ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年1号
ケース
近鉄エクスプレス――物流拠点

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2003 42 拡充が相次ぐ成田の物流拠点 航空貨物フォワーダー大手の近鉄エクスプ レス(KWE)が「成田ターミナル」の増床 工事を二〇〇二年十二月に完了した。
同ター ミナルは九八年の稼働以来、順調に荷主を集 め、最近では狭隘化が目立つようになってい た。
今回の増床によって延床面積は四万九五 平方メートルとなり、成田空港近隣のドライ 貨物の施設としては最大になった(図1)。
KWEの成田ターミナルは空港の南東、約 四キロの地点にある。
物流業者の空港外施設 が集中する「空港南部工業団地」とは直線距 離にして一キロほど離れているが、空港の南 側入口までの距離はかえって近い。
この有利 な土地を、KWEは他社にさきがけて確保し た。
成田周辺ではライバルの航空フォ ワーダーの多くが独力で土地を手に 入れることができず、地方自治体の 整備した工業団地の分譲などを利用 している。
これに対してKWEは、 自ら六万一二九〇平方メートルとい う広大な土地を入手した。
購入した 敷地のうち、すでに九割超を航空貨 物事業のために活用している。
現在、 アメリカンフットボールのグラウン ドとして使っている隣接スペースま で活用すれば、もう一段の増床も可 能だ。
総額120億円かけ成田拠点を整備 通関から流通加工まで一貫処理 成田空港周辺の物流施設の拡充が猛烈な勢 いで進んでいる。
最大の施設規模を誇る近鉄 エクスプレスも、このほど増床工事を完了。
新たに航空貨物処理の専用設備を導入して、 航空機搭載用具に貨物を形成・解体する業務 を内製化した。
従来は空港内施設に依存して いたこの業務を取り込むことで、通関から流 通加工までを一貫して手掛ける体制が整った。
近鉄エクスプレス ――物流拠点 近鉄エクスプレスの成田ターミナル (延床面積40,095m2) は、「一時的な落ちこみこそあったが、成田ターミナルの取扱量は順調に拡大している。
最近一、二年は狭隘化の問題が発生し、お客 様のご要望に応えられないケースがしばしば あった。
この状況を改善するため、二〇〇二 年二月に二期工事を決定した」と増築に踏み 切った背景を説明する。
成田ターミナルの整備にKWEは総額一二 〇億円を見込んできた。
今回の増床工事だけ でも一七億円を投じている。
五階建ての同タ ーミナルは、KWEが強みを発揮する電子部 品の取り扱いを強く意識した作りになってい る。
とくに四、五階部分は、空調を完備し、 床に帯電防止や防塵の加工を施すことで半導 体の扱いに適した仕様にした。
主に流通加工 を手掛けることを想定して、天井は四メート ル以下と保管型の施設に比べると低い。
一九七八年の開港以降、成田空港では貨 物の取り扱いを巡る紆余曲折が続いてきた。
当初は貨物をさばくスペースが空港内に不足 していたため、日本航空や日本通運などが共 同出資で千葉県の原木にTACT(東京エア カーゴ・シティ・ターミナル)を設置。
?生 鮮と緊急貨物以外の輸入貨物の通関はTA CTで行う.という業界の自主規制、いわゆ る「仕分け基準」を適用してきた。
この規制 が九六年に撤廃されたことで物流拠点の?成 田シフト.が一気に加速した。
大手航空フォワーダーや物流業者が成田空 港周辺に相次いで物流拠点を新設し、こうし 九八年の施設稼働時から二期工事の時期 を探っていたKWEにとって、今回の増床は 計画通りの行動だった。
同社の辻本博圭社長 43 JANUARY 2003 た現状を追認するかのように、東京税関も九 九年から通関前の輸入品を扱える「保税蔵置 場」の許可を空港外物流施設に出し始めた。
現在では大半の施設が、スペースの差こそあ れ保税エリアを備えるようになっている。
さらに成田空港にとって長年の懸案だった 二本目の滑走路の供用開始が二〇〇二年四 月に決まると、周辺の物流業者は以前にも増 して勢いづいた。
KWEだけでなく日通や阪 急交通社といった有力フォワーダーが既存施 設の拡充に乗り出した。
新しいところでは物 流向け不動産開発の世界最大手プロロジスが、 空港南部工業団地の新規分譲エリアで二・八 万平方メートルの土地を確保済みだ。
原木でも施設の拡充を計画加速する成田シフトとは裏腹に、TACT を擁する原木地区では貨物量の減少に頭を痛 めている。
以前は増え続ける成田空港の貨物 が黙っていても回ってきたのに、九六年以降 は成田空港近郊の物流施設にどんどん貨物を 奪われている。
