、物流部門を出発点としたロジスティシャ
ンの入社年数や職位で必要とする知識・経験・資格などを一覧化したキャリア・デザインのイメージ図で
す。 このイメージ図については、項目や内容の真偽を
議論するのではなく、企業も個人も、明確な目標を持
つことが重要だというお話しです。
これだけ幅広い知識を習得しなければならないのは
大変なことです。 アメリカではロジスティクスを学べ
る大学院(修士号)が約三〇あるそうですが、今のと
ころ日本では二〇〇四年四月に開講した多摩大学大
学院の「ロジスティクス経営コース(CLOコース)」
のみです。
ロジスティクスは営業より大事
ロジスティクスが事業活動の重要な役割を担ってい
ることは紛れもない事実です。 よって、ロジスティシ
所属している課・係において、
納期遵守の対策を取り成果を
上げている
所属している課・係において、
納期遵守の対策を考えたこと
がある
所属している課・係において、
納期遵守の対策の必要性を感
じる
所属している課・係において、
納期が遵守されていないケー
スが多々あるが、対策は特に
ない
物流品質を維持するために未
然防止の対策を取り成果を上
げている
所属している課・係において、
物流品質を維持するための対
策を考えたことがある
所属している課・係において、
誤品や誤送などには、その都
度対応している
所属している課・係において、
誤品や誤送が多発しているが
対応できていない
ローコスト運営を実施してい
る
ローコスト運営の対策を考え
たことがある
ローコスト運営の必要性を感
じるが、対策はしていない
ローコスト運営について、意
識したことがない
現場改善活動のリーダーとし
て、部下を指導育成している
QC活動やTPM活動など組
織だった現場改善活動をして
いる
現場改善活動の関心は薄い 現場改善活動に関心がある
業務改善を遂行するため、顧
客や関係部署と折衝し理解を
得られることができる
業務改善を遂行するため、関
係部署との折衝案を作成する
ことができる
業務改善を遂行するため、自
部門のメンバーに内容を説明
することができる
業務改善を遂行する際、内容
の説明は上司あるいは同僚に
任せている
業務改善・遂行能力 レベル1 レベル2 レベル3 レベル4
納期管理
物流品質管理
コスト管理
改善活動
改善のための交渉力
需要予測や要因分析に統計パ
ッケージを活用でき、結果の
解釈ができる
QC七つ道具(パレート分析
等)等の統計的手法を活用し
たことがあり、結果の解釈が
できる
統計的手法など科学的なデー
タ分析手法の必要性を感じた
ことがある
データ分析は主に勘に頼って
いる
数理計画法やシミュレーショ
ン手法等の最適手法について
知識があり、活用できる
発注点方式や在庫理論等の簡
便な最適化手法を使ったこと
がある
最適化の必要性は理解できる
が、そのための手法は知らな
い
最適化という考え方自体わか
らない
レベル1の考え方、手法を用
いて改善効果を出した経験が
あり、部下に指導できる
レベル1の考え方、手法につ
いて一般的な知識を持ち、活
用したことがある
レベル1の考え方、手法につ
いて、聞いたことがあり、必
要性を感じたことがある
5S、目で見る管理、ポカヨケ、
IE手法についてほとんど知ら
ない
レベル3に加えて、キャッシ
ュフロー計算についても知識
がある
コスト分析をしたことがあり、
管理会計やABC(活動基準
原価)等についても知ってい
る
作業や工程毎のコスト分析は
必要だと思うが、実施したこ
とはない
作業や工程毎のコスト分析の
必要は感じない
レベル3に加えて、EDIおよ
びその社内システムとの一元
化の必要性を理解出来る
レベル2に加えて、EXCEL
やeメール等のアプリケーシ
ョンも大体こなせる
パソコン等を用いて文書作成
等の一応の操作ができる
パソコンなどの情報機器の操
作は出来ない
分析・評価能力 レベル1 レベル2 レベル3 レベル4
データ分析能力
最適化の
考え方と技法
改善手法・
技術の活用能力
財務分析
情報技術の活用
図表4 物流キャリアアップのための診断シート(一部を抜粋)
23 DECEMBER 2004
ャンの存在も、企業にとっては非常に大切です。 欧米
の企業では、ロジスティクスの最高責任者CLO(Chief
Logistics Officer
)には、副社長クラスが就任するほ
ど、企業におけるロジスティクスの位置付けは高いの
