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JANUARY 2003 20
物流子会社――SKFロジスティクス
世界最大手のベアリングメーカー、SKFの物流子会社。 もと
もと親会社にのみ物流サービスを提供してきたが、98年に外販営
業を開始した。 ターゲットは自動車部品メーカーや電機部品メー
カーなど。 現在、10%程度にとどまっている外販比率を2006年
までに50%に引き上げることを目標としている。
物流部門を分離・独立
一九〇七年にスウェーデンで創業したSKFは世
界最大手のベアリングメーカーだ。 年間売上高は約四
三・三億ユーロ(約五二〇〇億円)。 世界シェアは二
〇%を超える。 約五〇カ国に八〇カ所の生産工場を
持ち、従業員は約三万八〇〇〇人を数える。 日本に
も現地法人を構えている。
その物流子会社として九五年に発足したのがSK
Fロジスティクスだ。 SKF本体に設けられていた物
流部門を独立させるかたちで設立された。 年間売上高
は約二億ユーロ(約二四〇億円)。 従業員は約一〇〇
〇人。 現在、欧州を中心に北米、東南アジアなど世
界各国に物流センターを計二四カ所保有している。 世
界約一七〇カ国、約五万カ所に製品を出荷。 年間に
約七〇〇万オーダーを処理しているという。
そもそもSKFが物流部門を切り離したのは、コス
トセンターという位置付けだった同部門をプロフィッ
トセンター化するのが目的だった。 親会社からの仕事
に依存せず、外部顧客を開拓して物流企業としての
自立をSKFロジスティクスに求めた。 ただし、本体
からスピンアウトしてから約三年間は、親会社に物流
サービスを提供することだけに専念させてきた。 SK
F本体で大掛かりな物流改革を進めている最中だった
からだ。
「まずは親会社の物流改革を支援する。 それが軌道
に乗ってから外販に乗り出すという戦略が明確に打ち
出されていた。 親会社の物流改革を通じて習得するノ
ウハウは将来、必ず外販で活きてくると確信していた。
それだけに外販を制限されたことに対して、とくに焦
りは感じてなかった」とSKFロジスティクスのラル
フ・ヘンドリクス・コーポレートビジネスディベロッ
プメントマネージャーは振り返る。
SKFが当時取り組んでいたのは「NEDS(News
European Distribution Structure
)」という欧州の物
流網を再編するプロジェクトだった。 欧州内に乱立し
ていた自社物流センターを統廃合。 それによって、製
品在庫を大幅に削減するのが狙いだ。 具体的には、従
来に比べ製品在庫を約四〇%削減するという目標を
掲げていた。
もともとSKFの欧州のサプライチェーンは生産工
場七カ所→隣接する工場倉庫七カ所→欧州各国の物
流センター一八カ所→顧客である販売代理店や組み
立てメーカー、という多段階構造になっていた。 自社
物流拠点は計二五カ所。 顧客からのオーダーに従って
各国の物流センターがそれぞれ工場に製品を発注。 工
場は生産した製品を工場倉庫を経由して各国の物流
センターに供給してきた。 そのため各物流センターに
製品在庫が散在し、会社としてのトータル在庫が一向
に減らないという問題を抱えていた。 工場直送化で物流拠点を集約
プロジェクトではまず最初に各工場の出荷パターン
の分析に着手した。 各工場で生産している?特定顧
客向けの受注生産品、?複数顧客向けの汎用品、?
スペアパーツ――の三製品の出荷量とオーダー件数が
どのような割合になっているのか。 それを調べること
で、工場からの製品直送化や物流センター統廃合の
可能性を探るのが目的だった。
分析の結果、三製品の出荷量とオーダー件数は必
ずしも比例していないことが判明した。 一工場当たり
の出荷量の割合は受注生産品五〇%、汎用品二五%、
スペアパーツ二五%。 これに対して、オーダー件数の
割合は受注生産品五%、汎用品一〇%、スペアパー
CASE STUDY
第1特集
21 JANUARY 2003
ツ八五%だった。 つまり、受注生産品は出荷量こそ多
いが、オーダー数は少ない。 そのため物流の作業負担
は軽い。 一方、スペアパーツは出荷量が少ない割にオ
ーダー件数が多く、作業に手間が掛かる、ということ
が明らかになった。
これを受けて、SKFでは「受注生産品は出荷の
作業負担が少ないため、工場から顧客への直接配送
が可能。 一方、スペアパーツは作業負担が重いため、
工場サイドに物流業務を委ねるのは難しい。 物流セン
ター経由で製品を供給する必要がある。 このように製
品特性に応じて物流体制を再構築すれば、拠点数を
確実に減らすことができる」(ラルフ・ヘンドリクス・
マネージャー)という結論に達したという。
そこで、SKFでは受注生産品を直接工場から出
荷することで工場倉庫を集約。 ただし、すべての工場
倉庫を廃止するのではなく、四カ所だけ残す。 倉庫を
持たない工場は汎用品やスペアパーツを生産後、近隣
の工場倉庫にそれぞれ製品を横持ち輸送。 このうち汎
用品はそこから顧客に配送する。 さらに、スペアパー
ツは新たにベルギーに設けた大型物流センター「ED
C(European Distribution Center
)」から顧客に供
給する、という物流体制に移行させた。
その結果、最終的に工場倉庫は七カ所から四カ所
へ。 さらに欧州各国に設置していた物流センター一八
カ所をすべて廃止してEDC一カ所に集約した。 もと
もと二五カ所あった物流拠点を一気に五カ所にまで減
らした格好だ。 これによって、物流のオペレーション
コストは従来に比べ三〇%削減できた。 さらに当初の
計画通り、製品在庫を四〇%削減することにも成功
したという。
「物流拠点を大幅に削減したものの、顧客に提供す
るサービスのレベルはまったく落ちていない。 誤配率
はむしろ従来よりも改善されている。 かつては在庫の
持ち方にバラツキがあったため、航空便を利用した緊
急輸送が頻繁に発生していたが、新体制に移行してか
らはそれもほとんどなくなった」とラルフ・ヘンドリ
クス・マネージャーは満足する。
部品物流に特化する
親会社の物流改革の支援を終えたSKFロジステ
ィクスにとって目下の課題は外販比率を拡大すること
にある。 九八年に外販営業をスタート。 翌九九年には
本格的なオペレーションの提供を開始したものの、現
在外販比率は一〇%程度にとどまっている。 既存の
物流センターを増床して外販用スペースを新たに設け
るなど受け入れ体制は万全だが、荷主企業の数がなか
なか増えていかないというのが実情だ。
それでも「食品業界など異業種に食指を動かすつも
りはない。 長年の経験があり、得意分野でもある部品
物流に特化していくつもりだ。 今後のターゲットは自動車部品業界や電機部品業界。 この二つの業界は物
流の効率化がまだまだ遅れており、当社にとって大き
なビジネスチャンスだ。 将来は部品メーカーの生産移
管が進んでいるアジア地域への本格進出も検討してい
る」とラルフ・ヘンドリクス・マネージャーは意気込
んでいる。
物流子会社が親会社から自立したかどうかは外販
比率で判断される。 一般にその目安は五〇%だと言わ
れる。 実際、SKFロジスティクスも外販比率五〇%
を早期に達成することを親会社から求められており、
その期限は二〇〇六年に設定されているという。 世界
最大のベアリングメーカーの物流子会社が欧州を代表
する3PLへと成長するまでにはもう少し時間が掛か
りそうだ。
SKFロジスティクス
ラルフ・ヘンドリクス氏
SKFは25カ所あった物流拠点を5カ所に集約した(写真はベルギーのEDC)
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