仕分け基準の撤廃前にほぼ同 率だった成田と原木の取り扱い通関トン数は、 二〇〇一年には成田七五%、原木二五%と 大きく差がついてしまった。
KWEも四年前に成田ターミナルを稼働し たときには、その広大な倉庫スペースを埋め るため相当量の取り扱いを原木から成田に移 管した。
空港内で通関すれば、わざわざ原木 に横持ちするのに比べて国内の着荷主向けの 3 4 5 1 2 6 7 8 10 9 296 295 51 図1 成田空港周辺の主な物流拠点 LOGI-BIZ調べ ※ 社 名 近鉄エクスプレス 日本通運 福山通運 阪急交通社 郵船航空サービス 丸全昭和運輸 西日本鉄道 西濃運輸 東芝物流 東急エアカーゴ 所在地 山武郡芝山町大里 成田市東和泉境前 山武郡芝山町岩山※ 香取郡多古町飯笹 山武郡芝山町岩山※ 山武郡芝山町岩山 山武郡芝山町岩山※ 山武郡芝山町岩山※ 山武郡芝山町岩山※ 山武郡芝山町岩山※ 敷地面積 56,568 34,500 15,092 7,443 18,494 13,264 14,950 6,000 8,600 7,000 延床面積 40,095 36,159 18,565 15,900 12,769 11,705 9,890 8,624 7,200 6,508 稼働時期 1998年11月 1997年5月 2000年12月 1997年4月 2000年7月 1998年2月 1998年10月 2001年4月 2001年6月 1998年2月 ※印は「空港南部工業団地」内 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 近鉄エクスプレス 東関東自動車道 芝 山 千 代 田 成 田 松 尾 線 横 芝 大 総 線 成田JC 成田空港 芝山町 ※プロロジス 的に取り組んできた。
その甲斐あって同社の3PL事業は順調に 伸びているようだ。
現状ではまだ総売り上げ の一割程度と、主力のフォワーディング事業 を補完している程度に過ぎない。
だが「一〇 年後には総売上の五割までロジスティクス事 業のシェアを拡大させたい」と辻本社長の期 待は大きい。
将来的には3PLに関する収入 を会計上、分離して管理することも視野に入 れている。
同社は3PL事業に欠かせない条件として、 IT活用にも力を入れてきた。
ある拠点の在 庫に関する情報を、世界中どこにいても把握 できるようにする。
そして各地の物流拠点で のオペレーションを、ITを活用して標準化 する――。
こうした体制を整えることがグロ ーバルカスタマーから3PLパートナーに選 ばれる条件と考えている。
実際、積極的なIT投資を続けてきた。
同 社の藤田則大取締役は、「我々はEXEテク ノロジーズのWMSを、かなりモディファイ (修正)したUWSという世界共通のシステ ムを使っている。
すでに全世界の主要拠点お よそ一五カ所に導入済みだ。
現場のニーズを 考えると、導入すべき拠点はまだまだある。
今後も積極的に進めていきたい」という。
四年前の稼働時からUWSを使っている成 田ターミナルは、IT活用という面ではKW Eの世界各地の拠点のなかで最も進んでいる 施設なのだという。
ごく一部のユーザーにつ いては顧客の専用システ ムを導入しているが、原 則として大半の業務をU WSベースで行っている。
「四年前の導入時には、 ITでできることが限ら れるとか、使い勝手が悪 いといった苦労がかなりあ ったようだ。
だが現在では 非常に柔軟に運用できる ようになっている」と、K WE東京輸入ロジスティ クスセンターの坂井敬所 長は満足そうに説明する。
成田ターミナルには、既 存部分も新設部分も含め て自動化機器はほとんど 導入していない。
施設内で目につくマテハン と言えば、フォークリフトやハンドフォーク くらいだ。
ITを使ってロケーションなどを 管理しながら、仕分け作業や流通加工は大半 を人手でまかなっている。
あえて自動化を追求してこなかった理由を、 坂井所長は次のように説明する。
「お客様の 動きが非常に早いため、正直なところ同じ作 業がいつまで続くか分からない。
機械化を検 討したこともあったが、設備投資をして自動 化を図ることが、かえって将来的に足かせに なりかねないと思った。
それよりも重要なの はソフトなどを使った業務プロセスの標準化 JANUARY 2003 44 作業リードタイムを短縮できる。
熾烈な競争 を続ける航空貨物フォワーダーにとって、成 田通関によるスピードアップは有効なセール スポイントでもあった。
本来であればKWEが原木に構える三つの 拠点も、荷主の流出に悩まされていても不思 議ではない。
しかし、辻本社長は「原木は3 PLの案件で埋まっている。