です。
欧米企業の実態に詳しい岡田ビジネスデベロップメ
ンツ社長の岡田和典氏によりますと、「CLO(Chief
Logistics Officer
)はありますが、CSO(Chief Sales
Officer
)=営業/販売の最高責任者という役職はあ
りません。 欧米の企業では、営業の責任者よりロジス
ティクスの責任者の方が重職」とのことです。
筆者と東京工業大学圓川研究室との共同研究では、
ロジスティクスのレベルが高い企業は、経営効率がよ
くROA(総資産利益率)や一株あたりキャッシュフ
ローが高いという結果が出ています。
しかしながら、残念なことに日本企業ではロジステ
ィクスの重要性すら理解していない経営層が少なくあ
りません。 日本の経営層がロジスティクスの重要性を
認識しCLOを就任させるなど、その社内的位置付
けを一日も早く高めて、経営力を強化して欲しいと願
っております。
筆者は、幸いにも営業マン時代にロジスティクスの
重要性に気付きました。 しかしながら、一般的には自
社や自部門の都合を優先させた活動をしてしまいます。
本稿をお読みいただきましたロジスティシャンの皆様
には、ぜひ、他部門や取引先にロジスティクスの重要
性を伝えて、自社のみならずサプライチェーン全体の
最適化を目指していただきたいと存じます。
また、個人的な考えですが、CLOやロジスティシ
ャンに加え、将来的には「社内ロジスティクス・アナ
リスト」(仮称)が必要ではないかと考えています。 こ
れは、会社の経営や経理が適正に行われているかを監
督する監査役のように、ロジスティクスの視点から業
務の社内最適化を監査する機能/立場です。 具体的に
は、ロジスティクスの役割(在庫政策とローコストオ
ペレーション)が徹底されているか、棚卸資産の時価
評価、トレーサビリティーやコンプライアンスなどが
適正に行われているかを監査する機能/立場です。
現状の課題を他部門や他の担当者のせいにせず、「これは自分の仕事だ」という
ように自分の課題に置き換える思考。 日頃から社内の情報、業界動向、競合他社、
商品特性など、社内外の情報を収集するヒアリング力、仕事に対する興味
各種データや課題を分析し、その原因を探る力。
(例:在庫過剰…原因は販売予測と実需のギャップ、それとも生産調整?)
分析結果、課題解決案を他部門や取引先に提案、説得し、実現に向けた各種の
調整をする力
必須ではないが、企業活動がグローバル化している現在、英語や中国語といっ
た外国語が出来ると便利。 上記の説得力/調整力を実現するためには、日本語の
能力も必要
旺盛な好奇心
分析力
ソリューション力
説得力/調整力
語学力
要素
能力
図表5
分析した結果や問題などの解決方法を立案する能力
ロジスティクス経営士
物流技術管理士
物流技術管理士
物流技術管理士補
新人
主任
係長
課長
部長
CLO
●会計(財務・管理)
●リスクマネジメント ●コンプライアンス ●マネジメント ●ファイナンス
●人事評価 ●経営戦略 ●マーケティング
管理系知識?
●ローコストオペレーション手法
●CS向上の各種技法
●リスクマネジメント基礎
物流の応用知識?
●輸配送管理
●物流ABC入門
●提案営業入門
●物流IT
物流の基礎知識?
輸配送、保管荷役、包装、IT、
流通加工、物流管理
物流の基礎知識?
●挨拶
●3S
●物流担当者の心構えとその仕事
物流の応用知識?
●物流コスト概論
●変動予算
●改善技術(IE、OR)の基礎知識
現場管理系知識?
●物流ABC
●労務安全管理
●改善技術
企画系知識?
●在庫管理手法
●物流ABC
●シミュレーション技法
企画系知識?
●中長期計画立案
●需要予測・需給調整
●物流システム設計
CLO講座(MBA)
社会人経験の
年数(目安)
20年
15年
10年
5年
製造/購買部門に
2〜3年間異動
入社1〜3年
図表6
(はまさき・あきひろ) 社団法人日本ロジスティクス
システム協会(JILS)関西支部マネジャー。 1992年
タキイ種苗入社。 海外営業部で、欧州、アフリカ、南
アジア地域の担当を歴任。 98年JILS入職、現在に至
る。 MBA(神戸大学)、日本物流学会、日本海運経済
学会会員。 平成16年度日本物流学会賞受賞(共著論文)。
PROFILE
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