確かに輸出業務 は大半を成田にシフトしたが、輸入について は逆にTACTで通関して、3PL的な業務 を施してから顧客に届けるケースが増えてい る。
既存の三施設が一杯になっているため、 よりセキュリティの完備された物件を原木で 新たに借り増すつもりだ」と強気だ。
KWEは近年、ロジスティクス事業に力を 注いできた。
二〇〇〇年八月には日本ヒュー レット・パッカードから一般消費者向けのパ ソコンやプリンタのオペレーションを一任さ れた。
HPの生産拠点のあるシンガポールで 製品を受け取ってから、日本国内の顧客に納 品するまでの業務を一貫して請け負っている。
こうした3PL事業の拡大に、KWEは組織 近鉄エクスプレスの坂井敬東京輸入 ロジスティクスセンター所長 地面のラインが保税蔵置場の許可を得 たスペースであることを示す セキュリティカードが無くてはエ レベーターも動かせない による作業の標準化が有効なのだという。
通関から流通加工まで一貫処理 大規模な自動化設備を持たない成田ターミ ナルだが、今回の増床にともなって一つ特殊 な機器を導入した。
同社が「ULDワークス テーション」と呼んでいる機材で、航空機に 搭載できる用具(ULD:Unit Load Device ) に貨物を積み付けてトラックの荷台まで搬送 したり、逆に輸入貨物をばらすときに使う特 殊なマテハンである。
従来、この機材を持っていなかったKWE は、ULDへの積み付けや取り下ろし作業を 空港内施設に依存してきた。
しか し、この体制では積み付け作業に 伴う貨物の破損防止を委託先に任 せざるを得ず、積み付け順の工夫 などによってユーザーにきめ細かい サービスを提供することもできなか った。
保税蔵置場の許可を持って いながら、流通加工から通関まで をKWEの責任で一貫処理するこ とができずにいたのである。
実際、ライバルの日通は、二〇 〇一年に新設した二カ所目の成田 拠点に同様の機材を導入済みで、一 貫サービスを売り物にしてきた。
K WEとしては日通に追いつくとと もに、さらに差別化を図るために 同時に二つのULDを処理できる だ。
仕事を単純化する手段は何も機械化だけ ではない」 施設規模の大きい成田ターミナルには多く の作業者がいる。
最近ではこうした作業者が 原木や東京などの拠点に作業支援に出向くこ とも少なくない。
一昔前であれば作業員の頭 数に応じて顧客に経費を請求していたのが、 ABC(Activity Based Costing )などの概 念が普及した最近では、作業量に応じて請求 するのが主流になっている。
現場の作業者を 上手くローテーションして、総人件費を抑え ることがコスト競争力の源泉になる。
こうし たローテーションを円滑に行うためにもIT 機材を導入した。
昇降装置を付けたワークス テーションを活用することで、作業を安全か つ確実に行う工夫も凝らした。
「輸出の際にはダメージの防止に配慮しな がら貨物を積み付けることができる。
場合に よってはULDのまま解体をしないでお客様 のドアまで持っていくことも可能で、これは 盗難防止や棚番管理などに有効だ。
また輸入 についてはリードタイムの短縮を実現できる。
成田に午前中に到着した貨物をその日のうち に通関でき、最も早いケースでは午前中に通 関を終えるケースも出てくるはずだ」と藤田 取締役はアピールする。
今回の増床を機に、成田ターミナルでは電 子機器の検査作業など、貨物のハンドリング 以外の業務を広範に手掛けることで営業を強 化しようとしている。
巨費を投じたインフラ と、作業を標準化するためのIT。
さらに物 流業者の枠を超えて付加価値の高い作業を提 供することが、ロジスティクス事業の拡大に つながると同社は確信している。
長期低迷を続ける陸運業界に比べて、航空 貨物業界は依然として成長基調にある。
二〇 〇一年こそIT不況や米国同時多発テロの影 響で、成田空港の取り扱い実績は前年比一割 減と大幅に落ちこんでしまったが、中長期的 に見ればまだ成長の余地は大きい。
KWEに とって当面の課題は、新たに導入したULD 搬送機を使いこなし、独自サービスの運用力 を高めることにありそうだ。
(岡山宏之) 45 JANUARY 2003 新たに導入したULDワークステーション ?2カ所あるワークステーション でULDを積み付ける ?計量器付きコンベヤで重量を測 定しリフターへと移動 ?空港内貨物ターミナル行きの専 用トラックに積載する ?成田空港までは30分。
輸出入 ともリードタイム短縮へ

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